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密室の二人


 赤レンガの中にある店で休憩を取った後、映画鑑賞をして、今度は遊園地へと足を踏み入れていた。


「三日月さん、何に乗ろうか?」


 赤レンガに行く時、あの話をして以来彼女の表情は普段の明るい笑みは影を見せている。

 余計なことでも言っちゃったかな・・・。もしかして、僕に気があったのに拒んだから落ち込んだ? でも、彼女に好かれるようなことは何一つしてないから、大丈夫なはずなんだけど。


「水無月くんが乗りたいものはないの?」

「僕は三日月さんが乗りたいのに乗るよ。だから、選んでいいよ?」

「わかった。なら、あれに乗りたいな。」


 彼女が指差す先にあるのは観覧車だった。

 ゆっくりと時間をかけながら、横浜を一望するだけの高さを持つ観覧車へと視線も向けていた。


「じゃぁ、乗ろうか。」


 今度は僕が彼女の手を引きながら、観覧車へと移動した。

 彼女の歩く速度は遅くなっていた。足取りも遅く、元気だった午前中とは本当に別物だった。

 係りの人に誘導され、ゴンドラに向かい合うように僕たちは乗った。

 ゆっくりと変わる景色を見渡した。ただ、その時。


「すごく綺麗だ。」

「えっ?」

「ほら、外を見てみなよ。こんなに綺麗なんだ。」


 景色を見ているだけだけど、自然と頬が緩んだ。気が緩むように、昔のような笑みを浮かべていたかもしれない。そんな笑顔を彼女に僕は向けていた。


「・・・水無月くんは素敵だね。」

「また、急にどうしたの?」

「苦しいのに、そうやって笑顔を作ってくれる。人に優しくしてくれる。私、水無月くんは凄く素敵だと思う。私にはできない・・・苦しいのに笑顔なんて。」


 暗い表情は僕から外の景色に向けられた。外の明かりが強くて、彼女の表情がよく見えた。

 なんで、涙を浮かべてるの・・・。

 彼女の瞳には涙が溜まっていた。


「私って馬鹿だなって自分でもわかってた。でも、今日のデートでもっと馬鹿だったなって、人に甘やかされてたんだなって、水無月くんに教えて貰った。」

「僕はそんなこと・・・。」

「ううん、水無月くんの態度と言葉でよくわかったの。周りと水無月くんの対応は違うから。だから、よくわかったの。私は甘やかされて、周りの人から愛されてたんだと思う。だから、こんな馬鹿なキャラでクラスメイトとうまくやってこれたんだよ。」


 彼女は涙を流さなかった。ただ、瞳に潤ませながら、我慢するように、景色を眺めていた。


「水無月くんは親友だった太陽くんが死んじゃって、苦しいと思う。けど、それ以上に何かあったりしたんだよね? だって、前に黒板の前で太陽くんに『変わるのが急すぎるだろ。』って言われてたもんね。」

「・・・・・・・・・」

「水無月くんは・・・何に苦しんでるの?」


 彼女が笑顔で僕の方を向いた。

 涙が目尻から流れそうに浮かび、満面の笑みを僕に向けてくれていた。

 太陽の言葉と彼女の優しい笑顔が僕には眩しく感じた。


「私はね、正直に言うと水無月くんのことが・・・好き。学校でも家でも真面目に勉強とかして、周りの人からも信頼されて・・・それにみんなに凄く優しい。」

「僕は普通のことをしてるだけだよ。」

「ううん、普通のことじゃないよ。」


 前に座っている彼女は僕の横に座って、


「今日も水無月くんは優しかった。デートに誘った理由を聞いた後にフォローしてくれたり、楽しませようとしてくれたり。そんな水無月くんのことが私は好きになりました。」


 ただ、笑みを浮かべている彼女の表情は徐々に崩れていった。目尻に溜まっていた涙は頬を伝い、彼女の足へと落ち、顔は悔しそうに食い縛っていた。


「本当に苦しい人にまでフォローさせて、無理に笑わせたりとかもさせて、私は本当に馬鹿だ。水無月くんが何に苦しんでるのか・・・凄く知りたい。少しでも楽にしてあげたいよ、優しい君を助けたいよ。」


 彼女の言葉と表情を見ていると、何も言えなかった。

 本気で伝えてくれている彼女の言葉を区切ることができなくなっていた。

 こんな僕のことを好きでいてくれている人がいるんだ。

 その事実に僕は嬉しかった。

 好きって言ってもらえる事がこんなに嬉しいなんて。好きって言われたのは、眠っている時に父さんが言ってくれた以来かもしれない。

 胸に入ってくる暖かさが懐かしく思えた。

 ただ、


「ごめんね、話せない・・・・・・ううん、話したくない。」


 僕は彼女から視線を逸らした。話したくないっていう気持ちが強いことと、信じきれない自分がいるんだ。

 だって、僕は好きだった人に捨てられたんだから。


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