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神在月 紅葉の回想と後悔

「詩音の馬鹿、なんでクラスメイトと抱き合ってるの・・・」


 移動教室の時の会話を聞いてたから気になって尾行してみたけど、なんでこんな急展開になってんのよっ! 詩音には私がいるっていうのにっ!

 心の中で叫んでいる紅葉は苦虫を噛んだような表情を浮かべた。


「太陽が死んじゃったっていうのに・・・詩音にとって、太陽ってそんな軽い親友だったっていうの・・・?」


 屋上の扉を小さく開けながら覗き込んでいると詩音の瞳から涙が流れてるのが見えた。そして、詩音が抱きしめている彼女は彼の胸へと頭を埋めながら、何かを口にしてる。

 そんな光景に私の心臓は力強く握られたみたいに痛い。

 本当だったら、私が詩音を抱きしめていたい。本当だったら・・・私があそこにいるはずなのに・・・。

 幼稚園から今まで一緒に学校で遊んできて、家族と一緒に旅行にもよく行った。常に一緒にいたから、私は詩音の全部を知ってる、そう思ってた。けど、そう思っていたのも入学式までだった。


 入学式当日、太陽と一緒に待ち合わせ場所で詩音を待ってた。けど、私たちと合流した時の詩音の表情がおかしいのに私たちは気付いていた。


「何かあったなら相談しろ」

「私にも相談するように」


 太陽と二人して同じことを言ったのをよく覚えてる。


「僕は大丈夫だよ。二人とも」


 そう口にした詩音の表情は印象的だった。

 虚ろな目、無理している作り笑い、抑揚のない声。

 その一瞬で私たちは詩音に大きな出来事があったことに気づいた。無理に聞こうとすれば、


「大丈夫だから、心配することじゃないよ。」


 この一言で返事を終わらせ、私たちから離れていく。その背中はまるで、「無理に聞かないで欲しい」と言っているように見えたから。

 私たち二人はあれ以来、詩音について話し合いもした。


「なんで俺たちに相談してくれないんだよ、あいつは・・・親友じゃねぇのかよ。」

「私たちって信頼されてないのかしら・・・。」

「入学して以来、あいつ・・・人が変わっちまったみたいだ。中学だったら、黒板なんか消したり、教師の手伝いなんかしたことねぇのに、今じゃ優等生みたいにやりやがって。」

「それに、あの作り笑い。周りの人は作り笑いって知らないから、普通だと思ってるわ。けど、私たちは昔の詩音を知っているから・・・あの笑顔を見ていて辛いのよ・・・。」

「「・・・・・・・・・・・・・」」


 詩音が変わってから早くも三ヶ月。

 私たちは詩音をどうにかしたいと考えていた。それと同時に、私たちに相談してくれない彼にストレスを感じ始めた。


「まったく変化なしだ。逆にあいつに対してイライラしてきてるぞ、おい。」

「それはまったく同感よ。私もストレスが溜まって、詩音に当たる時が増えてきてるわ・・・。」

「今日の俺なんか、あいつの胸ぐらを掴んじまった。どうにかしたいけど・・・どうにかするにも、あいつが話をしてくれないと無理なんだわ、マジで。」

「太陽、確かにあれはやりすぎてたかもしれないわね。周りの人も驚いていたわよ。」

「悪りぃ・・・。」

「明日もどうにかして、頑張っていくわよ。私は前の詩音の方がいいわ。じゃないと困るわ。」

「そうだよな、紅葉は詩音が好きだもんな。」


 金髪の目尻がつり上がっている彼は楽しそうな笑みを浮かべ、私を見つめていた。


「やっ、そうなんじゃないからっ!! 私は詩音なんか、まっ、まったく好きじゃないんだからっ!!」

「おーおー、猫かぶり姫は素直じゃねぇなぁー。けど、お前と詩音はお似合いだからよ。どうにかくっつけてやるさ。」

「まったく、私を弄っていいのは詩音だけなのよ? わかってる?」

「へーへー、わかってますよ。」


 詩音を中心に繋がっていた信頼、この信頼という絆は翌日に切れた。


 屋上にいる二人の様子を見ていて、苛立ちと共に彼女、卯月 桜に私は凄いと感じてた。


「詩音の顔・・・昔みたいに優しい。」


 詩音の気持ちを安らげることは私にはできなかった。けど、彼女には出来た。

 昔から一緒にいるのに、クラスでも地味な彼女が私より詩音を変えることが出来ている。そんな光景が目の前にあって、私の瞳からも涙が溢れてきた。

 何もできない、詩音から信頼もされなくなった私って・・・惨めだ。

 私は溢れてくる涙を拭いながら、二人を覗くのをやめた。

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