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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第三章

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28.歌の遺伝子

「イノリ・ミラクルって言います」
「おれはハード、ハード・クワーティー」
「サヤカって言います」
「コハク」
「ルナはルナだよー」

 一段落したところで、互いに自己紹介をする。
 あのものすごく上手い歌を歌う、とんでもない魔力を体に秘めてる女の名前はイノリっていう。

「皆さん、最後まで聞いてくれてありがとうございました」
「いい歌だった」

 おれがいうと、奴隷達は揃って頷いた。

「すっごいアイドル歌手みたいでした」
「あんなにうまい歌を聴いたのははじめてかも」
「ルナ、すっごい元気が出たよ。ホラこんなに!」

 ルナのアホ毛がビンビンになっていた。
 まっすぐ伸びて、バネのようにミョンミョン跳ねてる。

 お前のそれはいったいなんなんだ。

「ありがとう、そんな事をいわれたのはじめてです。ここで歌うようになって結構経ちますけど、足を止めてくれる人ほとんどいないから」

 彼女のライブの途中、通りすがった通行人達の事を思い出した。
 全員が例外なく、彼女をけなしつつ去っていった。

「また、聞きに来て下さい」
「そうする。いつもここにいるのか?」
「はい」

 イノリは頷いて、物陰にある枕を取り出した――枕!?

「ずっとここにいます」
「ね、ねえハードさん。わたし、その『ずっと』っていうのが怖いです……」

 サヤカがいう。奇遇だな、おれも今おいおいって思ってたところだ。
 コハクをみる。コハクも似たような表情をしてた。

 ゆいつ、おれ達の中で驚いてないのが一人いた。
 ルナだ。

「イノリン、ここで寝てるの?」
「うん」
「その枕だけで?」
「うん」

「それはあまりよくないと思うよ」
「そうかな」
「うん。だってほら、夜になってからだいぶ寒くなったし。せめて段々ボールで寝床を作らなきゃ。しってる? 段々ボールって意外と暖かいんだよ」
「野宿のノウハウを教えるのやめー」

 ルナに突っ込んだ。
 彼女はちょっと前まで屋根の上とか軒下とか、橋の裏とかで野宿してたらしい。
 イノリが野宿してるって聞いて、仲間を見つけた様な気分なんだろう。

 そんなルナを止めて、改めてイノリに聞く。

「なんで野宿なんかしてるんだ? 家はないのか?」
「家ならあります。両親もいます」
「じゃあなんで? 遠いのか?」
「ううん、ここから歩いて五分くらいのところに」

 五分!?
 そんなに近いところに家があるのに野宿をしてるのか・
 しかも……毎日っていったぞ」

 あっ……もしかして。
 アイドルとか歌とかが一番の価値観な国だ。
 歌っても魔力がなくて、女神の加護がないってされる彼女は親からいびられているとか――。

「メンドクサイの」
「……へ?」
「帰るのが面倒臭くて。ここにいれば起きたら歌う、歌ったら寝る、ができるから」
「えっと……歌うためにここまで移動するのが面倒臭くて、ここで野宿しっぱなしってことか?」
「うん!」
「うんじゃないが!」

 思わず盛大に突っ込んでしまったおれ。声まで裏返った。
 一瞬可哀想な子かも知れないと思ったイノリは、頭が可哀想な子だった。

     ☆

 あんなところに置いておくのは気が引けたから、彼女を家まで送ってやることにした。
 イノリはサヤカが背負っている。

 面倒くさがりだが身体能力は人並みみたいで、十倍『ちーと』のサヤカは楽々背負えた。

「そういえば、お前は自分の事を知ってるのか?」
「自分のこと?」
「魔力」
「ああ……」

 背負われたままのイノリは得心した。
 心当たりはあるようだ。

「うん、わたしの魔力は他の人とちょっと違うみたい。多分ハーフだからだって、お父さんが言ってた」
「ハーフ?」
「うん、お母さんは人間だけど、お父さんはちがうんだ」
「そうなのか」

 それにしては見た目が普通だな。
 なんのハーフなんだろう。
 耳が尖ってないからエルフじゃない、オゴオゴ♪ いわないからオークでもない。

 うーん、見た目からじゃ何のハーフなのかまったく分からないな。

 そうこうしてるうちに、彼女の家についた。

「ここよ」

 やってきたのは普通の建物だった。
 街外れにある一戸建て。
 屋根にでっかいマイクのオブジェクトがささってるけど、そういう音楽関係のものは他の建物にもあるから、この街――多分この国じゃ普通なほうだ。

