デート
あの朝の一件から早くも数日が経ち、土曜日がきた。
『今度の土曜日、桜木町の改札前に十時に待ってるね。』
あの朝、子供らしさを感じさせる笑みを浮かべ、そう言い放った三日月さん。その日以来、毎朝僕と一緒に雑用をするようになって、より仲が深まった気がする。
雑用をしている時に話す会話はテレビの話だったり、近づいている期末テストの話だったり。その時の彼女の表情はあの朝とは違う、普段クラスメイトに向けている笑顔だった。
それと一緒に卯月さんともより仲良くなった気がする。
『み、水無月くん。いっ、一緒にご飯食べませんか?』
彼女から誘ってもらうようになって、昼休みになれば屋上で一緒に食事を摂るようになった。あまり話すことはないけど、僕が何に悩んでいるのかを時折聞くことがあるくらいだ。ただ、結局のところ僕が答えることが出来ずにいる現状だったりする。
簡単には言えないよ。
それが僕の心の声だった。
あと、彼女から相談をされることもあった。
『ど、どうしたら・・・じ、自分に自信が持てますか?』
凄く難しい質問でその場では答えられなかった。けど、そういった質問をしてくれるようになったのは、仲が良くなった証拠なんだと思う。
そんな出来事を思い浮かべながら、僕は桜木町の改札前にいた。
休日ということもあって、学生や子供連れの家族が行き交う中で三日月さんを待っていると急に視界が暗くなった。
「さて、問題です。私は誰でしょう〜」
「三日月さんだよね。」
「えへへ、せいか〜い。」
後ろから視界を塞ぐように手を伸ばしていた彼女へと体を向ける。
そこには白を基調としたワンピース姿の女性がいた。赤色のショルダーバックに学校では掛けていない大きめのメガネ、ワンピースの裾には花柄が散りばめられている。そして、さらさらとした肩まである痛みが一切ない茶髪が風に靡き、煌びやかに輝かせている三日月さんがいた。
「ちょっと待たせちゃったかな?」
両手を腰に、下から覗きこみながら話しかけてくる彼女の印象に目を惹かれた。また、僕と同じように周囲の人たちも彼女の姿に目を惹かれていた。通りがかる女性、男性が視線を通りすがりに視線を向けるからだ。
「いや、待ってないから大丈夫だよ。それにしても驚いたよ。今日の三日月さん、普段とは違って大人びてるから。」
「いやはや、そう言われると照れるなぁ〜。水無月くんとお出かけだから張り切っちゃった。」
頬を赤らめながら照れている彼女に一瞬、心臓が早く鼓動した。
「こうやって立ってると邪魔になっちゃうし、あるこっか。」
「そうだね。」
僕と三日月さんは改札を出て、ワールドポーターズのある方へと歩いて行った。
「み、見つけましたよ・・・お二人とも。」
ど、どうもみなさん。お、おはようございます、卯月です。
あの朝の一件の時、土曜日に三日月さんが彼をデートにお誘いするのを聞いていたので、気になってしまい、こうして尾行することを決めました。
ほ、本当はお昼ご飯の時に「一緒に行ってもいいですか?」と聞きたかったのですが、そんな勇気が無くて、現状に至っています。
「そ、それにしても・・・三日月さん。き、綺麗です。」
彼女の姿に見惚れてしまいました。
学校でも彼女はクラスの人たちから人気があります。けど、今の彼女をクラスの人たちが見たらもっと人気が出ると思うくらい、彼女は綺麗です。
「水無月さんと三日月さん、どこに行くんでしょう・・・」
「どこに行くんだろうな。椿のやつ・・・」
「へっ?」
「ん?」
柱の陰にいた私の後ろ、そこには茶髪の若い男性がいました。
「おっ、お前は椿の友達か。よろしくっ。」
そう声をかけられた時には私は全速力でその場から逃げようとしました。
「逃げ無くて大丈夫だから。」
けど、茶髪の男性に笑顔で私は引き止められてしまいました。