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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第四章

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48.覚醒

 どくどくと血が流れる肩を押さえながら、男をといつめる。

「なんで……動けた」
「消化した……と言えばいいのだろうな」
「え?」

 男はうってかわって、普通の人間の様に話した。
 これまでは度が過ぎた寡黙で、何をいってるのがいまいちよく分からなかった口調だったのだが、今は声が低く喋りが遅めなだけで、普通に会話が出来る様になっていた。

「消化ってどういう事だ!?」
「言葉通り。お前の力を消化したのだ。これでお前にはもう力がない」
「なんだって!?」
「ハードくん!」

 下がらせたルナが駆け寄ってきて、手を俺に伸ばした。
 何が起きたのかは分からないけど、ここは時間を止めて仕切り直しだ。

 ルナと手をつないで『ちーと』で時間をとめ――。

「きゃあああ!」
「サヤカ!?」

 時間は止まらなかった。
 ルナと手をつないだのに時間は止まらず、男を拘束しようとしたサヤカもなすすべなく逆手でのビンタを喰らって吹っ飛ばされる。

「どういう事だ……」
「ご主人様!」
「コハク?」
「回復が……回復が間に合わない!」

 連れてきたフィーユに回復をかけ続けていたコハクが切羽詰まった叫び声をあげていた。
 回復が間に合わない……。

 瞬間、全てが一つに繋がった。

 ルナと手をつないでも時間が止まらない、力負けして吹っ飛ばされるサヤカ、回復が間に合わないと叫ぶコハク。
 『ちーと』。
 すべては『ちーと』、『ちーと』が発動しなくなったからだ。

「気づいたか、しかしもう遅い」

 男は腕を振り下ろした。
 とっさにガードしたが、俺とルナがまとめて吹っ飛ばされた。

 何回かバウンドして、体をたたきつけられてようやく止まる。
 地面に手をついて起き上がろうとする、口の中を盛大に切ったのか血の味がした。

「どういう……ことだ……」
「ふっ……」

 男はシニカルに口角をゆがめて、あるものを取り出した。
 ブレスレット、見覚えのあるアイテムだ。

 ロックの事件から何回も目にしてきたブレスレットだ。

 ただし色は違った、男が持っているそれは黒、光沢のある黒曜石のような黒色をしていた。

「貴様から手に入れた力、それをこのブレスレットを使って我が物にした。これがある限り、貴様の力は一切使えない」
「くっ……」

 俺の力――いやフィーユの『ちーと』のことだろう。
 フィーユからちぎっていった魂とその『ちーと』、それをブレスレットとあわせて、他の『ちーと』を抑制する効果をつけた。

 『ちーと』がまったく使えない。
 男がフィーユの中から現われた時よりも更に悪化した事態になっていた。

 男はつかつかとコハクとフィーユに近づいていく。

「やめて――きゃっ!」

 止めようとするコハクを平手打ち一発で張り倒した。
 そして、フィーユを見下ろす。

「これでおしまいだ」
「やめろお!」

 動けないフィーユに手をかざした男。その手がぼんやりと光り出す。
 俺は全力で突進していった。
 男の手から魔法が放たれる、その魔法からフィーユをかばった。

「ぐわっ!」

「ハードさん!」
「ご主人様!」
「ハードくん!」

 奴隷達が一斉に叫んだ。
 全身の骨がばらばらになりそうなくらいの痛みに堪えて、歯を食いしばって倒れているフィーユを抱きしめ、コロコロと転がっていく。

「無駄な抵抗を……」

 男が更に近づいてくる。
 一歩、また一歩と。
 悠然とした足取りで近づいてくる。

「これで、止まっていた計画もまた動き出す。ノードとロックがドジを踏んだ後れをようやく取り返せる。この私がとりもどすのだ」
「ぐあああああ!」

 男が俺の腕を踏みつけた。ボキボキボキ、骨の折れる音が体の中を通って鼓膜をうつ。

 ただ骨が砕けただけじゃない、同時になにか形容しがたい、焼けつくような痛みが腕に走った。
 思わずフィーユから手を離してしまう。

 男は俺を蹴っ飛ばして、三度、フィーユに手を突き出す。

「やめ、ろ……」

 だらんと下がる腕を引きずって、フィーユの上に覆い被さった。
 彼女をかばった。
 動けない、意識のない彼女は今やられたらイチコロだ。

 守らなきゃ。

 彼女を守るために体の上に覆い被さった。

「しつこい」

 冷たい声でいって、男は俺の頭を掴んで持ち上げ、そのまま地面にたたきつけた。
 目の前が真っ白になる、目がちかちかして意識が遠のく。

 それでも、フィーユをかばう。
 四度フィーユに何かしようとする男から彼女をかばう。

「いい加減諦めたらどうだ?」
「だめ、だ……」

 遠のきそうな意識を必死につなぎ止める、

「何故そこまでする。奴隷なのだろ? その女は」
「ああ、そうだ」

 フィーユを背中に隠すようにして、男をにらみつける。

「フィーユは俺の奴隷だ……一目見たから運命を感じた、奴隷にしようと思った。だからこそ守る」
「何をいっている」
「ご主人様は奴隷に死ねと命じることが出来る。ご主人様だからな。しかし、そうじゃない時、そのつもりもないのに奴隷を死なせるのはご主人様失格だ」
「なっ」

