暁の闘神(ロボットの出る小説が書きたかったんや)【読切】
巨大ロボット。
それは、男なら誰しもが憧れる浪漫である。
特に、スーパーロボットなんかは憧れるだろう。一度は乗ってみたい! 敵と格好良く戦ってみたい! なんて、勇者王やスーパー戦隊を見て憧れるものだ。
俺も、ガンダムやスーパーロボットに乗って悪役と戦ってみたかったな。
……なんて事を、走馬灯のように思い出していた。おそらく、血を流しすぎたからだろう。
俺は腹を貫通する機械の触手の冷たさを感じていた。
目の前に広がる非現実に、現実逃避をしていた。
地面から生えた機械の触手が、俺を含めた周囲の人間を貫いている。俺のように腹部を貫かれて息がまだある人間、胸部を貫かれて死亡したのかビクンビクンと痙攣している人間。そんな地獄絵図が目の前に広がっていた。
ああ、俺も死ぬのだな。そんな事を考えていると、機械音声が周囲に響く。その音声は日本語ではなかったが、何故か理解できた。
【ただ今より、機械化を開始します】
途端に突き刺さっている部分から猛烈な激痛が全身を駆け巡った。その意識を持っていかれそうな、激しい激痛はとても正気でいられるものではない。
なにかが俺をかきかえている。
恐怖と激痛でまともな思考が出来なかった。
誰もが声にならない悲鳴をあげていた。それはもちろん、俺もである。
徐々に身体が、体が冷たい何かに変化していく。
そんな俺の様子を、ある部分冷静に見ている俺がいた。
肉が機械に、神経が鉄線に、血液がオイルに、骨が鋼鉄に書き換わっていく激痛。
俺はそれに激痛を感じながら、それでもなお冷静に成り行きを見守っていたのだ。
【進捗率90%──これより、脳にメモリの追加を行います】
どうやら、脳みそだけは機械化をま逃れたらしい。
だが、脳内にまるで映画でも再生されるかのように、【人間……人類を滅ぼさなくてはならない】と言う考えをインストールされる。
ああ、人間が憎くなっていく。悪役が怪人ではなく人間に置き換わっていく。
認めない! 認めない! 俺は認めない!
こんな事が認められるわけがない!
俺は! 俺はヒーローになりたかったんだ!
途端に、俺の脳がバチバチとショートを起こして、俺は意識を失った。
それが、俺の最悪の日々の幕開けであった。
▷▷▷▷▷
「──っ?!」
気がつくと、そこは病院の寝室だった。
俺は冷や汗をぐっしょりとかいていた。
夢とは思えない感触に、俺は思わず腹部を撫でる。
「あれ……? なんとも……ない……?」
身体中をペタペタと触ってみるが、なんともないなんて言う事はなかった。肌触りはたしかに人肌の感触であるが、非常に違和感がある。まるでシリコンでも触っているかのような弾力に加えて、温度を感じなかった。
「──!」
その違和感に、俺は恐怖を感じる。あの、人間ではなくなる感触を思い出したのだ。そして、ようやく耳が、自分の体から聞こえる音を捉える。
ウィーン、ウィーンと機械音が、自分が身体を動かすたびに聞こえるのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」
動悸が激しくなる。確かにこの身体は、俺の身体はおかしくなってしまったらしい。だが、なぜ病院にいるのか、理由がわからなかった。
状況に俺の頭はついていけていなかった。
なので、俺は整理するために息を整えてから。何が起きたのかを整理しようとした。
しかし、思考に移る直前に病室に侵入者が入ってくる。よくよく観察すると、この病室は個室だった。
「気がついたようね」
その人はどちらかと言うと研究者と言う印象を受けた。白衣に吉原 涼菜と書かれたネームプレートをしている。容姿は美人系で体型はグラマラスな印象を受ける。一瞬、一瞬ではあるが俺はこの吉原 涼菜と言う女性を殺したくて堪らなくなったが、あまりに一瞬すぎてすぐに収まってしまった。
「さて、何から話したら良いのかしら? それとも、何か知っている事を話してくれるのかしら?」
「……それじゃ、貴女は誰だ?」
俺の質問に、女性はニッコリと微笑みながらこう返した。
「あら、人類の敵である異星人の兵器に、私の事を詳しく話すわけないじゃない」
「ネームプレートつけているのにか?」
俺がそう問い返すと、吉原 涼菜と言う女性は俺を値踏みする目で見つめる。
「ふぅん、まあ、それもそうね。外すのをすっかり忘れていたわ」
そう言って彼女はネームプレートを外して胸ポケットにしまう。
「で、今の一瞬で聞きたいことが増えたんだが、答えてもらえるのか?」
「あら、何かしら?」
どうやら答えてはもらえそうである。明らかに警戒した目線を俺に向けてくるので、答えてもらえないものかと思ったが……。
「俺は、河城 順平と言う。20XX年5月14日生まれの18歳で東京都XX区立のXX高校に通う3年生……と認識しているんだが、間違いないか?」
「ええ、貴方の素体はそう言うらしいわね」
素体、そう言いやがった。つまり、俺は……。
「その物言いから察するに、俺は河城 順平の皮を被った殺人兵器と言いたいのか?」
「ご名答。ただ、ここまで素体の性格が残してあるのは珍しいわ」
どう言うことだ?
