挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第三章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

34/52

34.浄化の歌

「どうする、ご主人様」

 コハクがおれに意見を求めた。
 リサに加えてブレスレットが絡んできたとなれば、無視する訳には行かない。

「……もし」
「もし?」
「リサが大統領になったら大変だよな」

 おれがいうと、コハクは真顔で頷いた。

「普通に考えるとあの人はご主人様を恨んでるから」
「親書を渡すところじゃなくなるよな」
「もっと大変な事になるかも」
「もっと大変な事って?」

 ルナが小首を傾げて聞く。

「大統領って、この国で一番偉い人だから」
「王様みたいなものだもんね」
「そう。それにこの国のは総選挙で選ばれるから、いつもその時一番国民に支持されてる人なんだ。そんな人がもし『あの人大っ嫌い』って言ったらどうなると思う?」
「わわわ、それは大変」

「ご主人様、あの人はそうする?」
「……多分」

 幼なじみのリサ。
 子供の時からの事を思い出す。

 今にして思えば、ワガママで、自分の意見が通らなかったら大声でわめく性格だった。

 それに前の事で、かなりおれを恨むようになった。
 もしそれがもし大統領になったら……。

「うーん、でもでも、よく考えたらまったく問題無いよね」

 ルナがそんなことを言う。

「まったく問題ない?」
「だってあの人が大統領になれる可能性ってないもん。ハードくん、イノリンを大統領にしようとしてるし」
「……」
「……」

 おれもコハクもポカーンとなって、互いの顔を見比べた。
 たしかにそうかも知れない。

 リサが大統領になったらまずい事になる。
 逆に言えば、ならなかったら別にどうって事はないって事だ。

「本腰いれて彼女を大統領にしなきゃだめね」
「それも大丈夫、だってハードくんの奴隷だから」
「それって自分もすごいって言ってる様なものよ」
「すごいもん。だってハードくんの奴隷だから」
「そっか」

 楽しげに笑い合うコハクとルナ。

 可愛いな、二人とも。
 くすくす笑い合う姿がとても可愛い。

 今すぐカメラ小僧を連れてきて、この光景を残しておきたいくらいだ。
 それはムリだから、せめて自分の網膜に焼き付けておくことにした。

 おくことにした――が。
 コハクの表情が豹変した!

「ご主人様!」
「どうした」
「あっち、サヤカとイノリの部屋に異常な魔力が!」
「異常な魔力?」
「大きくない、でもすごく異常」

 コハクはものすごく険しい顔で訴えてきた。
 魔力の『ちーと』を持つ彼女にそれほどの顔をさせる「異常」だって!?

 行かないと――くっ遠い。
 イノリを休ませるために、話し声で起こさないようにするために一番遠くの部屋にしてた。
 駆けつけるには遠い。

「ハードくん!」

 ――時が止まる。

 ルナがおれを呼び、手をつないできた。
 その瞬間世界が反転して、時が停止した。

「これで間に合うね!」
「よくやったルナ」
「えへへ」
「さあ行こう」

 ルナと手をつないだまま、時間を止めたまま部屋を出て、サヤカとイノリの部屋に向かった。
 向こうの部屋に入った途端、目を疑った。

 部屋の中心に黒い穴があった。
 底が見えない不吉な黒。
 そんな黒い色をした穴だった。

 それにイノリ? が飲まれていた。
 穴の外にサヤカがいた、彼女はすでに穴に飲まれて片手しか外にでていないイノリを引っ張った。
 足元に引きずった痕跡がある、引っ張ったがますます飲まれていったのが分かる。

「イノリン! くっ、遅かったの?」
「いや、普通に駆けつけてたんじゃイノリだけじゃなくサヤカも飲まれてただろう。そういう意味じゃまだ間に合った方」
「どうするの?」

