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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第三章

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32.アイドルバトル、緒戦

 夜、宿の中。
 四人の奴隷はおれの部屋に集まっていた。

 サヤカはちょこんとベッドの上に腰掛けてる、手が何故かベッドをなで回している。
 コハクはおれの向かいの椅子に座っている。
 ルナはタンスの上にしゃがみ込むような姿勢で座ってる。
 一番新顔のイノリは路上ライブの場所にいるときと同じように部屋の隅っこで体育座りしている。

 こうしてみると、全員がそれぞれ特徴的な女の子だな、おれの奴隷って。

「調べてきたよ」

 四人のうち、コハクが立ち上がって、ペラ紙を取り出して、それを見ながらいった。

「総選挙に出るには地区の候補者、この場合パッションの街の候補者になる必要があるの。そしてパッションの予選にでるにはAランク以上のアイドルでなきゃだめ」
「ランクがあるのか、アイドルにも」

 初耳だそれは。

「あるね。冒険者ギルドと同じようにSランクからFランクまであって、調べてみたらイノリは現状Fランクらしいの」
「一番下なんだ……あんなに歌うまいのに……」

 サヤカがなんだか納得いかない表情で言った。

「この国で歌が評価されるのは魔力の量が重要みたいなのよ。魔力が一定以上になってようやく歌の善し悪しが評価される。ご主人様の奴隷になって『ちーと』をもらうまでは魔力がないって思われてたから、Fランクでくすぶってるのは仕方ない事ね」
「ねえねえ、イノリンのいまの魔力ってどれくらいなの? あっ、もちろんみんなに分かるレベルでの」

 ルナがタンスの上から聞いてきた。

「Sランクレベルに到達してるよ。それは間違いない」
「つまりこの先の勝負は歌の善し悪しだけか」
「ちょっと違う、低ランクなら魔力量で押し切れる。高ランクになってようやく歌の善し悪しが勝敗をきめるようになるの」
「なるほど」

 コハクの指摘に納得した。
 言われてみればそうだ、Sランク相当の魔力があれば、この国のシステムなら、低ランクは無条件で勝てる様なものだな。

「で、ランクを上げるにはどうすればいい」
「アイドルバトルよ」
「アイドルバトル?」

「そう、同じランク同士でライブを同時にやって、それで勝ち負けを決めるの。勝った方が上に行くの」
「勝ち負けって、どういう基準で決めるの」

「イイネ牡丹をつかうの」
「いいねボタン?」

 サヤカは首をかしげた。
 そして疑り深い目をして、コハクに聞いた。

「ボタンを押してもらうの?」
「ううん、咲かすの」
「咲かす……やっぱり思ってたのと違う」

 サヤカがブツブツ言い始めた。
 何か新しい事を聞いたときにほとんど毎回こうなるから、彼女はとりあえず放置する。

「なるほど、そのイイネ牡丹というのが審査員代わりってことだな」
「そういうことね」

 頷くコハク。それで全部の説明は終わったとばかりに、椅子に座った。
 おれは反対側、壁際で体育座りしてるイノリに聞いた。

「という訳で、バトルに出てもらう事になるけど、それでいいか」
「……あなたはいてくれる?」
「え?」

「バトルする時、いてくれる?」
「そりゃ……」
「ハードくんハードくん」

 いるよ、って答えようとしたら、ルナがタンスから跳び降りて、おれのそばにきて耳打ちした。

「あれっていてくれる? じゃなくて、聞いててくれる? って聞きたいんだと思う」
「……ああ」

 そういえば「あなたのために歌う」って言ってたっけな。
 そういうことなら――もちろん。

「ずっといるつもりだぞ」
「ずっと?」
「イノリが歌ってるときはずっと聞いてるつもりだ。ご主人様だからな」
「じゃあ、歌う」

 静かにうなずくイノリ。おれさえいればあとはもう何もいらないってかんじだ。
 いじらしいな、とおれは思った。

     ☆

 次の日、パッションの街角。
 指定された場所でサヤカとイノリと一緒に待ってると、七三分けにメガネの男がやってきた。
 手に旅行用の様なバッグを持っている。

「イノリ・ミラクルさんですね」
「……うん」
「あなたは?」
「ごしゅ……マネージャーみたいなもんだ。この子は助手」

 この国は奴隷解放宣言を出してる国なのを思い出した。
 余計な面倒ごとをふやさないためにおれは適当に、自分がマネージャー、サヤカは助手だといった。
 マネージャーはともかく助手ってなんだよ、って思ったけど、七三分けのメガネは特に気にしなかった。

