近付く崩壊Ⅴ
講堂で全校集会が急遽開かれた。話の内容は太陽のことだった。
「彼は明るく、常に元気な子だったと聞いています・・・。そんな彼の分も、皆さんには人生を楽しんでほしいと思っております。また、今回の件をきっかけとして車や自転車の運転には注意するように皆さん、してください。」
校長先生の言葉を聞いている際、全校生徒が静かでいた。普段のざわめきもなく、下を俯いている生徒や涙を流す生徒。周囲を見渡すとそういった生徒が大勢いた。そんな中、僕は静かに息をしていた。呼吸を荒くすることなく、嗚咽もすることなく、ただ呼吸をしていたんだ。
「悲しいはずなのにな・・・・・・・」
涙が出ない、悲しいけど一粒も涙が出ない。
入学して以来、僕は変わったのかもしれない。けど、そんな自覚はないんだ。だって、自分がわからないんだから。
家庭における変化、学校における変化、友人関係の変化。常に変化している環境に僕は適応・・・いや、対応するために僕は変化しているんだと思う。
そんなことを考えさせられた、このの太陽が死んだという事実。
僕は受け止められている、大丈夫。
僕は壇上へと向けている視線を紅葉がいる方へと移した。彼女、紅葉は静かに立っていた。僕に飛びつき、そして怒っていた彼女の姿はそこにはない。そこにいたのは、普段の彼女であった。冷静沈着、人を寄せ付けない雰囲気を漂わせ、一人であると見せている彼女の姿だ。
周囲のクラスメイトは視線を紅葉へと向けられている。
「神在月さん、大丈夫かな?」
「あんなに取り乱してる神在月さん、初めてみた」
さっきの紅葉の様子に心配する声や意外な一面を見たことに対する驚きがあったんだと思う。
ある意味で紅葉がクラスに馴染めるきっかけになったのかもしれない。
そんな嬉しくも悲しい矛盾した気持ちを抱きながら、全校集会は終わった。
講堂から出るとき、紅葉が僕の隣を通り過ぎていった。視線を一瞬だけど僕の方へと向けたが、話を掛けてくることはなかった。彼女の表情は冷たく、視線はもっと冷たかった。
クラスメイト達は僕や紅葉に声をかけず、教室へと静かに戻っていった。ただ、そんな中、俯き気味の黒縁メガネをかけている女子が一人、僕に話しかけてくれた。
「み、水無月くん・・・・・・だ、大丈夫?」
「あ、卯月さん。僕は大丈夫だよ」
彼女、卯月 桜さんは紅葉同様にクラス内では浮いている存在。常に俯いていて、話しかけると辿々しく返事をするからだ。
僕は卯月さんとあまり会話をしたことがないけど、椅子に一人で座っているところを良く見かける。そんな彼女が僕に話しかけてきたことに驚いた。
「ほ、本当ですか?」
驚いている僕をよそに彼女は俯いていた顔を僕へと向け、顔を近づけてきた。眼鏡越しにある濁りが一切ない綺麗な瞳が僕を覗き込んでくる。
「み、水無月くんの目・・・・・ぜ、絶望してる・・・・・・目です。」
彼女はそう一言口にし、教室へと逃げ込むように走って行った。
絶望・・・・・・か。
僕はその一言を聞き、廊下の窓越しから曇天の空を見つめた。光が一切ない、楽しさや明日への希望を一切感じさせない空。そこからは紅葉の涙のように土砂降りの激しい雨が降り注ぎ始めたのを僕は覚えてる。