三日月 椿の気持ちと気づき
露骨に話題を変えたなぁ〜。
私の目の前にいる水無月くんの表情は焦りを見せていた。
聞かれたくないことでもあるのか、それとも・・・思い出したくないことでもあるのか。
そんな彼の行動を問い詰めるだけ、水無月くんとの関係が崩れることくらいわかる私は笑みを浮かべながら、
「そういえば、この近くに赤レンガあるから行ってみようよ。さっきの雑誌のお店も中にあるみたいだよ。」
「そうなんだ・・・・なら、この参考書を買ってからでもいい?」
「いいよ!!」
額には冷や汗を浮かばせる水無月くんの手を引いて、会計を終わらせれば赤レンガへと向かう。その道中では、周囲の視線が私たちに向けられてるけど、気にしない。
今日の目的は、水無月くんが抱えている物を引き出すこと。これだけなんだから。多少は意識しているけど、それは二の次。
目の前で苦しんでいる彼を私はどうにかして楽にさせたい。
この気持ちが先行して毎朝、水無月くんと一緒に雑務を熟しているんだから。
信頼して貰えるように一緒の時間を過ごし、他愛のない会話をして、水無月くんの懐に入れるようにした。ただ、結果はそこまで現れなかった。
学校で話をしても返ってくる言葉は、「そうなんだね。」「へぇ〜」といった生返事だけだった。唯一、神在月さんと卯月さんの話題の時だけは関心を示していたくらいだった。
「そういえば、三日月さん。」
「どうしたの? 水無月くん。」
「こんなことを聞くのも無粋かもしれないんだけど・・・」
「なになに? 何でも聞いていいよっ」
「なんで僕と出かけようと思ったの?」
その一言に私の足は止まった。
急ぎ足で赤レンガへと向かっていた歩を止め、後ろへ振り返った。
そこに浮かべられた表情に見覚えがあった。
太陽くんが死んだ日と同じ表情だ。
浮かべられている笑み。
今日のデート中に浮かべていた笑みや苦笑いとは違った笑みが、そこにはあった。
「なんで・・・そんなこと聞くの?」
今度は私が冷や汗を掻き始めた。
彼の笑みを向けられていると心臓の鼓動が早くなる。
「いや、クラスの人気者の三日月さんにこうやって買い物とかに誘われるからには、何かしら理由があるんじゃないかなって思っただけなんだけど・・・」
首を傾げ、笑みを浮かべている彼の瞳が私を見つめた時に気がついた。
疑ってるんだ。
笑みを浮かべてても、嬉しいとか楽しいとかそういった笑みを水無月くんは浮かべてない。
私は実際、水無月くんに多少の好意はある。
真面目にしている彼の様子、クラスメイトたちの信頼も、先生たちからの信頼を受けてる彼は魅力的だと思う。それに、誰に対しても隔てなく接する所に私は好印象を持ってる。
「そ、それは・・・水無月くんが・・・」
「まぁ、僕なんかに好意を持っているなんて思ってないから安心して。デートの予行練習みたいなものでしょ?」
口ごもった私に対して、依然と変わらぬ笑みを浮かべている彼とその言葉。
ただ、声音だけは変わっていて、寂しさを感じさせる声だった。
「そ、そんなんじゃっ!!」
「大丈夫だよ。僕は大丈夫、期待なんかしてないよ? だから、安心して今日は練習をしようね。」
あぁ、間違えちゃったんだな。私・・・バカだ。
気が早すぎた。
これまでの私はバカで笑顔が取り柄だったから、周りの人たちが集まってきてくれて、信頼してもらっていたっていうことに今更になって気がついた。
目の前にいる彼に、そんな小細工は通用しないんだ。
自分の本当のバカさ加減がようやくわかった。本当の大馬鹿者だ。
笑顔だけ振りまいていれば信頼して貰えるなんて、烏滸がましいことだったのに・・・私は周りの人に甘やかされて、優しくされて、愛されていたんだ。
「・・・・・・ごめん。」
「いやいや、謝ることなんかないから大丈夫!! こうやって練習できてることは後々、必ず役に立つ時が来るからさ。それに、クラスの人気者の三日月さんと一緒にデート? でいいのかな? できるなんて幸せ者だよ。」
「ごめんね。」
「大丈夫だから、ね? 僕は大丈夫なんだ。折角なんだし楽しもう?」
彼が向けてくれる笑顔を見るたびに胸がチクリと痛む。
本当に優しすぎる、目の前の水無月くん。
無理をしているであろう彼に、私は無邪気に無理を強いてしまっていたんだ。
そんな私にそっと手を差し伸べてくれる彼の手は暖かい。とても暖かいのだ。
「いこっか!!」
笑顔を浮かべる彼に手を引かれながら、私は赤レンガへと歩みを進める。
苦しんでいるはずの彼から、周りに甘やかされ、愛されていたことを、私に教えてくれた。
自分を苦しめた私を庇ってくれる優しい水無月くん。
そんな彼に対して私はこの時、本当の意味で惹かれた。
この心優しく前向きな言葉を掛けてくれる彼。そして、苦しんでいる彼に私は惚れたよ。