俺が促すまでもなく、吉原 涼菜は語り出した。
「そう、非常に珍しいの。個体差はあるけれども、ほとんどは人間を殺害し始めるのにね。会話もできないし、人間の形をしているから自衛隊だって破壊するのは困難なの。その残骸と、君、被験体00103の身体の構成は全く同じだわ。なのに、現時点でちゃんと会話ができる。これは非常に珍しいわ!」
吉原 涼菜は非常に興奮しているが、どうやらあの場で被害にあった人達は人間を抹殺する機械人形にされてしまうようであった。
「あんた、さっき異星人の兵器と言ったよな。どう言うことだ?」
「そのままの意味よ。今、地球は異星人の侵略を受けているの」
確かにそう言う噂は聞いたことがあった。
だが、それは噂に過ぎなかった筈だ。確かにここ最近は凶悪犯が多発しており、ニュースでも世界各国で凶悪事件が多発していると言うのは見たことがあるが……。
「人間を殺人人形にして、人間を殺しているのが異星人の侵略のせいだと言うのか……?」
「ええ、そもそも、この現代に貴方やそのお仲間のような機械人形を作れる技術があるのかしら?」
両手両足の義手、義足ならまだしも、サイボーグが存在すると言うのは聞いたことがない。なるほど、その未知の技術力から、異星人の侵略と定義したのだろう。
「なるほどね」
納得した。が、そう考えると俺が置かれている状況は非常にまずいことになる。
「で、俺はこれからどうなるんだ?」
「もちろん、処分……といきたいところだけれども、非常に珍しい例だからね。ブラックボックスの解析はすでに回収された素体がいるから不要だし、観察処分になるわね」
「観察処分……?」
「もちろん、人間に危害を加えられないように、この爆弾を取り付けて貰うけれどね」
吉原 涼菜がパチンと指を鳴らすと、近場から首輪が出てくる。チョーカー型の爆弾と言ったところだ。
これを自分でつけろと言うことらしい。
よく見ると、俺と吉原 涼菜の間にはアクリルボードがあり、壁越しに会話している状態だったようである。
「……取り付けなければ?」
「もちろん、反抗してもらって結構よ。モルモットが増えるだけだから」
「……」
俺はおとなしく、自分でそのチョーカーをつけることにした。パチリと音を立てて、首輪が閉まる。ピッタリとくっついた感じだ。
「これで、貴方は私たちに逆らえなくなったわ。もし、私たち人間に逆らったら、首から上が無くなることになる。これは素体を破壊する上での共通の弱点よ」
「……それでなくても人間死ぬだろ」
「貴方は機械人形よ。人間と一緒にしないで頂戴!」
ピシャリと吉原 涼菜はそう言うと、指を鳴らす。目の前にある透明な板が収納される。
「それで、貴方は私たちに逆らう意思は無いと判明した以上、ある程度自由を与えてあげるわ」
吉原 涼菜はそう言うと、資料を手渡してくれた。それは、高校の案内であった。
「河城 順平は戸籍上生きていることになっている。今は高3だったわね。そこで、貴方にはこの学園に転入して貰うことになったわ」
私立シュトルツ大学付属シュトルツ高等学園とあった。
「この学校は我々の運営する学校よ。そこで身体検査や精神検査を受けながら、河城 順平として生活して貰うわ」
どうやら、拒否はできないらしい。この学校は最近できた学校で、日本中から才能を集めている学校だ。普通に入学しようとしてもバカ高い学費がかかるが、才能があると学園から認められたものは免除されるらしい。一体何の目的で設立されたのかわからないが、大学は評判が良い。受験生だしそう言う情報は入る。他の日本の大学と異なり、入学は楽だが、進級や卒業が困難とされている大学でもあった。
「それじゃ、よろしくね。河城 順平くん」
吉原 涼菜の言い方は、まるで俺が河城 順平で無いかのような言い回しであった。
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身体が機械になったからと言っても、大きく変わる部分はあまり無いように感じた。普通にご飯を食べることができるし、特に生活に困ることはなかった。
ただ、大きく変わったのは力だろう。身体能力のソレは、人間とはかけ離れたものであった。まるで忍者のように軽々と高くジャンプができたし、300kgのベンチプレスを普通に持ち上げることができた。
もちろん、病院のような施設で計測したわけであるけれどもね。
数日後、俺は学期の途中であったが、シュトルツ学園に転入することになった。もちろん、学生寮生活になるけれどね。
5月中頃の転校であったが、案外あっさりと認められた。両親にも特待生として授業料免除が効いたのか、反対されることはなかったと言う。
そう、俺はまだ両親とは顔を合わせていなかった。素体は元の人物の肉親を最初に殺す性質があるためである。
俺も、今はまだ両親に会う気は無かった。当然ながら、脳に仕込まれた殺意もあるが、機械の身体になってしまったなんて、どの顔をして両親に報告すればいいのかわからなかった。
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「こ、ここがシュトルツ学園……!」
