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8.吊り橋効果

 天使のミカさんとのデートはそのあと、ファミレスで一緒に夕食をして終わった。ミカさんも楽しそうだったし、おれも相手は天使とはいえ、生まれて初めての女性とのデートだったので、本当に幸せな気分に浸ることができた。そんなわけで、おれはますます恋人が欲しくなった。

 すると、ブックオフの百円コーナーで買った『恋愛心理学』を読んでいたヘタレ悪魔が、またヘンなことを言いだした。

「吊り橋効果というのを知っておるか?」

「知りません。何ですか、それ」

「男女が吊り橋の上で怖い思いをすると、その興奮を恋と勘違いして、相手を好きになるという理論だ。これを使ってみないか」

「ははは、ばかばかしい」

おれは一笑に付した。

「ところが、カナダの心理学者が実験を行った結果、その効果は実証されたそうだ」

なるほど、心理学者が実証したというのなら、信用できるかもしれない。試してみるのも悪くはないと思った。それにおれはミカさんとデートしてから、恋人が欲しくてたまらなくなっていた。

「わかりました。やってみましょう。お願いします」

「よし、ワガハイにまかせておけ、はっはっは」

心理学の理論は信用してもいいが、このヘタレ悪魔にまかせるとなると、おれはやはり一抹の不安を感じずにはいられなかった。


 その日おれは悪魔に言われるがままに、高層ビルの屋上へ行くためにエレベーターに乗った。たしかに近くに吊り橋などはないのだから、高層ビルが代わりになるのだろう。同じエレベーターの中には、おれの他に若い女が一人、それもかなりの美人が乗っていた。おれの胸は期待に高鳴った。

 するとそのとき、エレベーターが大きく左右に揺れた。地震だ。

「きゃあ!」と女が叫んだ。エレベーターは静止する。おれは女をなだめた。

「だ、大丈夫ですよ。地震だから、すぐ止みますよ」

「は、はい」

女は怯えながら、小声で答えた。すると次の揺れが来た。余震だ。

「きゃあ!」

女はおれに抱きついた。女に抱きつかれるのは生まれて初めてのことだったので、おれは胸がどきどきした。まさに予想もしない展開だ。

「心配しなくても大丈夫ですからね。エレベーターもすぐ動き始めますよ」

おれがそう慰めると、女はおれの胸に顔を埋めたまま、小さくうなずいた。女の手はおれの背中を抱いている。おれも女の背中に手を回した。

 揺れは止まったが、エレベーターも静止したまま、なかなか動き出さなかった。狭い個室の中で、こんな若くてきれいな女と二人きりで抱き合えるなんて。ああ、なんという至福の時間であろうか。おれは喜びに浸りながら、このままエレベーターが永久に止まったままだったらいいのにと願った。


 しかし、そんなおれの願いもむなしく、五分ほどしてエレベーターは動き出した。女はほっとして、身体を離した。まあしかたがない。だが、すごくいい雰囲気になったぞ。エレベーターから降りたら、お茶にでも誘おうかな。今度こそ、うまくいきそうだ。これも吊り橋効果のおかげだな。

 そんなことを考えていると、まもなくエレベーターは屋上に着いた。扉が開くと、女はエレベーターから飛び出した。どうしたのだろうと思ったら、女は近くで待っていた背の高いイケメンの男に抱きついた。

「カナちゃん、大丈夫だったかい? 心配したよ」

「ヨシヒコさん、とっても怖かったわ。あんな狭いエレベーターの中にヘンな男と二人っきりで閉じ込められたんだもの。わたし、乱暴されないように相手の身体をしっかり押さえつけておいたわ」

「そうか、それは災難だったな。でも無事でよかった。さあ、近くでちょっと休もう」

二人は仲良さそうに手に手を取って、立ち去っていった。おれはその後ろ姿を呆然と見送った。


 傷心して重い足取りでアパートに帰ってくると、ヘタレ悪魔はおれの買い置きのカップ麺を食べながら、また『恋愛心理学』を読んでいた。

「おお、どうだった。今回はうまくいったであろう。何といっても吊り橋効果は心理学で実証済みの理論だからな。はっはっは」

まったくのんきなものだ。ああ、こんなやつと組んでいても、おれには永久に恋人などできないだろう。どうせ契約するのなら、もうちょっと優秀な悪魔としたかったよ。おれは深く後悔しながら、またフトンにもぐってふて寝したのだった。


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