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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第一章

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05.FランクとBランク

 深夜、宿屋『翼の記憶』。

 寝付けないから何となく部屋をでて、外の空気を吸おうと思った。。

「あら、眠れないの?」
「う、うん」

 ロビーで顔面凶器――もとい宿屋の主人アンブレさんと遭遇した。
 アンブレさんはカウンターの向こうに座って、ランプの下で何かせっせと手を動かしていた。

「何か飲む? 温かいミルク、それともお酒?」
「あっいえ、どっちもいいです」

 どっちも気分じゃない上に、お酒はヤバイ気がする。
 なんだか分からないけど、アンブレさんと酒のコンビはとてつもなくヤバイ気がする。

 外の空気を吸おうと思ったけど、出られなかった。
 アンブレさんから逃げた方がいい気がするけど、逃げられなかった。

 ヤバイと思いつつも、プレッシャーに負けて、アンブレさんの真ん前に座った。

 手を動かしていたのはなんと編み物だった!
 あの顔面凶器で編み物なんて! あの顔面凶器で編み物なんて!

 びっくりしすぎて二回繰り返しちゃったじゃないか!

 アンブレさんはせっせと編み物をしていた。
 ふと顔を上げた、目が合った。

「どうしたの?」
「な、何を編んでるんですか?」
「ドスよ」
「ド――」
「冗談よ。マフラーを編んでるの、そろそろ必要と思ってね」

 冗談に聞こえねえ!
 『ドス』ってだってアレだろ? ゴクドーって職業にしか装備できないという、『ハラマイト』『エンコ』と並ぶ三種の神器って呼ばれてるものだろ?

 なぜか本気に聞こえた、というか本気にしか聞こえなかった。
 怖いからその話は突っ込まないようにしよう。

 と、思っていたら、またアンブレさんに話しかけられた。

「今朝のあなた、素敵だったわよ」
「え?」
「奴隷をテコでも売らなかったこと」
「あ、ああ」

 その事か。

「それに、クレーマーの話も聞いた。奴隷の責任はご主人様の責任って、タンカを切ったそうじゃない」
「……思ってる通りの事をいっただけだ」

「あの子が奴隷だから?」
「サヤカかどうかは関係ない。ご主人様としてあたり前の事をしただけだ」
「そう。あなた、これから大変になるね」
「どういうこと?」
「そんな素敵なご主人様なら、みんな奴隷になりたがるから、ってこと」
「……」

 そうかな。
 そうだといいな。

「もしかして奴隷は一人だけ、って主義?」
「そんな事はない。奴隷を一人だけだなんてご主人様にふさわしくない」
「それもそうね。なら、来るもの拒まずなわけ?」
「いや」

 おれは首を振った。
 脳内に一人の女の姿を思い出す。

 おれをコケにした、捨てていった彼女の姿を。

「一人だけ、絶対にしない人がいる」

 宣言すると、顔面凶器はきょとんとなってしまった。

     ☆

 次の日、ギルド『ラブ&ヘイト』。

「おれが間違ってたよ、おれにはキミしかいなかったんだ」
「あなた!」

 カウンターの向こうでサイレンさんと旦那さんがいちゃいちゃしてる。
 膝枕でもしてるんだろうか、旦那さんはカウンターの下にいて、いつも通り声だけ聞こえるが姿は見えない状態。

「うわ、うわわわ」

 サヤカが盛大に赤面している。
 キスの濡れた音がギルドの中に響き渡ってそれで当てられている。

 なんだ、結局ラブラブじゃないか。
 ま、好きだから浮気が許せないんだな。

「あっちは無視して、今日の依頼を決めよう」
「はい! わたし今日も頑張ります! ハードさんのために」
「ああ、頑張れ、おれのために」

 いうと、サヤカはものすごく嬉しそうな顔をした。
 そんな彼女と一緒に掲示板を見る。

 Cランク冒険者のための掲示板。
 依頼は色々あった。

「あっ、クレーマーの巣の探検――」
「クレーマーはいやです!」

 大声をだしたサヤカ。
 いや大声だけじゃなくて、涙目になっている。

 よっぽどいやなんだな、クレーマー。
 まあだれだっていやだよな。

「わかってる、目に入っただけだ。クレーマーとは関わらない」
「ほっ……ごめんなさい、わたしなんでもっていったのに」
「気にするな。クレーマーなんて誰だっていやなんだ」

「あんなの……この世界からいなくなればいいのに」
「以外と黒いなサヤカは……まあでもムリだろ」
「えぅ! む、ムリですか」
「ムリだろうなあ……あれの根絶は」

 サヤカは涙目になった。
 ちょっと可哀想になってきた。
 クレーマーに関わるのは金輪際よそう、おれはそう決めた。

 そうして、更に依頼をみていくと。

 ドン!