もらっていた学園案内の資料の通り、その光景は金持ちが通いそうな学校であった。実際、この学校は金持ちか学園から選ばれた才能があるものしか通っていないため、印象と異なるという事は無いだろう。
本来であればただの凡人である俺が通えるはずも無い。
「では、時間になったら迎えに行く。それまではせいぜい河城 順平としてボロを出さないようにするんだな」
俺を送ってくれた黒スーツの人はそう言って俺を睨む。この扱いも、今では慣れてしまった。悲しいが、俺は警戒対象らしい。俺も、能力測定をするまでは不満があったが、今では仕方ないと思っていた。
とてもでは無いが俺はもう、人間では無かった。
「……わかってるよ。そもそも、俺が順平だしな」
「異星人の木偶人形め……!」
警戒するのはわかるが、軽蔑までされると悲しいものがある。こんな身体になっても、心はただの高校生、河城 順平なのだから。
俺はため息をついて、職員室に向かう。もちろん、この黒スーツの人も付いてくる。
周りにいる人間に、俺の心がざわつく。殺意までは無いものの、やはり頭にへんな記憶をインストールされたからだろうか。
そんな感じで、俺は職員室に案内されて、この学校の3年C組に転入することになった。
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「今日から急で悪いが転入生がいる。入って来なさい」
俺は担任の岩尾先生から呼ばれて、教室に入る。この学園の制服であるブレザーを身につけた生徒たちが俺を見ている。
なんか、漫画やアニメで見る転入生のシチュエーションである。
「え、えっと。今日からこのクラスでお世話になる、XX高校から転入することになった河城 順平だ。よろしくお願いします」
普通な感じで挨拶すると、適当にパチパチと拍手があり、それで終わった。一部男子が「なーんだ、男かよ」と言っていたのは聞き流すことにした。
あくまで、そうあくまで俺は普通の男子でなくてはならない。俺はヒーローに憧れるだけの普通の男子だ。それはたとえ悪の存在に身体を改造されたとしても変わらない。
授業が終わり、10分間の休憩に入ると、前の席に座っている男子が振り向いて話しかけて来た。河内と言ったはずだ。
「河城くん、だっけ? よろしくな」
「あ、ああ。河内くん」
「河城くんも何か才能が認められて、この学校に転入することになったんだよな?」
「ああ、河内くんも?」
河内くんはうなづく。
「これでも、水泳が得意でな。オフシーズンだからまだ日焼けはそれほどしてないけど、この学校の屋内プールで毎日泳いでるぜ」
河内の言う通り、若干肌が浅黒い。それに、筋肉も引き締まっているが、いわゆる痩せマッチョ的な筋肉量だった。
「すごいな。この学校の連中は超人ばかりだと聞くけど、マジだったんだな」
「俺がすごいかはわからんがね。ただ、いけ好かない奴も居るから注意しろよ」
俺は言われて周りを見渡す。
金持ちそうな身なりの女子や、アイドルにいそうなイケメンなど、見渡すだけでもこのクラスは異常であった。
いや、それを言うなら全てのクラスがそうなのだろう。
「このクラスにも居るっちゃいるがおとなしい方だよ。河城くんはお金よりも能力で選ばれた口みたいだから、金持ち連中からは距離をおいたほうがいいかもね」
「なるほどね。忠告サンキューな、河内くん」
「いいってことよ。これから短い間だけどよろしくな」
河内くんは気のいいやつで、一緒にいて心地いいやつだった。気配りができるし、気が使える。もちろん、そんな河内くんも彼女が居るわけだがな。
転校初日だったけど、河内くんに色々と面倒を見てもらった。
そんな初日の放課後のことであった。
「待ちなさいよ!」
俺が検査を終えて学生寮に戻っている最中のことだ。
女子生徒の声が聞こえて振り返ると、仁王立ちをしている女子生徒がいた。
「あなた……人間じゃ無いわね?」
キッと彼女は俺を睨む。あの耳につけている丸い玉は一体なんなのだろうか?
「いや、いきなり何を言いだすんだ?」
「みんなが騙されても、わたしは騙されないわ!」
ビシっと指を突きつける彼女。俺は登校初日から何かヘマをやったか? 普通に河内と仲よくなって、普通に高校生として勉学に励んでいただけだが?
俺がわけのわからない顔をしていると、彼女はスカートのポケットから何かを取り出す。
「この機械獣ソナーにあなたは反応しているわ! 人類の敵め、ここで破壊してやるわ!」
そう言うと、女子生徒がよくわからないけれどもビームサーベルっぽいものを取り出して襲いかかってくる。その身のこなしは素人の俺から言っても尋常ではなかった。もし、俺が機械化していなければボコボコにされただろう。
「うわっ!」
女子生徒の袈裟斬りをギリギリで回避する。すぐに切り返しが来るので、後ろに下がり回避、女子生徒の剣撃を紙一重で全て回避して、俺は剣を持った右手首を左手で掴む。もちろん、人間の握力でだ。50kgで調整する。だが、くるりと体捌きで女子生徒は俺の高速を逃れる。そのまま首を狩ろうとするので、俺はとっさに右腕を両手で抑え、そのまま下に押さえつけた。
「きゃあ!」
すると、女子生徒はグルンと回転しビタンと地面に身体を打ち付ける。