 無言でイノリの手を引っ張った。
 時間を止めた中でもものを動かしたり、敵に攻撃を加えたりする事ができる。

 このまま、イノリを引っ張り出すことも出来る――はずだが。

「びくともしないな」
「サヤカが力負けしてるくらいだから……」
「引っ張り出すのはムリって事か」
「どうする?」
「……」

 時間は止まってる、たっぷり、ゆっくり考える時間(、、)がある。
 おれは落ち着いて考えた。

 誰の仕業か分からない、だけど状況的にすぐに殺すとか、そういうことじゃなさそうだ。
 どうみても、どこかへ連れ去るのが目的だ。

 手を黒い穴の中に突っ込む、入れた。

 今度は頭を突っ込む。
 入れたが、分厚い布団の中に頭を突っ込んだように、何も見えない。

 おれでも入れる、多分他のみんなもだ。
 なら。

「はいろう」
「はいる?」
「ああ、みんなで入ろう。イノリがどこに連れ去られるのか分からないが、引っ張り出せないんなら一緒に入った方がいい」
「――うん! そうだね!」

 ルナは大きく頷いた。
 さっきまでどうしようかとおろおろしていたのが、ほっとして、さらには目をきらきらさせる様になった。

 おれとルナは一旦部屋をでて、時間が止まったコハクを運んできて、サヤカと共に黒い穴に飛び込んだのだった。
 全身飛び込んだ瞬間、おれは意識をうしなった。

     ☆

 意識を取り戻したおれは、すぐにまわりを確認した。

 サヤカ、コハク、ルナ、イノリ。
 おれの奴隷の四人は全員いる。全員いて、おれのそばに倒れている。
 サッと確認する、全員息がある、表情も普通だ。

 ぱっと見ただ寝ているように見えて、おれはホッとした。

 ホッとしたから、まわりを確認した。
 とても不思議な場所だった。

 まず、何もない場所に見える。
 上下左右の認識がおかしくなるくらい、何もなくて真っ黒な空間だ。

 それでいて「暗い」かって言われればどうじゃない。
 横たわっている奴隷達のまつげの本数さえも数えられるくらいよく見える。

 背景が黒いのに、見えるものは明るいところにいるように見える。
 普通それだとまわりの空間も明るく照らし出されるんだけど、そうはなってない。
 本当に、ものすごく不思議な空間だった。

 ちょっと歩いて回った。
 真っ黒だから自信はないけど、とりあえず直進した。

 ……どれだけあるいたんだろう。距離感覚までもくるってしまいそうだ。
 立ち止まって振り向く、奴隷達とはちょっとした、ボールを投げて普通に届く程度の距離しか離れてない。

 嫌な場所だ、長くここにいると気が狂いかねない。
 でなきゃ。

 ……どうやって?

 奴隷達のところにもどって、まわりを更に見た。
 手を出してあっちこっち触れてみた。

 なんの感触もない。
 なにもないし、出入り口とかそういうのがあるようでもない。
 あの穴がもしあれば、っておもったんだけど、そう言うのはない。

 どうするんだ。本当に。

     ☆

 しばらくして、奴隷が全員目を覚ました。
 彼女達の無事を確認しつつ、状況を説明する。

 話を聞くにつれ、サヤカもコハクもルナも徐々に表情が強ばっていった。
 イノリは体育座りしててぼうっとしてる。マイペースだ。

 最後まで話すと、サヤカは今にも泣き出しそうな、心細い顔になった。

「も、もう戻れないんですか?」
「いや戻る」
「え?」
「何があってもおまえ達を連れて帰る」

 おれははっきり宣言した。
 こんなところに閉じ込められて、奴隷ごと朽ちてったんじゃご主人様失格だ。
 何が何でも、絶対にみんなを連れて帰る。

「そこは安心しておけ」
「ご主人様がいうなら」
「ルナ、ハードくんについて行くね」
「うん……ハードさんを信じる」

 平常心そのもののコハク、満面の笑顔で頷くルナ、うつむき加減で頬を染めるサヤカ。
 三者三様の反応、どれもおれを信じてるからの反応だから、わるくない。
 ますますやる気がでた。

