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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第四章

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45.奪還

 サヤカが真っ先に飛び出した。
 一瞬で距離を詰めて、フィーユの胸もとから出ている男の顔に向かって拳を振り抜いた。

 半透明の男の顔、しかし実体はあるみたいだ。
 普通に殴られたと同じように、男の顔は横に強くしなった。

「きゃっ!」
「サヤカ!?」

 悲鳴を上げて真横に吹っ飛ぶサヤカ。
 壁に背中をしたたかに打ち付けて、崩れ落ちて床にへたり込んだ。
 口角からつー、と一筋の鮮血が流れ落ちた。

「まさか……やめろコハク!」
「えっ!?」

 呼び止めたが時既に遅かった。
 サヤカと同じタイミングで反応したコハクは既に魔法を撃っていた。
 二本の氷の矢が左右から弧を描いて男の顔を刺す。

「きゃああ!」

 コハクも悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちた。

 反射。

 ついさっき見たばかりの、フィーユの『ちーと』だ。
 もらったダメージをそっくりそのままかえすそれは、男の顔にも適用していた。

「ハードくん! あれ見て!」

 しかし、それだけじゃなかった。
 悲鳴に近い声を上げたルナ、彼女の目はフィーユに釘付けになっていた。
 男に取り憑かれたようなフィーユ、口角からサヤカと同じ血がこぼれ落ちていて、両足が何かに貫かれたように血を流していた。

 フィーユの反射は同時に自分にもくるって言ってた、言ってたが……。

「ヤツをやったのにフィーユにダメージがいくのか? そうか……フィーユの『ちーと』だからか」
「どういうこと?」
「『ちーと』ごと操られてるって事だ」
「そんな……」

 言葉を失うルナ。

「愉悦」
「ふざけるな! 今すぐ彼女を離せ!」
「拒否」

「ルナ!」
「うん!」

 ルナは頷き、に俺の手を握ってきた。
 瞬間、世界の色が変わる。時間が完全に止まる。
 ルナの『ちーと』、俺と手をつないでる間は時間を止める事ができる。

 時間を止めてる間は俺たちしか動けない。
 フィーユと男も止まったから、ちょっとだけホッとした。

「引き離せないか試してみよう」
「うん!」

 ルナと一緒にフィーユ達に近づき、顔とフィーユを剥がせないかとやってみた――が。

 異変が起きた、触れた瞬間フィーユが動き出したのだ。

「……理解」
「なに!」
「うそ、動けるの!?」
「手を離すぞルナ! 向こうも動けるのならこっちが二人っきりなのは分が悪い!」
「う、うん!」

 ルナは慌てて手を離した、世界が元に戻った。
 そしてもう一度手をつなぐ。
 世界がまた止まる、フィーユも止まった。

「……反射のせいだろうな。時間を止めてても触ったら向こうも動けるようになる」

 再び止まったフィーユと男を見て、俺はそう判断した。

「うそ……」
「触らなきゃ動けないみたいだけど……でもこれじゃ実質……」
「ルナは力になれない……」

 落ち込むルナ。

「……戻そう、触らなきゃ向こうも動けないけど、触れないんなら意味がない」
「……うん」

 頷くルナ、再びつないだ手を離した。
 世界が戻る、みんなが動き出す。

「ハードさん?」
「まさか……時間停止も?」

 不思議がるサヤカ、その一方で何かを察したコハク。
 どうする……どうすればいい。

「達成」

 俺が迷っている内に、男の顔はフィーユの胸もとから離れた。
 胸から離れて、上半身になって、フィーユの背後に取り憑いた。
 まるで背後霊のようだ、フィーユが無表情で目もうつろになっている、文字通り取り憑かれた様な感じだ。

 そのフィーユが身を翻す、窓の方に向かって歩き出す。
 立ち去る気だ。

 引き留めなきゃ、でもどうやって!?
 ルナとまた時間を止めるか? いやそれは問題先送りにするだけだ。

 何か……何かもっと他に。
 必死に頭を巡らす、何かないかと部屋の中を見渡す。

 瞬間、頭の中に白い何かが突き抜けていった。
 それがなんなのかを理解するよりも早く口が開いた。

「イノリ!」
「わかった」

 イノリは迷いなく歌い出した。
 奇跡の歌、『ちーと』の歌。

「無駄」

 男はそういう、事実彼の言ったとおりだ。
 イノリの歌、あらゆる状態異常を起こす歌。

 毒出血沈黙火傷暗闇――。
 ありとあらゆる状態異常にフィーユがかかり――イノリもかかった。
 そして、二人同時に。

 石化――石になってしまった。
 歌声が止む、フィーユの動きも止まる。

 背後霊のような男は必死になってフィーユを動かそうとするが、石になったフィーユはウンともスンともしなかった。

「失算」

 男はそう言って、フィーユの体から飛び出した。
 半透明の姿で窓を突き破り、外に飛び出す。

 それを追いかけて窓際に走った。

「うぎゃあああああ!」

 家の外、大通りで若い男が悲鳴を上げた。
 男が新たにその男に取り憑いたのだ。

「継承」

 そしていつもの調子でつぶやくと、新たなに取り憑いた男の体を使って逃げ出した。
 それが街角に消えていくのを見てから、俺はリビングの中に振り向く。

 石になってるフィーユ、しかしどうにか取り戻せた。
 石化は治せる、今は取り戻せたことでよしとしなきゃ。

 フィーユの向かいにいる、同じく石化したイノリを見た。
 ギリリと奥歯をかみしめた。

 フィーユもそうだが、イノリもあらゆる状態異常にかかっている。
 石になってるだけじゃない、血が流れているし、手に火傷の跡もある。

 俺がやらせた。
 俺の命令でそうなったのだ。

 くそっ……。

「ご主人様」

 コハクが近づいてきた。

「コハク……お前は大丈夫なのか」
「あたしは大丈夫、それよりもこれ」

 彼女はそう言ってハンカチを取り出した。
 どういう意味だ? って首をかしげてると、コハクは俺の手を取った。

 俺の手は血が出ていた。
 握り締めすぎて爪が食い込んでいた。
 自分のふがいなさが腹立たしかった。

「嬉しいと思うよ」
「え?」

 瞠目して、コハクの顔を見つめる。
 彼女は穏やかに微笑んだまま、ハンカチを俺の手に巻き付ける。

「ご主人様に命令してもらっただけじゃなくて、身も案じてもらえるんだから」
「だが……」
「ご主人様の命令でイノリはすぐに歌いだした」
「……」
「だから、そういうことだと思うよ」
「……そうか」

 イノリを改めて見た。
 石化している彼女は歌ってる時の姿のままだ。
 その顔に迷いは一切無い。

 コハクの言うとおり、そういう事(、、、、、)みたいだ。

 そうだな、そうだよな。
 ご主人様なんだから、命令しといて後悔はなしだよな。

 ありがとう、と言わんばかりにコハクの頭を撫でた。
 顔をあげて俺を見るコハクに向けて。

「石化から戻った後、うんとほめてあげなきゃな」
「うん!」

 コハクは、自分の事の様に喜んだのだった。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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