せっかくなので、俺は若干体重をかけて抑える。もちろん、今の自分の体重が人間の3倍近いのは承知してるので、調整はする。
「ぐっ!」
「いや、睨むのやめてもらえない? マジで意味がわからないんだけど」
無駄だと思うけれども、俺は一般人のふりをする。
「こんな所で……!」
「マジで意味わかんないから。事情を話せよ。機械獣とか何なんだよ」
「あなたの方が詳しいんじゃないの?!」
と言われても、俺はそう言う記憶はインストールされていないらしく、思い当たる節は無かった。そもそも、俺自身どんな機能があるかもついぞわからなかったのだ。
「別に知らねぇよ。俺だってなりたくて……。嫌なんでもない。とにかく襲ってきた事情を話せよ。その危ないビームサーベルなおして!」
こんな状態を黒スーツのおっさんに見られたら爆殺されてしまう。絶対、襲われたとか言い訳、絶対通用しないし。
とりあえず、女子生徒を解放する。どうやら襲っては来ないらしい。
「えーっと、事情話してもらえるか?」
「チッ! 何であんたなんかに」
「いや、いきなり襲ってきて殺しに来て意味わからねぇし。だいたい俺は人間を襲ったら死ぬの! この首輪は人間を襲ったら首を吹っ飛ばすの! なんか事情知っているみたいだし、色々説明して欲しいの」
俺が首輪を指しながら文句を言うと、女子生徒は驚いた表情をする。
「え、まさかあんたが生きたまま捕獲された素体?」
「……あんたもやっぱり関係者だったのかよ」
それだったらちゃんと情報共有しておいて欲しいものである。
「そうね。似たようなものよ。なるほど、そのチョーカーは爆弾だったのね」
「そう言うこと。だから俺には敵意が無いってわけ。オーケー?」
「そんなの信用できないわ。どちらにしろあなたは人類の敵なのよ」
「へいへい。敵でもなんでも良いけど、俺は人間のつもりだ。襲うのはこれっきりにして欲しいものだわ。襲われた時に黒スーツのおっさんに見つかると頭を吹っ飛ばされかねないんでね」
どんな状態でも俺として意識がある以上、死にたく無いのは当然だ。
あの黒スーツのおっさん、絶対容赦なく俺の首を爆破しそうだし……。
「で、色々知っているみたいだから教えてもらえる? 俺自身状況わかってないんだよね。聞いても「知っているだろ」って言われて教えてもらえなかったんだよね」
あの時を思い起こしても、それらしい情報は全く無かった。人間が敵であると言う洗脳ぐらいである。
そう考えると俺自身なんでその洗脳にかかってないのかという事になるけれどもね。人間の顔を見ると嫌悪感は確かにあるが、それだけである。
「……最近ニュースにもなっていると思うんだけれど、知らないの?」
言われて思い出したのは、世界中で殺人事件やテロの件数が増えていると言うニュースだった。まさか、アレが全て俺のように改造された人間の仕業という事か?
「最近、素体がある程度人間を殺すと、巨大化して機械の怪物になるのよ。最近はその被害も増えてきているの。……まだ一般では情報封鎖されているけれども、そのうちそれも難しくなるでしょうね」
「……」
「だから、私たちはこのソナーを使って素体を探し出して先に破壊する事になっているわ。機械獣化した場合、日本では手に負えなくなるもの」
そう言えばとニュースを思い出す。国会で凶悪殺人犯を殺害するのは人権問題だと野党の党首が首相を責めていたはずだ。確か特例テロ対策法制定の話題である。一定数以上の人間を殺害した事件が発生した場合、特例テロに指定されて犯人をその場で殺害する許可を与える法である。与党多数で可決されたが、すなわち犯人とは俺のように異星人に機械に改造された人間を破壊するための法律だろう。
今でも人権派弁護士集団がギャーギャー言っているのをニュースで見るけれど、裏を知ると彼らは自分たちの首を自分たちで締めるように騒いでると言うことになってしまう。
「なるほどね。つまり、俺もその機械獣になる前に破壊しようとされているわけね」
「そうよ。だから大人しく殺されなさい」
「断る。それなら、俺がそいつらを破壊した方が幾分かマシだろう」
実際、俺のように機械に勝手に改造された被害者だ。意に沿わず殺戮マシーンにされるなんてかわいそうである。できるならばその前に殺した方がいいだろう。もちろん、俺達を勝手に改造した奴らにツケを払わせなければならないが。
「……そうだな。俺はヒーローに憧れてたんだ。それが良いかもしれないな」
そう、俺はヒーローになりたかった。スーパーロボットを操縦して悪をしばく主人公になりたかった。
異星人からの侵略なんて、それこそ勇者王みたいでかっこいいじゃ無いか。それに、今の俺なら下手な人間なんかよりも戦いに向いた身体をしている。
「おい、あんた。俺もその素体? を破壊するの手伝うよ」
「……は?」
女子生徒は何を言っているんだこいつと言う顔をしている。
「今の俺なら足手まといにならないはずだ。身体が機械になったせいか、反応速度も体術も全体的に人並み以上だしね」
「……仲間と戦うつもりなの?!」
「仲間?」
そもそも、ニュースではほとんど単独犯だったはずである。そんな連中に仲間意識などあるのだろうか?
