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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第三章

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36.サイレス

「サヤカ! コハク!」
「こっちは弱いです!」
「こっちもよ!」

 二人が叫ぶ。目の前の男をターゲットにして、可能なら攻撃すると命令しておいたが、二人とも動かなかった。
 サヤカとコハクの『ちーと』は相手の十倍つよくなる能力だ。相手が自分の元の十分の一以下だったら逆に弱くなってしまう。

 ちょっと驚いた。
 力とスピードがサヤカの十分の一以下、魔力はコハクの十分の一以下ってか?
 考えつく限り一番ない(、、)パターンだったが、それがあった。

 なら――。

「変調」
「――っ!」

 目の前に男が迫った、だいぶ離れていたけど、瞬きをするうちに一瞬で距離を詰められた。

「ハードくんから離れて!」

 相手の能力に依存しないルナが攻撃をしかけ、男を押し返した。

「サヤカ! コハク!」
「ダメです! やっぱり弱い」
「ちがう、かわったんだ!」
「変わった?」
「こいつ、自分の能力を操作できるの!」
「なに!」

 男をみた。
 不気味さただよう表情はすこしも変わらない。

「自分の能力をかえるだって?」
「うん! さっきの一瞬で感じたの、動いた一瞬だけ強くなったの」
「ハードくん、あいつさっき『変調』っていった!」
「そういうことか……」

 つまり普段は弱くて、攻撃する一瞬だけ力をあげるって事か。

 男はブレスレットを持っていた。
 あの輝く、人間の苦痛を吸い取って力にかえるブレスレットだ。

 変動する力もそのブレスレットの力か。

「くっ!」

 どうしたらいい――って考えていたらまた襲われた。
 男が目の前に迫り、目の前が真っ赤に染まった。

 平衡感覚がなくなって、気づいたら地面に顔を突っ込んでいた。

「ハードさん!」

 駆け寄ってくるサヤカ。

「サヤカ……反応……出来るか?」
「ごめんなさい、やってるけど、間に合わなくて」

 ちらっとコハクをみる、彼女も難しい顔をしている。

 男はじりじり近づく。
 連撃をしかけてこない――のはずっと能力を高めたままだとサヤカとコハクが『ちーと』で対応出来るからだ。
 そしてそいつは、二人の『ちーと』を知っている、ということになる。

 ――ならば!

「ルナ!」
「うん!」

 ルナと手をつないだ。
 時が止まる。

 男に近づいて、ルナがナイフを出して、心臓を一突き――。

 ガキーン。

 金属音がして、ルナのナイフがはじかれた。

「かったーい」
「防御力は高められたままなのか……よっぽど二人を研究してきたな。いや、ルナのも研究してきたのか?」
「どういう事?」
「サヤカとコハクの『ちーと』は防御力とは関係ない。動かザルの討伐を知ってるんだ」
「あっ、そっか……」
「攻撃はする時だけあげる変動制、防御力は常に高くすればこの時間止めにも対処出来る」
「ど、どうするの?」

