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4.悪魔と街でナンパ

「さあ、それでは出かけるとしようか」

おれが金策を考えていると、悪魔が不意に言った。

「いったいどこへ行くんですか」

「決まっておる。これから街へナンパに行くのだ」

「えっ?」

意味がわからず尋ねると、悪魔はさも当然のように答えた。

「あんたは恋人を作りたいのだろう。だったら街へナンパに行くのはあたりまえではないか。ワガハイが手助けをしてやるから、安心してまかせるがよい、はっはっは」

おれはいやな予感がしたが、悪魔は契約に従って仕事をしようとしているだけだ。任せるしかない。

「では行くぞ。ワガハイについてくるがよい」

悪魔はそう言って部屋から出ようとした。


「ちょっと待ってください。そんな姿のままで街へ出かけるんですか」

おれは慌てて呼び止めた。悪魔は意外そうな顔をした。

「いかんかね?」

「あたりまえでしょ。目立ちすぎますよ」

悪魔はちょっと不服そうだったが、手に持った三つ叉の矛を振った。すると悪魔の姿が変わった。それはまさにあの聖飢魔IIのデーモン木暮の姿だった。顔も白塗りになっている。

「ヘビメタでもやるつもりですか!」

おれは呆れて声を上げた。

「おや、こんな格好をして悪魔と名乗るヤツをワガハイはテレビで見たことがあるのだが。いかんかね?」

「ダメです!」

おれは即座に答えた。悪魔はしぶしぶ、もう一度三つ叉の矛を振った。今度は黒服を着てシルクハットをかぶった手品師のような格好だが、まあだいぶマシになった。しかたない、これでがまんしよう。


 アパートを出て街へ行く間、やはり道行く人々はおれたちの姿を不審そうに見ていた。おれは恥ずかしかったが、悪魔は上機嫌に、はっはっはと笑いながら歩いていった。

 街中の人通りの多いところに着くと、悪魔が言った。

「さあ、どの女にするかね」

「えっ、どの女性でもいいんですか?」

おれは驚いて尋ねた。

「ああ、恋人にしたい女をだれでも選ぶがよい」

それを聞いて、おれはすっかりうれしくなり、さっそく道行く女性たちを物色し始めた。やがて、一人の清楚な感じのお嬢様っぽい女性が目についた。

「あ、あの人がいいです」

「よかろう。ではその人の後ろについて歩いていきなさい」

おれは言われたとおり、その清楚なお嬢様の後ろを歩いた。すると突然、その人のハンカチが地面に落ちた。おれはそのハンカチを拾って、女性に話しかけた。

「ハンカチ落としましたよ」

「あら、すみません。どうもありがとうございます」

女性はハンカチを受け取って礼を言うと、そのまま立ち去った。おれはその姿を呆然と見送った。


「どうだったかね。うまくいったかね」

悪魔はにこにこしながら近づいてきて、おれに尋ねた。

「は、何がですか?」

「デートの約束はできたかね。電話番号ぐらいは聞き出したかね」

「いえ、全然」

すると悪魔はあきれた顔をした。

「まったく情けない男よのう。しかたない、ワガハイが手本を示してやるから、よく見ておくがよい」

悪魔は通りかかった若い女性の後ろを歩き、三つ叉の矛を振ると、女性のハンカチが落ちた。悪魔はそれを拾って女性に話しかける。

「もしもし、美しいお嬢さん、ハンカチを落としましたぞよ」

女性は悪魔の顔を見て、ひっ、と驚きの声を上げた。明らかに怯えている。

「あ、ど、どうも、ありがとうございます」

女性はそう言うと、ハンカチを受け取った。

「お嬢さん、よろしかったらワガハイと茶でも一杯いかがですかな」

「い、いえ、ちょっと急いでおりますので、失礼いたします」

女性は顔を引きつらせている。

「それは残念、それでは電話番号かメアドでも教えてくださらんか」

すると女性は、きゃあ、と叫んで走り去っていった。


 悪魔は気まずそうな顔をして戻ってきた。

「ま、最初からうまくいくはずはない。しばらく練習が必要だのう、はっはっは」

ああ、こんなヘタレ悪魔の力を借りて、本当に彼女ができるのだろうか。おれは暗澹たる気持ちになった。

 そんなおれにとって唯一の希望の光は、明日の朝も食事の準備にきてくれるであろう、あの美しい天使のミカさんだった。まったく、あのミカさんとこのヘタレ悪魔が兄妹だとは、本当に不思議でしかたがない。まあ明日の朝を楽しみにしよう。

 だがそのためにも、おれはそろそろ本気で金策を考えなければならないのだった。

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