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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第三章

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30/52

30.半分になるチート、チートはまだ半分

 その場でイノリを見守った。
 彼女は安らかに寝ているように、気を失っている。

 どんな夢をみてるんだろうか、と思っていたらすぐに目が覚めた。
 起き上がって、ぼんやりとした目のまままわりをきょろきょろする。

「起きたか。大丈夫か?」
「……」
「イノリ?」

 返事しないイノリはゆらりと立ち上がった。
 次の瞬間、いきなり歌い出した。

 人気のない街角で、何をするよりも先に、まず歌い出した。
 イノリらしいな、本当に。
 起きたらいきなり歌うとか、本当にイノリらしくて微笑ましく感じてくる。

 おれはその場に座った。
 イノリの横に座って、彼女を見あげて歌うのを聞いた。

 相変わらずいい歌で、何時間でも――歌ってる間ずっと聞いてたいくらいのいい歌だ。

 一曲をきっちり最後まで歌いきった。
 次の曲を歌い出そうとした、その時。

 ――パチパチパチ。

 歌の合間に、割れんばかりの拍手と大歓声が沸き起こった。
 いきなりの事でびっくりした。

 何事かとまわりをみると、いつの間にか人だかりが出来ていた。
 わらわらわらわら。

 イノリの路上ライブを、通りかかった人間が全員脚を止めた。
 それだけじゃない、歌声に誘われて、遠くからやってくる人間もいた。

 全員がイノリに熱い眼差しを送っていた。
 満足と、期待。

 今の歌はよかった、次の歌は。
 全員の顔からそれを読み取った。

 イノリは困惑した、あたふたしていた。
 こんなことは初めてなんだろう、どうしたらいいのか分からないでいる様子だ。

 おれに救いの目を向けてくるイノリに言い放った。

「うたいなよ」
「え?」
「みんなイノリの歌を聴きたがってるんだ。イノリもうたいたいんだろ?」
「うん、歌いたい」
「なら歌うといい、思う存分。みんなに聞かせてやれよ」

 イノリはおれをみた、待ってる観衆達をみた。
 静かにうなずいてから――歌い出す。

 観客をえたイノリは、今までで一番満ち足りている様に見えた。

     ☆

 路上ライブが終わった後、イノリと二人っきり。
 相変わらずものぐさで移動したがらないイノリにつきあって、道ばたに隣り合って座った。

 あれほどいた観客はもういない、みんな満足して帰っていった。

「いっぱい聞いてもらえたな」
「うん」

 イノリは静かに――しかしものすごく嬉しそうにうなずいた。

「そういえば魔力が出てたな。観客もそれがすげえすげえっていってたし」

 ライブ中のことを思い出した。
 この国の人間らしく、大半の観客が「魔力がいっぱい出てる、すげえ」とイノリを評価した。

 魔力が出るようになった原因は分かる。

 イノリの薬指にある奴隷指輪。
 原因はしらないけど、おれが奴隷にした女の子はみんな『ちーと』を持つようになる。
 それも、その子の特性にあった『ちーと』だ。

 だからおれは確信をもってイノリを奴隷にした。
 彼女ならきっと歌に関する『ちーと』が身につくと思った。

 それは大当たりだった、イノリは通りすがった人間の脚を全員止めるほどの歌の魔力を手に入れた。

 それはそうとして、『ちーと』の詳しい内容が知りたいと思った

「なんか言われたか?」

 すごくぼんやりとした質問だけど、これで足りると思った。

「うん、夢の中で言われた、『ちーと』をあげるって」
「やっぱりな」
「歌の魔力が強すぎて、ただの人間に分からないから、半分にして、わかるようにするって」

 強すぎるから分からない、たしかサヤカもそんな事をいってたな。
 うん? ってことはさっきのあれ、イノリにとって本来の半分ってことか。

 半分の魔力であんなに熱狂させるとは、すごいなイノリ。

「しかし、歌の魔力を半分にか。それってつまり本来の歌を弱くしたっていうか、デチューンして大衆にわかるようにしたって事だよな」

 おれは複雑な気分になった。
 おれの耳には同じに聞こえる。だが、もし歌の魔力とやらが歌の善し悪しに関わってくるのなら、おれはイノリの歌を「だめにした」ことになる。

