尾行
「へぇ〜、卯月 桜って名前なのか。俺は三日月 倫導、椿の兄妹だからよろしくっ!」
私の横にいる茶髪の男性、三日月倫導さん。
片耳にピアス、首にはネックレス、爽やかさを感じさせる青のTシャツと体にフィットする黒のジーンズとスタイルの良さが出ています。顔つきも小顔で三日月さんと同じで整っていて、さっきの三日月さん同様に周囲の人から視線を集めていました。
「み、三日月さんのお兄さんだったんですか・・・お、驚いちゃいました。」
「驚いたのは俺の方だよ。卯月くん、俺から逃げるときの速さといったら・・・思わず本気で追いかけたからね。陸上でもやってたの?」
「い、いえ。な、何もしてませんでした。」
「いっその事、陸上部にでも入部したらどう? 僕が推薦してあげようか?」
「い、嫌ですっ!!」
「即答かっ、元気でいいなっ。おっと、二人がまた動き始めた。」
「ほ、本当です。」
私たちの視線の先には雑貨店に入っていた水無月くんたちが店から出て、隣にある本屋へと入っていく様子が見えていました。
「ほらっ、俺たちもついていくよ。」
「はっ、はい。」
こんな感じで倫導さんが私を引っ張っていくように尾行を続けていました。
「なんか探偵ごっこしてるみたいで面白いなっ、そう思うだろ? 卯月くん。」
「そ・・・そうですか? わ、私は二人に・・・す、少し申し訳ない気持ちがあります・・・」
「いいんだよ、今の所楽しければ万事OK。おっ、二人で雑誌を読みあってるな・・・何を見てるんだ? ちょっと近寄ってみようか。」
「り、倫導さんっ!? 近づきすぎるのはまずいですよっ!!」
「いいの、いいの。少しだけだからっ。」
無邪気な笑みを浮かべる倫導さんの様子はクラスでの三日月さんそっくりで、本当に兄妹なんだと感じました。それも、本当に子供のように尾行を楽しんでいて、兄妹揃って羨ましい・・・なんて思いました。
私は手を引かれるように連れて行かれて、水無月くんにバレないよう持ってきていた帽子を深く被りました。
「水無月くん、ここら辺で有名なお店だって!! 後でちょっと行ってみようよ。」
「三日月さんが行きたいなら付いていくよ。」
「ありがとうっ!! 三日月くん。」
満面の笑みを水無月くんに浮かべている三日月さんに、私の横にいる倫導さんは、
「・・・なんだ、こいつ。もっと自分が行きたい所を椿に言えよ。椿は男らしい奴が好きなんだから、もっと引っ張ってやらないとダメだ。それに、椿は今日の為に服装なんかも凄い悩んでたんだぞ。それでも、◯◯タマ付いてんのか?」
と、ご立腹の様子です。
感情が表情に出ていて、本当に子供らしい人なんだと思いました。そして、妹思いの優しい人なんだとすぐにわかりました。
「あっ、三日月さん。少し参考書を見ていってもいいかな?」
「参考書見るなんて、水無月くんは本当に真面目なんだね。」
「いや、そんなに僕は真面目じゃないからね? ただ、勉強をしなきゃなって思ってさ。」
「そういう所がすごく真面目なんだよ、水無月くんは。そういう所、格好いいと思うよ。」
上目遣いで水無月くんを見つめる彼女の姿はまるで、水無月くんの彼女のように見えた。周りから見てる人たちからは、「あのカップル、仲がいいね。」なんて声も聞こえてくるくらいです。
私もバレないよう近くから見ていても、素敵なカップルだなって思います。
「う、羨ましいです。三日月さん・・・」
そんな悲観的な私とは対照的に、
「椿には似合わねぇ奴だなっ」
横にいる倫導さんだけは怒気を孕んだ声を出していましたが・・・。
「ねぇ、水無月くん。」
「どうかしたの? 三日月さん。」
「水無月くんはどうして、そんなに勉強したり、学校で真面目でいるの?」
「きゅ、急な質問だね。どうしてそんな質問したの?」
「いやね? いつも真面目で疲れたりしないのかなって思っただけ。」
依然として笑みを浮かべている彼女の表情。ただ、その質問を受けた水無月くんの表情は対照的で意表を突かれたらみたいに動きが止まっていました。
「・・・疲れたりはしないよ。」
「疲れたり、は? 他に何かあるんだよね?」
水無月くんとの距離は徐々に縮まり、彼女の体は水無月くんと触れるくらいでした。
「あっ、この参考書探してた奴だ。三日月さんと出掛けられて良かった。欲しかった本が見つかったよ。」
質問から逃げるように、視線も三日月さんから本へと移していた彼の表情を私は注視しました。あまりにも露骨に視線を本へと移した水無月くんの表情には焦りのようなものが感じられたからです。
「あいつ、なんかあったのか? バカみたいに「何か抱えています」って顔に書いてあるぞ?」
「み、水無月くんは今・・・大変な状況にいるんです。た、多分ですけど・・・三日月さんは水無月くんの問題を・・・か、解決したいって思っているんだと思います。」
「ふぅ〜ん、問題なぁ。」
睨みつけるように水無月くんを見つめる倫導さんはそこから先、尾行を続けましたが何も口にすることはありませんでした。睨みつける視線と真剣に水無月くんを観察する瞳だけが、そこにはありました。