それに、俺みたいに会話できるなら説得してやめさせたいと言うのもある。
「彼らに仲間意識があるなんて俺には到底思えないけれどな」
「……」
女子生徒はギロリと俺を睨む。値踏みしているのだろうか。
「……良いわ。あなたがどう言うつもりかわからないけれども、協力してくれるなら無碍にはしないわ」
「そうか、それなら良かった」
どうせ『寮』に戻ったところで軟禁状態になるだけなのだ。学校と『寮』の往復で終わらせるよりは、せっかく力を手に入れたのだから、ヒーローとして戦ってみるのも良いかもしれないなと考えていた。
「……神納木 杏奈よ。これでも3年生よ」
「俺は河城 順平だ。神納木さんと同じ、この学校の3年だ。よろしく」
「元になった人間の名前ね」
「いや、俺の名前なんだが……」
「どっちでも良いわ。とにかく、手伝う以上扱き使ってやるわ。覚悟しなさい、順平」
「へいへい」
神納木さんはそう言うと早速ソナーを取り出す。
「それじゃ、早速だけれどお仕事よ。近くに素体の反応があるから破壊しに行くわよ」
「はいよ」
俺は神納木さんの後を追って走り出した。
▷▷▷▷▷
神納木さんが黒スーツのおっさんと話した結果、首輪の爆破装置は神納木さんが所持する事になった。あのおっさん、何かと理由をつけて俺を殺したそうな目をしていたから、まだ話の通じる神納木さんに渡って若干安心する。と言っても、どうせあの爆破装置は複数あるだろうから、依然として状況は変わらないんだろうけどな。
現場では、すでに殺戮が始まっていた。茶色のスーツを身に纏ったサラリーマン風のサイボーグが、丁度男性警官の首をネジ切っていた。
「くっ! 発砲!」
警官隊はパトカーのを陰にして拳銃で発砲する。しかし、効果がないようで、拳銃が命中した箇所の皮膚が剥がれて鈍色の本体がむき出しになるだけだった。
「……特殊捜査課を呼べ!」
「は、はい!」
警官はすぐに無線を使う。
そんな様子を俺は見ていた。
「え、マジ? なにこれヤバくない?」
「マジでヤバいのよ。ほら、さっさとあの素体を破壊するわよ」
神納木さんはそう言うとビームサーベルを装備する。
「弱点は首よ。心臓やほかの急所を破壊してもあまり意味ないわ」
「あいよ」
俺には武器は無いんですかそうですか。まあ、機械になった身体をうまく使えば倒せるかな?
俺たちが素体のところに向かおうとすると呼び止められる。
「君たち! ここは立ち入り禁止だ! 止まりなさい!」
「私たちは【シュトルツ】よ」
神納木さんが学校の名前を出すと、現場で一番偉そうな警官が驚く。え、一体なんなんだ。
「なんだと! 君たちみたいな子供が……?」
「子供で悪かったわね。とにかく、あの素体を破壊するわ。万が一機械獣化した時に備えて自衛隊にも連絡をとってちょうだい」
「……わかった」
警官は不服の様子であったが、神納木さんの指示に素直に従う。
「おい、シュトルツって学校の名前じゃないの?」
「私たちの組織の名前でもあるわ。詳しくは後でね」
神納木さんはそう言うと戦闘態勢に入る。
それにしても、周辺は非常にグロテスクな光景が広がっている。歪められた人間の死体が散らばっているからだ。気分としてはスカッとする光景だが、感覚としてはおぞましい。
「いくわよ!」
神納木さんがビームサーベルをサラリーマン素体に振りかぶる。もちろん、そんな大振りな攻撃は回避されてしまう。神納木さんはそれを見越して連撃を加える。普通の人間だったら、何回切り刻まれたかわからない攻撃を、素体は回避する。もちろん、回避しきれずに数カ所傷がつく。
「ギャハハハ! ニンゲン! ニンゲンコロスゥ!」
若干エコーの入った声音だ。完全に理性は残っていないようで、顔には狂気と狂気にまみれている。
側から見れば狂人、テロリストにしか見えない。
「殺されてたまるものですか!」
神納木さんが攻撃するために間合いに入ると、素体の腕が変形する。なんかヤバそうな長剣に変化した。そして、あれを回避するのは難しそうであった。
「神納木さん!」
俺は一気に加速して、そいつの腕に蹴りを入れる。体制的にオーバーヘッドキックになってしまったため、神納木さんのパンツがモロに見えてしまったが、それどころではないだろう。
ガインッと音を立てて剣が弾き飛ばされる。
「ああああああああ!!」
素体に体制が崩れ、その隙に神納木さんが素体の首を狩ろうとする。若干きれた様子だが、切断はできなかった。
「¥##$€#=+。/!?!¥$-%*3¥。!!!」
素体は電子音の悲鳴をあげると、大きく後ろに後退する。
「チッ! 浅かったか!」
神納木さんが舌打ちをする。素体の首から緑色の液体が垂れている事から、それなりに重症のようだった。と言うか俺もあの緑色の液体が血液の代わりに流れてると言うことになる。そう考えると顔がひきつる。
傷口はすぐに塞がったようだ。
「キサマアアアア! ナゼニンゲンノミカタヲスルウウウ?!?!」
どうやら、素体は俺の正体に気づいたらしい。
「ハッ、逆になんでお前さんの味方すると思ったのか知りたいね!」
さっき、この素体は手を変形させて剣にした。と言うことは同じ機能を俺も持っているはずだ。
俺が意識をすると、体内でカシャカシャと音がする。ど同時に視界にメッセージが表示された。
【両手エネルギー砲、機能をアンロックしました】
