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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第一章

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08.奴隷姫にもチートがある

 ギルド『ラブ&ヘイト』の中。

 サヤカがSランクって記されたギルドカードを受け取った。
 これでSランクの冒険者、家を買う事ができる。

 いやその前にサイレンさんだ。
 便宜を図って最短距離でSランクにしてくれた、それで頼みたい事があるって言ってた。

 恩返しのためにも、まずはサイレンさんから話を聞かなきゃな。
 そう思って話しかけたが、サイレンさんは窓の外を見つめていた。

「どうしたんですか?」
「誰かが見てるね」
「だれか……? あっ」

 サイレンさんの視線を追ってくと、窓の外からちらちら様子をうかがってるリサの姿が見えた。
 ちらちらしてたけど、おれと目が合うとものすごく眉を逆立てた。

 ぐいぐいって人差し指でジェスチャーをして、おれに「来い」って言ってる。

「いった方が良くない?」
「そうだな、ちょっと行ってくる。サヤカはここでまってな」
「はい」

 サヤカをおいて一人でギルドの外に出た。
 外壁をぐるっと回ってリサの居場所にやってくる。

「なんかようか?」
「今日の事は忘れなさい!」

 いきなり怒鳴って、命令してきた。

「今日の事?」
「あの森の中での出来事よ!」

 ……。
 ああ、魔女刈りに襲われて、ビビって失禁した事か。
 心配しなくてもだれにも言わないって。

 あいつモンスターに襲われてお漏らししたんだぜうけるだろー。
 んな事を言って回ったらこっちの人格が疑われる。

 リサが更に恫喝をしてきた。

「あたし、すごい人達を知ってるんだからね」
「すごい人達?」
「そうよ! この街の裏に通じてるすっごい怖い人達なんだからね」
「怖い人達」

 裏稼業をしてる人間なんだろうか。
 どこにもそういうのはいるだろうけど……。

「なあリサ、悪いことは言わないから、そういう人達とはあまり関わらない方がいいぞ――」
「ふん、ビビったようね」
「いや、ビビったとかじゃなくてな」
「今日の事を忘れたらいわないでいてあげる。いいわね」
「……わかった、誰にも絶対に言わない」

 そういうと、リサは満足して立ち去った。
 なんだかなあ。

 リサとの話が終わって、ギルドの中に戻った。

「大丈夫でしたかハードさん」

 サヤカが心配そうに駆け寄ってきた。

「大丈夫だ、今日の事は忘れろって話だった」
「今日の事?」

 サヤカは小首を傾げた。
 分からないんならそれでいい。わざわざ掘り起こす程の事じゃない。

 リサの話はそれで一段落した。
 おれは改めてサイレンさんと向き直った。

「サイレンさん。おれ達にやってほしい依頼っていうのは?」

 サイレンさんは無言で扉の方に向かって行った。
 扉に鍵をかけて、窓も雨戸を下ろす。

 まだ昼間なのに、ギルドの中は一気に暗くなった。

「ハードさん、これは一体……?」
「……よほどすごい依頼、というか誰にも聞かれたくない依頼なんだな」
「そうよ」

 戻ってきたサイレンさんは頷いた。
 語気は普段とそんなに変わらないけど、表情がかなり真剣だ。
 それを見たサヤカが横でごくりと生唾を飲んだ。

「まず、依頼主を紹介するね」
「依頼主? でもドアは鍵が――」
「コハク様」

 おれは扉の方――外を見たが、サイレンさんは中の方――カウンターに向かって呼びかけた。

 カウンターの向こうからむくり、って感じで手がにょきっとのびてきた。
 今まで何回か見た事のある、血まみれの、サイレンさんの旦那さんの手だ。

 その手が……ぼろっと取れた。

「きゃあ!」

 サヤカが悲鳴を上げた。
 おれは気を強くもって展開を見守った。

 手がぼろっと取れて、別の手が伸びてきて、やがて全身がみえた。
 美少女がカウンターの向こうから現われた。

 サヤカよりちょっと背が高くて、長い髪が左右で結ってツインテールにして、そのツインテールが地面に届くくらい長い。
 一目見ただけで絶対に忘れない、特徴的な女の子。

「コハク……姫?」
「わた――あーあー、ごほん。わたしをしっているの?」

 最初は「サイレンさんの旦那さん」の声だったけど、咳払いして喉をならしたあと、鈴を転がすような美声になった。

「知ってます! すっごい昔に村に来たことがあって、その時遠くから見てました!」
「ハードはこの辺の人? それなら三年くらい前にお兄様とチョコレートファウンテンの儀式をした時かな」
「はい! 王子様もいました!」