 おれは考える、どうすればいいのか。
 おれごとやってもらうか? それとも。

「ルナ」
「うん」

 彼女と手をつないだまま男の背後に回る。

「時間を戻す、コハクにおれごとやってもらう」
「わかった!」

 ルナは素直に頷いた。
 手が離れる。
 時が動き出して、ルナがパッと離れた。

「コハク! おれごとやれ!」
「わかった! ――あれ?」

 手をかざして詠唱するコハク、しかし魔法は発動しない、彼女は驚愕する。
 おれに光がまとわりついてるのを感じる、全身が脱力するのを感じる。

「同化」
「くっ、おれの力を下げたか! このやり方も知っていたか」
「至極」
「うわああああ!」

 全身に電流が流れた、男を捕まえてられなくなって、膝から崩れ落ちてしまう。

「ハードさん!」
「ご主人様!」
「ハードくん!」

 奴隷の三人が叫び声を上げた。
 おれは力を振り絞って男を突き飛ばした。

 距離を取った、奴隷達が駆け寄ってきた。

「大丈夫ですかハードさん!」
「ああ……なんとかな……」
「ごめんなさい……わたし、役に……」
「気に、するな、それよりも……」

 今はどうするかだ。
 何か方法はないか、何か。

 そう思ってると、歌声が聞こえてきた。
 イノリだ。
 これまでずっと蚊帳の外だったイノリが歌い出した。

 イノリの『ちーと』、歌であらゆる状態異常を与える『ちーと』。

「サヤカ! コハク! ルナ! イノリを守れ!」
「「「――はい!」」」

 三人は応じて、おれからイノリの前に移動した。
 彼女を守るようにして、男に立ち向かう。

「想定」

 男がつぶやく、パチンと指をならす。
 直後、彼の前にリサが現われた。

 空間から溶け出すかのように、リサが姿を現わした。

「リサ!」
「ハード!」

 リサは忌々しげにおれを睨んだ。

「命令」
「うっ、わかったよ!」

 男に睨まれて、リサは怯えた表情をして、それから歌い出した。

 イノリに対抗する歌を歌い出した。
 正反対の二人の歌がぶつかる。

 穏やかなイノリの歌、激しさ一辺倒のリサの歌。
 それが真っ向からぶつかった。

「サヤカコハク、やれるか?」
「ダメです、リサさんも」
「能力が避けられてる」
「当然」
「くっ……」

 リサも対処済みって事か。
 見守るしかなかった、歌のバトルを。

 次第に、リサの顔が苦しくなった。
 脂汗を浮かべて、息を荒げる。
 イノリの歌がリサの歌を上回ったのだ。

「当然じゃん! イノリンの歌だもん」

 ルナが得意げに胸を張った、同感だ。
 イノリの歌は、単純に歌として聴いててもリサのそれを上回ってる。

 そこに『ちーと』が加わればリサを圧倒するのも当然だ。

 このままリサを歌でねじ伏せれば、あとは男だ。

 と、思っていたら、男は更にパチン、と指を鳴らした。
 リサの向こう、イノリの背後にもう一人現われた。

「あの人は!」
「元大統領!?」
「うそ! あそこで倒したじゃん!」

 驚く三人の奴隷。そう、現われたのはあの空間で倒したはずの元大統領、この国の元トップアイドルだ。

 彼女は歌い出した。歌はダイレクトにイノリを襲った。
 イノリの体が揺れた、歌声が一瞬止まった。

「イノリ!」

 揺らいだの一瞬だけ、イノリはすぐまた歌い出した。
 しかし、苦しそうだ。
 必死に苦しさに耐えて歌ってるのが手に取るように分かる。

 イノリを助けなければ、イノリを!
 そう思っていると。

 ――ころ、して。

「え?」

 ――わたしを……ころ、して。

 頭の中にダイレクトに声が響いてきた。
 元大統領の声だ! ぱっと振り向くと、彼女は相変わらず歌ってる、おどってる、アイドルとしての高いパフォーマンスを見せている。
 が、目から血の涙が流れている。

「ルナ!」
「うん!」

 ルナが元大統領に飛んで行った。
 ナイフで彼女の首を切り落とした。

 ゴロン、と地面に転がった彼女の首、体も崩れ落ちる。
 これで――と思ったが終わらなかった。

 首が体に吸い付くように向かって行き、そのままくっついてしまった。
 首がくっつき、彼女が起き上がる。

「不死」
「ご主人様! 彼女はもう死んでる、アンデットみたいなものよ」
「物理的に殺せないってことか、くっ!」

 ピンチが続く、いや更に増した。
 不気味な男は念入りに、おれの四人の奴隷の『ちーと』を封じ込めた。
 奴隷を持つようになってから、『ちーと』を使うようになってから最大のピンチだ。

 どうする?
 ……にげよう。

 今の所完全(、、)に封じられてない『ちーと』はルナのものだ。
 時を止めれば、逃げる事なら出来る。

「ル――」

 ルナを呼び、手を伸ばした瞬間。
 イノリと目が合った。
 苦しそうなイノリ、しかし、その目をおれは知っている。

 あの場所で、イノリが一人歌い続けた場所でみたあの目だ。

 ――最後まで歌わせて。

 そう、聞こえた気がした。

「……」

 伸ばした手を引っ込めた、その場でどかっと座り込んだ。

「ご主人様!?」

 驚愕するコハク、サヤカとルナも同じ反応だ。
 が、おれは気にせず、イノリを見つめた。
 あぐらを組んで、彼女の歌を聴いた。

「愚行」

 何とでもいえ。
 おれは……イノリの歌を信じる。

 瞬間、イノリは微笑んだ。
 しっとり歌い上げながら、おれに向かって微笑んだ。

「え? 今のって……」
「背中に翼が……」
「女神、様?」

 奴隷の三人が戸惑った。
 イノリが微笑んだ瞬間、彼女の背中に光る翼が一瞬だけ見えた様な気がした。

 そして、光があふれて、この場を包み込んだ。

 視界が光に染まる、何も見えなくなる。
 が、状況は分かる。
 三つある声、入り乱れる歌。
 その一つが消えていった。

 元大統領の声が消えていった。

 ――ありがとう。

 光が収まる、戻った視界が捕らえたのは、笑顔で体が朽ちていく元大統領の姿だった。
 何となく理解した。イノリの『ちーと』、状態異常の一つ。
 アンデットに対する「浄化」が働いたのだと。

「やすから眠ってくれ」

 いい様に使われた彼女に手を合わせた。
 そして、もう一つの歌も消え入りそうになった。

 元からイノリの矢面に立たされていたリサはいよいよ膝から崩れ、歌が途切れ途切れになった。
 体から血を吹き出し、肌の色が毒々しくなって、指の先端が石化していく。
 イノリのあらゆる状態異常が彼女を襲っている。

 決着。

 リサもまた動けなくなって、歌が完全に止まった。

「真打」

 男はブレスレットを取り出した、それを使って、自分に使った。

 輝く光が男を包んだ、男は歌い出した。
 それまでの喋り方から想像もつかないような、低くて渋い、しかしいい歌声だった。

「イノリ」

 おれは静かにイノリに命じた。イノリの歌が男に向けられた。
 イノリと男の歌がぶつかった。

 光の翼がまた現われた。
 あれは多分……この国の信仰の源、女神レディの加護なんだろうな。
 女神の加護を得たイノリの『ちーと』は更にパワーアップをした、男の歌さえも圧倒した。

 男の歌が途切れ途切れになっていく、リサの時と同じ。
 しかし、体に変化はない。

「どういう状態異常なんだ?」
「多分だけど」

 コハクが冷静に言った。

「今までの物は全部対処してる、今までに出なかった状態異常だと思う」
「今までに出なかった……なんだ?」

 男の様子を見守った。
 やがて、体に異常がまったくみられないまま、男の歌が完全にとまった。

「――」

 男は自分の喉を押さえた、必死に声を出そうとした。
 これは、そうか。

「沈黙……」

 状態異常、沈黙。
 歌の国にあって、それはある意味「死」を同義の物であった。

 おれのつぶやきを聞いた男の表情は驚きと、そして恐怖に染まった。
 更にブレスレットを取り出した、ブレスレットの輝く光を取り込んだ。

 しかし、沈黙は解けない。
 声がまったく出なくなっている。

 男の恐怖は更に絶望へと変わっていく。

 ――決着。

 おれはなんとなく、それを悟ったのだった。
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