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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第一章

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09.信用の差

「変な夢」
「それ、夢じゃないです」

 サヤカがコハク姫に言った。
 大人しい風の女の子が確信しきった口調で言ったから、コハク姫は眉をしかめて聞き返した。

「どういう事なの?」
「わたしも同じなんです。すごくふわふわなところにいて、ふわふわな気分になって、ふわふわな声に『チートをあげるから頑張って人生やり直してね』って言われて」

 相変わらず説明がふわっふわなサヤカだった。
 それで通じるのか? って心配したんだけど。

「ふわふわだった。わたしは『チートあげるから自分の物を取り戻して』って言われた。じゃああれって」
「はい」

 サヤカは頷き、おれに一言断って、壁際に向かって行った。
 前にやったのと同じように、椅子を百脚まとめて持ち上げた。

 コハク姫はそれに舌を巻いた。

「すごい力」
「これがわたしの『ちーと』なんです。えっと、どんな相手でもそれの十倍力があって、十倍速いって言われました」
「あなたも十倍?」

 うん?
 コハク姫も十倍なのか?

「魔法力が十倍高くて、呪文詠唱が十倍速いって言われたわ」
「魔法の方か」

 コハク姫の『ちーと』を聞いて、ちょっと興奮した。
 サヤカの事があるから、コハク姫の『ちーと』はもう信じてる。
 同じ「十倍」だからなおさらだ。

 相手の十倍強い魔法が使えて、十倍速く魔法が使える。
 やっぱり最強じゃないか!
 だからおれは興奮した。

「本当にそうなるの?」
「試せばいいじゃん」

 サイレンさんがカウンターの向こうに呼びかけた。
 あのデカブツが出てくるのかと思いきや、今度は枯れ木の様な老人が出てきた。

 ゆったりめなローブを纏っていて、先端に宝石のついた杖を持っている。
 どこからどう見ても魔法使いな風貌だ。

「それもギルド試験のための人なんですか?」
「そうだよ、その人の特性とか一番得意な事を試すから、いろいろ用意してるんだ」

「いろいろ?」
「いろいろ」

 サイレンさんは笑顔のままはっきり頷いた。
 おれはちらっとカウンターの向こうを見た。

 あっちの部屋は何が入ってるんだろうか、何人はいってるんだろうか。
 ちょっと怖くなった。
 旦那さんがコハク姫でちょっとは薄れたサイレンさんへの恐怖心がまた増したような気がした。

 コハク姫は老人と向き合った。
 空気が張り詰める。

 老人が杖を掲げた、呪文の詠唱をはじめて、ローブが無風の室内でふわりとなびいた。
 コハク姫は対抗して詠唱した――瞬間。

 パリーン!

 綺麗な音が鳴り響いて、老人が一瞬で氷漬けになった。
 老人を中心に、ギルドの半分くらいがまとめて凍った。

 おれとサヤカとサイレンさんはかろうじて凍らされた範囲外にいて、助かった。
 コハク姫がきょとんとしていた。魔法を放った本人が一番びっくりしてた。

「す、すごい……」
「こんな風に、相手の十倍すごくなる『ちーと』なんです」

 この力があれば、と、コハク姫の目に希望の光がともったのだった。

     ☆

 とりあえず待機することになった。

 サヤカとコハク姫。『チート』持ちが二人で、戦力は充分足りるようになったので、サイレンさんが急いで計画をすすめる事になった。
 それは何日かかかるから、その間はとりあえず待機する事になった。

 おれはサヤカとコハク姫を連れて、ギルドをでた。

「ハードさん、あそこ」
「うん?」

 サヤカが何かに気づいてさした方角をみた。
 そこにリサがいた。おれたちがギルドから出てきたのを見つけて、リサはこっちに向かってきた。

 一人じゃなかった、男を三人引き連れていた。
 ガラがわるい、チンピラのような男をぞろぞろぞろぞろと一緒になって向かってくる。

「偶然ねハード」

 白々しいことこの上ないリサだ。
 あきらかに目が合ってから向かってきたのに偶然はないだろ。

「なんかようか?」
「あら、ハードに用があるはずないじゃない。今からコボラさんのところにいくのよ」
「コボラ?」
「知らないの? このプリブの街の裏のドンって呼ばれてるコボラさんの事を」