両手を見ると、砲身が現れていることに気づく。
「へぇ、便利……」
そして、今更気づいた事だが、視界には色々なパラメータが映っていた。まるでVRゲームのようであるが、そもそも自分自身が機械なので、こう言う機能はあってしかるべきだろう。
俺は両手の砲身を素体に向ける。
「グガギギギ! ウラギリモノハハカイスル!」
「やってみやがれ」
俺と素体が動いたのは同時だった。砲身は俺自身の腕なので動くにはなにも問題なかった。格闘術は特に何か学んでいたわけではなかった。しかし、どうやら、そう言う知識はあの時にプリインストールされていたようで、剣の腹を叩いて攻撃を防ぎ、エネルギー砲を発射する。
当てるつもりで撃っても掠めるだけでなかなか当たらなかった。むしろ、撃たせてもらえなかった。
「順平! 連携するわよ!」
神納木さんはそう言うと、俺と素体の間に割って入る。素体の剣を片っ端からビームサーベルで切り落としていくが、素体も剣を切らすことはない。俺はエネルギー砲を掌底を当てるのと同時に放つと、ようやくクリーンヒットしてようであった。
エネルギー砲が貫通した跡は穴が開いていた。
「@¥&/:;“$_¥”$_¥@!!!」
素体は電子音の悲鳴をあげると、俺たちから距離を取り、両手を地面に突き刺した。
「サイショカラコウスレバヨカッタノダ!」
「いけない!」
神納木が飛び出すも、素体を中心に発生した風により弾き飛ばされる。
「どうしたんだ?」
「あいつ、機械獣化する気よ!」
素体の全身から機械の蔦が生えて地面に突き刺さる。そして、地面が割れてなにかが飛び出した。
「ギャハハハハ! ツブレロウラギリモノ! ケシテヤルニンゲン!」
素体が飛び上がり、地面から出てきた塊に飛び乗ると、素体が塊に溶け込んだ。そして、塊が変形しだす。そして、メカゴジラのような姿に変形した。
「GYAOOOOOOOOOOOOO!!」
俺たちに向かって叫ぶ機械獣。
「おい、これどうするんだよ! 人間じゃこんなの倒せないだろ!」
「知らないわよ! こうなった以上軍事力に頼るしか……!」
周囲を見渡したが、自衛隊はまだ到着していなかったようである。
「あ、あれはなんだ!」
「怪物だっ!」
後ろで観戦していた警察隊が機械獣に向かって発泡し始める。が、しかし効果はないように見えた。
おもむろに機械獣が尻尾をあげると、思いっきり振りかぶる。
そして、警官達がいた場所がすり潰される。俺は左手を突き出して、尻尾を止めた。
ガキンと音を立てて尻尾は止まる。俺と背後にいる神納木さんは無事だったが、他は知らなかった。だが、無事ではないだろう。
「チッ!」
俺は片腕で尻尾を強く掴む。少し腕が軋むが問題ない。俺は右手を機械獣の頭部に向ける。
「オラァ!」
エネルギー砲は当たるが、効果が薄いようであった。
「順平! これを使って!」
神納木さんに手渡されたのは、ビームサーベルだった。
「これなら、機械獣の装甲を傷つけることができるはずよ。やれるわね?」
「もちろん」
話している隙にも、機械獣は攻撃を仕掛けてくる。物理攻撃だから、まだ俺でも防御できるにが救いだろう。
俺はビームサーベルを起動させる。そして、尻尾を切りつける。さすがは対抗策だけあって、傷が付くが、あままり深くはなかった。
俺は渾身の力を込めて尻尾を蹴り飛ばす。
「神納木さん離れててくれ」
俺はそう言うと、飛び上がる。ビルサイズの巨大な機械獣である。エネルギー砲でも大きくは傷つかないところを見ると、装甲は硬いようだ。
俺はビームサーベルを使って攻撃を仕掛ける。素人の剣技とは言っても、高出力エネルギーソードであるだけに、当たれば傷は付く。
不意にパンっと横から手で弾かれる。
俺はどうやら殴られたらしい。気づけば、ビルの中に瓦礫に埋もれていた。
「いってー……」
俺はすぐに立ち上がる。対してダメージは負っていないけれども、痛いものは痛かった。
【損傷率3%】
と、視界に文字列が写る。
アレで、そんなに壊れていないとか、俺は一体どんな化け物だよと思いつつ、再度攻撃を仕掛けるために、地面を蹴る。
【脚部ブースター、アンロックしました】
そのメッセージと同時に、使用方法がインストールされる。脚部ブースターって、おい。
だが、お陰で素早く機械獣の前に戻ってこれた。
「お前の相手は俺だ!」
ビームサーベルで相手の腕を切りつける。が、やはりダメージは薄い。よくもまあ海外の軍隊はこれを倒せたものである。
何度か弾き飛ばされては戻って切りつける事を繰り返しているが、一向に倒せる気配が無かった。
【損傷率10%突破】
メッセージが浮かんで俺は体を見ると、皮膚の至る所に傷が付いていた。そこまで大した痛みは無かったから気づかなかったが、人間であれば行動不能なんじゃないかなと思うレベルである。
「俺、すっかり化け物になっちまったんだな……」
瓦礫から起き上がりながらそう呟く。よく見ると皮膚の下の金属まで見えている。そう考えると結構なダメージを負ってしまった。
「しかし、機械獣って言うのは厄介だな……。あんなの、同じ機械獣じゃねぇと倒せないじゃないか!」
俺が戦っている間に自衛隊が到着したのか、機械獣はミサイルで攻撃を受けているがビクともしていないように見える。
そもそも、傷をつけても至る所から材料を回収するため、回復するのだ。
