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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第三章

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29.悪魔と魂をうる女

 パッションの街だけじゃない、プルルージュ共和国は大混乱に陥った。

 大統領である、トップアイドルの電撃引退。
 いきなりの事に国は揺れた。

 任務の事もあるし、おれは、なんとかその大統領にあえないかと手を尽くした。

     ☆

 パッションの街の公認ギルド、『情熱よりも熱く』の中。
 待機してたおれの元に、コハクが戻ってきた。

「どうだ、コハク」
「だめ。全然会えない。お父様の使者っていっても、サローティアーズの王女だっていっても全然会えなかった。今すっごく混乱してる」
「そうか……」

「それに、どうやら行方不明になってるらしいんだ。ライブが終わった直後から姿をくらましてるみたい」
「消息がまったくわからないのか」

 頷くコハク。

「それは……困ったな」
「というか、そもそも今あってもしょうがないみたい」
「どういう事なんだ?」

「ご主人様はお父様から親書を預かった。プルルージュの大統領に渡すようにって」

 おれは頷いた。
 それが今回の任務だ。

「もう既に新しい大統領にするための、総選挙の準備を始めてるらしいんだ」
「早いな! ライブで引退表明したばっかりじゃないのか?」

 これにはびっくりした。
 ライブでそれを発表してからまだ数時間しかたってない、いくら何でも早すぎ……って思ったけど。

「そういう国なんだ。アイドル引退――女神レディの加護を自ら捨てた人間に用はないんだよ」
「なるほど……」

 わかりやすいような、薄情な様な……。

 おれは考えた。
 この状況で、どうすればいいのかを。

 大統領に親書を渡すのが任務。
 その大統領はもういなくて、国は混乱してる。

 一回戻った方がいいのか? って思った

「アン♪」

 離れたところから男のあえぎ声がした。
 みると、カウンターの向こうでこのギルドのマスターが電書ハトから手紙を受け取っていた。

 名前をオールド・ブルーっていう優男は手紙をみて、おれに話しかけた。

「ハードさん、ちょっといいですか?」
「なんだ?」
「あなたにクエストの依頼です」
「おれに?」

 首をかしげた。
 クエストの依頼って、しかも名指しで?

 コハクをみた、そういうことはあるのかって目で。

「たまにあるんだ」
「そうなのか」
「それに……このタイミングだと多分」
「多分?」

 そういうことなのだ? って聞こうとしたら、オールドが先に答えた。

「依頼主はサローティアーズの国王ですね」
「国王が?」
「内容は――総選挙を見守って、新しい大統領が誕生したら誰よりも先にあって、親書を渡すこと、です」
「なるほど」

 おれがさっき「どうするか」って考えてた事に対する答えが向こうからやってきた。
 大統領がいなくて親書を渡せない、ならば新しい大統領が誕生するのをまって、渡せばいい。
 なるほどな。

「注意事項があります」
「注意事項?」
「誕生した後、誰よりも早く、ってありますね」

 誰よりも早く……なんか理由があるのだろうか。

「しかもこれ……SSSランク指定ですよ!?」
「なに!?」

 それを聞いた瞬間、「そうは言っても別に最初じゃなくてもいいんだろ?」って気軽に構えてた気分が一気に吹っ飛んだ。

 SSSランク。
 それは、かつてのコハクの依頼と同じような。

 国の存亡に関わりかねない、そんなランクの依頼だった。

     ☆

 公認ギルド経由のSSSランクの依頼で大事になったけど、火急の事態じゃない。
 総選挙が終わるところか始まってもいないんだから、今のおれに出来ることはない。

 次の日、おれはコハクと一緒に街に出た。
 街はざわざわしていた、昨日との雰囲気がまるで違う。

「浮き足立ってるね、みんな」
「そうみえるか?」
「うん、だれもが何か狙ってる、そんな顔をしてる」

 フランクな口調だが、元王女だけあって、おれの奴隷の中で一番洞察力に長けてるのがこのコハクだ。
 彼女がいうのだから、きっとそうなんだろう。

「そういえばきいてないけど、総選挙って何をどうやるんだ?」
「ライブバトルをして、投票で決めるの」
「ライブバトル?」

「うん。街ごとにライブバトルをして、まずは街ごとの代表者を選び出して、それが出そろったら代表者だけで同じようにライブバトルして、また投票で選ぶ」
「つまり予選と本選があるってわけか」
「そうだね」

「……」
「ご主人様、何を考えてるの?」
「クエストを確実に遂行できる方法を」

「確実に?」
「大統領が決まった後、誰よりも早く会わなきゃいけないんだろ?」

「うん。注意事項でそう言われたし、SSSランク指定されたから、それが一番重要、って事になるね」
「それをどうしたら確実に出来るかって思って」
「決まった瞬間にルナの『ちーと』で会いに行けばいいんじゃないかな」

 コハクが提案する。
 その方法はアリかも知れない。
 決まった瞬間に新しい大統領がどこにいるのか分からないけど、ルナの『ちーと』で時間をとめてゆっくり、しらみつぶしに探せば問題はない。

