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「リクト、準備はできたか ? 」
ジゼルがタッチパネルを操作しながら、転送装置に立っているリクトに訊く。
「ああ、いつでもいいぞ」
リクトは自分の装備を確認すると頷いた。
「よし。じゃあ行くぞ」
ジゼルは転送装置に乗ってリクトの手を握る。
「おい、なんで手を握る」
リクトは訝しんだ顔をジゼルに向けた。
「うん ? ああ、これは転送先がバラバラにならないようにするためだ。お前、もしかして照れてるのか ? 」
ハッとした顔をすると、からかうようにそう言ったジゼルにリクトの眉間に皺が寄る。
「何、馬鹿なこと言ってんだ。俺がお前ごときに照れるわけないだろ」
「な、なんだと ! ? もう一度言ってみろリクト。サクッと首を撥ねてやる」
ジゼルはナイフを手にして顔の前で構える。
「よし、冗談はこれくらいにしてそろそろ仕事を始めよう」
それを見たリクトは両手を合わせてパンっと音を鳴らすと、一瞬にしてキリッとした表情に変えた。
「まったくお前は、....はぁ、じゃあ始めるぞ」
「転送、っと」
ジゼルが呆れた表情でタッチパネルをタップすると、ピッと音が鳴り、部屋は光に包まれた。
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「....っ」
目がチカチカする。本当に毎回毎回、なんなんだこの光。被害しかねー。
「どうしたリクト。目閉じてなかったのか ? 」
目頭を抑えていると、不思議そうにジゼルが訊いてきた。
「閉じてたわ ! 閉じてたけど光が眩しすぎて防げなかったんだよ ! ! 」
「ふむ.... おかしいな。私は何ともないんだが」
ジゼルはわざとらしく顎に手を置いて首を傾げる。
「はぁ ? お前はなんで平気なんだ。ていうか、光が出ないように出来ないのか ? 」
「ん ? もちろん出来るぞ。これは私が設定したものだからな」
当然といった表情でジゼルはさらりとそう言った。
「は ? お前、マジで何がしたいんだ。そんなに俺に恨みがあるのか ? 」
「何を言ってる。これは雰囲気を作るために私が時間をかけてやっと完成させたものだぞ」
こいつ何言ってんだ、マジで引くわ。ていうか光出すのに時間かけるってなんだよ。どこにそんな時間かけてんだよ。
はぁ....。こんなことにいちいち突っかかってたらキリねーか。
「ジゼル、この話はもう終わりでいい。とりあえず、ステータス確認しろ」
「ん、もういいのか ? 私がどこに時間をかけたかとか気にならないのか ? 」
ジゼルはブツブツとあれと、あれと....と呟きながら、指を折って数えている。
「さっさとステータス開け。ステータスオープンと言えば開ける」
俺は自分のステータスを確認しながら言った。
「ああ....。ステータスオープン」
ジゼルはなぜか少し落ち込んだ表情でステータスを開いた。
まさか、こいつ聞いて欲しかったのか ?
まあ、ほっとくか。そのうち機嫌も戻るだろ。それより俺のステータスは....。
名前:リクト
種族:人族
性別:男
Lv1
HP:10
MP:5
スキル
デリトス·モーメント
影沈剣
やっぱ、1レベルからか....。とりあえずレベル上げだな。でもまあ、スキルは持ち込めたようだし、少しは楽か。
「リクト、ステータスを確認したぞ」
「じゃあ、HPとMPはいくつだ」
「HPは....7、MPは15だな」
うん ? 俺よりMPが高いな。魔法使い向きか ? なら、とりあえずは魔法中心でやってもらうか。
「ジゼル、とりあえずお前はしばらくは魔法で俺の援護をしてくれ」
俺は準備しておいた剣を何回か振り、動きの確認をしてジゼルに言った。
「わかった。援護ってことはお前の後ろでやればいいのか ? 」
「ああ。それと、今使える魔法はあるか ? 」
「ふむ....。知っている魔法はあるがここで使えるかはわからないな」
「なら今試しにどれか使ってみてくれ」
一応、俺も試すか....多分使えるだろ。
これまでどの世界でも魔法は共通して使えたため、半ばそう確信しながら魔法を唱える。
『ファイアボール』
声に出した瞬間、炎の球が飛び出し地面に生えていた雑草を焦がした。
「おお....」
真っ黒に焦げた雑草を見て、ジゼルが感嘆した声を漏らす。
「ほら、見てないでお前もやってみろ」
ジゼルは頷くとリクトから少し離れた場所へ移動した。
『ウォーターボール』
すると、リクトの出した魔法の二倍はあるだろう水の球が焦げた雑草に命中した。
「ずいぶんとデカいな....」
そう呟くリクトにジゼルは興奮した様子で言う。
「よし。今、狙ったところに命中させれた ! ! 」
嬉しそうなジゼルをリクトは横目に見て。
「魔法は知識量に比例するって言われてるしな....。お前の方が俺より歳とってる分知識も多いからってことか。ちゃんと、狙ったところに命中できたのなら、なおさら魔法使い向きだな」
「ふふ、そうか ? 私は魔法使いに向いているのか。....ん ? 今、私が歳とってると言わなかったか ? 」
拳に力をこめ始めたジゼルにリクトは平然とした様子で言う。
「まあ、神だからな。さ、そろそろ町に向かうぞ。早く行かないと日が暮れる」
「あ、待てリクト ! ! 私を置いていくな ! 」
さっさと歩き始めたリクトにジゼルも慌てて歩き出した。
「おい、お前今さりげなく私の言葉を無視したが、私が歳とっていると確かに言ったよな」
「いや、そんなことは言ってないぞ。それより、さっさと歩け」
リクトはなんとか誤魔化そうとそう言い、逃げるように足を動かすのだった。
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