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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第一章

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03.FランクとDランク

「じゃあちょっとまって、二人を登録するから」

 サイレンさんがカウンターの奥に戻っていった。

「サイレン……おれ、は……」
「仕事のじゃま♪」
「――ぐえっ!」

 カウンターの向こうで旦那さんが何か言おうとしたけど、笑顔でトドメを刺されて断末魔をあげた。
 怖いからそっちはみないようにして、サヤカに話しかけて話題をそらす。

「今のはなんだったんだ?」
「今のって?」
「あのでっかいのを吹っ飛ばしたの」
「えっと……」

 サヤカは視線をさまよわせる。
 自分でも分からない、って顔をしてる。

「その、夢の中の出来事を思い出したんです」
「夢?」
「交通事故にあったと思ったら、なんかふわふわしたところにいて、ふわふわした人に話しかけられて、チートをあげるから頑張って人生やり直してね、っていわれて」
「なるほどわからん」

 ふわふわが多すぎるし、コウツウジコもちーとも言葉の意味が分からない。
 分かった事は一つだけ。

「今のがその『ちーと』ってやつなのか?」
「うん」

 サヤカが『ちーと』ってすごい力をもってる。
 そしておれはサヤカのご主人様。つまりおれが命令すれば、その力は実質おれの力も同然だ。
 つまり、おれも『ちーと』だ。ちーととやらが何なのか分からないけど。

「あの……ハード、さん?」
「なんだ?」
「気持ち悪くない、ですか?」
「気持ち悪い? なんで」
「だって、女の子があんな大きい人を殴り飛ばすなんて……」

 言ってるうちに徐々にうつむいてってしまうサヤカ。
 ……?

「全然気持ち悪くないぞ」
「ぜ、全然?」
「ああ全然だ。むしろすごくいいぞ」
「すごくいい……」
「ああ、すごくいいぞ。それよりも、これからもその力をおれだけのために使うんだぞ。いいな」

 念押ししなくても奴隷だし、おれの命令なしに使えないようにもできるけど。
 ま、一応だ。

「ハードさんだけの?」
「ああ。お前はおれだけのために生きるんだ」

 奴隷だからな。

「ハードさんだけの? それってなんか……プロポーズみたい」

 キョトン、そしてポッ。
 顔が一瞬で赤くなった。
 今までに見た中で一番赤面した。

 例によって最後はぶつぶつ言ってて内容は聞き取れなかった。
 変な子だな、やっぱり。

 そうこうしてるうちにサイレンさんが戻ってきた。

「はい、登録したよ。これが二人のギルドカード」

 そういっておれ達にそれぞれ名刺サイズのカードを渡した。
 顔がプリントされてて、名前が書かれてる。
 下にFからSの欄があって、Fのところだけチェックされてて、他は空欄だ。
 つまりこれはFランク冒険者のカードって事だ。

「そこでお願いがあるんだけど、出来るだけ早くSランクになって。その力を見込んでSしか任せられない仕事を頼みたいの」
「それはいいけど、どうすればSランクになれるんだ?」
「うちはギルド組合に正式に加盟してるギルドだから、最低でもそれぞれのランクの依頼を一回こなさないとあげられないんだ。今の力をみたから、あたしとしてはすぐにでもあげたいんだけど」

 つまり、今はFだからFの依頼を一回やってEに、Eの依頼を一回やってDに――を繰り返してSになるってことか。
 えっと……最短で六回か。

「面倒臭いね」
「しかたないよ、それがルールなんだから」
「そ、うだ……ルールはまもる……べき」
「あんたがルール守りなさい♪」

 サイレンさんがすっ飛んでいって、カウンター裏の浮気夫(ルール破り)にトドメを刺した。

「こわい……」

 おれにぎゅってしがみつくサヤカ。まあ気持ちはわかる。
 サイレンさんはトドメを刺した後、返り血まみれで戻ってきた。

「ってことで、お願いできるかな」
「わかった」

 頷くと、サイレンさんは壊れた壁の修理に向かった。
 おれはサヤカと一緒に残った掲示板を見た。

 そういえばで思い出す。

 Sランクまで最短で六回なら、住み込みの仕事とか探さなくていい。
 普通の冒険者はムリだけど、組合に加盟してるギルドでSランクになった冒険者なら、ギルドが保証についてくれて、完全後払いで家をかったり増築出来たり出来るってオレンジさんからきいた。