 さて、問題はどうするかだ。

 サヤカ達がまわりに散って、おれがしたのと同じように空間をチェックした。
 サヤカはすごく困った顔で、コハクは真顔だ、ルナはまるで子供のように無邪気に楽しんだ。
 ……イノリは相変わらず膝を抱えたままぼうっとしてる。

 おれはかんがえた、色々と。
 この状況を打破して脱出するための。

 ……どれくらい考えただろうか。
 ほんの一秒って気もするし、百年たった気もする。
 ここは空間感覚だけじゃなくて、時間感覚も狂わせる。
 そんな事をなんとなく思った直後。

「ご主人様、敵が」
「なに」

 コハクがいう、おれはちょっとホッとした。
 これほど「敵」という存在をありがたいって思ったことはない。

 コハクの視線を追いかける、そこに目つきの悪い小人がいた。
 小人は黒いだけの空間で、何も遮蔽物がないのに隠れて(、、、、)ちらちら様子をうかがってきた。
 いやバレバレだから。

「あっ、ワンチャンだ」

 サヤカがいった。

「最初の頃にサヤカと一緒に倒した魔物だな」
「うん!」
「ハードくん、あっちにも」
「どれどれ、あっ、クレーマーだ」
「きゃあああああ!」
「サヤカはクレーマーが苦手なんだっけ」
「は、ははははひ」
「えー、どうして、みんな可愛いじゃん」

 ルナは二本のアホ毛を揺らしながら言った。

「ルナちゃんのGって絶対いやな方のGだよ……」

 サヤカはブツブツ言った、いつも通りなんだかよく分からないから放置する。

「どうするご主人様」
「倒そう」
「はい。じゃあわたしはクレーマーを、サヤカはワンチャンの方をおねがい」
「ありがとうコハクさぁん……」

 涙目で感謝するサヤカ。
 二人がそれぞれ魔物に攻撃をしかけた。
 どっちも強い魔物じゃないから、すぐに倒せるはずだ。

 と、思ってたんだが――。

「――っ!」
「きゃあ!」

 二人は思いがけない反撃を喰らった。
 飛びかかったサヤカ、魔法の詠唱をはじめるコハク。
 二人は攻撃をしかけようとしたが、直前に魔物が急に強くなって、反撃を喰らってしまった。

「サヤカ! コハク!」
「大丈夫です!」
「びっくりしただけ」

 二人は既に体勢を立て直していた。
 おれは魔物を見る。見た目は変わってない、が、動きが早くなっていた。
 心なしかオーラの様なものが体から立ち上っている。

 どういうことだとおもっていたら、すぐに分かった。

 パン!

 そんな音と共に明かりがさした、ステージが見えた!
 魔物の向こうにステージが現われて、その上に一人のアイドルがいた。

 可愛くてスタイルがよくて、ステージ衣装も華やかでいいけど、雰囲気がよくない。

「うぅ……ハードくん、あれ、幽霊?」

 おれにしがみつくルナ。
 彼女の疑問はもっともだった、ステージの上に立っているアイドルは生気がなく、おどろおどろしい何かを纏っている、まさしく幽霊に見える格好だ。

「あれは……」
「知ってるのかコハク」
「前の大統領だよ」
「えっ!」

 ぱっと相手を見る、前の大統領だって?
 つまり彼女が急に引退して、姿を消したこの国のトップアイドルだって事か?

「なんでこんなところに?」
「わからない」
「なんか操られてるみたい」

 サヤカがいう……なるほどそうか。

「リサの後ろにいるヤツが操ってるのか」
「そうかもしれない」
「歌い始めるよ!」

 演奏が始まって、アイドルが歌い出した。
 不思議な光景だった。
 アップテンポで楽しい曲なのに、彼女はマイクを抱えて歌い上げる。
 おどろおどろしい空気を纏ったまま……やっぱり怨霊かって思った。