 やべえ緊張する、本物の姫だ、本物のコハク姫だ。

「ハードさん……」

 サヤカがおれの服の裾をぐいぐい引っ張って、上目遣いで見つめてきた。
 どういう事なのか教えて、って目だ。

「コハク・サローティアーズ。この国のお姫様だ。まさか会えるとは思ってなかったぞ」
「お姫様……」

 おれはすっかり興奮した、本物にあえるなんて思わなかった。
 そうか、サイレンさんがギルドを締め切ったのもそのせいか。
 本物のコハク姫ならこれはお忍びってことだもんな。

「その様子だと知らないみたいだね」
「え? しらないって、どういう事なんですかサイレンさん?」
「どうしてあたしがギルドを締め切ったんだと思う?」
「それはコハク姫だからで、お忍びだから?」
「じゃあどうして、コハク様があたしの夫に化けてたんだっておもう?」
「え?」

 頭が一瞬フリーズした。

 そうだよ、ギルドを締めただけじゃお忍びだって言えるけど、サイレンさんの旦那さんに化けてたのはお忍びだけじゃ説明つかない。

 声をかえて、姿を見せないで、サイレンさんが何かにつけて折檻ばっかりして、それをみてるうちに目をそらしたくなった――そらしたくなった?

「何かから……隠すため?」
「実はね、コハク様は今懸賞金がかけられてるんだ。デッドオアアライブの」
「えええええ!?」
「そこからはわたしが説明します」

 コハク姫がおれの前にやってきて、澄み切った瞳でまっすぐ見つめて来ながら話した。

 去年、国王がものすごい大病を患った。
 その大病がかろうじて治ったものの、治った後の国王はまるで別人のように横暴が目立つ様になった。

 何故なのかと独自に調査した結果、国王は何者かと入れ替わってて、本物の国王は地下牢に入れられている。
 本物の国王を助けだそうとしたが、それがばれて、偽物の国王にアリもしない罪を着せられて追われた。

 追われたコハク姫は唯一信用出来るサイレンさんのところにやってきて、身を隠した。
 その間偽の国王は更にコハク姫の罪をでっち上げて、姫は公式的にはお尋ね人となって、懸賞金がかけられたという。

「というわけなの。サイレンの元に身を寄せて待ってたの。お父様に化けてるヤツを倒して、お父様を救い出せる人、さらには信頼出来る様な人を待ってたの」
「そ、それがSランクの依頼……?」

 サイレンさんを見た。

「正確にいえばSSSランクだけどね、何せ国そのものを揺るがす大事件だから。でも例え内容を伏せてもSSSだって言っちゃえば推測される可能性もあるじゃん? だからSだって言ったの。Sなら実はドラゴソ討伐とか、そういうの言い逃れができるじゃない」
「た、たしかに」

 色々と納得した。
 なっとくしたけど、ちょっとビビってる。
 まさかこんな大事だったとは。

「でも本当におれでいいんですか? おれなんか何にも力はないんですよ」

 あまりの大事についぼろっと本当のことを言ってしまった。
 ちからはサヤカだけ、おれには何の力もない、村から出てきたばかりのただの田舎者だっていっちゃった。

「ここ数日すっと見せてもらった。力はあっても最終的に信頼出来ない人なら本当にドラゴソの討伐だっていって適当にやり過ごすつもりだった」
「見てたって、おれを見てたんならなおさらわかる――」
「見てたのはその子」
「わ、わたし?」

 サイレンさんがサヤカをさした。
 さされたサヤカは目を見開きびっくりした。

「そう、あれだけ力がある奴隷。最初は無理矢理従わせられてるかって思ってたけど、奴隷の指輪は一度も光らなかった」
「これですか? これって光るんですか?」
「ああ、光るんだそれ。サヤカ、鼻くそをほじってたべろ」
「え? い、いや、そんなの出来ない――って手が勝手に」