「では説明します。本日のFランクアイドルバトルは審査にこのイイネ牡丹を使います」

 七三メガネはそう言って、バッグを開けた。
 中から小さいイノシシが出てきた。

「かわいい!」
「……かわいい」

 サヤカもイノリもそう言った。
 子犬くらいのイノシシはぬいぐるみ感があって、おれでも可愛く見える。
 ましてや女の子の二人だ。

「あっ……牡丹ってこっちの牡丹!? でも咲かすって……」

 またブツブツ言い始めるサヤカ。
 七三メガネは更に説明を続ける。

「アイドルの歌、魔力、そして観客の満足度。それら全てあわせて、このイイネ牡丹が評価をくだします」
「そんな事いっても魔力を評価するんじゃないのか?」
「……歌、魔力、満足度全てです」

 七三メガネは一呼吸開けたあとしれっと答えた。
 建前社会だなあ、とおれは思った。

「念の為に確認してみますか?」
「そうだな。イノリ、歌ってみてくれ。ワンフレーズでいい」
「ん……」

 イノリは喉の調子を整えてから、言われた通りワンフレーズだけ歌った。
 すると、イイネ牡丹が反応した。
 子イノシシの鼻からポン、と手品のように花が咲いた。

 イノシシの鼻の穴から花が――。
 かなりシュールな光景だった。

「ご覧のように、この花の咲き具合で勝負を決めます。今のは70点ですね、満点は100点です」
「なるほど」
「では、相手の方が――」
「もう来てるわよ!」

 反対側から声が聞こえた。
 振り向くと、そこに幼い感じの女の子がいた。

 背はサヤカよりも更に低く、顔つきも幼い。
 髪型はツインテールだが、コハクのと違って結んだ先はロール状になってる。

 衣装もアイドルらしくフリフリで、全体的にロリっぽい感じだ。

「あたしはゴールド・フラワー。今日あなたを倒して上にいく女よ」

 ゴールドって名乗った女はサヤカに握手を求めた。

「えっ、ごめんなさい、わたしじゃないんです」
「ふぇ?」
「アイドルなのはこっちのイノリちゃんです」
「えええええ!」

 ゴールドは何故か盛大にびっくりした。
 信じられないって目でイノリを見る。

「こんな地味な子がアイドルなの?」

 むかっ。

「うそでしょう。えー。あーでも、そんなもんか。Fランクだもんね」
「……おまえもFランクだろうが」

 ムカッときたから、つい感情的に言い返した。

「ちっちっち。あたしをただのFランクアイドルだと思ったら大間違いよ」
「どこが違うってんだ」
「それは見てのお・た・の・し・み。まっでも、こんな地味な子じゃ全力を出すまでもないわね。適当に歌って適当におどって、適当にひねってやるわ」
「……適当にやったら負けるぞ」
「負ける? あたしが?」

 ゴールドは鼻で笑った。

「ないない、そんなのあるわけないじゃん」
「……もし負けたらどうする」
「もし負けたら? そうね、こんなのに負けたらアイドル引退してやるわよ」
「言ったな」
「言ったもーん」