 問題はないけど、もっと確実な方法はないのか。

「例えば……だれかアイドルを立てて協力するとか」
「え?」
「アイドルを立てて総選挙のあいだずっと一緒にいれば、その人が最後まで勝てばなった後に最初にあうのは簡単だろ」
「それはそうだけど……勝つのは簡単じゃないよ? 心当たりがあるのご主人様?」
「一つだけ」

 あるといえば……ある。

     ☆

 街外れにやってきた。
 昨日とまったく同じ場所でイノリが歌っていた。
 相変わらずほとんどだれも聞いてなくて、イノリはただ歌っているだけ。

 歌はいい、充分くらい素晴しい。
 が、通り掛かる人はいても脚を止める人はいない。

 だれもが腹でわらったり、見下したりしている。
 プルルージュでの価値観に従って、歌に魔力がないイノリのそれは聞くに値しない、という評価だ。

 おれとコハクは聞き入った。
 おれの隣でコハクがうとうとしだした。

 つかれてるんだろうか。
 昨日の大統領引退の知らせを聞いた後、コハクはずっと働きっぱなしだ。
 それでつかれてるんだろうな。

 うとうとするコハクは、やがて本格的に寝だした。
 おれに寄りかかって、熟睡をしてしまう。

 一晩中働かせたし、ねぎらう意味合いも込めて、彼女の肩を抱いて、ゆっくりとその場に座り込むようにした。
 おれの肩に寄りかかって、眠らせた。

 おれはというと、イノリの歌を聴き続けた。
 彼女の素晴しい歌を聴き続けた。

 すると、おれまで眠くなってきた。
 イノリの歌を聴いてるうちに、おれまでねてしまったのだった。

     ☆

 おきると、イノリが目の前にいて、おれをみつめていた。

「おきた?」
「あ、ああ……寝てしまったのかおれ」

「うん」
「うわ……」

 なんかすっげえもったいない。
 イノリの歌を聴いて寝てしまうなんてもったいなすぎる。
 あんなにいい歌なのに、寝てしまうなんて。

 おれもつかれてるのかな。
 とおもったら、そうじゃなかった。

「ごめんね」
「え?」
「むかしからそうなの。わたしの歌を聴くと、たまに寝てしまう人がいるの。通りかかっただけなのに急に意識をなくしたように寝てしまう人が」
「そうなのか?」

 頷くイノリ、申し訳ない顔をしている。
 急に意識をなくしたようにって……どういうことだ?

「多分、ハーフだから」

 横からコハクが言ってきた。
 どうやらおれよりも先に起きてたらしい。

「ハーフだから?」
「フロの歌う手」
「あっ」

 ちょっと前に倒した魔物の事を思い出した。
 フロの歌う手、そいつの歌は眠りを誘う効果がある。

「歌う手の上級種は歌に状態異常の効果があるんだ。だから多分、彼女も」
「なるほど」

 魔力はでないけど、眠らせる効果は遺伝で受け継いでる訳か。
 すごい能力だな、って思ったが、イノリは悲しそうな顔をした。

「やっぱり、わたしの歌が退屈だからかな」
「え?」
「退屈だからみんな寝ちゃうのかな。……わたしの歌にも魔力があったら良いのに」
「イノリ……」

「歌に魔力があったら、もっと歌がうまかったらいろんな人に聞いてもらえるのに」
「この国じゃ、魔力がない歌は聴いてもらえないもんね」

 コハクが複雑そうな顔で言った。
 おれと同じく、コハクもイノリの歌をいい歌だと思ってる。
 一方でこの国ではうまいだけじゃダメだ、という事がわかってるからの複雑な顔なんだ。

「うん、もっとうまくなるように頑張らなきゃ」

 イノリは言った。
 力強く宣言するように言い切った。

「……もっと、多くの人に聞いてもらいたいか?」
「え?」
「どうなんだ?」

 イノリに聞いた。
 彼女はちょっとびっくりした後に、まっすぐおれを見つめ返した。

「うん!」
「そのための方法、普通じゃないけど方法があるって言ったらどうする?」
「ご主人様?」

 驚くコハク。
 彼女に手をかざしてとめて、イノリをまっすぐみた。

 おれには確信があった。
 サヤカ、コハク、ルナ。
 三人をみてきて、ある種の確信を持っていた。

 イノリは即答した。
 迷いのない目でおれを見つめて。

「何でもする」
「じゃあこれを」

 おれはポケットから指輪を取り出した。
 自宅の部屋は四つ、そのために用意してた四つ目の指輪。
 奴隷の指輪。

「おれの奴隷になればそれがかなう」
「本当に?」
「ああ」

 はっきり頷く。
 自分でもひどいと思う。

 イノリにしてるのは、まるで悪魔のささやきそのものだ。
 だが、確信があるんだからしょうがない。

 今までの奴隷達のように。
 『ちーと』をもったイノリなら、きっと。
 そんな確信があった。

 その目でイノリを見つめた。
 イノリはしばらくおれを見つめた後、指輪を受け取った。

「もっと聞いてもらえるのなら」

 そういって、躊躇なく左手の薬指にはめた。
 直後、指輪はひかって――彼女は気を失って崩れ落ちる。

 今までの三人と同じ現象。
 イノリも『ちーと』を手に入れるだろう。

 しかも、歌に関するちーとなんだろう。
 おれはそれを確信していた。
■10月10日書籍版発売します
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