「ああ、あれはあれだな。コアを取り出さないと倒せないってやつだ。いてて……」
立ち上がる。足はブースターが出ており、ズボンは破れてしまった。両腕も戦いの影響ですでにそではなく、皮膚が剥けて金属部分が見える。
「ちょっと! あなた大丈夫なの?!」
声が聞こえた方を振り向くと、神納木さんが駆けつけてきた。
「多分大丈夫じゃないと思う」
「でしょうね! 皮膚が剥けて酷いことになっているわよ」
若干引いている顔をしながら、神納木さんは指摘する。
「とりあえず、自衛隊が来たわ。順平が時間を稼いでくれたおかげで被害は少なくて済んだみたい」
「そりゃ良かった。身体を張った甲斐があるよ」
だけれども、自衛隊と機械獣の戦いを見ていて、まるで勝てる気がしなかった。
「あれ、どうやって退治してるんだよ。どう見ても自衛隊じゃ対処できなさそうなんだが!」
「アメリカでは独自のロボットを鋳造して戦っていると聞いたわ。日本も導入をしようとしたらしいけど、平和団体によって強烈に反対された結果、配備もされていないわね」
「……じゃあ対処できないじゃないか」
「そうね。一応、【シュトルツ】のアメリカ支部には連絡したけれど、ロボットの到着は3時間後になるわ。それまでは足止めね」
そう言いつつも、外では戦車が一台破壊されている最中であった。
「……順平。あなた、機械獣に変身できないの?」
何を言いだすんだこの人は。
「さっき神納木さんから聞いた感じだと、人間を一定数殺す実績が必要なんだろ? 俺は一人も殺してないから無理だね」
「脹脛からブースター生やしているのに?」
「……」
なるほど、そう考えると出来なくもないだろう。エネルギー砲やブースターも、戦っているうちに出来ないかと考えた結果、アンロックされたわけだしね。
「試してみるか」
あのサラリーマンのイメージする怪獣がゴジラだったのだろう。姿形も似ているし、おそらくイメージした通りの機械獣に変化すると考えたらいい。
ならば、俺にとって正義のロボットに変化するイメージを持てばいいのだろう。
やっぱ、カッコいいと言ったらスーパーロボットだよな。原点のマジンガーもカッコいいし、ゲッターロボも良い。勇者王なんかは合体するのもカッコいいしね。
俺がそんな想像をしていると、案の定メッセージが見えた。
【ジェノサイドマシンビースト変化がアンロックされました】
ジェノサイドマシンビースト変化。嫌な予感しかしない。
アンロックされると同時に、身体の中でカシャカシャと音を立てて、そのパーツを作っているようである。
「神納木さん、できるようになったっぽい」
「……恐ろしいわね」
後でじっくりとシステムを確認する必要があるなと思いつつ、俺はジェノサイドマシンビースト変化システムを起動することに同意する。
【ジェノサイドマシンビースト変化システムを起動します】
同時に俺の体から複数のケーブルが伸びる。近場にあった車やバイクのスクラップ、そして瓦礫に接触すると、形状を変形させる。
「暴走したら殺してあげるわ」
「はは、よろしく。死にたくないんでさっさとあの機械獣を倒すけど」
徐々に形が組み代わり、二足歩行の細身のロボットに組み変わる。大きさは機械獣ゴジラより小さめであるが、十分だろう。俺は組み上がったコンクリートロボットの背部に手を置く。折角なので勇者王のように宣言しよう。
「フュージョン!!」
ハッチらしきものが開き俺はコンクリートロボットに取り込まれた。
▷▷▷▷▷
視点が移動したようで、俺は20m程の巨人になっていた。ちなみに機械獣ゴジラは25mまで成長していた。
周囲の建物や破壊した自衛隊の戦闘機を取り込んだようである。
コンクリートロボットの動作確認をする。そのまま自分の体の動きがトレースされているようで、手をグッパーするとロボットのマニュピレーターもグッパーした。
「本格的に俺、人間やめちゃってるなぁ……」
その事に少し悲しくなりつつも。どうやら意識は俺のままであるようで、安心する。
「順平! 意識は?」
と、神納木さんの声を拾ったので、俺は振り返る。流石に見えづらいなと思ったが、声の主の映像を取得できるらしく、神納木さんの姿を確認することができた。
なので、サムズアップして答える。
「ああ、大丈夫そうだ。動かせるし、これならアイツを倒せそうだ!」
俺は座った状態から立ち上がる。
一応声が出る感じなので、自衛隊の人たちに間違えて攻撃されないように宣言する事にした。
「機械獣ゴジラめ! この俺が破壊する!」
だから援護をお願いしますよーっと言外に込める。
「GYAOOOOOOOOOOO!!」
俺の言葉に反応したのか、機械獣ゴジラはこっちの方を向いた。機械獣ゴジラが暴れた場所は広場になっていたので、俺はそこで決着をつける事にした。
「散々痛めつけてくれやがって、テメェ、ぶちのめしてやる!」
▷▷▷▷▷
私は順平を見送った後、見えやすい高台に移動していた。順平が変身したそれは、機械獣と言うよりもアニメに出てきそうな戦闘ロボットであった。コンクリートが装甲になっているため、グレー色であり、ツインアイをしたロボットである。ゴテゴテとしており、男の子が好きそうな見た目をしているのは順平の感性だろう。
順平はロボットに変身した後もちゃんと自我を持っている様子だった。
私は順平のチョーカーに付いている爆弾のスイッチを握る。