 ゴールドは自信たっぷりに言いはなった。
 悪びれることなく、イノリを見下しきったような表情で。

 ……言ったな。

     ☆

 ライブバトルが始まった。
 Fランクのバトルだから、場所は街中での路上ライブだ。

 それでもランクアップがかかったアイドルバトルだから、かなりの観客が集まってきた。

 先行はゴールド、彼女は客の前で歌って踊った。
 魔力はそこそこあるみたいだった、歌も悪くない。

 パフォーマンスは……あざとかった。
 跳んだり跳ねたり、くるりと回ったりするけど、その度にパンツがちらちら見えた。

「「「うおおおおお!」」」

 判定用のイイネ牡丹は鼻から花を咲かせた。
 鼻が出てきて、少しずつ満開になってく。

「78、79、80――」

 七三メガネが点数を読みあげていく。花が更に咲く度に点数を読みあげていく。
 曲がおわる、ゴールドは84点という結果になった。

 歓声の中こっちにやってきたゴールドは満足げな顔でいった。

「84点か、ま、調子まあまあだったからこんなもんね」
「そうかい」
「次はあなたね。せいぜい無様なステージならない様に気をつけるといいわ」

 ゴールドはイノリにいった。
 イノリはまわりをきょろきょろしてから、困った目でおれを見た。
 あっ、そっか。

「負ぶっていくよ」
「うん」

 イノリはまだ歩き方を思い出せていないようだ。
 おれが彼女を負ぶって、ステージにあがった。

「あははははは、なにそれ、マネージャーに負ぶってもらうとかどんだけお子ちゃま? あははは、あたしの勝ちで決まりね」

 背後から嘲る声が聞こえてきた。
 無視する。そんな風に言ってられるのも今のうちだ。

「横で聞いてる、がんばれ」
「うん!」

 イノリにそう言って、ステージをおりた。
 彼女はおれをちらっと見てから、集まった観衆にむかって歌い出した。

 相変わらずものすごい歌だった、そして、ものすごい魔力だった。
 観客の雰囲気はさっきと正反対になった。

 アイドル・ゴールドのパフォーマンスにノリノリだった客は静まりかえった。
 息さえするのを忘れて、イノリの歌に聴き入った。

 客も、七三メガネも、果ては対戦相手であるゴールドさえも。
 おれとサヤカをのぞいた全員がイノリの歌に聴き入った。

 やがて、曲が終わる。

 こっちを見るイノリに親指を立ててやった。
 振り向く、点数を確認――ってあれ? イイネ牡丹の花が咲いてない。

 どういうことだ――と思ってたら。
 次の瞬間鼻からポンと花が咲いた。

 ものすごい勢いで、一瞬にして満開で。

「ま、満点です」

 七三メガネが慌ててコールした。
 イイネ牡丹さえも、イノリの歌に聴き入っていたのだ!。

 呆然とするゴールド、おれは彼女にいった。

「で」
「え?」
「負けたらどうするって」
「……あ」

 バトルが始まる前の事を思い出したゴールド、みるみるうちに顔が青ざめていく。

「大口を叩いたからには、覚悟は出来てるよな」
「そ、それは」
「どうなんだよ」

 おれは攻撃的な気分になっていた。
 イノリをサンザンけなされたのがむかついていた。

「ご、ごめんなさい!」

 ゴールドは土下座をした。
 アイドル衣装のまま、その場で土下座をした。

「悪気はなかったんです、許して下さい!」
「……おれじゃない」
「え?」

 顔を上げて、きょとんとするゴールド。

「謝る相手、間違ってるだろ」
「――はっ。ご、ごめんなさい。ひどい事言ってごめんなさい! 許して下さいお願いします何でもしますから!」

 おれに指摘されて、今度はイノリに土下座した。
 おれはイノリをみた。許すかどうかを彼女に決めてもらう事にした。

 イノリはゴールドを見て、ちょこん、と小首を傾げて。

「どうして?」
「え?」
「どうして、土下座してるの?」
「え? だってあたし、ひどい事を……」
「……?」

 また首をかしげるイノリ。
 どういうことだ? って思っていると、サヤカがおれの横にきて、耳打ちしてきた。

「もしかしてイノリちゃん、言われたの自分だって気づいてないんじゃないですか?」
「……あ」

 そうかもしれない、というかそうなんだろう。
 歌うこと以外ほとんど気にしないイノリのことだ、ライブ前にされた挑発なんで気にもしてないだろう。

 というか実際――。

「反応してなかった、な」
「うん」

 頷くサヤカ。
 おれはなっとくした、そして笑いがこみ上げてきた。

 そうか、相手にもしてもらえてなかったのか。
 なんというか、流石イノリだな、うん。

 おれはステージに上がって、イノリを負ぶって戻ってきて、サヤカと一緒にそこを離れた。

 遅れて、自分が相手にもされてなかったことに気づいたゴールドは悔しそうな顔をしたが、それはそれでいい気味だと思ったのだった。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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