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5.悲惨なアルバイトと天国の気分

 失敗に終わったナンパからの帰り道、おれは悪魔に金策の件で相談した。

「実はそろそろお金がなくなってきたんですが、何かいいアルバイトはないですかね」

「なんだ、そんなことか。おやすいご用だ、ワガハイにまかせなさい」

悪魔は気軽に請け合ったが、おれはまたいやな予感がした。

「ほれ、あそこに人が並んでおるだろう。あれに並びなさい。ワガハイは先に帰っておるから」

悪魔はそういうと、一人でさっさと行ってしまった。おれはしかたなく、わけもわからないまま行列に並んだ。

 やがて一台のトラックがやってきた。

「さあ、みんな、乗ってくれ」

車から出てきたコワモテの男がそういうと、並んでいた人たちはトラックの荷台に載った。おれもそれに従った。


 連れて行かれた先は、ビルの建設現場だった。おれは鉄筋運びをやらされた。鉄筋というのはやたらと重い。三十分もしないうちに腕も足も疲れてきて、動きが鈍くなった。するとコワモテの男から容赦のない叱責の声が飛んでくる。

「ほら、モタモタすんな。はやくしろ」

おれは何度も怒鳴られながら、鉄筋を運び続けた。悪魔との契約はまだ履行されていないのに、もう地獄の労苦を味わわされているような気がした。これじゃあ、約束が違うぞ。おれは心の中で、あのヘタレ悪魔を呪った。

 こうして夜までさんざん働かされ、終わったときはくたくたに疲れ果てていた。ほとんど死にそうだった。

 その日の日当二万円の入った封筒をポケットに入れ、おれはフラフラしながらも、どうにか自分のアパートまでたどり着いた。

「おお、ご苦労であった。どうだったかね、いい稼ぎになったであろう、はっはっは」

悪魔は能天気に笑った。おれは殺意を抱いたが、悪魔だから殺すこともできない。しかたなく無言のまま、フトンに倒れ込んで、そのまま寝てしまった。


 朝方、目を覚ますと何やら叱責する女の声と謝っている男の声が聞こえてくる。

「お兄ちゃん、何てことしたのよ。ひどいじゃないの」

「い、いや、ワガハイはよかれと思って……」

「なにがよかれと思ってよ。まったくもう。お世話になっている人に迷惑かけて、何とも思わないの!」

「そ、そんなに怒らないでくれ。す、すまん。悪かった。この通り、謝っておるではないか」

どうやら叱っているのがミカさんで、謝っているのがヘタレ悪魔らしい。おれはのそのそと身体を起こした。

「あら、もう起き上がって大丈夫ですか。昨日は兄がとんでもないアルバイトを斡旋してしまい、本当に申し訳ありませんでした」

ミカさんにそう言われると、おれは怒る気にはなれなかった。

「いや、大丈夫ですよ。まだちょっと身体のあちこちに筋肉痛が残ってますが」

「まあ、大変。そこにうつぶせになってくださいな」

言われたとおりにすると、ミカさんはおれの身体をマッサージし始めた。

 ああ、これはすごい。全身に快感が走る。まるで身体がとろけていくようだ。天国にいるというのは、こういう気分をいうのだろう。身体から痛みがすっかり消え、全身に力がみなぎってきた。

「いかがでしたか?」

「ええ、ものすごく気持ちよかったです」

こんな天国のようなマッサージを受けられるのなら、昨日のようなひどいアルバイトでも、またやってもいいなとすら思った。

「お兄ちゃんも自分の食費分ぐらいは自分で働いて稼ぎなさい!」

ミカさんが叱ると、ヘタレ悪魔はすっかりしょげかえっていた。


 朝食の後片付けを終えて、天使の姿のミカさんが部屋を出ようとしたとき、おれはちょっと気になって声をかけた。

「あ、あのう、もしかしてその格好のまま外に出るんですか?」

「あら、ご心配は無用ですわ。ちゃんと普通の人間の格好に変身します」

ミカさんはそう言うと、手に持った小さい杖を振った。するとミカさんは変身した。だが、それは虎柄のビキニの水着姿だった。どこかで見たことのあるような姿だと思ったら、これはなんと、あの「うる星やつら」のラムちゃんの格好ではないか。おれは唖然とした。

「ま、まさか、その格好で買い物とかにも行ったんですか……」

「ええ、テレビでこんな服装の女の子を見たことがございますので。いけませんでしたかしら?」

「そ、それはやっぱり、ちょっとまずいと思います」

おれがそう答えると、ミカさんは小さい杖をもう一度振った。

「これでいかがかしら?」

今度はAKB48の制服姿だ。まあ、さっきのラムちゃんよりはマシだろう。

「え、ええ、まあ、いいんじゃないでしょうか……」

するとミカさんはにっこりと笑って、外へ出て行ったのだった



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