 むしろ前の代金を支払い終えたら勝手に増築してくれるらしい。
 金はもちろん後払いでいいっていう、夢のような身分だSランク冒険者は。

 六回の依頼でいいんなら、まずはSランクになってから家を買った方が手っ取り早い。
 うん、そうしよう。

 そう決めて、掲示板をながめた。
 Fの中から依頼を選ぼうとする。

「このナナミツ採取でいっか」
「ナナミツ?」

「女王ナナってヤツがいてさ、そいつから採取できるミツがナナミツっていうんだ。すっごく甘くてうまいし、飲むと声が綺麗になって歌がうまくなるらしいんだ」
「ナナミツ……ハチミツと違うんだ……」

 またぶつぶつ言ってる。
 本当独り言が好きだなあ。

 いつもながらぶつぶつ言ってる内容は分からないけど、そうしてる時ってかなり可愛い。
 というか相当の美少女だぞ。

 長い黒髪が貴族のようにつやつやだ。
 頭のてっぺんが輪っかの様に光ってる。天使の輪っかみたいだ。

 顔もかわいい。
 その辺の姫よりもずっとかわいい。
 こんな可愛い子を奴隷に出来たのはラッキーだな。
 おれは改めてそう思った。

     ☆

 サヤカを連れて街をでた。
 女王ナナは緑が少なくて、岩が多いところを好むって聞いた。
 だから岩山にきた。

 探して回って、女王ナナを見つけた。

「見つけた、アレだ」
「あれが女王ナナですか?」
「そうだ」
「想像してたのと全然違う……おっきいハムスターみたい」

 人間と同じくらいのサイズの女王ナナはまわりにコロコロ転がってる岩をガジガジかじっていた。

「岩をかじってる……」
「歯がでっぱってるだろ、伸びるらしいんだあれは。だからいつも岩をかじってるんだよ女王ナナは。歯を削るために」
「やっぱりハムスターみたい……」

「さて、ミツを取ろうか」
「どうすればいいの?」
「方法は二つ。一つは思いっきり殴る。そうすればちょっと少ないけどミツがとれる。依頼された分量的に三回殴ればいいらしい」
「もう一つはなんですか?」
「歌うんだ。歌を聴かせて、ナナが気に入ればミツを出してくれるらしい。こっちは結構大量にとれるから、一回ですむ」
「歌……」

 っていうことで、一回ですんだ方がもちろんいいから、おれは歌い出した。
 村に伝わる童謡だ。
 子供の頃から歌ってるから、自信はあるぞ。

 女王ナナはこっちをみた。おれの歌を聴いた。
 最後まで歌ったけど、女王ナナはミツを出さなかった。
 それどころかまわりで一番大きい岩を拾った、ガリッ! ってかみ砕いた。
 その破片を投げつけてきた、とっさに避けた。

「えっと……もしかして」
「気に入らなかったみたいですね……」
「そんな馬鹿な! 頑張って歌ったんだぞ!」
「ジャイアンみたいだった……」

 サヤカがまたぶつぶつ言ってる。

「仕方ない。サヤカ、あいつを殴るんだ」
「え?」
「歌で出せないんだから殴るしかないだろ? 大丈夫、あのデカブツを殴りとばしたくらいのパワーなら多分大量にミツをゲット出来る」
「えっと……ハードさん。わたしも歌……じゃダメですか?」
「サヤカも?」
「はい……」