 異変が更に起きた。
 ワンチャンとクレーマーが大増殖をはじめたのだ。

 一体から二体、二体から四体と、分裂して数を増やしていく。
 わんちゃんはいいが、大量に増えたクレーマーにサヤカは更に泣きそうになってしまう。

「まずい、とにかく倒そう」
「はうぅ……」
「わかった」
「まっかせてー」

 三人の奴隷は魔物に飛びかかった。
 『ちーと』を使うサヤカとコハク、もとからそれなりの能力があるルナ。

 三人は次々と魔物を倒していった。
 が、数は一向に減らなかった。
 アイドルが歌って、更にふやすからだ。

「らちがあかないな、ルナ!」
「うん!」

 ルナと手をつないで時間を止めて、ステージを登ってアイドルのところに向かった。

「ごめん。ルナやれ」
「うん!」

 ルナがナイフを突き刺した――が通らなかった。

「あれ? あれれ」
「どうした」
「手応えがないよ。へんなのこれ、硬いとかそういうのじゃないんだけど、とにかく手応えがないの」

 おれもアイドルを触ってみた、軽くはたいてみた。
 確かにおかしい、ルナのいう通り硬いとかじゃない、とにかく手応えがないんだ。

「攻撃出来ないのか彼女には」
「どうするのハードくん」
「……まずは魔物を一掃しよう」
「うん!」

 増殖するんならまずは一掃する。
 そうおもって、時間を止めたまま魔物を倒した。
 時間を止めるなか、かなりの時間をかけて(矛盾してるけど)モンスターを一掃した。

 手を離す、時が動き出す。

「あっ」
「ありがとうご主人様」

 サヤカとコハク視点だと「急に敵が原因不明の全滅」になったように見えるだろ。
 二人はすぐにそれがおれとルナがやったと気づいた。

 さあ、後はアイドルを――。
 と思ったら魔物が復活した。

 倒した魔物がアイドルの歌をうけて復活してきた。

 全員が幻影を背負った。背中にアイドルの姿が見えた。

「これって……まずいですよね」
「無限に復活するみたいね」
「あれ倒せないしどうしよう」

 サヤカがワンチャンを掴んで全力でアイドルに投げつけた。
 コハクが大魔法を唱えてクレーマーごとアイドルを氷で貫こうとした。

 それぞれ『ちーと』を活用したが、ルナの時間止めと同じで、相手には通じなかった。

 三人の『ちーと』は通用しない。
 厳密には通用するけど、根絶させる事は出来ない。
 今までにないことだ、どうする?

「――♪」

 ふと、歌が聞こえた。
 背中から、今までとは違う歌が。

 イノリの歌だ!

 どうしたんだ、と思うよりも早く効果が現われた。
 魔物達は倒れた。
 イノリの歌――『ちーと』にやられてあらゆる状態異常を起こした。

 眠り、出血、毒、マヒ、石化――。

 あらゆる状態異常をおこした。

 アイドルは歌って対抗した。魔物達は更にパワーアップ、それが見えるくらい、アイドルの幻影を背負ったが、状態異常で動けないままだった。

「すごい……」
「歌が勝ってる」

 感嘆する奴隷たち。
 更に異常がでた。

 アイドルの体から光の粒子が立ち上りはじめた。
 奴隷達――サヤカとコハクは身構えた、ルナはいつでもおれの手を握れるようにそばにきて、腕を組んだ。

 そうして警戒したが――すぐに必要ないとわかった。

 あれだけおどろおどろしい怨霊だったアイドルの表情が晴れやかになっていた。
 歌が止まった。

 光の粒子が立ち上り、体が透けていく。

「幽霊だったんだね」

 コハクがつぶやく、おれもうなずいた。
 ちらっとイノリを見る。

 人と歌う手のハーフ、おれの奴隷であらゆる状態異常を押しつける『ちーと』もち。
 その歌は幽霊のもと大統領に作用した。

 ――浄化。

 おれ達は成仏していく彼女を見送った。

『ありがとう』

 消える前、鈴を転がすような美声が聞こえた気がして。
 次の瞬間、宿屋――イノリの部屋に戻っていたのだった。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
7ysy7eb3mlnm36qb0th9jyha9ke_php_nf_xc_9d
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