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「ぅぐっ」
リクトは突如足を止め、勢いを殺し切れなかった3人の体は草の上をゴロゴロと転がる。
「うわっ」
「ぐっ」
100mくらい転がり続けてやっと、リクト達の体は止まったのだった。
「うぅ....。リクト兄ちゃんもジゼル姉ちゃんも大丈夫 ? 」
よろけながらもミシェルはすぐそばで倒れていた二人に駆け寄った。
「ああ、なんとかな....お前も無事か、リクト」
「ぐぅっ。悪い、足を治してもらってもいいか ? 」
リクトは顔を顰めて足を押さえる。
「えっ ! ? ....見せて ! ! すぐ治すからっ」
「....頼む」
リクトは見るからに防御力のなさそうな布きれでてきたズボンを捲り、足を出す。
「うわ....酷い怪我だね。じゃあ治すから足動かさないでね」
リクトの足は全体が真っ赤に染まっており、今もパックリと開いた傷口から血がドクドクと流れ続けていた。
『フェアリーヒール』
ミシェルはリクトの足に手をかざすと、足が光に包まれた。
やがて、光が収まるとリクトの足は元通りになっており、足に付いていた血も消えていた。
「よし。リクト兄ちゃん、これで治ったと思うんだけど一応動かしてみてもらってもいい ? 」
リクトは頷くと立ち上がり飛んだり走ったり一通り動いてからミシェルに近づいた。
「問題ない。ありがとうな、ミシェル」
ミシェルの頭にポンと手を置くと、リクトは草の上に座り込んだ。
「さて問題はこれからどうするか、だが....。もう完全に夜だ。今、町に行ったとしても入れてくれるかどうか」
言葉に詰まったリクトに続いてジゼルが言う。
「なら、今日はここで野宿か ? 」
「でも僕、野宿するための道具とか何も持ってないよ.... ? 」
不安そうな表情のミシェルの言葉にリクトが同意する。
「俺も何も持ってないな」
「私は鍋ならあるぞ」
そう言うと収納袋から鍋を取り出し、二人に見せた。
「なんで鍋なんだ ? もっと他に役に立つものあっただろ」
少々赤らんだ頬を後ろへ向け、ジゼルは言う。
「そ、それは....その、リクトに手料理を振舞おうかと思ってだな....」
「そ、そうか。それはありがたいがお前もその....何かと忙しくなるだろうし、そんなに気を配らなくてもいいぞ」
リクトは冷や汗を垂らし始めた頃、ミシェルが口を挟んだ。
「ジゼル姉ちゃんの作った料理かぁ。僕も食べてみたいなぁ」
「そうか ! ! 任せろ、町に着いたら思う存分作ってやる」
「本当 ! ? やった ! ! 僕、楽しみにしてるね」
「ああ ! ! お前には飛びっきりのやつを作ってやるからな」
はりきり出したジゼルと嬉しそうにはしゃぐミシェルの二人をリクトは一人、遠目に見つめていた。
あーあ、お前はこれから地獄をみるはめになるぞ。まあ、頑張れミシェル。
「おい、なに一人で黄昏てる。それより喜べリクト ! ! お前にも私のとっておきを食べさせてやろう」
「え....いや、それは遠慮しておこう。今回はミシェルの為だけに作ってやれ。ほら、ミシェルはお前の手料理初だし。な ? 」
引き攣った顔でなんとか笑顔を作って、意味のわからない理屈を言う。
「そうか....。なら、お前には次の時に振舞ってやるとしよう」
ジゼルは少し残念そうな表情をしながらもなぜかそれを納得して頷いた。
「じゃあ、そろそろ野宿の準備に取り掛かろう。ジゼル、魔法で魔物達を近付けないようにできるか ? 」
「了解だ。結界を貼っておこう」
「頼む。ミシェルはジゼルから鍋を借りて水と出来れば調味料も集めてくれ」
「うん、わかった」
「俺は料理に使えそうな食材を集めてくる」
リクト達は会話が終わると、それぞれ行動を開始した。
それからそれぞれの準備を終えて、食事を食べると草原に三人並んで寝そべり、眠りに入った。