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四人の邂逅


「こ、怖いですっ!!」

「ど、どうかしたの? 卯月さん」


 悲鳴をあげながら教室に駆け込んできた卯月は僕の背中に隠れるように教室の出入り口を見つめていた。

 血相をかいて怯えている彼女の視線の先。そこから影を見せたのは紅葉だった。


「詩音から離れなさい・・・」

 凛とした表情をしている紅葉の視線は非常に冷やかだ。

 嫌悪しているものを見下すように、ゴミを見るような視線を卯月さんに向けていた。


「まぁまぁ、そんな怖い表情で言われたら卯月さんが小さくなっちゃいますよ?」

「今の言葉はあなたにも言ったんですよ・・・三日月 椿さん。わかってますか?」

「私にも言ってたんだね。」


 紅葉の視線は卯月さんから三日月さんに向けられた。ただ、紅葉の視線に三日月さんは笑顔を浮かべ、「怖い、怖い。」と口にしながら身を引いた。

 僕の前にある冷たい表情、冷たい視線。

 これまでクラスメイトに冷めた対応は今まで以上に冷たいものだと感じた。


「紅葉? なんでそんなに怒ってるの?」

「わかんない?・・・詩音は本当にわかんないの?」


 冷やかな視線は和らいで僕に向けられた。彼女達に向けられていた視線とは対照的な彼女本来の優しさの含まれた視線がそこにはあった。

 僕だけに向けられる優しい視線。

 なんで・・・ぼくだけに優しいの?

 そんな疑問が浮かんできた。

 これまで十年以上、学校や私生活を共にしてきた彼女に対して初めて、疑問を感じた瞬間だった。

 昔からクラスメイトと上手く付き合うことができなかった。けど、僕とだけは上手く付き合うことができた。幼稚園・小学校・中学校・そして、高校。僕の生活に必ずいた彼女は幼馴染だから、上手く付き合うことができていたと思ってた。

 ただ、この時の僕はその先について考えることが、想像することができなかった。紅葉をそういった相手、幼馴染以外の視点で見たことがなかったから。だから、この時の僕は、


「ごめん・・・。」


 紅葉に対して謝ることしかできなかった。

 僕の言葉に紅葉は俯いてしまった。そして、彼女の体は小刻みに震える。肩は力み、呼吸は荒く。

 彼女は自分の席に座り、突っ伏した。そして、


「鈍感・・・」


 一言、小さな声で口にすると寝息を立て始めた。


「も、もう終わりましたか? だ、だ、大丈夫なんですか? こ、怖くないです?」

「なんか、終わったみたい。紅葉は気分屋だから、気にしなくて大丈夫。」

「き、気分屋なんですか・・・。さっきは・・・こ、怖かったです。泣いちゃいそうでした。」


 瞳を潤ませている卯月さんは僕のTシャツを摘みながら、紅葉の様子を伺っている。


「っぷ、はは。やっぱり卯月さんって面白いね。」

「お、面白くなんかないですよっ!! さっきは、こ、殺されると思いましたっ!!」


 小声ながら僕の背中を弱い力で叩いてくる彼女の姿が面白かった。


「卯月さんって小動物みたいで可愛いね。それと、そこが面白いんだよ。」


 驚いたこと、怖いことが起こると素早く動いて隠れる様子。普段は隠れているけど、焦った時に見える表情と仕草。それぞれが彼女を面白く、可愛く見せると思う。

 自然と笑顔が浮かび上がった僕に、


「わ、笑わないでください〜」


 と、更に早く叩く卯月さん。このやり取りが面白かった。


「へぇ〜、水無月くんってそんな笑顔出来るんだね。そっちの方が格好いいと思うなぁ。」

「いつもと変わらないよ。それに僕は格好良くないよ。冗談がうまいね、三日月さん。」

「えへっ、冗談だといいね。」

「み、水無月くんは・・・格好いいです。」


 僕の後ろにいる卯月さんは俯きながら、小さく言葉にしたけど聞き取れない。

 そして、僕の前には胸の前で腕を組んだ三日月さんが笑顔を浮かべながら近づいてくる。


「水無月くん〜、謙遜は美徳って聞いたことあるけど、こういう時は素直に受け取っておく方がいいと思うなぁ〜」


 顎に指先を添え、僕の前にいる彼女は下から覗き込むように立っている。

 笑顔を絶やさない彼女だけど、声音だけは真剣みを増して低くなっていた。


「ねぇ、水無月くん。頭が悪い子ってどう思う?」

「どうって、気にしないよ。世の中、頭が良い悪いで決まらないんだから。」


 そう質問した三日月さんへ答えを返すと次の言葉に僕は驚いた。


「なら、今度私とちょっと付き合って欲しいな。」


 そう口にした彼女が浮かべていた笑みはどこか、無邪気さや幼さを感じさせるものに感じた。

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