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日常は戻る

 葬式が終わり、教室には未だ静けさが残っているが徐々にだが活気を取り戻し始めていた。活気の中心にいるのは、クラスメイトの三日月みかづき 椿つばきさんだ。

 天然の茶髪に少し制服が小さいのか、体のラインがはっきりとしている。それに、笑顔を絶やさずにいるのも彼女の魅力的な面なんだと思う。


「私ってバカだから、問題が全然解けないの〜。」


 そんな彼女の発言に周囲のクラスメイトたちは笑顔を浮かべるようになっていた。

 太陽が死んでから一週間近くが経ったんだ・・・。

 視界に広がる光景の変化に僕はあの時は馴染めていなかったと思う。周りのクラスメイト達はあまり僕に声をかけようとしなかったから。

 それは紅葉も同様のようだった。紅葉は休み時間になれば、持参の参考書を机に広げ、勉強を始めるからだ。その光景は馴染みつつあるのかもしれない。


「神在月さん・・・」

「何か用? 三日月さん。」

「昨日のテレビ見た? あのドキュメンタリー番組。面白かったよね!!」

「あぁ、テレビの話? ごめんなさいね、最近テレビを見てないの」

「そ、そっかぁ・・・」


 クラスのムードメーカーである三日月さんが話しかけても、紅葉は以前よりも人を寄せ付けなくなっていた。


「なんだよ・・・神在月のやつ。せっかく三日月さんが話しかけてやってるのに。」

「太陽くんが・・亡くなってから、もっと話しかけにくくなったよな。」


 クラスメイトの紅葉の評価はより悪くなっていた。


「み〜な〜づ〜き〜くん。いつも黒板とかお疲れ様。」

「黒板なんかは僕の仕事だからね。いつもやってることだし。三日月さんこそ、お疲れ様。」

「ん〜? 私、何も疲れる様なことしてないよ〜? ただ、私ってバカだから空気が読めないだけだよ?」


 無邪気な笑顔を向けてくれる彼女のことを僕はある意味で尊敬している。

 常に笑顔を振りまくことができる彼女の影響でクラスメイトは笑顔を見せるようになったのだ。この一週間、クラスを見ていた僕には彼女の影響力が凄いことがわかる。


「三日月さんはバカじゃない。それに、三日月さんはみんなから信頼されてるから凄いって僕は思ってるよ」

「水無月くんにそんなこと言われると照れるなぁ〜、えへへ。」


 頭に手を乗せ、照れてる仕草を見せる。それだけで少し気持ちが浮ついてるのがわかった。ただ、三日月さんは最後に一言。


「水無月くん、何かあったら私に言ってね。いつでも相談に乗るから、ね?」


 と、耳元で囁いてくれた。


「みんなぁ〜、移動教室だからいこぉ〜!!」


 三日月さんを先頭にクラスメイトは教室を出ていった。


「さて、と。僕もそろそろ移動しようかな。」

「み、水無月くん・・・ちょ、ちょっといいですか。」


 三日月さんと入れ替わるように卯月さんが俯きながら近づいてきた。その格好はまるで貞子のようだったのをよく覚えてる。


「わっ、卯月さん。ビックリしちゃったよ、どうかした?」

「い、いえ、どうかしたっていうわけじゃ・・・ないんですけど。そ、その・・・」

「ん?」

「きょ、今日・・・ほ、放課後とか時間・・・ありますか?」

「あるけど・・・珍しいね、卯月さんが声をかけてくれるなんて。」

「そ、それは・・・気になりますから。」

「卯月さん、何か言った?」

「なっ、何も言ってないですっ!! じゃ、じゃあ今日の放課後、屋上で待ってますっ!!」

「うっ、うん。わかった。それじゃ、放課後に屋上で。」


 卯月さんは僕に伝えることを伝えたのか、顔を俯かせた状態で教室を走って出て行った。ただ、


「うわぁっ!!」という声と同時にドンッ という音が聞こえたのは気のせいだったのかな。

 卯月さんと同様に僕も教科書を持って教室から出ようとした時、紅葉が僕を追い抜かすように教室を出て行った。ただ、その時の紅葉の視線は僕を睨みつけるものだった。


「ねぇ・・・紅葉。」

「話しかけないで、詩音。今は話しかけられたくない・・・太陽がいなくなったっていうのに、女子とイチャつくなんて、最低よ。」


 移動教室へと歩いている紅葉の後ろ姿は、僕には悲しく、しかし何処となく力強く見えたのは気のせいだろうか。


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