表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/25

苦しい問題を彼は直視する

「ごめん、こんなつもりはなかったんだけど・・・。」

「い・・・いえ。わ、私も自分でびっくりしてますから・・・。」


 屋上にいる僕たち二人はフェンスに背を凭れながら座っていた。


「「・・・・・・・・・・・・」」


 何を話せばいいのか判らず、陽は徐々に暮れ始めていた。

 あれから早くも十分が経っており、二人して話をすることができない状況になっていた。


「あ、あの・・・」

「な、何?」

「さっきは、その・・・・ご、ごめんなさい。」

「そんなっ、卯月さんが謝ることなんか何もないんだよ? 僕のことを心配してくれてたんでしょ?」

「そ・・・そうです。すみません。」


 俯きながら、横目で僕のことを見つめる彼女の瞳には未だ涙が溜まっている。


「もう泣かなくて大丈夫だから。僕はもう大丈夫。」

「そんなことないですっ・・・。目、目は・・・変わってないです。」

「そ、そうなのかな?」

「そうですよ・・・。」

「ごめん・・・。」


 俯いていた彼女は顔を上げ、僕の顔を真剣に見つめていた。彼女の瞳に映っている自分、その瞳に輝きはないような気がする。けど、この目になってから三ヶ月。僕の中では普通という認識になりつつあった。

 まじまじと瞳を見つめる彼女の顔に僕は少し、心臓の鼓動が早くなる。

 普段は俯いていたり、前髪が顔を隠している彼女だけど、僕の前にいる彼女は素顔が見える。顔を隠しているのが勿体ないと思えるだけの整った顔立ち。そして、眼鏡越しの瞳に僕は吸い込まれる気がした。


「卯月さん・・・か、顔が近い。」

「えっ・・・? うわぁぁあっ!! すみません、すみませんっ!!」


 急いで距離を取った彼女は頭を何度も下げながら謝っている。


「っぷ・・・はは、はははははは、面白いねっ!」


 そんな彼女の反応が一つ一つ面白くて、僕は久々に涙を流しながら笑ったと思う。

 これまであまり話をしてこなかった彼女と話して、新しい彼女の一面を知って、僕は面白かった。

 そんな僕に彼女は意表を突かれた表情をしてる。彼女の表情をみているとどうしても笑いが止まらない。


「なっ、なんで笑うんですか!! こ、こっちは真剣なんですよっ!!」

「わかってる、わかってるんだけど・・・どうしても笑っちゃうんだ。」

「も、もう・・・知らないです。」


 俯く彼女の仕草一つ一つが可愛らしく、僕を楽しませてくれる。久しぶりに生きているって心地がするんだ。

「ごめんね、笑いすぎちゃったよ。」

「ほ、本当です・・・もう。そ、それでなんですけど・・・み、水無月くんは何に・・・苦しんでるんですか? わ、私は・・・それが知りたいです。」


 長い前髪から見える彼女の瞳は一直線に僕を見つめていた。彼女の真剣な眼差しが虚ろな僕に向けられていた。


「僕は・・・何に苦しんでるんだろう。僕自身もわかってないんだ。」

「わ、わかってないって・・・榛野目さんのことで苦しんでるんじゃないんですか?」

「太陽のことも苦しいよ、それは間違いない。けど、僕は・・・。」


 この先の言葉を僕は口にしたくない。

 本当は僕が何に苦しんでいるのか、そんなのは三ヶ月前からわかってるんだ。ただ、それを僕は認めたくなくて、問題として見ないようとしていたんだ。


「ぼ、僕は・・・。」


 直面する問題に僕の瞳からは涙が溢れそうになる。そして、言葉を口にしようとすると嗚咽がする。彼女に伝えようとすると、自然と顔は床へと俯いていた。

 ただ、彼女はそんな僕の手に優しく手を乗せてくれた。


「・・・・・・い、いいんです。む、無理に言わなくて大丈夫です。ゆ、ゆっくりで大丈夫ですから。」

「ごめん・・・ごめん。」

「い、いいんですよ。大丈夫ですから・・・頑張ってるのをちゃんと私が見てますから。」


 その一言に僕はもう一度、涙が溢れた。今度の涙は滝のように溢れてくる、子供が泣くように溢れてきたんだ。

 僕は心の中で大きく叫んだ。


 父さんに会いたいっ!! 父さんに会いたくてしょうがないんだっ!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