 そんな普通な建物にやってきた。

 イノリを連れたまま、ドアをノックする。

「だれだ」

 男の、ものすごく渋い声が中から聞こえてきた。
 渋いだけじゃなくて、聞いてるだけで耳が幸せに感じる程の美声。

「ただいま、お父さん」
「イノリ? 珍しいな、今年はもう帰らないのかと思ったぞ」

 イノリの父親はイケボ(イケメンボイス)で言った。
 いや今年はもう帰らないって、そりゃ徒歩五分のところで近いけどいいのか娘がそんなんで。

 そう、苦笑いしてるうちに、ドアがゆっくり開いた。

「「「「!!!」」」」

 おれと、三人の奴隷が一斉にびっくりした、身構えた。
 なんと、ドアを開けたでてきたのはでっかい手だった。

 人間サイズの手、手のひらにおっきい口。

 魔物、歌う手そのものだ。

「サヤカ、イノリを背負ったまま下がれ。コハク、一気にやれ」
「はい!」
「任せて!」

 奴隷の二人はすぐ様に動いた。
 サヤカは大きく飛び下がって、コハクは魔法の詠唱をはじめた。

「まって、おとうさんなの」
「……え」

 イノリが止めた、おれ達は一斉に止まった。

 オトウサン?
 オトウサンってなに?
 あの「お父さん」の事?

 目の前の歌う手がお父さん?

「わたし、歌う手と人間のハーフなの」

 ……。
 …………。
 ………………。

「「「「えええええ!」」」」

     ☆

 ミラクル家のリビング、おれ達はイノリ一家と向き合った。
 ミラクルは普通に座ってる。
 家長の席に歌う手が座ってて、その横に中年の女の人が寄り添ってる。

「シャドー・ミラクルだ。こっちが妻だ」

 シャドーと名乗った歌う手が自分と奥さんを紹介した。
 でっかい手の親指に寄り添う奥さん、その奥さんの頭を人差し指が撫でてる。

 すごい光景だ。

「娘が世話になったみたいだな。礼をいう」
「あ、ああ。いや、大した事は」
「こいつは昔からそうでな、歌うこと以外には無頓着なんだ」
「無頓着にもほどがある」
「まったく誰に似たんだか……」

 おれのツッコミにシャドーはため息交じりに答えた。
 そんな父親の嘆きなど気にもしていないのか、イノリはすーすーと寝息を立てはじめた。

 リビングの床で、丸まって。
 彼女の両親はそれをみて複雑な顔をした。

「このまま寝かせててもいいんですか?」
「いいんだ。どうせ起きたらまた歌いに出かける。部屋に部屋に運ぶと家を出る前にあっちこっちぶつけて怪我をする」
「どんだけ歌う以外ダメダメなんですか!」
「最高記録は出かけるまでにタンスに小指を三回ぶつけた」
「とことんだめなんですね!」

「まあ、それでも歌ってるのはおれからしちゃ嬉しいことだ。ああ、こいつはおれの娘だなあ、って」

 シャドーはしょうがなさそうに娘をみた。
 語気はすっかり柔らかくなって、「やれやれしょうがねえな」って感じになってる。

 娘の事をむしろほこりに思ってる、そんな感じだ。

「こんな娘だけど、たまに歌を聴きに行ってやってくれると嬉しい」

 そういって、シャドーは頭(?)をさげた。
 隣に寄り添う奥さんも一緒に頭を下げた。

     ☆

 ミラクル家をでて、大統領のライブ会場に向かう。
 そろそろライブが終わる時間だ。

 イノリの事もきになるが、今はまず、大統領と会わなきゃいけない。
 あって、国王から預かってきた親書を渡さないといけない

「びっくりしました、まさか歌い手……じゃなくて歌う手さんが出てくるなんて」
「あたしも。歌う手と人間のハーフなんて初めて聞いた。魔物と人間のハーフはほとんどありえないから」
「うん。ルナもクレーマーと人間のハーフなら知ってるけど、歌う手は始めてみた」
「クレーマー……G。ルナちゃんん、ハーフじゃないよね」
「ふぇ?」

 コンサート会場に急行する最中も、奴隷達はイノリ一家の話題で持ちきりだった。
 それほど衝撃的な光景だった。

 用事が終わったら明日またイノリに会いに行こう。
 いろいろと話を聞いてみよう。

 そう思って、ライブ会場に急行した。

 ライブ会場に近づくにつれ、人が増えてきた。
 人が増えてるだけじゃない。
 なんだかものすごく慌ただしくなってる。

「なんかあったのか……おい、どうしたんだ」

 おれは近くを通り掛かった、なんかすごく慌ててる男を捕まえて、聞いた。

「どうしたんだじゃない、大変な事になったぞ」
「大変な事? なにがあった」
「大統領がマイクをステージにおいてったんだよ」
「マイクをステージに? それって……」

 奴隷達をみた、コハクが静かに……深刻そうな顔でうなずいた。

「引退するんだよ大統領」
「えええ?」
「こうしちゃいられない、すぐに次の総選挙になる。うちの事務所の子にしらせなきゃ」

 男はそう言って、お急ぎで去っていった。

 大統領――トップアイドルの電撃引退。

 そのニュースは、この国に激震をもたらしたのだった。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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