 うつむき加減で、もじもじしておれの顔色をうかがう。
 サヤカが歌か。

 ま、男が歌うより女の子が歌った方がいい場合もあるかも知れない。
 最悪まだ岩を投げられるだけだし、デメリットはほとんどないか。

「よし、歌ってみろ」
「はい!」

 サヤカは女王ナナに向かって歌った。
 聞いた事のない歌だった。
 それをサヤカが綺麗な声で歌い上げた。
 結構いい歌だと思った。
 まっ、おれにはかなわないけどな。

「ど、どうですか?」
「どうだ」

 女王ナナはボケーってしてた。
 かと思えば、前足を器用に使って拍手して、目からポロポロと涙がこぼれた。

「わわ、なんか泣かれました!」
「感動して目からミツをだしたんだ!」
「え? じゃああれが?」
「ああ、ナナミツだ」

 地面にコロコロ転がるこぶし大の粒。
 キラキラしてて綺麗だ。
 水滴を固めたような透明でキラキラなこれがナナミツだ。

「ハードさん、思いっきり殴るってさっきいってましたよね」
「ああ」
「そうしたときも目から出るんですか?」
「そうだ」
「痛いから涙が出るんですね……」

 またぶつぶつ言ってる。

「そっちは数が少ないけどな。歌って出させた方が量は多いし、質もいいって聞いたことがある」
「うん……そっちの方がイイと思います。絶対に」

 感動した女王ナナがどこかに行ってしまった。

 そこに残ったナナミツを拾い集める。
 ナナミツ採取の依頼よりも遥かに多い量だ、これからクリア間違い無しだ。

     ☆

 ギルドに戻ってきて、サイレンさんにナナミツを渡した。

「うん! 確かにナナミツだ。こんなにとって来る人久しぶりかも」
「そうなの?」
「大抵必要量ギリギリだからね。女王ナナを殴ればミツとれるけど、反撃されることもおおいから」
「反撃されるんですか!?」

 サヤカが驚く。

「そりゃそうだよ。あの前歯で噛まれて大けがする人も少ないんだよ」
「こわい……」
「じゃあ、ハードのギルドカード出して」

 おれはギルドカードを出そうとして――手が止った。

「どうしたの?」
「いや、サヤカのでお願いします」
「ハードはいいの?」
「ナナミツはサヤカが取ったものだから」

 サイレンさんがびっくりした、サヤカも思いっきりびっくりした。

 おれは考えた。
 おれがSランクになるより、サヤカをSランクにした方がいいって。
 奴隷持ちは男の甲斐性。奴隷がすごければすごいほど甲斐性がある。

 おれがストレートにSランクになるより、奴隷が――奴隷達がすごい方がおれの甲斐性があるってことになる。

 だからサヤカのをあげようとした。

「ひとりじめしないんだ……」

 サヤカはまたぶつぶつ言ってた。
 サイレンさんは何もいわずにサヤカのギルドカードを受け取って、Eのところにチェックを入れた。

「はい、これでEランクになったよ。早くSランクになってね」
「Sに、なったら……デート――」

 カウンターの向こうから弱々しい声でサヤカを口説こうとするサイレンさんの旦那さん、あたり前のようにしばかれた。
 サヤカは怖がったけど、おれはそれに慣れてくのを感じた。

 その証拠にしばかれるのを普通にスルーして、今度はEランクの掲示板を見た。
 張り紙が色々あった。
 その中に、「ワンチャン一匹を捕縛」ってのがあった。

「これがいいな、『ワンチャン』を捕まえてくるやつ」
「わんちゃんですか?」
「ああ、『ワンチャン』だ」
「わんちゃん……可愛いわんちゃんだといいなあ」

 期待の目をするサヤカ。
 いや、ワンチャンに可愛いのなんていないからな。
 あれは……ブッサイクやぞ。

     ☆

 ワンチャンを捕まえるのは見晴らしのいい草原が最適だ。
 っていうのをサイレンさんからアドバイスされて、おれとサヤカは街をでて、近くの草原にやってきた。

 既に夕暮れ時、草原は夕焼けに染まっている。

「あの、わんちゃんってここにいるんですか?」
「ああ」
「でも……どこにもいませんよ?」
「もういるじゃん、真後ろに」
「え?」

 サヤカはびっくりして、後ろにパッと振り向いた。
 その先に小人がいた。
 ものすごくぶっさいくな外見で、目つきが悪い小人。

 そいつはこっちとめがあってから、慌てて体を隠した。
 バレバレな隠れ方だ。
 尾行したがりだけど、尾行そのものが下手だから見つけるのはすごく簡単。
 それがワンチャンだ。

