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卯月 桜の回想と決意

 あれは入学式が終わった後のことだったと思います。


「あ・・・あれ。プ、プリントが無くなってる・・・」


 教室に戻ったら、机に置いておいた教科書を受け取るための用紙が無くなっていたんです。入学式で一日が終わったその日は、新しいクラスメイトたちはそそくさと下校してしまっていて、教室には私しかいませんでした。


「ど、どうしよう・・・」


 教室中を探しても用紙は見当たらなくて、困り果てた私は自分の席で俯くことしかできませんでした。後で気がついたんですけど、担任の先生に相談すれば解決することだったんです。でも、入学して初日から失くし物をすることに慌ててたので、その時の私は気づかなかったんです。

 そんな暗い気持ちでいた私に声を掛けてくれたのが、水無月くんでした。


「君、どうかしたの?」


 ちょっとしたことでした。ただ、私に声をかけてくれた彼の笑顔が私には輝いて見えたんです。これまで男の子とあまり話をしたことがなかったので、ときめいたのかもしれません。


「あ、あの・・・教科書を受け取るための用紙を・・・無くしちゃって・・・」


 彼の笑顔を見て、私は恥ずかしくなって俯きながら言ったんです。そうしたら、


「もしかして、卯月・・・さんでいいのかな? これって君のじゃない?」

「えっ?」


 彼はおもむろにバックの中から手に取った用紙を私に見せてきた。


「これ、さっき外に落ちてて。クラスも同じだから明日届けようと思ってたんだ。よかったよ、筆箱を忘れたから取りに戻ったら卯月さんがいてくれて。はい。」


 笑顔でいる彼にこの時、私は惚れていたのかもしれないです。

 困っている時に助けてくれる王子様。

 そんなロマンチックな状況が目の前にあって、優しい男の子が私の前にいる。


「それじゃ、僕は帰るね。これからよろしくね、卯月さん。」

「あ、ありが」


 感謝を伝えようとしたけど、彼は用紙を渡すと教室を走って出て行きました。そんな彼の後ろ姿を俯きながらも横目で私は追っていたんです。


「あ、明日・・ちゃんとありがとうって言おう。」


 引っ込み思案で人と話すのが苦手な私ですけど、初めて話をしたいと思える人ができました。

 水無月 詩音くん。

 その時から、私は彼を目で追うようになって、好きになっていたんです。

 ただ、好きになったんですけど、いざ話かけようとすると緊張して、机から立てなくなってしまうのが毎日でした。

 たった一言、「ありがとう。」が言いたい。

 そんな時、出来事が起きたんです。

 榛野目くんの死。

 不良にも見えた彼は水無月くんといつも一緒にいて、水無月くんはそんな彼と一緒にいると楽しそうに微笑んでいました。また、その輪の中に神在月さんがいました。正直、羨ましいと思いました。

 私と同じように彼女はクラスでは浮いてるから。けど、水無月くんと榛野目くんと一緒に話をしている彼女は、他のクラスメイトが話しかけた時とはまったく違う反応で会話をしているから信頼してるんだって思いました。

 自分に自信が持てない私とはまったく違います。

 けど、榛野目くんが死んでしまって、水無月くんも神在月さんの関係は変わってしまったんだと思います。教室にいても話しかけない。それに彼女は水無月くんを睨みつけるようになっているのにも気づきました。

 そんな状況で水無月くんも変わってしまいました。


「お兄ちゃんみたいな目ですよ、水無月くん・・・」


 入学式に見せてくれた笑顔とは何か違う笑顔をクラスメイトに向けている彼が、私は心配で仕方がなかった。


「お兄ちゃんみたいにならないで・・・」


 お兄ちゃんみたいにならないで欲しい。だから、私はちょっとだけ勇気を振り絞ってみました。


『きょ、今日・・・ほ、放課後とか時間・・・ありますか?』


 私が変わって、彼を支えたいと思ったんです。


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