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「....っ ! ? 」
視界が開かれると最初に見えたのは機械のようなものだった。辺りを見渡すとそれは円状にずらりと並んでいる。見える限りでも百台以上はある。
リクトはその機械のようなものへと足を向け、近づいた。
俺の頭には嫌な想像がよぎっていた。それはここが地球ではないかということだ。
そう思ったのは辺りに並んでいるこの機械のようなものは近くで見るとエレベーターによく似ているからだ。だがもしここが地球ならば、エレベーターが百台以上並ぶというのはありえない。よし....まだ希望はある。
だが、レムリアに機械は存在しない。ということは少なくともここはレムリアではなかった。
だがこの時点で彼女が人間じゃないことは明らかだ。
これはもしかすると本当に.... 期待していいのか ?
いや、だが....。
リクトが顎に手を当てて考え込んでいるとエレベーターの扉が開き、彼女が入ってきた。
「遅くなってすまない。とりあえず、私についてきてくれ」
俺は無言で頷き、彼女の後ろを歩く。
そしてやがて彼女が立ち止まった部屋は、白で統一された神聖な雰囲気が漂う場所だった。
「そこの椅子に座ってくれ。今、お茶を用意する」
「ああ.... 」
リクトにそう一言伝えると、ジゼルは奥の部屋へと入っていった。
リクトが念入りに部屋の中を見ていると、彼女、もといジゼルがお茶を持って戻ってきた。
「待たせてすまなかった。....さて、始めるか」
「ああ....」
俺は椅子に座り、頬を引き締めてジゼルを見る。
「ではまず、ここは神界にある私の家だ。リクト、お前にはこれから私と仕事をしてもらう」
「.... は ? 」
リクトは約束が違うだろ、とジゼルを睨んだ。
「まあ.... お前の言いたいことはわかる。だが、これはもう決定したことだ。だからこれについては今から変えることは出来ない」
なんだと....! ! きて早々この始末か。やっぱり少しでもこいつを信じるべきじゃなかったな。....人は平気で嘘をつくんだ。そんなこと、俺が一番嫌ってほど分からされてきただろうが。いやそもそもこいつは人じゃないんだったか ?
「それで.... お前は俺に何をさせたいんだ ? 」
リクトは自嘲的な笑みを浮かべてそう問いかける。
「待て、お前何か勘違いしてないか ? 」
俺はすぐに答えないジゼルへの怒りを抑えながら、なんとか冷静に答える。
「勘違いなんかしてない。お前は約束を守る気など最初からなかった。それだけだろ ? それでお前はこれから、俺に何をさせるつもりなんだ ? 」
「違う ! 私はちゃんとお前の望みを叶えるつもりだ。....ただ、全て望み通りにとはいかなかった。本当にすまない」
ジゼルは本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
「.... わかった。とりあえず、話を聞こう 」
俺は、頭まで下げたジゼルがただ自分を騙したようには見えず、もう少し話を聞いてみることにした。
ジゼルに頭を上げるように言ってから、俺は少し冷静になるためにテーブルに置かれたまだ湯気の立っているお茶を口に含んだ。
「ありがとう。じゃあ、これを見てくれ」
そう言って、ジゼルは一枚の紙を差し出してきた。
その紙には
一つ、下級神になってもらう。
(不老になる)
一つ、ジゼルとリクト二人だけの新設の部署で仕事をしてもらう。
具体的な仕事内容
依頼された世界に行ってもらい、依頼を解決する。ジゼルはそのサポート役。
と書かれていた。
「....で、この紙については詳しく教えてくれるんだろうな ? 」
リクトはゴゴゴと効果音が聞こえてきそうなくらいの眼圧でジゼルを睨む。
「何をそんなに怒っているんだ ? 説明といわれてもそこまで言うことはないぞ」
「なんだと ? じゃあ訊くが....これのどこに俺の望みが入ってる ? 」
リクトはこめかみに皺を寄せて、ますますジゼルを睨む。
「す、少し落ち着いてくれ。それは今からちゃんと説明する」
ジゼルが話した内容は簡潔にまとめるとこのようなものだった。
・この仕事は様々な世界に行くことができる。←いろんな世界に行けば楽しいことは見つかるだろうということで俺の望みは解決
・一つの世界には大抵八十年間ほどいる予定。それを何回も繰り返すためには長い寿命が必要←神になることで解決
・一つの世界につき一依頼、解決しなければならない。←これが望みに反する部分
「どうだ ? 結構いい条件だと思わないか ? 」
彼女は若干ドヤ顔でこちらを見た。
「どこが....。どこがいい条件だ。俺の望みじゃない部分がデカすぎるだろうが ! ! 」
俺がそう怒鳴ると、彼女はとても目を丸くしてこちらを見た。
「そうか ? 確かに、仕事はしないといけないが八十年間で一つの依頼を解決しればいいんだ。そこまで大変な事でもないだろう ? 」
ふむ....。確かにそう言われると普通の仕事より楽な気はするな。いや、騙されるな俺。そうじゃないだろ。そもそも仕事があるということが楽しいことじゃないはずだ。いや、しかし....。
「お、少しは興味が出てきたか ? 」
迷っている様子のリクトを見て、とりあえず第一関門はクリアしたかな。とジゼルは笑みを浮かべる。
「まあ....考えないこともない、が、」
「本当か ! ? よし、それなら一回試してみるか」
次は第二関門だな、と心で呟きながらジゼルはそう提案した。
「そんなこと出来るのか ? この仕事は神にならないと出来ないんだろ ? 」
俺は一度神になればもう人間には戻れないのでは、と不安に思って尋ねたが、ジゼルから返ってきたのは
「まぁ、何とかなるだろう」
という全く信用できない一言だった。