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3.悪魔の妹は超美人の天使

 朝、目が覚めると悪魔は一人で勝手にメシを食っていた。

「おお、もう起きたのか。ワガハイが朝食を作ってやったぞ。食うがよい」

座卓の上を見ると、案外まともな朝食が用意してある。こんがり焼いたトーストにコンソメスープにハムエッグ、それにレタスとトマトとキュウリのサラダだ。

 だがちょっと待てよ。おれは警戒した。こいつはなんといっても悪魔だ。毒でも入っているかもしれない。そうでなくても、とんでもないひどい味かも知れない。おれは恐る恐るサラダのトマトを口に入れてみた。

 うまい! ドレッシングが絶妙な味で、トマトと見事に合っている。おれは他のものも食ってみたが、どれもすばらしい味だ。こいつはただのヘタレ悪魔だと思っていたが、おれはちょっと見直した。

「すごいじゃないですか。どれもうまいですよ。こんなに料理が上手だとは思いませんでした」

「ワガハイはこう見えてもグルメでな、はっはっは」

悪魔は機嫌よさそうに笑った。

 だがそこで、ふと疑問が生じた。おれの部屋にはパンと卵はあったが、レタスやトマトなどの野菜はなかったはずだぞ。それにドレッシングに使ったらしいオリーブオイルなどという高級品もなかったはずだ。悪魔はどこから調達してきたのだろう。

 するとそのとき、部屋のドアが開いた。


「お兄ちゃん、コーヒー豆とドリップ一式買ってきたわよ」

そう言いながら中に入ってきたのは、ものすごい美人だった。だが、なぜか全身に白い衣装をまとっている。

「おお、すまんな、ミカ。まったく、この部屋にはインスタント・コーヒーしかないのだから。ワガハイは何といってもコーヒーはレギュラーでないと飲んだ気がしないのでな。はっはっは」

お兄ちゃん? ミカ? すると、このヘンな服装の超美人はヘタレ悪魔の妹なのか? おれは恐る恐る訊いてみた。

「あ、あのう、そちらのものすごく美しい女性は、どなたですか?」

「失礼いたしました。申し遅れましたが、わたくしはこのいたらぬ悪魔の妹でございます。大天使ミカエル様に仕えておりますので、みなさまからはミカと呼んでいただいております」

美女はそう答えたが、おれにはよくわからなかった。

「あのー、すいませんが、大天使ミカエルに仕えておられるということは、あなたは天使なのですか。でもお兄さんはいくら落ちこぼれとはいえ、いちおうは悪魔なんですよね」

「うむ、ワガハイたちもこの世に生きておった頃は兄妹だったのだが、妹は出来のよい子だったので死んでから天国に行き、天使に抜擢された。だがワガハイはどうしようもないダメ人間でな、そう、今のあんたみたいに。だから死んだら地獄へ送られ、悪魔となったのだ」

なにもおれと比べることはないだろう。ということは、おれは別に悪魔と契約しなくても、このままならどうせ地獄に堕ちて悪魔になるってことか。おれはちょっと気分を害した。


「それはそうと、いくら兄妹だからって、どうして天使と悪魔がこんなところで仲良さそうに会ってるんですか?」

おれは気を取り直して、素朴な疑問を尋ねた。

「それはだな、妹がワガハイより先に死んだのだが、そのときワガハイは三日ほど泣き続けた。どうしようもない兄ではあったが、妹だけは大事にしておったのだ。それで神様と閻魔大王様が憐れんで協議なさって、ワガハイたち兄妹を天国と地獄の交流役として、お互いに会うことを許してくださったのだ」

「そうなんです。でも兄はそういう優しいところがちょっとだけあるために、地獄の悪魔としては落ちこぼれの下っ端なのですよ」

 それを聞いて、おれは不覚にも感涙した。このヘタレ悪魔も案外いいヤツなんじゃないか。


「お兄ちゃん、コーヒー淹れるわね」

ミカさんはそういうと、お湯を沸かし始めた。よく見ると、背中にはたしかに天使らしい羽根が生えている。そのとき、おれはふと気がついた。

「もしかして、このすばらしい朝食を作ってくださったのもミカさんですか?」

「ええ、そうですよ。お口に合いましたかしら?」

悪魔の方を見ると、気まずそうに顔を横に向けた。このやろう、さっきはワガハイが朝食を作ってやったなどと言ったくせに、妹に作らせてたんじゃないか。おれはやっと納得がいった。


 天使のミカさんが淹れてくれたコーヒーは驚くほどおいしかった。コーヒーを飲み終えると、ミカさんは後片付けもしてくれた。

「じゃあ、わたくしはそろそろ失礼します。お兄ちゃん、あんまり迷惑かけちゃだめよ。また明日来るわね」

ミカさんはそう言って部屋を出て行った。こんな美人が毎日朝食を作りに来てくれると思うと、おれはうれしくてたまらなくなった。すると悪魔はおそるおそる財布を差し出して言った。

「すまんが、金が残り少なくなったようだ。ちと足しといてくだされ」

よく見ると、おれの財布だった。たしか三万円ほど入れておいたはずだが、あと一万円札一枚しか残っていない。こんな生活を続けていたら、いくら金があっても足りないじゃないか。

 おれは頭を抱えた。そうして、明日から何かバイトを探そうと思ったのだった。


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