 おれの命令にサヤカは鼻くそをほじって、口の中に入れようとした。
 入る直前に手をつかんで止めた。光ってる指輪ごと手をつかんで止めた。

「こんな風に、ご主人様は強制力を働かせて奴隷に命令出来るんだ。その時に指輪が光る」
「そうだったんだ……知らなかった……」
「ものすごい力をもった奴隷がいて、でも強制力を働いた痕跡がなくて。二人が深い信頼で結ばれてるのが分かった」
「深い信頼……わたしとハードさんが……深い……」

 また赤面してブツブツなにか言い始めるサヤカ。

「そういうご主人様なら信頼出来る、そう思ったの」
「は、判断の基準がよく分からないけど……とりあえずわかった」

「改めて聞くけど、この依頼、受けてくれる?」
「うん」

 おれは即答で頷いた。

「いいの?」
「もちろん」

 サイレンさんの判断基準はよく分からないけど、話を聞いたらやらなきゃって思った。
 あこがれのコハク姫が困ってるのもそうだけど、父親がつかまってて助けられないのなら手助けしたい。
 おれはそう思った。

「危険だよ?」
「分かってる」
「奴隷ちゃんもいいの?」
「ハードさんのためなら」
「そう」

 サイレンさんは満足げに微笑んだ。

「ってわけでコハク様、彼になら例の方法で正体を隠すことができると思う」
「そうね。わたしもそう思ったわ」
「例の方法?」
「これだよ」

 サイレンさんが手を伸ばした。
 手のひらを上にして差し出された手には指輪があった。
 サヤカの左手薬指についてるのと同じ指輪だった。

「奴隷の指輪?」
「左手の薬指に指輪をはめるのは奴隷だけ。それをつけてれば、この奴隷がまさかお姫様だなんて誰も思わないでしょ?」

 ああ、なるほど。
 コハク姫は特徴的で一目見たら忘れられないような見た目をしてる。
 そんな見た目でも、左手に薬指があったら奴隷、お姫様が奴隷だなんて誰も思わないし、主張しても信じない。

「しかもハード、あんたはFランクの冒険者」
「Fランク冒険者の奴隷ならなおさら、ってことですね」
「そう」
「わかりました」

 おれは指輪を受け取った。
 これをコハク姫にはめればいいんだな。

 姫に近づく、姫は左手をだした。
 手をとって……ちょっと迷った。

「どうしました?」
「……本当にいいんですか? おれの奴隷になって」
「わたしはお父様を助けたいの。そのためならなんでもする」
「……そうか」

 そこまでの決意があるんならこれ以上何かを言うのは失礼だな。
 おれは指輪をとって、姫の手を取った。
 指輪を薬指に通そうとする。

「……それに」

 コハク姫がか細い声でいった。
 サヤカのような、ブツブツ言ってるときのようなか細い声。

「あなたならいい、って思ったの」

 聞き返す間もなく、指輪を薬指に通した。
 奴隷の証、左薬指の指輪。

 それを通した瞬間、まばゆい光がギルド内にあふれた。

「コハク姫」

 姫は気を失って倒れた、とっさに抱き留めた。

「姫? あんた何かしたの?」
「いやおれは何もしてない、指輪をつけただけ。むしろこの指輪が何かをしたんじゃないの?」
「そんな事ない! 姫の事を考えて最終的にご主人様の方から破棄できるタイプの指輪にしたけど、それ以外は普通の指輪だよ」
「だったらなんで」

 おれとサイレンさんがいきなりの事で慌てた。
 倒れたコハク姫のまわりで慌てた。

「だぶん大丈夫です」
「サヤカ? 大丈夫って何か知ってるのか?」
「もうすぐ目が覚めると思います」

 詳細は語らないが、目に確信の色があった。

 サヤカが言ったとおり、すぐにコハク姫が目を覚ました。

 うつろな目があたりをさまよい、何かを探しているようだった。

「ここは……」
「ここはプリブ、あたしのギルドだよコハク様!」
「プリブ……泉……女神……わたしにちーと?」

 ブツブツ何かいってるコハク姫。
 それを見て、サヤカが「やっぱり……」ってつぶやいたのだった。
■10月10日書籍版発売します
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