「それはいいことなのか悪い事なのか……」
「わたしは嬉しい。だって聞いてもらえるから」
「……そうか」

 イノリは本当に嬉しそうだった。
 自分の歌を聞いてもらえるだけで嬉しい。

 たとえ自分を弱体化されても聞いてもらえるだけで嬉しい。
 心の底からそう思ってる顔をした。

 さて、イノリの歌の事も一段落したことだし、他のみんなと合流するか。
 そう思っておれは立ち上がったが、イノリが座ったまま戸惑ってることにきづいた。

「どうしたイノリ」
「行くの?」
「ああ」
「うぅ……」

 イノリは泣き出しそうな、困った様な顔をした。
 どうしたんだろ――ってそうか。

「ここから動きたくないのか」

 昨日聞いた話を思い出した。
 ここにずっといて、歌いたいって言ってたな。
 あの時はただ変な子だとおもったけど、今はちょっと困る。

 奴隷になった子をいつまでもここに置いておくのも、そもそも離ればなれになるのは良くない。
 彼女が歌える、歌を聴いてもらえるようにするってだけで奴隷にしたけど、この事までは考えてなかった。

 どうしよう――と、思ったけど。

「ううん」

 イノリは首を振った。

「一緒に行く……でも」
「でも?」
「歩き方、わからない」
「……はい?」

 何をいってるんだイノリは。
 歩き方が分からないってどういう事だ?

「なんかの冗談か? それともなんかの例えか?」
「えっと……おまたを開いて、膝を曲げる……あれ、足首を先に動かすの? 指を先に動かすのどっち?」
「……えええええ!」

 びっくりした、なんか結構とんでもない話になったぞ。
 歩き方が分からないって、そういう分からないのか?
 歩き方なんて普通にわかるし――というか普通分かる分からないの話にならないぞ歩き方なんて。

 そもそもイノリはついさっきまで普通に歩いてただろ? 面倒くさがってただけで。
 それが今は――体の部位のどこから動かす、なんてレベルの話をしてる。

 もしかして……。

「歌える代わりにそうなった……のか?」

 嘘みたいな話だが、そう思うと何故かしっくりきてしまうおれだった。

     ☆

 結局歩けないから、宿まで負ぶっていくことにした。

「ごめんなさい……」
「いいさ、おれの責任でもあるみたいだからな」
「うん……ごめんなさい」
「だったら歌ってくれ、おれだけのために」
「――うん!」

 沈んでいたのがいきなり元気になった。
 イノリはおれの耳元でささやくように歌った。

 やっぱりイノリの歌はいい。
 多くの人に聞いてもらえる様になってから、彼女の歌はますますよく聞こえる。
 この歌が聴けるのならおぶってやるくらい苦じゃない。

 そうして、宿に戻ろうとすると、途中で町の人が1箇所に集まってるのと遭遇した。
 そして、歌が聞こえる。

 街中で人が集まってる、歌が聞こえる。
 ついさっきも見た光景だ。

 どこぞのアイドルが路上ライブでもやってるんだろう。
 このプルルージュって国に来てからよく見るようになった光景、特に気にもしなかったが。

「なんか、怒ってる?」
「うん?」
「この歌の人、すごく怒ってる?」

 イノリがおれの背中から感想を言ってきた。
 おこってる、か。

 音楽もフレーズもそんな事を感じない、むしろノリノリな、アイドルっぽい曲だ。
 それが怒ってるっていうのは感覚的に分からない。

 分からなかった、けど。

「――リサ!?」

 通り掛かった、人垣の隙間から歌ってるのが彼女だと気づいた瞬間、色々納得した。

 リサ・マッキントッシュ。
 かつての幼なじみで、いろいろあって仲違いした女。

 彼女が何故か、路上ライブをして、観客を集めてる。
 思いがけない人の登場に、おれは戸惑った。

「遭遇……」

 戸惑いすぎて、間近に嫌な気配が迫っていたのにも気づかないでいた。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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