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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第三章

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35.遭遇

「ご主人様」

 コハクがまっすぐおれをみた、おれは頷いてこたえた。
 アイドルバトルを勝ち上がるつもりでいたけど、こんな襲われ方をされたらそんな事をいってられなかった。

「行こう、サウンドヒールへ」

 おれが立ち上がり、他の奴隷達も続いた。

     ☆

 パッションの街の駅、夜でもう走ってないけど、それでもなんとかサウンドヒール行きのウマ車を出してもらおうとやってきた。

 夜の駅は守衛室に中年の男が一人いるだけで、他に人気はない。
 こっちは四人揃ってる、おれとコハクが前にでて、他の三人は後ろにいる。
 イノリは例によってぼうっとしてる。

「ウマ車をだすぅ? だめだめ、夜は出せないって決まりだよ」
「そこをなんとか。一刻でもはやくサウンドヒールに行きたいんだ」
「だったら明日の始発を待てばいい」
「始発ってどれくらいかかるんですか?」

 サヤカがおずおずと聞いた。
 ほとんどおれの背中に隠れてて、顔だけをだしておそるおそる聞いたって感じ。

 彼女が怯えるのも仕方ない、守衛室にいる男は飲んだくれてて、顔が真っ赤っかで息も酒臭い。

「夜明けと同時に発車する、わかりやすいだろ」
「夜明け!? また日がおちてからそんなに経ってないぞ」
「それじゃダメだよおじさん。ねえ何とかならないの?」

 今度はルナが口を挟んだ。
 娘が父親に甘える様な声で中年男にいった。

「だめだめ、夜は出せないの。ほら帰った帰った」
「おじさ――」
「いいから帰れ。――ったく、ライブに行けないわ夜番だわ、変な連中が無茶いってウマ車出せって言ってくるわ。なんて日だ! 今日は」

 男はそういって、更に酒をあおった。
 やけ酒みたいだな……というか。

「誰かのライブに行きたかったのか?」
「おう、見ろよこれ」

 男は一枚のチケットを取り出した。
 くしゃくしゃに握りつぶされた後だけど、半券はもぎられてない未使用品だ。

「Sランクアイドル、ナナ様のワンマンライブ。総選挙前の最後のライブだからすげえプラチナチケットだったんだぞ! それを……それをこんな夜番なんぞに。くそおおお!」

 男はそう言って更にやけ酒をあおった。
 おれはコハクに聞いた。

「ナナって、すごいのか?」
「何人かしかいないSランクアイドルだよ。今回の総選挙の最有力候補で、当選するのはほぼ間違いなしっていわれてくらい」
「そんなにすごいアイドルなのか……」

 そのプラチナチケットなら……ヤケになるもしかたないか。

「こちとら独り身だからよお、月に一回最高のアイドルの最高の歌だけが生きる楽しみだってのによ。くそっ!」
「……最高の歌を聴きたいのか」
「ああん?」
「最高の歌を聴かせてやったらウマ車を出してもらえるか?」
「おう、そうしてくれたら出してやるよ。けどよお、いっておくけどよお」

 男はすわりにすわった目で、酒臭い息をまき散らしながら言ってきた。

「今のおれは気が立ってるからよ、しかも逃したのはナナ様のライブ。生半可な歌じゃ満足できないぜ」
「それなら問題無い――イノリ」
「?」

 振り向き、きょとんと首をかしげるイノリにいう。

「歌ってやってくれ」
「……歌うと嬉しい?」

 イノリはおれをまっすぐ見つめて聞いてきた。

「嬉しい」
「わかった」

 即答するイノリ。
 そんな彼女をみて、男がいった。

「その子が歌うのか? って薬指に指輪、奴隷じゃねえか。おまえさん、悪い事はいわねえ、歌がうまいんなら奴隷なんぞやめて――」

 男の善意を最後まで聞かないで歌い出すイノリ。
 出だしから最高な歌声だった。

 心が震える、ご主人様なのに聞き入ってしまう。
 気づけばサヤカもコハクもルナも、他の奴隷達は完全にイノリの歌を楽しむ体勢に入った。

 そして、男も。
 説教の途中だったのに、酔いが回って目が据わってたのに。
 イノリが歌い出した途端、目を見開いて聞き入ってしまった。

 夜のパッション駅、イノリのワンマンライブが場を支配した。

     ☆

 失踪するウマ車にのって、プルルージュ共和国首都サウンドヒールに向かう。

 ウマ車の中でもぼうっとしてるイノリを、サヤカとルナが左右から挟み込んで、褒め称え続けている。

「すごいよイノリン、あたし感動したよ、しびれたよ、すごく興奮したよ」
「わたしも、あんなすごいライブはじめて。あれって何の曲? CDにしたら絶対百万枚は売れるとおもう」
「しーでぃーってなに?」
「あっ、CDはないんだ。えっと、CDっていうのは歌を記録して、あとで再生っていうあ聞き直す事ができるものなんだ」
「へー、風のテープみたいなもの?」
「カセットテープ?」
「うん、風のテープ」
「……わたし分かってきた、それ絶対わたしが思ってるものと違うものだって」