 裏のドン。

「コボラさんと親しくしてもらってるのよ。今もあたしのためにこんなに護衛をつけてくれたんだ」
「へえ」
「そうそう、ハード」

 リサは近づいてきて、耳元でささやいた。
 声のトーンが落ちて、まるで脅迫のようだった。

「変な事をいったら、どうなるか知らないからね」
「変な事?」
「おう、すっとぼけんじゃねえぞオラ」

 男の一人が割り込んできた、ドスの効いた声で言ってきた。

「えっと……ああ、森の――」
「――どうなるか!」

 リサがものすごい勢いで被せてきた。

「わかってるわね」
「わかった。誰にも言わない」
「分かればいいのよ」

 リサは唇をゆがめて、満足した様子で男達を引き連れて去っていった。
 男達は最後にまたおれを睨んで、恫喝してきたけど。

「……アンブレさんに比べればかわいいよなあ」

 ふと、宿屋『翼の記憶』のご主人、アンブレさんの事を思い出した
 あの顔面凶器に比べれば、今のチンピラなんて赤ちゃんかってくらい可愛らしく見える。

「ハードさん、あの人何しに来たんですか?」

 サヤカが首をかしげつつ聞いてきた。
 まあ、わからないよな。

「うーん、多分だけど、森の時に『あたしはすごい人をしってる』っていってただろ? それを証明しにきたんだ」
「すごい人をしってる……」

 サヤカはリサが去っていった方角を見つめてながらつぶやいて。

「すごい人を知ってる」

 隣にいるコハク姫を見てつぶやいた。
 そしてまたリサが去っていった方角を見て。

 とても、可哀想なものを見るような目になった。

     ☆

 サヤカとコハク姫を連れて、プリブの街の不動産屋にやってきた。
 看板はキツネの絵が描かれてて、店の名前は「コンの抑止力」ってある、

 なにがどう抑止力なのか分からないけど、とりあえず中にはいった。

「いらっしゃいませ、コン」

 おれ達を出迎えたのはおれの身長の半分くらいの男だった。
 男は頭にキツネ耳を生やしてて、丸いサングラスをかけて、手にでっかいそろばんを持ってる。

 ちょっと怪しげな感じだ。
 店の人だろうか、おれは聞いてみた。

「すいません、家を買いたいんですけど、店主はいますか?」
「ぼくがこの店の店主、タイラー・ボーンだコン」

 店主だったのか。
 ちびっこいけど、キツネ耳がついてるし、多分そういう種族だからだろう。

「家を買いたいんですね、コンコン」
「うん。サヤカ」
「はい」

 前もって言ったとおりに、サヤカは自分のギルドカードを取り出して、タイラーに見せた。
 タイラーはそれを受け取って、見た。

「これはこれは失礼しました。組合公認ギルドのSランク冒険者だったコンね」

 タイラーは丁寧な手つきでギルドカードをサヤカに返した。
 その時にサヤカの指にある奴隷指輪をみた。

 指輪とおれを交互に見比べた。おれがサヤカのご主人様だって認識したみたいだ。
 態度が更に丁寧になった。

「お任せくださいコン。どのような家がほしいんですコン?」
「まとまった現金がないから、ローンで買えるような家を」
「そうでしたか。わかりましたコン、お任せくださいコン」

     ☆

 タイラーに連れられて、プリブの街中心にやってきた。
 目の前にあるのは、新しい平屋の一軒家だった。

 タイラー先に入って、おれを招き入れた。
 おれはサヤカとコハク姫を連れて中に入る。

 ちなみにコハク姫はさっきからずっと黙ったままだ。
 奴隷指輪をつけてるとは言え、ばれてしまうのはまずいからって、ギルドを出てからずっと黙っていた。

「この家はどうですかコン。街の中心にある新築の3LDKだコン。市場至近、ウマ車駅徒歩三分で隣町の移動も便利だコン」
「ほうほう」

 タイラーに説明されつつ、家の中を見て回った。
 3LDKの新築物件は流石に綺麗だった。

 それだけじゃなく、街の中心にあるのに、外の喧噪がまったく聞こえない。
 結構いい家だ。

「しかも、最新型工法を使ってるから、後からの増築が簡単だコン」
「そうなのか」
「はいですコン」

 タイラーはちらっとサヤカとコハク姫を見て。

「お家族を増やす予定があるときに便利な物件ですコン」
「なるほど……いいな」

 物件はいい、新築で今のおれにはぴったりだし、将来性(、、、)もある。
 問題は……金額だ。

「いくらするんだ?」
「これくらいですコン」

 タイラーはそろばんをはじいて、おれに見せた。
 ざっとみて、サヤカがを五十人買えるくらいの金額だ。

 おれの村でも家を十軒は建てられる程の金額。
 街で、新築だから高いのか。

 でも、それがいい。
 おれはこの家に決めた。
 そう思って、最後の確認をする。

「支払いはローンでいいのか?」
「もちろんですコン。組合公認ギルドのSランク冒険者様だからお支払いはいつでもいいですコン」

 きくまでちょっとドキドキしてたんだけど、本当にローンで買えるみたいだ。
 なら、迷うことはない。

 こうして、おれは初めての家を手に入れた。

     ☆

 奴隷二人を家に残して、『コンの抑止力』で物件の契約をすませてきた。
 増改築は最初の代金を払い終えないと流石に受けられないとだけ説明をされた。

 そりゃそうだ。

 そうして契約書を持って、外にでた。
 もう夕方になっていた。
 街は夕焼けに染まり、様々な人が家路を急ぐ。

 そんな中、知ってる声が遠くから聞こえてきた。
 男女の声、リサとアイホーンだ。

 二人は遠くから歩いてくる、おれに気づいていない。

「そろそろ夜だし宿屋に泊ろう」
「もうちょっと待とう。この時間から泊るとちょっと高くなるんだ。もうちょっと遅くになってから入った方が時間分安くなる」
「今すぐなのはダメなの?」
「ワンチャンを捕まえるの失敗したから。報酬が手に入らなかったんだ」
「そっか……しょうがない、今日だけ我慢したげる」
「ああ」

 そんな事を言い合いながら、二人が近づいてくる。
 そしておれを見つけて、リサがまた得意げな顔をして近づいてきた。

「ハードじゃん、こんなところで何してるの?」
「ちょっとな」
「……もしかして家を借りたの?」

 リサの顔から余裕が消えた。
 おれが持ってる契約書と、不動産屋のキツネ看板を交互に見比べる。

「家を借りたんだね、そうなんだね」

 更に豹変する。怖い顔でおれを睨む。

「アイホーン、行くよ」
「いくってどこに――」
「あたし達も家を借りるの! いくよ!」

 リサはアイホーンを無理矢理引っ張って中に入っていった。
 借りた訳じゃなくて買ったんだが……ってわざわざ教えるギリもないか。

 おれはその場を離れた。
 後日、タイラーから聞いた話によれば。
 二人は金も信用もないので家を借りれなくて。

 アンブレさんから聞いた話によれば。
 宿を取った二人は、夜遅くまで怒鳴りあっていたという。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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