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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第四章

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47.待ち伏せ

 ギルド「ラブ&ヘイト」の中、サイレンさんが他の冒険者の相手、ギルマスの通常業務をするために去った後、残った俺たち。
 俺とサヤカ、コハク、ルナ、イノリ。
 五人でフィーユを囲んでいた。

 コハクがフィーユに手をかざして回復魔法を使っている。

「どうだ?」
「多分大丈夫だと思う。私がこうして回復魔法をかけて続けてる限りは」
「かけ続けてる限り?」
「うん。……穴の開いたバケツに水を注ぎ続けてる……っていえば分かるかな」

 眉をひそめた、サヤカもルナも同じように顔が強ばったのがちらっと見えた。

 サイレンさんとの話が終わった後、フィーユの顔色がとてつもなく悪くなっている事に気づいた。
 顔色は紙の様に真っ白で、血色というのもがまったく見当たらない。
 放っておけば今にも死んでしまいそうな位だ。
 間違いなく魂が欠けているからだろう。

 それにコハクが回復魔法をかけたんだが、彼女は「穴の開いたバケツに水を注いでる」って表現した。
 注ぎ続けていなきゃどうなるのか――想像もしたくなかった。

「これってすごくまずい状態ですよね。コハクさんの『ちーと』、十倍の魔力でもそうなんて」
「バケツの穴を塞がないとダメだね」
「あいつを……倒す」

 サヤカ、ルナ、イノリ。
 奴隷の三人が口々にいった。

「それもできるだけ早く……なんだが、その敵が何処にいるのかも……」
「わかるよ」
「え?」

 コハクがあっけらかんといった、全員が一斉に彼女をみる。

「分かるんですかコハクさん」
「うん。サヤカにも分かるはずだよ」
「えっ……?」
「あたしと同じだから」
「同じ……あっ」

 サヤカはハッとした顔でまずフィーユを見つめて、それから反対側にぱっと振り向いた。
 振り向いた先はギルドの壁。掲示板すらないただの壁。
 サヤカは、そこを穴が開くほどじっと見つめた。

「本当だ……わかる」
「でしょ」

 通じあうサヤカとコハク。

「ねえねえ、どういう事なの?」
「……『ちーと』か」

 二人を見つめ、確認する様にたずねる。
 サヤカとコハクの共通点、ルナやイノリにはない共通点。
 それは『ちーと』、二人とも「相手の十倍」になる『ちーと』を持ってる。
 少し前からそれを更に使いこなすために、相手を感じる練習をしている。

 その事を思い出した俺に、サヤカとコハクは同時に頷いた。

「うん、フィーユさんは今二人いるの」
「ここにいる彼女、それとあっちにいる彼女」
「なるほど……持ってかれた魂があっちにあるのか。コハクは回復してるから気づいたんだな」
「うん!」
「レーダーみたいな感じでわかる」
「れーだー?」

 首をかしげてサヤカに聞き返す。

「えっと……方向と大体の距離が分かるってことです」
「そうか」

 れーだー、ってのが何なのか分からないけどそれはほうっとこ。
 重要なのは相手が何処にいるのが分かればいいのだ。

 俺は考えた。
 手持ちの戦力(ちーと)と、やらなきゃいけないこと。
 それを実現するためのやり方を考えた。

「……一気に近づいて、一撃でやってしまおう」
「どうするの?」
「方向と距離は分かるんだよな」
「うん! あっち30キロ……大体半日歩いたくらいのところにいるよ。さっきからずっと止まってる」
「それが分かれば充分だ。俺とルナが時間を止めて近づいて一撃で倒す。触ったら時間停止が止まるけど、一撃で倒せば問題ない」
「でもご主人様、相手は反射の『ちーと』を使ってくるよ」

 コハクはフィーユに回復をしつつ、懸念を口にした。

「それも考えた。回復魔法はこうやって長くかけ続けることも出来るんだろ。出発前――時間を止める前にかけておけば、攻撃して反射される間も回復できる。回復分でやつの生命力を上回れば倒せる」
「そっか」
「じゃあ行くのはハードさんとルナだけ?」
「いや、みんな連れて行く。手押し車に乗せて俺とルナが押してく」

 どうして? って視線がかえってきた。

「フィーユは連れて行かないといけない、倒した瞬間どうなるか分からないから近くにいないと。同じ理由で回復を使えるコハクもだ」
「わたしは?」
「サヤカはヤツの背後に置いとく、時間が動き出した瞬間に捕まえてくれ」
「拘束するんだね」
「そうだ」
「わかった」
「私、は?」