 ドアが乱暴に開かれて、何人かの若い男女が転がるように入って来た。
 血まみれで、何者かにやられた様子だ。

「どうしたの!?」
「き、聞いてねえよ、あんなに強いなんて」
「あんたたち……三秒ルル討伐に行ってた連中じゃないか」

 サイレンさんはカウンターの向こうで立ち上がった。
 最初は驚いたが、すぐに呆れた目に変わった。

「だから言ったじゃん、三秒ルルは子供で強いって」
「あんなに強いって聞いてない」
「言ったよ」
「くそっ! あいつにミルがやられた、病院に連れてかないと!」

「ぼくが優しく介抱――」
「あたしの前で浮気するな♪」

 カウンターの下から手が伸びてきたが、モグラ叩きの如くつぶされた。
 すごいな、サイレンさんの旦那さんは。

 冒険者達はその間に出て行った。男の人が女の人を担いで出て行った。
 それとほぼ同じタイミングでサイレンさんの折檻も終わった。

 おれはサイレンさんに話しかけた――血みどろだけど、サイレンさんはおれには無害だからもう怯えてはいない。

「サイレンさん、三秒ルルってこれですか?」

 Cランクの掲示板から一枚の紙を剥がして、彼女に見せた。

「うん、三秒ルルの捕縛。子供でいいから一匹ペットにほしいっていう金持ちの人の依頼なんだ」
「三秒ルール? 食べ物ですか?」

 サヤカが横で小首を傾げた。

「おれも知らないけど、話からして食べ物じゃなくて生き物だろ、三秒ルル(、、)は」
「三秒ルールが……生き物?」

 ますます首をかしげてしまうサヤカ。
 三秒ルルか、猛獣の捕縛ならやりやすい方だな。

     ☆

 街を出て、もらった地図を頼りに『ルルの谷』って場所にやってきた。
 そこに行けばわかるって言われてきたけど……成程すぐに分かった。

 谷の上にたてがみが立派な猛獣がいた。
 そのまわりにちんちくりんな子供が何頭もいた。

「あれが三秒ルルっぽいな」
「三秒ルール……ライオンにしか見えないけど」

 ぶつぶつ何か言ってるサヤカ。
 おれはもらった地図の裏に書かれたメモを読み上げた。

「えっと何々……三秒ルルは谷の上から自分の子供を突き落として、三秒で戻れた子供だけを育てる……なんじゃそら」

 不思議がってると、親三秒ルルが前足を払った。
 数頭――全部で六頭ある子供三秒ルルが一斉に谷の底に落ちてきた。

 落ちた子供達が――ものすごい速度で崖を駆け上がっていった!!
 超スピードだ! 十階建ての塔よりも高い崖の頂点に駆け上がっていった。

 全頭、三秒もかかってない。
 親三秒ルルは舌でぺろっと子供を舐めた、ほめてるんだ。

「千尋の谷に突き落として三秒で戻らせるライオン……?」

 またブツブツ言ってるサヤカ。
 それはそうとして、成程。
 あの崖を三秒で駆け上がれるスピードなら、捕縛するのは骨が折れるだろうな。

 どうするか、って思ってるとまた親三秒ルルが子供を突き落とした、子供達はやっぱり三秒以内でもどった――と思ったら一頭だけ足を滑らせてちょっと遅れた。
 遅れた子供は即座に払われてもう一度谷の底に、そして必死に登って、今度は三秒以内で戻れた。

 顔を舐められて、ほめられる。

「すごく……厳しいです」
「そういう習性なんだな。それよりも捕まえよう。できるかサヤカ?」
「……はい、できると思います」
「よし、じゃあ次に突き落とした時がチャンスだ。子供を一頭捕まえて戻ろう」
「わかりました」

 ちょっと待った。
 親三秒ルルは明後日の方向を見た、子供達はつられてそっちをみた。
 そのまま前足で谷に突き落とした――フェイントかよきたねえ!

 突き落とされてきた子供達。
 サヤカは走って近づいていって、一番近くにいる一頭に手を伸ばした。

 子供は反撃した、前足を振り下ろした。
 地面がえぐられる! すげえ! 子供でも強ぇ!

 避けたサヤカはそのままがっちり抱き留めて、地面をえぐり取る程のパワーをもつ子供を抱き締めて戻ってきた。

「お待たせしました」
「うん、よくやった」

 サヤカの頭をなでてやった、一瞬きょとんとされたけど、はにかんで笑顔になった。

「さて、親が襲ってくる前に逃げよう」
「はい! ……あっ」
「どうした」
「また……突き落としてる」
「え?」

 逃げだそうとしたのが完全にとまった。
 振り向いて崖の上を見あげる。

 親三秒ルルは平然と子供を――残った子供を突き落とした。
 つかまった子を気にも留めていない。

「……三秒以内で戻って来れない子はなんであろうと用なし、ってか?」
「……ひどい」
「サヤカ、子供を渡して」
「えっ? はい」
「で、あいつを一発殴ってこい」
「――分かりました!」

 サヤカは走って行った。
 崖を一気に駆け上がって、親三秒ルルを殴った。

 殴られた親三秒ルルは谷の底に転がり落ちた。
 登ろうとする……登れなかった。

 途中で足を滑らせて手間取って、崖の上に戻るまで十秒もかかった。
 そして咆吼! 地響きがするほどの咆吼。

 そうしてからサヤカを探す――がもうサヤカはいなかった。
 サヤカはおれのそばに戻ってきていた。

「ただいま」
「よくやった」
「ありがとうございます! あっ、また突き落とした」
「本能だな……あれ?」

 異変が起きた。
 なんと、突き落とされた子供三秒ルルは崖を登ろうとしなかった。
 それどころか三々五々とあっちこっちに散っていく。

「どうしたんだ?」
「なんか……呆れてるように見えます」
「呆れてる?」
「もしかして……おとうさんが三秒で戻れなかったから?」
「……おお」

 そうかも知れない、おれが腕の中で抱いてる子供も最初は暴れてたけど、親が十秒かけて登った直後から静かになった。
 目が呆れた目になっていた。

 どうやら、三秒ルルの三秒は、子から親にも適用されるみたいだった。

     ☆

 ギルドに戻って、子供三秒ルルを引き渡す。

「はい確かに――なんかこの子すごく大人しいね。普通子供の三秒ルルを連れてくるとものすごく暴れるんだけど、ハード、あんた何かしたの?」

 訝しむサイレンさん。
 おれはサヤカと顔を見合わせた、同じタイミングで吹き出した。

「???」

 サイレンさんはますます不思議そうになったが、それ以上突っ込んでこなかった。

 依頼は達成され、サヤカはCランクからBランクになった。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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