近付く崩壊Ⅳ
教室へ入ると普段は賑やかな教室は静寂に包まれていた。そして、一人の女子が僕に抱きついてきた。
「詩音・・・・・・。太陽が、太陽が」
僕の胸にいる紅葉は涙を流しながら、僕を抱きしめてきた。力強く抱きしめられ、呼吸も苦しい。けど、僕に顔を向けた紅葉の表情は弱々しい物だった。
学校では影が薄く、近寄りがたさを周囲に振りまいている紅葉。だけど、僕の目の前にいる紅葉は子供のように泣きじゃくっていた。
「紅葉・・・一度、保健室に行こう?」
「・・・うん」
教室から出ると紅葉は更に涙を流し始め、その場にしゃがみ込んでしまった。
「紅葉・・・辛いと思うけど、保健室に行こう」
「わかってるけど・・・わかってるけど、さ。太陽が・・・死んじゃったんだよ。」
「そうだね・・・太陽、死んじゃったね」
そう口にしている僕の目には涙が流れない。たぶん、この時は一緒に泣いてもいい場所だったんだと思う。けど、流せなかった。泣けなかったんだ。
こんな状況なのに、涙の代わりに出てきたものは笑みだった。
紅葉は僕の表情を見て、呆然としていた。瞳を丸く、けど何か熱いものが奥にはあった。
「詩音は・・・悲しくないの?」
「悲しいよ・・・凄く悲しい。」
「なのに・・・・・・なんで笑ってるの? ねぇ、太陽が死んじゃったんだよ!!」
「うん・・・・・・太陽が死んだ。」
「なんで・・・・・・なんで涙が出ないで、笑顔でいられるの!? 詩音!! おかしいよっ!! おかしいよ・・・・・・そんなの。」
「そうだね・・・・・・わかってる。おかしいとはわかってるよ。けど、涙が出ないんだ。けど、笑顔ではいられる・・・そんなのっておかしいよね・・・」
自分でもわかってるんだ。おかしいってことくらい。けど、何故だか涙が出ないんだ。悲しいって思っているのに、涙が出ずに笑顔になってる。
「もう・・・・・・いい。私、一人で保健室に行くから。詩音は来ないで。」
「でも・・・」
「来ないでって言ってるのっ!!」
廊下に響き渡る怒声に周囲の生徒達は驚き、静かに歩を進める。
紅葉は一人、廊下を進み僕の視界から消えた。そして、もう一度聞こえた。
グシャリ。
耳障りな何かが潰れる、壊れる音がもう一度僕の耳には聞こえた。そして、
『僕は大丈夫』
そう僕は口にしていた。