順平と機械獣の戦いは、ウルトラマンと怪獣の戦いのようであった。武器を持たないため、完全な格闘戦である。
『つらぁぁぁぁぁっっ!』
順平ロボが喧嘩パンチで機械獣の横面を殴打する。反対に機械獣の引っかき攻撃はうまく受け流してしまう。順平は素体状態でも武術の類を経験したことのあるような動きをしていた。
「彼……元になった河城 順平くんの素性を調べてみる必要がありそうね」
どうやら順平……あの素体は河城 順平の記憶をそのまま持っているように振舞っている。もしかしたら、彼を調べれば素体が一体なんなのかを突き止めることができるかもしれなかった。
順平ロボは喧嘩格闘術で機械獣を相手に善戦していた。
「GYAOOOOOOOOOOO!!」
機械獣はこのままでは勝てないと見込んだのか、距離を取る。そして、口から熱線を放った。
『まんまゴジラかよ!』
順平ロボはそう言うと、熱線を回避せずに両手変形させて盾を作り出し、上空にそらすように熱線を受け流した。
その隙に、10式戦車が順平ロボを砲撃する。
『ちょっ! 待って! 辞めて! 痛いから!』
私は自衛隊の場所まで行き、順平ロボを支援するように頼む事にした。
▷▷▷▷▷
熱線をはじき返したはいいけれど、自衛隊の攻撃と熱線で機体はボロが出始めていた。
【損傷率21%】
とメッセージが出ている。まあ、俺の体じゃないから戦えなくなるまでは気にしなくていいだろう。
「叩き斬ってやる! そんで、ここからおさらばだ」
どうせ自衛隊から攻撃されるなら、さっさと機械獣ゴジラを倒してこの機体を放棄してトンズラしよう。俺はそう思った。そしたら、自衛隊はこっちに夢中になって俺が逃げる隙もできるはずだ。多分だけど。
【大型大剣:斬艦刀の作成を行います】
メッセージが出るとともに、自衛隊からの砲撃を回避しつつ、地面に落ちているガラクタの塊を掴む。
マニュピレーターからケーブルが伸び、ガラクタの塊を大きな剣に変化させた。
「行くぜぇぇぇ!」
俺は斬艦刀を持って飛び上がる。せっかくだから、元ネタに習って、必殺技を叫ぼう。そのまま、斬艦刀を振り下ろしながらブーストをかけて機械獣ゴジラに向かう。
「必殺、斬艦刀縦一閃っっ!!てりゃああぁぁぁあっっ!!」
「GYAOOOOOOOOOOO!!」
俺を撃ち落そうとする熱線を斬艦刀で叩き斬る。そのまま、勢いに任せて、俺は機械獣ゴジラを一刀両断する。
勢いのまま、ズサアアアッと機械獣ゴジラを背に距離が開く。
急造だったためか斬艦刀は砕け散る。それと同時に、機械獣ゴジラは爆散した。
縦一直線に叩き斬ったのだ。パイロットも切れただろう。
「うし、それじゃあ、降りて逃げよっと」
おれは小声でそう呟くと、降りようとする。しかし、結局はどうやって分離するかを模索する事になってしまった。
▷▷▷▷▷
俺は結局分離する前に、戦車に周りを取り囲まれてしまった。
俺はロボット姿のまま、両手を上げる。
「君! 今すぐそのロボットから降りて投降しなさい!」
自衛隊員の人がメガホンを持ってそう叫ぶ。
「すみません、降りる方法がちょっとわかんないんで、もうちょっと待ってもらっていいですか?」
俺がそう言うと、自衛隊員は困惑した表情をする。
「え、あ、ああ。早くしなさい」
と言っても、ロボットでは身動きが取れないので、目だけを動かして探っている状態だ。
ロボット形態だからなのか、パラメータやいろいろな情報が視覚に映っているのだ。俺は頑張ってヘルプを参照していた。あるとは思わなかったけど、メッセージで、
【ジェノサイドマシンビーストに関するヘルプについてアンロックされました】
と出たので、存在に気づいた感じである。
「えっと、降りる方法、降りる方法はっと……」
スマホのようにヘルプを参照して探していると、ようやく発見した。
本来の用途としては、降りるなんて機能は付与されていないようではあるが、望めば追加されるらしい。相変わらず謎である。
【ジェノサイドマシンビースト解除機能がアンロックされました】
と、メッセージが出たので、早速使用する。
プシューっと背中から蒸気が出るのと同時に、視界が切り替わる。暗い闇の中だが、ハッチが開いたのかすぐに明るくなった。
身体中に纏わりついていた機械を除けると、コードが俺の体に回収される。機体は自動で座り姿勢に移行したようであった。
「よし、これで降りれそうだ」
だが、出たところで自衛隊に捕縛されそうである。この破壊の痕跡を保証しろとか言われたらどうしよう?
色々不安はあるが、この中にいても仕方がないので、俺は意を決して外に出る事にした。
ハッチから外に出ると、迎えてくれたのは神納木さんだった。
「無事に出てこれたのね」
「社会的に無事かはわからないけれどもね」
俺が皮肉を返すと、神納木さんはニヤリと笑う。
「あなたが出るのに苦戦している間に、自衛隊は説得しておいたわ。【シュトルツ】の秘密兵器という事にしたわ」
「ああ、助か……ん?」
それはつまり、これからもコキ使われるという事では?
「これからもよろしくね、河城 順平?」
俺はいい笑顔でコキ使う宣言をする神納木 杏子に、俺は苦笑いを返すしかなかった。
糸冬
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制作・著作 ちびだいず