神在月 紅葉の変化
「だから、なんで詩音は女子に抱きつかれてるのよっ!!」
私は学校にいるにも関わらず、廊下で本音を口にしていた。
思ったように上手くいかないっ!!
入学してから、ずっとそう!!
心の中で怒りながら叫んだ。
詩音が変わってから、何にも上手くいかない。
普段から詩音と二人きりになるために登校時間を合わせて来ているのに、今日に限ってクラスの中心人物の三日月さんがいた。それも彼女は今、詩音に後ろから抱きついている状況。
入り口から覗き込む私の目には、詩音の背中で潰れる彼女の胸に視線が向く始末。
・・・私にはあんなに胸はないし。
長身細身といったモデル体型とも言える私ではあるけど、欠点としてあげるなら胸がない。だから、正直彼女が羨ましいと思っていたことが何度もある。
ただ、これまで彼女のことは気にしてこなかった。だって、詩音に対してクラスメイトと同じように接していたから。好意があるなんて思ってもみなかったから。
昨日の一件といい、目の前の状況といい、私にとって不都合なことが多い気がする。
それも、太陽がいなくなってからだ。
「なんで・・・太陽がいなくなってから、みんな詩音のところに行くの・・・太陽が邪魔みたいじゃない。」
太陽と二人で詩音の事を考えていた時間、それが無駄みたいに思える。
今の周りの状況に不信感すら感じてくる。
あの時間が無駄だと思いたくない。
目の前で起こってる出来事で詩音の反応はこれまでとは全く違うんだもの。そう考えるのも仕方がないじゃない。
廊下の壁に寄りかかりながら、窓の外に見える雲ひとつない空。
まるで希望が満ち溢れているかのような空に、私の心は押し潰されそうだ。もしかしたら、私の気持ちは踏み滲まれているのかもしれない。
太陽と努力したけど、結果は残らなかった。
目の前にいるポっと出の三日月さんと卯月さんは詩音に変化を出してる。
寄りかかっている壁にしゃがみ込みながら、
「太陽・・・私たち、信頼されてないわね。」
私を押し潰そうとする空を見上げ、吐き捨てた。
「あ、あの・・・神在月さん。だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわよ・・・ん?」
「ど、どうかしました?」
呆然と空を見つめていた私の横に卯月 桜さんがしゃがみこんでいたことに気がつかなかった。
華奢な体を震わせ、小さな声で話しかけてくる彼女の表情は前髪で見えない。ただ、緊張しているのだけはわかった。
「卯月さん。」
「はっ、はい・・・。」
「私はあなた達を信用なんかしないわ。太陽と私が詩音の一番なのよ。わかったっ!?」
「っひっ!!」
私が睨みつけながら言い放つと彼女は尻餅をついて、教室へと逃げるように入って行った。
絶対に渡さない。
あんたたちに詩音は絶対に渡さない。
私は周りを絶対に信じない。
昔の詩音を取り戻してやる。
詩音たち三人がいる教室に私は力強く踏み入れた。