 渾身の力で怒鳴り、男をにらみつける。

「俺は……何があっても奴隷は死なせない! 何があってもだ!」
「……そうか。なら仕方がない。貴様から先に死ね」

 男の目がすわった。
 冷たい、無機質な殺気を放ってきた。

 肉体ではない、心にピリリと突き刺さってくる鋭い殺気。
 その目を真っ向からにらみ返した。

 何があってもここはどかない、ご主人様失格になるくらいなら死んだ方がマシだ。

「死ねぃ!」

 男は指先を揃えて、鋭く変形した爪を薙いできた。
 男を睨んだ、にらみ続けた。
 最後まで睨み続けた――。

「なにっ!」

 振り抜いていくと思われた男の腕は途中で止まった。
 俺の後ろからすぃ、と伸びてきた腕に捕まれて。

「なっ――」

 驚愕する男、何か信じられないものを見たような目をする。
 捕まれた腕を振り払って、地を蹴って飛び下がる。
 そのまま俺を……いや俺の後ろを睨んだ。

「なぜ……起きれる」
「えっと……ハード、さん?」

 後ろから綺麗な声が聞こえた。
 力強い、しかし呼び方に不慣れが残っている声。

 振り向く、フィーユが起き上がっていた。
 魂を一部持って行かれたから抜け殻のようになっていたフィーユがどういうわけか元に戻っていた!

「フィーユ! 大丈夫なのか?」
「もう大丈夫――多分前よりも調子いいくらい」
「そうか……よかった」
「あの……ハード、さん?」
「なに?」
「そんなに……あたいを奴隷にしたいの?」
「ああ、したい。というかする」

 迷うことなく答えた。

「これはだけ譲れない。あいつはもちろんだけど、たとえフィーユ自身が抵抗しても俺はそうする」
「……そっか」

 フィーユは頷いた、口角を微かに持ち上げて穏やかに微笑んだ。

「分かった。これからよろしく……ご主人」

 俺のことをそう呼んだ瞬間、彼女の身体が光った。
 穏やかで、落ち着いた光。
 最初は光だと感じたが、次第に目が慣れていき、光が景色に溶け込んだ。

「今のは?」
「あたいの『ちーと』」
「え?」
「本当の自分の魂を取り戻した、本当のあたいの『ちーと』みたいだ」
「あっ……そういうことか。前はあいつが取り憑いてたから……」

 頷くフィーユ。
 どうやら前のはあの男が――不純物が混ざっていたから偽物の『ちーと』みたいだ。
 今の彼女、混じりっ気なしの自分だけの魂でいるフィーユのものが本当の、本来の『ちーと』らしい。

「それって――」

 と聞く前に何となく分かった。
 フィーユの光に包まれ、いつの間にか痛みが消えていたのだ。
 男にさんざん痛めつけられた体が治っていく。

 癒やしの光。

「あたいのまわりにいると回復し続けるみたいなんだ」
「そうか」
「あの子……コハク姫があたいに回復魔法をかけ続けてくれたからなのか、それとも――」
「俺の奴隷だからだ」
「――っ!」

 息を飲むフィーユ、そう言われるなんて予想もしてなかったって驚きの顔をした。

「ご主人の奴隷だから?」
「ああ」
「……運命?」
「そうだ」

 彼女を一目見たときから感じていた。
 運命。
 奴隷にするのが運命なら、『ちーと』の内容も運命に決まってる。

「そっか、そうかもね」

 フィーユと見つめ合う。
 直後、歌声が聞こえた。

 イノリの歌声だ。

 振り向くと、奴隷の四人が男を制圧しているのが見えた。

 フィーユの魂が戻ったからか、男の腕輪は黒から元の色に戻っていた。
 それにともない、抑制させていた奴隷達の『ちーと』も戻った。

 イノリの歌声で、男はあらゆる状態異常にかかり、足元から徐々に石化していく。
 それだけでなく、コハクのアイスバインドで体を縛られ、サヤカに両腕をがっちり捕まれていた。
 ルナは俺のそばにやってきて、いつでも時間を止められるように待機した。

「不覚っ!」

 男は元の喋り方に戻っていた、顔をくしゃくしゃに、憎悪を滲ませてゆがませた。
 だが、もうどうすることもできない。

 チートを取り戻した奴隷たちに囲まれて、男は縛られて、石にされていった。
■10月10日書籍版発売します
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