 いつもの朴訥な声でイノリが聞いてきた。

「イノリは攪乱を頼む」
「かくらん?」
「『ちーと』じゃない歌を歌っててくれ。それで向こうの集中力を少しでも反らせるはずだ」
「わかった……」

 これで話はまとまった。
 サヤカとコハクに教えられた、例の男がいる方角に目を向ける。

 待ってろよフィーユ……今行くからな。

     ☆

 時間が停止した中で、俺はルナと手をつないで一緒に手押し車を押して野外を進んでいた。
 二輪の手押し車の上にサヤカとコハクとイノリ、そしてフィーユが乗ってる。

 フィーユ以外の三人は停止した時間の中で固まってても分かるくらい、目をキラキラ――いや爛々とさせていた。

「興奮……してるのか?」

 疑問が口をついて出た。

「してるよ、みんな」
「どうしてだルナ」
「そりゃハードくんに頼まれたからだよ。みんなもそうだけど、ちょっと前からハードくんに頼まれごとされるとすごく嬉しくなっちゃんだ」
「嬉しい?」
「うん!」

 ルナは大きく頷いた。
 明るくて感情が顔に出る彼女がいう「嬉しい」は格別な感じがする。

「命令されるともっと嬉しいんだけどね。多分ハードくんがルナ達のご主人様だからだと思うんだ」
「なるほど」

 そういうことだったのか。

「危ない事、大事なこととかだともっと嬉しくなるんだ。今のみんなの気持ち、ルナすごくわかるんだ。だからね」
「うん?」
「フィーユにも早くそれを教えてあげたいんだ」
「……そうだな」

 言葉通り嬉しそうにするルナと一緒に手押し車を押していった。
 直線距離で半日程度の距離、四人を乗せた手押し車を押しながら進むのは大変だった。

 だけど問題はない、時間は止まっているのだ。
 少し焦るが、その焦る心を自制する。

 少し進んでは休み、疲れがたまってくれば止まった時間の中で野宿した。
 ルナと手をつないで、ゆっくり、ゆっくりと進んで行く。

 手を離さないだけを強く意識した。
 手をつなぎ続けて辿り着けば、射程外からの瞬間移動での急襲が成功する。
 だから、何があっても手を離さないことを意識して進んだ。

 野道を進んで、途中の湖をぐるっと回り込んで、崖を降りて登る。

 直線で半日程度の距離を、三日くらいの時間をかけて進んだ。
 そして、辿り着く。

 ヤツは一人でそこにいた。
 小山の開けた山頂に、一人で佇んでいた。

「いたよハードくん」
「ああ。念の為まわりを調べて見よう」

 手押し車を置いて、ルナとまわりを調べて回った。
 ヤツを中心にして、村一つ分の範囲を広げて調べて見たが、怪しいものは見当たらなかった。

 敵はヤツ一人だ。

 それを確認した俺たちは準備を始めた。
 まずはサヤカを下ろして、ヤツの背後に立たせた。

 時間を止める直前に腕を広げたサヤカは、動き出した直後に目の前の相手を拘束する手はずになっている。

 イノリも下ろして、男の真横の離れたところに置いた。
 歌声が届く距離、しかし相手の攻撃が届かない程度の距離だ。

「これでよし、だね」
「ああ、後は俺が……」

 手押し車に乗せていたロングソードを抜き放った。
 これを使ってヤツを倒す。

 男の真っ正面に立って、ロングソードを構えて、ルナにいう。

「刺した瞬間に時間停止がとけるはずだ、ルナはすぐに俺から離れてフィーユを守りにいってくれ」
「うん! 分かった」
「それじゃ行くぞ。せーの、で」
「うん、せー……」

 ロングソードの柄を握る手に力が入る、ルナとかけ声を揃える。
 万全の下準備、そうして奇襲の一撃を付きだそうとした、瞬間。

 ぎょろり、男の目が動いた。
 動けるはずのない時間停止の中で動いた!

「なっ!」
「かかった」

 男は両手をかぎ爪状にして、俺とルナを掴もうとした。
 とっさに体が動いた、数日間つなぎっぱなしのルナを手を離し、真後ろに向かって放り投げた。

 時が動き出す、男の爪が俺の肩に食い込んで、肉をごっそりえぐっていった。

「ご主人様!?」
「ハードさん――きゃっ!」

 コハクが驚き、サヤカが男に吹っ飛ばされる。
 直前から歌っていたイノリの歌声も止まってしまう。

 完全に予定が狂ってしまった。
 何が起きたのか――俺は死ぬほど眉をひそめ、男をにらみつけた。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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