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「はぁ....。で、誰かこういうとき使えるもの持ってたりしないのか ? 」
「私は服しかない」
「....ごめんなさい僕も、何も持ってなくて」
俯いて申し訳なさそうにミシェルは謝る。
「持ち物はみんな剣以外はしか持ってない、と」
真っ暗な草原に座り込んだ3人は魔法で小さく明かりを灯しながら意見を出し合う。
「なら、役に立つ魔法とかは覚えてたりしないか ? 」
少し経って、リクトがそう言った。
「えっと、僕は回復魔法が少し出来るくらいだから....」
他の魔法は覚えてないと言うミシェルをジゼルが慰めた。
「私は中級くらいまでの攻撃魔法一通りと初級の補助魔法は使えるぞ ! 」
威張った感じに言うジゼルの頭にリクトのチョップが落ちる。
「馬鹿が、今は町までどうやって行くかの話し合いだろうが」
「わ、わかっている。お前は何か魔法使えないのか ? ....あ、ミシェルを見つけたサーチで町を見つければいいんじゃないか ! ? 」
なんだ簡単な事じゃないか。とジゼルは笑顔になる
「はぁ....。サーチは生きているものしか探せないんだよ。俺がお前が考えることを思い付いてないわけがないだろう」
リクトはため息を吐く。
「なっ....それを早く言えこの馬鹿リクトが ! ! 」
顔を赤くして怒鳴るジゼルにリクトは馬鹿にするように言った。
「はぁ ? お前がそんなこともわからないのが悪いんだろうが。自分が恥かいたからって人のせいにしてんじゃねーよ」
「な、なんだと ! ? もう我慢の限界だ、一発、いやボッコボコにしてやろう」
ジゼルは拳を握りしめる。
「ちょっ、だから喧嘩はやめてってば ! ! リクト兄ちゃんも挑発しないでよっ。なんでこんなに仲悪いんだろ....」
ミシェルは遠い目で喧嘩になりそうな二人を見つめる。
いっそ、このまま喧嘩してもらったらおさまるのかな.... ?
そんなことを考えていると、何かがこちらに急速に近づいてくる足音が聞こえた。
「ジゼル、ミシェル戦うぞ」
「ああ」
「うん....」
これだけ暗い中だ、逃げるのは余計に危ないか。とりあえず、魔物の姿を捉えないと。
「ジゼル、何でもいいから火魔法を俺たちの周りにぶつけろ ! ! 」
「わかった」
「ミシェル、ジゼルの魔法で魔物の姿が見えるようになったら戦うぞ。お前は後ろを頼む。魔物の動きには十分に気をつけろ」
剣を構えてリクトは顔を前に向ける。
「うん.... ! !」
ミシェルは力強く頷き、リクトと背中合わせになった。
『タワーボルケーノ』
その瞬間、ジゼル達の周りを囲むようにして炎の柱が上がった。
「あと5秒で炎は無くなる。後は任せたぞリクト」
少し疲れた表情をしたジゼルがリクトの肩を叩く。
「ああ。お前はミシェルを出来るだけ援護してやってくれ。俺の方はしなくていい。さっきのでだいぶMPなくなってるだろうからな。あと、自分自身も気を抜かずにいろよ」
「わかった。ほら、もう炎が消えるぞ」
ジゼルがそう言ってすぐ、炎は治まる。だが、草原の草にはまだ火がついていた。
「よし、これでちゃんと見えるな。ミシェル、魔物の数は多いが2人でやれば勝てる数だ。冷静に戦え」
リクトは前にいる狼のような姿の魔物達へと走る。
「ふっ ! ! 」
「グルゥゥ」
「りゃっ」
リクトは次々と魔物を倒していった。
「えいっ」
「グルッ。グルゥゥッ ! ! 」
傷を負った魔物がミシェルの腕を噛み砕こうと口をもっていく。
「ミシェル ! ! 【 ファイアっ】」
「グゥァッ」
ジゼルは魔物に魔法を命中させ、ミシェルを援護した。
「ありがとっ、ジゼル姉ちゃん」
「やぁっ」
ジゼルの魔法で弱っていた魔物にミシェルがトドメをさした。
ミシェルはそれからもジゼルに助けてもらいながらもどんどん魔物を倒していく。
3人はかれこれ30分くらい戦い続けていた。
「くそっ、きりがない。おりゃっ ! ! 」
「うん....はぁはぁ、やぁっ。さっきから結構倒してるのに....ぜんぜん、魔物の数が減ってないよ」
「ああ。くそっ、こいつら夜行性か....」
リクトもミシェルも苦しげに息をしながら剣を魔物へと動かす。
「リクト、私のMPはもうすぐ底が尽きそうだ」
ジゼルは苦しげに額に汗を浮かべてそう言った。
「くっ....。どうすれば、」
逃げることはできないが、あと何匹いるかも分からないこいつらをどうやって全部倒すか....。
あれを使うか ? いや、だがあれはこの体では何秒もつか....。
いや、この状況を打開できるとしたらこれしかないか。
「ジゼル、ミシェル俺は今から一か八かの策を使おうと思うっ。これが成功すればここから逃げれるが、失敗すれば俺は身動き出来なくなる策だっ。それでも....俺に従ってくれるかっ ! ? 」
魔物を剣で切りながらリクトは2人に訊く。
「何馬鹿な事言ってるんだ、お前は。それしかお前が思いつく策がないなら、お前を信じるしかないだろうが。さっさとやれ」
「うん、僕もリクト兄ちゃん信じてるから。従うよ」
即座にそう答える2人にリクトは驚きながら、もう一度尋ねる。
「二人とも、これは俺を信じるとかそういう話じゃない。全ては運で決まるんだ。それでも従ってくれるか ? 」
「しつこいぞリクト。私たちはお前を信じてるんだ。たとえ運だとしてもお前が何とかしろ」
「うん。どうせこのままだったら力尽きて死ぬだけだろうし。出会ってまだ1日も経ってないけど、僕は、一緒に行こうって声を掛けてくれたリクト兄ちゃんに賭けるよ」
二人ともめちゃくちゃ俺にプレッシャーかけるな。でも....期待には応えなきゃな。
「二人とも ! ! 俺が声を出したらすぐに俺の手を掴め。掴めなかったら、置いてくぞ」
「わかった ! ! ミシェル、リクトのところまで走るぞ」
「やぁっ。....よし、行こう ! ! 」
後方で戦っていたミシェルを連れて、ジゼル達はリクトのいるところまで走って行った。
3人は手を繋いで目を合わせて、頷き合う。
『デリトス・モーメント 』
リクトはそう声を出した瞬間、ジゼルとミシェルを連れて魔物達へと走り出した。
それは一瞬だった。魔物達は何が起こったかわからず、リクト達が通ったことに気づきもできなかった。
リクト達は魔物の群れを一瞬で抜け、一直線に走る。
それはほんの3秒程度の時間だった。