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14.魔女の薬草

 メフィストからもらった香水は、はっきりいって変な匂いだ。どちらかというと、いい匂いというよりは臭い匂いだ。こんなので本当に効果があるのだろうか。

 瓶に貼ってあるラベルにはヘクセンクロイターと書いてある。ミカさんによると、魔女の薬草というような意味らしい。名前からすると、ずいぶん怪しげなもののようだが、まあ試すだけ試してみることにしよう。


 こうしておれはヘタレ悪魔と一緒にまた街へ出かけ、人通りの多い交差点でターゲットとなる女性を物色した。おれは一人の女性を見tけて、悪魔に言った。

「あっ、あの人なんか、いいですね」

それはミカさんに似た、清楚なお嬢様といった感じの女性だった。おれなんかどうせ相手にしてもらえないだろうが、メフィストの香水の威力を試してみるにはちょうどいいかもしれない。

「よかろう。あの人のあとをついて歩いていきなさい」

悪魔はいつもと同じように命じ、おれは言われたとおりにした。


 しばらく後ろからついて歩いていると、女の人がハンカチを落とした。これは以前に失敗したパターンだが、まあいいだろう。おれは女性を追いかけて声をかけた。

「お嬢さん、ハンカチを落としましたよ」

「あら、すみません。どうもありがとうございます」

女性は礼を言ってハンカチを受け取ると、はっとしておれの顔を見た。目を大きく見開き、口も少し開き気味だ。そしてしばらくじっとおれを見つめていたが、やがて思いがけないことを言った。

「あ、あのう、もしよろしければ、お礼にコーヒーでもごちそうしたいのですが……」

「えっ?」

おれは自分の耳を疑った。お茶に誘うのはおれの役で、それもどうせ断られるだろうと思っていたのに、女性の方から誘うとは。いったいどうしたんだ。まさか、これがメフィストの香水の威力なのか。

「お願いします。ぜひお礼をさせてください」

女性はおれの手を握って、懇願した。

「は、はい。喜んで」

おれは半ば信じられない気持ちで、女性と一緒に近くの喫茶店へ入っていった。そして心の中でガッツポーズをした。


 実はこないだの天使のミカさんとの体験デートを除くと、おれは若い女性と二人っきりで喫茶店に入るのは初めてだった。何を話していいのかもわからない。おれは戸惑ったが、女性の方が積極的だった。

「あなたはとても親切な方ですわ。私でよろしければ、ぜひお友達になってくださらないかしら?」

「ええ、もちろん。こちらこそよろしくお願いします」

 おれはうれしくてたまらなかった。こんなきれいな人と友達になれるなんて。このまま恋人同士にもなれるかもしれない。おれの胸は期待に膨らんだ。

「じゃあ、よろしかったら、これから私のうちにいらっしゃらない?」

「えっ?」

 あまりに思いがけない誘いに、おれはまたまた驚いた。まさかこんなに急に進展しようとは。すごい、すごすぎるぞ。さすがメフィストの媚薬だ。

「さあ、行きましょう」

 女性はおれの手を取ると、喫茶店の出口へ向かった。おれはあわてて伝票を手に取り、レジで金を支払って、女性とともに店を出た。


 おれはしばらく夢のような心地で、女性と一緒に手をつないで歩いていた。ところが、しばらく歩くうちに、女性がふと立ち止まった。

「あら、私どうしてあなたと歩いているのかしら?」

「あなたのお家に行こうとおっしゃったじゃありませんか」

「私がですか? どうして私が初対面のあなたなんかと家に帰らなければならないんですか?」

女性は不思議そうに首をかしげている。おれは不安になってきた。

「でも、さっき喫茶店でそうおっしゃいましたよ」

「そうですか。でも私、やっぱり一人で帰ります。それじゃあ、さようなら」

女性はそう言うと、一人でさっさと歩いて行ってしまった。取り残されたおれは、寂しく彼女の後ろ姿を見送った。どうやら薬の効果が切れたらしい。やはり、そうそううまくいくはずはなかったのだ。


 またまた一人寂しくアパートに帰ると、悪魔は相変わらず脳天気だった。

「おお、どうだった。メフィストの媚薬は効果があったであろう。はっはっは」

おれはうなだれたまま自分の布団に入り、そしてまたふて寝をしたのだった。

 

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