「爺さんと森の精」
木こりの爺さんは二頭の牛を連れて山に入り木の上の方を眺める。
鳥や何かの巣が樹上にないかの確認だ。
何も無いのを確認したら大木めがけて斧を振り上げカッコーンと刃を叩きつける。
小一時間ほど斧を振り下ろすと、バキバキッと凄い音を立てて大木が倒れる。
休む間もなく次の大木を探す、やはり樹上の確認は忘れない。
上に生き物はいないな、カッコーン、バキバキッ、二本目をも同じ様に倒れる。
二本の大木を倒したら、それぞれを牛に縛り付け、ここでやっと休憩だ。
切り倒した大木に腰かけてキセルに火をつけ一服いれる。
スーッと吸い込みプハーと煙を吐き出しだしたその時だった、急に辺りが霧に包まれた。
まるでキセルの煙でそうなっかのようだし、
こんなに深い霧は初めてだ。
なにせ一寸先も見えないくらいに真っ白けっけ。
こりゃスゴイ、まあ何にせよ霧が晴れるまで待つしかない。
初めての事だからどの位の時間で霧が晴れるのか分からない。
仕方ないのて腰かけた大木に寝そべろうとしたら、目の前にうっすらと人影が浮かんだ。
誰だ!思わず立ち上がる爺さんだが、その動きは遅い、爺さんだけら。
人影はなんとなく人間ぽいけど、結局ハッキリとはしてなくてどんな顔なのかも分からないけど、なんとなく微笑んでる様には見える、そいつがゆっくり話し出した。
「怪しい者ではございません、私は森の精です。霧を使って人間の形になりたかったんだが、これが限界でした」
なんだか怪しいな、思いながらもその丁寧な言葉遣いとうっすら笑顔に見えるせいで、爺さんの警戒心はすっかり消えていた。
「それで、森の精さんがワシになんか用かね?」
森の精は爺さんの順応力の高さに驚きつつも答えた。
「私は森の精としてこの森を見守ってきたのだが、あなたの様に樹上の小さな生き物にまで気遣いしてくれる人とは始めて出会いました」
そんな大げさな事かな、と爺さんは少しだけ首を傾げなから「それで?」と続きを促した。
「実はお礼がしたくてここに現れたのです。他の生き物に対する気遣いをずっと続けてきてくれたあなたに是非お礼をさせて下さい」
森の精の言葉に、納得した様になるほどーと大きく頷いた。
「あー、そういう事か。それならいいよ、生き物が木から落ちてしまうのを見たくないだけだから、つまり自分の為だから」
木の精は爺さんの言葉に戸惑った。
あれ?反応がおかしい、自分の為?
まさか礼をいらないとでも言う気か。
慌てた森の精は、爺さんの手を取り頼みだした。といってもうっすら霧状態なので、爺さん的にはなんだか霧が手にそよいだなあと感じた程度。
「そう言わずにどうかお礼をさせて下さい、これは森の全ての生き物達の願いでもあるのです」
必死そうな森の精の様子に、爺さんは渋々頷くしかなかった。
「分かった、そこまで言うなら礼を受けるよ、大した事をした気はないんだけどさ」
「そうか、良かった!では今から三つだけ貴様の願いをなんでも叶えてやろう」
あれ?急に言葉遣いが偉そうになったな、と思ったけど、そんな事はあまり気にしない爺さん。
「どんな願いでもいいのかい?」
「ああ、三つまでならどんな願い事でも叶えようぞ」
願いなんて急に言われても中々思い付かなかったが、ポンッと手を叩き爺さんは言った。
「そうだ、丁度喉が渇いていたんだ。山頂の湧き水を汲んできておくれよ、二頭の牛の分も頼む」
「え?そんな事でいいのか?」
森の精はあまりに簡単な願い事に驚いたが、爺さんは何を驚いてるんだ?と不思議顔。
「喉が渇いてる今、これ以上の願いなどなかろう」
「それは確かにそうだ、まだ願い事は二つ残ってるしな」
森の精はそう言うと、両手をギュッと握った。
するとその手から清涼感のある綺麗な水がジャーと流れ始めた。
「さあ、牛と共に好きなだけ飲むがいい」
それを見た爺さんはびっくりした顔で森の精に言った。
「何をしてるんだ、ワシは山頂の湧き水が欲しいと頼んだんだぞ、そんな手から絞った水じゃない。言ったからにはちゃんとしてくれ」
「はあ・・・とても綺麗な水なんだが・・・行ってきます」
森の精は顔を赤らめながら山頂に向かって走り出した。
霧がスーッと晴れた。
「やっぱり霧はあいつのせいだったか、今の内に逃げてしまおうかの」
なんて爺さんが考えていると再び一面が霧に包まれた。
「行ってきたぞ、正真正銘山頂の湧き水じゃ、好きなだけ飲むがいい」
両手に水を張ったバケツを抱えた森の精が立っていた。
「では遠慮なく」
二頭の牛と爺さんは水をゴクゴクと飲み干し「プハー」と一息。
「はあ、生き返った気分じゃ」
満足そうな爺さんに、森の精も満足そうに言った。
「さあ、2つ目の願い事を言うがいい」
爺さんは腕を組みウーンと考えたが、やっぱりまるで思い付かない。
それでもパッと顔を上げ言った。
「思い付かないからまた今度にしてくれ」
「ん?それは願い事か?」
「ああ、これが2つ目の願い事だ」
そんな事に願い事の一つをを使ってしまうのかと驚き顔の森の精だったが、この爺さんなら有り得るなと悟り顔で頷いた。
「ふむ、では3つ目の願い事を思いついたらワシを呼ぶがいい」
森の精がそう言うと、霧がパッと腫れ森の精の姿も消えた。
「なんかちょっと疲れたな」
爺さんは首をぐるりと回し立ち上がり、二頭の牛のお尻をポンと叩き、これが帰りの合図だ牛も立ち上がり歩き出す。
二度と森の精を呼ぶ事はないだろうなあ、そんな事を考えながら爺さん達は山を後にした。
おしまい。