 ぼうとしたままのイノリ、盛り上がるサヤカとルナ。
 彼女達からすこし離れたところで、おれとコハクが向き合っていた。

「コハク、リサの居場所は分かってるのか?」
「登録した事務所と、住んでるところは調べてる。でも果たしてそこにいるか……」
「いない可能性は大きいよな、というか馬鹿正直にそこにいるわけないよな」

 コハクは頷いた。

「それでもまずは行ってみるしかないと思う」
「それにワナの可能性もあるよな」
「ご主人様の言うとおりだと思う」
「こうしよう、ついたらおれがルナと一緒に時間を止めて中を確認してくる。ワナがあったら一通り壊して回る。おれとルナで壊せないヤツは場所を覚えて、戻ってきたらお前かサヤカにやってもらう」
「うん、それがいいと思う」

 コハクとどう動くべきかを打ち合わせた。
 一度襲われた後だから、おれたちは慎重になった。

 ウマ車がサウンドヒールに向かって進む。
 突然サヤカが大声でおれを呼んだ。

「ハードさん! あれをみて!」

 ウマ車の中から外を見る、進行方向に無数の()が見えた。
 暗い夜の中で爛々と赤く光る瞳。

「何だあれは」
「あれ、オークだよ!」

 ルナはウマ車の屋根の上に飛び出して、手にひさしをつくって遠くを見回した。

「オークだって!?」
「普通じゃあり得ない……エンシェントモンスターがあんなにいるなんて」

 コハクは眉をしかめてつぶやいた。
 ほとんど過去の遺物になって、ごくまれに少数だけ確認されるのがエンシェントモンスターだ。

 進行方向の先に見えているオークは少なく見積もっても100体以上はいる。
 念の為にルナに聞く。

「全部オークなのか?」
「うん!」
「うぅ……なんかいやな感じ……」

 サヤカは両手で自分を抱きしめた、不安がはっきりと出てる。

「コハク」
「わかってる」
「あたしもやるよ」
「頼むぞルナ」

 二人にそういってから、サヤカをみる。

「大丈夫か?」
「うん……わたしも頑張る」

 サヤカはそういって、えいっ! とウマ車から跳び降りた。
 『ちーと』を発動させて、オークの十倍になるスピードで群れに飛び込んでいく。

 コハクは魔法を詠唱した、こっちもオークの十倍の魔力で彼女得意の氷の魔法を撃った。

 ルナは元からある持ち前のスピードでオークと渡り合った。
 『ちーと』なしの能力は彼女が一番高いだろうな。

 ウマ車をそのまま走らせて、オークを倒していく。
 群れを突破した頃には大半を倒しきってて、最後は一直線に追いかけてきたから、コハクの魔法でまとめて一掃した。

 サヤカとルナが再びウマ車に乗ってきた、接近戦の二人は返り血を浴びていた。

「ご苦労様、よくやった」
「はい」
「うん!」

 サヤカははにかんで、ルナは無邪気に笑う。

 ウマ車は更に進む。
 やがてサウンドヒールが見えた。
 夜の首都はまるで不夜城のようだった。

「ついた……」
「とりあえず……だね」

 ホッと胸をなで下ろす奴隷達。
 ……。

「ルナ」
「うん? どうしたのハードくん」
「手を」
「うん?」

 ルナは手を差し出した、おれはそれを握って、時間を止めた。

「どうしたのハードくん?」
「みんなを運んでウマ車からおりよう」
「どうして? またついてないよ」
「いいから」

 ルナは首をかしげたが、それでも言うとおりにした。
 止まった時間の中で動けないサヤカ、コハク、イノリの三人を順番にウマ車から下ろして、全員を遠くに運んだ。

 そして時は動き出す。

「あれ? どうしたのこれ」
「ご主人様?」

 サヤカとコハクは訝しげにおれを見る……イノリはぼーとしたままだ。

「……多分だけど」

 おれはウマ車をみた。
 サウンドヒールに向かって行く無人のウマ車は突然消えてしまった。
 まるで闇に飲まれたかのように。

「ああっ!」
「あれは……さっき宿屋での」
「やっぱりな、来ると思った」

「ハードさんどうして分かったの?」
「なんとなくだ、なんとなくそれがくるって思ってた。だからルナと一緒にみんなを下ろした」
「すごい……」
「わたしたちが気を抜いてたときに……」

 サヤカとコハクは尊敬しきった目をおれに向けてきた。
 おれはウマ車が消えた場所を見つめた。

 ここからは五分と五分だ。
 あるかも知れないし、ないかも知れない。

 あったらいいな、そう思ってしばらくそこを見つめた。

「だれか現われたよ!」

 来たか。
 そこに現われたのは不気味な男だった。

「……終幕」
「なにがだ?」
「――っ!」

 やり遂げた感をだしていた男の背後から忍び寄せて、健在っぷりをアピールした。
 男は死ぬほど驚いたのだった。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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