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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第四章

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46.抜け殻

 コハクが石化しているイノリの前に立ち、目を閉じて両手をかざした。
 手のひらから出た魔法の光が拡散して、イノリの全身を包む。

「治せそうか」
「大丈夫だと思います」

 コハクの代わりにサヤカが答えた。

「そうなのか?」
「うん。コハクさんのそれって、相手の十倍の魔力で回復をするから、多分大丈夫だと思います」
「なるほど、攻撃魔法だけじゃなくて回復魔法も相手の十倍の魔力か。イノリは魔力が高いから大丈夫だな」
「はい」

 頷くサヤカ。
 同じように十倍の『ちーと』を使う彼女が説明してくれている間に、イノリの状態異常が徐々に治っていった。
 石化が治り、火傷も治って、出血も止まる。

 あっという間に、状態異常が全部治った。

「フィーユも治すね」
「頼む」

 イノリのが一段落してフィーユに向かって行くコハク。
 俺は、未だに眠っているままのイノリの姿を見た。

 状態異常は治ったが、彼女の服は血まみれのままだ。
 出血の血があっちこっちに染みを作っていて、それが顔にもこびりついていて、気の弱い人間ならすぐさま目をそらしてしまう有様だ。

 俺のせいだ。
 俺がやれって言ったからこうなった。

 おれが……。

「ハードさん……あの、イノリちゃんはきっと――」
「大丈夫だ」
「え?」

 驚くサヤカ、驚きに見開いた目で俺を見つめる。

「悲しんではない、後悔もしてない」
「ないん……ですか?」
「ああ、後悔なんてしたら、苦しさに耐えて最後まで歌ったイノリに申し訳が立たない。俺はご主人様だ。奴隷に命令はする、その命令の成功も失敗も全部ご主人様の責任。それは当たり前のことだ」
「当たり前なんですか」
「そうだ。だから悲しまないし、後悔もしない」
「……」
「どうした、そんな顔で俺をみて」

 さっきまで俺を慰めたがってるサヤカが違う表情をしているのが見えた。
 ますます俺を見つめて、でも驚きの色はなくなって。
 よく分からない顔で俺を見つめていた。

「なんか……よくわかりませんけど」
「うん?」
「すごいな、って思う」
「……」

 何もいわないでおいた。
 ご主人様として当たり前のこと、当たり前の心構えをいっただけなんだから。

 後悔はしないが、反省までしないわけではない。
 反省して、今後の命令はもっと的確に出来る様にしていく。
 そうなるように密かに誓った。

「あれ?」
「どうしたコハク」
「ご主人様……」

 振り向いた先で、コハクが困りはてた顔をしていた。
 魔法での治療は終わってるようだ、彼女の手は下ろされている。
 石化されたフィーユも元に戻って、イノリ同様血まみれだがあらゆる状態異常が治ってる。

 なのに、コハクは困り果てた表情を浮かべている。

「何があった」
「彼女をみて」
「うん? おきてる……うん?」

 言いかけて、俺も眉をひそめてしまった。
 治癒が終わり、仰向けに寝そべっているフィーユは目を開けていた。
 目覚めたのか――と思ったらどうにも様子が変で、まっすぐ天井を見あげているが、目に光がなく、表情もなくてぼうっとしている。

「フィーユ?」
「……」
「大丈夫か? まだどこか悪いのか?」
「……」

 呼びかけても返事がなかった。
 呼んで、顔の前で手をひらひら振って、肩も揺すってみて。
 でも返事はない、まったく反応しない。

「どういうことだ?」
「わからないの。状態異常は全部治ったはずなんだけど……」
「なんか……まるで人形みたい……」

 ルナのつぶやきに、その場にいる全員が息を飲んだ。
 人形。
 これ以上ないぴったりな表現だ。

 目は開けているが、何も見えていないようで、何も反応しない。
 息をしてるだけの人形みたいだ。

「どういう……ことなんだ……?」

     ☆

 ギルド、ラブ&ヘイト。
 俺たちは人形のフィーユをここに担ぎ込んだ。

「眠り姫には王子様のキスで――」
「墨で顔を洗ってから出直しなさい♪」

 いきなり口説くというか襲おうとした旦那さん(?)を折檻した後、サイレンさんは俺たちを苦い顔で見た。

「あんただろうって思ったらあんただったね。ま、今どき古い作法まで持ち出してご主人様にこだわるのはあんたくらいのものだけど」

 予告してフィーユをさらったのが俺だってことは、どうやらサイレンさんにはバレバレみたいだ。

「ねえ……ハードさん、大丈夫なんですか? 彼女はギルドの偉い人なんだよね」
「大丈夫だ。俺は予告状を出した、そして予告状通りさらった。なら誰にももんくを言われる筋合いはない」
「……この世界の作法ってすごいなぁ」

 またぶつぶつと何かをいうサヤカをひとまずほっといて、サイレンさんに状況を説明した。
 彼女をさらった後、例の男がいきなり現われて、それを撃退したらフィーユがこうなったと。
 一連のことをサイレンさんに説明した。

「目を覚ましたらこうだったの?」
「はい」
「……」

 フィーユの顔をのぞき込むサイレンさん。
 額に手を当てたり、手を取ったり、目をのぞき込んだり。
 まるで医者の様に、フィーユの様子を観察した。

「これは……」
「何か分かるんですか!」
「魂が……かけてるみたいだわ」
「魂?」
「詳しくは聞かないけど、彼女に何が力を授けた後、あの敵が彼女の中から現われたんだよね」
「はい。多分取り憑いて俺に接近してきたんだと思う。言葉少なくてよくわからなかったけど『ちーと』……俺の奴隷が持つ力を狙ってたんだと思う」
「その後彼女の身体から離れた」
「ええ」

 サイレンさんは難しい顔のまま、近くにある掲示板に向かった。
 画鋲で留めてある依頼の紙、その一枚を無理矢理剥がした。
 びりりと破かれる紙、一部だけ画鋲に止められたまま掲示板に残った。

 サイレンさんは画鋲と残った紙きれをさして。

「これが今の彼女」

 といった。

「体から出ていくときに、力と一緒に魂をむりやり引っぺがしておっていったんだと思う」
「そんな事が……」

 聞いたこともない状況だった、しかしサイレンさんが見せてくれたそれは視覚的にわかりやすかった。理屈じゃない説得力があった。

「これが本当なら……まずいわね」
「え?」
「魂が持ってかれたのよ。魂が足りない肉体の末路は一つ」

 サイレンさんは口をつぐんだ。
 息を飲んだ。

 わかりやすい話だった。受け入れたくないけど、わかりやすいことこの上無かった。
 魂がない肉体の末路なんて「死」しかない。

 フィーユを見た、今でも光のない双眸で天井を見あげている彼女を見つめる。
 魂を……あの男から取り戻さなきゃ!
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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