「どこですか?」
「さっきのやつ」
「え? あの子供みたいなのがわんちゃんですか?」
「そう、ワンチャンだ。旅人の後をつけて、隙あらばワンチャンを狙って、男も女も苗床にしてしまう。それがワンチャンだ」
「えぇ……わんちゃんって子犬じゃないんだ……」

 サヤカはものすごく失望した顔をした。
 何を期待したのか知らないけど、残念だったなとしか言いようが無い。

「さて、あいつをを捕まえて戻るか」
「どうするんですか?」

 おれは考えた。
 捕まえる方法を一生懸命考えた。

「早く動く事は出来るか?」
「え? えっと……」

 サヤカは考えた。

「どうなんでしょ……あっ、そっか、それもチートを使えばいいんだ。たしか身体能力がすごく増強されるって夢の中で言われた……」

 サヤカがいつも通りうつむいてブツブツ言った後、顔を上げて言ってきた。

「出来ると思います」
「よし、じゃあ死んだふりするぞ」
「死んだふり?」
「死んでるとか、弱ってるとか。そういうのをみるとあいつがワンチャンあるって思って襲ってくるから、近くまで来たら捕まえるんだ」
「わかりました」
「ぐはっ! やーらーれーたー」
「や、やられたー、です」

 おれとサヤカは死んだふりをした。
 その場に倒れて、寝っ転がった。

 薄目を開けて様子を見る。
 ワンチャンが慎重に近づいてくる。

 三歩進んで、二歩下がる。
 小石を投げつけてくる、死んだかどうか確認してくる。
 色々ヤリながら少しずつ近づいてくる。

 もどかしいな、早く来いよ。

 そして、五分くらい待って、ようやく手の届くところまで来た。

「いまだサヤカ!」
「はい!」

 パッと起き上がるサヤカ。
 ワンチャンがびっくりして後退した。

 げっ、すごく早い。
 後ろ向きに走ってるのにおれが全速力で走るのより倍は速いぞ!
 そっか、こんなに早いから捕縛はFより難しいEランクの依頼なのか。

 逃げられる――と、思っていると。

「えいっ!」

 サヤカはそれ以上のスピードでワンチャンを先回りして、捕まえた。
 一瞬、元の場所に残像が見えたくらいの超スピードだ。

 これもサヤカの「ちーと」なのか?
 すげえなちーとって。

 ワンチャンがじたばたもがくけど、デカブツさえも吹っ飛ばすサヤカの力にはかなわなくて、捕まえてなすがままにされた。

     ☆

 ギルドに戻ってきて、サイレンさんに捕縛したワンチャンを引き渡した。
 サイレンさんはちょっとだけびっくりした。

「すごいね、まさか今日中に捕まえてくるなんて思わなかった。ワンチャンって、一度逃げちゃうとしばらく姿が見えなくなるから、手間取る人が多いんだよ」
「そうなんだ」

 サヤカが逃げられる前に捕まえたからな。
 もし逃がしたら――うん、今日中には無理だったな。
 街に戻ってくる間にすっかり夜になったしな。

 サイレンさんに言われて、サヤカはギルドカードを渡した。
 そして、Dのところにチェックが入る。

 これでサヤカもEからDランクになった。
 今日で言うと、Fから一気にDになった。

 今日はもう遅いし、依頼二つこなした分の報酬があるし、ひとまず宿屋に泊ってやすもう。

 あしたも依頼こなそう。
 目標は今日と同じ二つ――DからC、そしてCからBランクになることだ。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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