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1.悪魔が部屋にやってきた

「ワガハイは、悪魔である。はっはっは」

 大学からの帰り道でおれの前に立ちふさがった男はそう名乗った。全身黒タイツのようなものを着て、頭には折れ曲がった二本の触角があり、背中にはコウモリのような羽が付いていて、尻のところからは先端が矢印になったシッポが伸びている。手にはおもちゃのような三つ叉の矛を持っていて、いかにもマンガにでも出てきそうな悪魔といった外見だ。


 おれは一瞬たじろいだが、気を取り直して訊いてみた。

「なんですか、あなたは。デーモン木暮さんですか」

「だから言っているではないか。ワガハイは悪魔である。はっはっは」

「ああ、そうですか。せっかくですが興味ありませんので」

そっけなくそう言って立ち去ると、男はあわてて追いかけてきた。

「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ。置いていかないでくれ」

「いったい何なんですか。お店の新装開店キャンペーンとかだったら、チラシぐらいはもらってあげますから、はやくあっち行ってください」

追い払おうとすると、男はなおも食い下がった。

「実はワガハイは落ちこぼれ悪魔で、営業成績が悪くて閻魔大王様に叱られてばかりおる。契約の一本でも取らないと、地獄へ帰してもらえないのだ」

「契約って、いったい何です?」

おれが尋ねると、男は言いにくそうに答えた。

「いや、あの、その、あんたの魂をな、つまり……譲ってもらいたいのだ」

「ははは」

おれは嘲笑して立ち去ろうとした。こんな変なヤツには関わらないのが一番だ。

「わああああっ、頼むから待ってくれ。話だけでも聞いてくれ!」

男は情けない顔で懇願したが、おれは完全に無視することにして、帰途を急いだ。


 しばらくして後ろを振り向くと、悪魔と名乗る妙な男は情けない顔をしながら、まだ後からついてきている。目が合うと、男は媚びへつらうような愛想笑いをした。

「もうついてこないでください。警察を呼びますよ」

「ワガハイは悪魔だから、警察などは怖くない。頼むから話だけでも聞いてくれ」

「あんたがただのヘンなおじさんじゃなくて本当に悪魔だというんなら、その証拠を見せてくださいよ」

あまりのしつこさに閉口したおれは、とうとうそんなことを口走ってしまった。

「では悪魔の力をみせてしんぜよう。何をしたらいいかね」

男がそう答えると、おれは少し考えてあたりを見回した。すると向こうからブランド品に身を包んだ美男美女のカップルが仲良さそうに歩いてくるのが見えた。おれはちょっとムカついたので、こんな課題を出してみた。

「じゃあ、あのカップルのいけ好かない男のヤロウに、ちょっと恥ずかしい思いでもさせてみてください」

「おやすいご用だ」

悪魔はそう言うと、手に持っていたおもちゃのような三つ叉の矛を振った。すると、カップルの男のズボンが消えて、下半身がパンツ一枚になった。女の方がそれに気づいて、きゃあ、と声をあげた。男も気がついて慌てている。近くを歩く人たちも驚いて見ている。


 おれは唖然として、悪魔の顔を見た。

「どうだね。ワガハイが本物の悪魔だと信じていただけたかね」

「わ、わかった、わかった。だからはやく元通りにしてあげてくれ。なんかすごく後味が悪い」

すると悪魔は軽蔑するような顔でおれを見た。

「おやおや、あんたも気が小さいねえ。そんなことじゃ大物の悪魔にはなれんよ。ま、ワガハイも他人のことは言えんがね」

「別に悪魔になんかなりたいとは思わないから、はやくしてくれよ」

「そのかわり、ワガハイの話を聞いてもらえるんだろうね」

おれは承諾するしかなかった。悪魔がまた三つ叉の矛を振ると、元のように男のズボンが現れた。みんな何があったのかわからず、不思議そうな顔をしている。

「さ、それじゃあ、あんたのアパートまで行こうか」

こうしておれは、しぶしぶ悪魔を自分の部屋に入れて、話を聞く羽目になったのである。

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