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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第三章

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27.おれだけが知っている

 サウンドヒールから半日くらい歩いた先にある、パッションの街。
 この街もかなり賑わっていた。

「普段と違うわね、ここ」

 街に入った瞬間、コハクがいった。

「なんでそう思うんだ?」
「街に宿屋やお土産屋とか、外の人向けの施設が多いの。それに」
「それに?」
「みんな同じTシャツを着てる」

 それはコハクの言うとおりだった。
 行き交う人々、あっちこっちでグループを作って固まってる人々。
 それらの大半が、同じデザインのTシャツを着ている。

 全員がある女の人をプリントしたTシャツを着てる。

「多分、ライブを見に来た人達だね」
「なるほど」

 ライブ――ツアー目当てに来た人がほとんどで、この街の住民が少ないってことか。
 大統領にまでなった程の、総選挙を勝ち抜いたアイドルのツアー中ならあたり前の光景か。

 さて、それじゃあその大統領に会いに行くか。

     ☆

 会えなかった。
 大統領はライブ直前のリハーサル中で、だれとも会わないらしい。
 サローティアーズ王国の使者で、実は王女も来てるぞ、って行ったけどそれでもあってくれなかった。

「ライブの開催は世界よりも重い」

 という、スタッフの言葉でおれ達は引き下がるしかなかった。
 ライブ会場の外、おれは奴隷達と向き合った。

「どうしよっか」
「こうなりゃ仕方ない。ライブが終わってからもう一度会いに行くしかないだろ」
「あ、あのハードくん」

 ルナが思い切った様子で切り出してきた。

「ルナ、さっきすっごい気になる人を見かけたの。道ばたで歌ってた人なんだけど、すっごい歌が上手かったんだ」
「へえ」

 そう、サウンドヒールにしても、このパッションにしても。
 あっちこっちで人が歌ってる、路上ライブをやってる。

 半端ない数と頻度だ。
 散歩歩けばライブに当たる――なんてことわざが出来そうな度合いである。

「行ってきていい、かな」
「いいぞ」
「ハードさん、実はわたしも」
「あたしもちょっと気になる娘が」

 サヤカもコハクもそう言ってきた。
 ちょっとびっくりだけど、分からなくはない。

 おれは少し考えて、三人にいった。

「じゃあこうしよう、大統領のライブが終わるまで別行動。みんなそれぞれ気になる人の路上ライブを楽しんでくる。っていいか?」

 サヤカも、コハクも、ルナも。
 奴隷達は一斉に、ハイテンションで頷いた。

 三人はそれぞれ散っていった。
 一人になったおれは適当にぶらぶら歩き出した。

 気になる路上ライブはないけど、気に入るのを探して回るのもいいかもしれない。
 そう思って歩いて回った。

 みんな結構上手かった。
 老若男女。
 上は老人から下は子供まで、男も女も関係ない、あっちこっちで誰かしら歌っていた。

 みんな歌が上手い、これがあっちこっちにあるのなら――と。
 また少しこの国の事を分かったような気がした。

 中には何人がとんでもなく上手い人もいた。
 その人達は決まって、歌ってる最中はからだから濃い魔力が、見える程の強い魔力を出している。
 女神レディの加護でそうなってるってコハクが行ってたっけ。
 なるほどな。

 ふと、おれは立ち止まった。

 大統領のライブ会場からだいぶ離れた街外れ。
 そろそろ路上ライブやってる人も少なくなってきた場所。

 そこで彼女が歌っていた。
 年はおれよりもちょっと上ってところか。
 これまでみてきた路上ライブをやってるアイドルはみんなそれなりに派手な、人目を引く格好をしてたけど、彼女はまったく別。

 長い髪を高いポジションでポニーテールにしている以外、きわめて普通な格好だ。
 その格好で歌ってた。

 おれが立ち止まるまで誰も聞いてないけど、歌ってた。

 結構……いやかなり。
 というか、すごくいい歌じゃないか?

 おれは完全に脚を止めた、彼女の歌を聴いた。
 うん、いい歌だ。
 他のアイドルと違ってからだから魔力みたいなのは出てないけど、今まで聞いてきた中で一番いい歌だ。

 いつまでも聞いてない、そんな歌。

 歌う彼女、聞くおれ。
 二人の間に二人組の男が通り過ぎていった。

 男達はちらっと彼女をみて、鼻をならして笑った。

「へったくそだな。へたくそすぎて女神レディの加護ゼロだぞ」
「一人しか聞いてない上にこんな街外れでやってるヤツなんてたかが知れてるし」

 二人は笑うだけ笑ってから、そのまま去っていった。

 腹がたつ、言いたい放題しやがって――
 ――こいつらなんて無視だ、今は彼女の歌を聴きたい。

 二つの感情がせめぎ合って、おれは後者を取った。
 彼女の歌を聞き続けた。

 その間もまた人が通り過ぎて、鼻で笑った。
 ……他の誰が言おうと、おれは彼女の歌が好きだね!

     ☆

「あ、ありがとう……」

 歌い終わった彼女はおれにお礼を言った。

「最後まで聞いてくれて、ありがとう」
「あっ、もう終わりなのか」
「……歌える曲、もう全部歌い終えちゃったから」
「そうか……」

 それは残念。
 もっと聞きたかったのにな。

「あっ、そうだ。最初の頃の曲は? おれ途中からしか聞いてないんだ。最初の頃の曲歌ってくれる?」
「えっと……」

 彼女は難色を示した。

「だめか」
「うん! そうじゃない! そうじゃなくて……あの……」
「うん?」
「わたし、歌い出すと夢中になるから。どこから聞かれてるのか、分からなくて」

 そうなのか!
 でもわかるかもしれない。
 すっごく夢中に歌ってたもんな。

「じゃあさ、最初からもう一度。全部聞かせてくれる?」
「聞いてくれるの!?」
「うん、聞かせて」
「――はい!」

 彼女は大喜びして、喉の調子を整えて、また歌い出した。
 最初の頃の曲、初めて聞く曲。

 うん、これもいい。
 というか全部いいな、彼女の歌は。

「おい! もうやめろ!」

 ふと、邪魔が入った。
 チンピラっぽい男が彼女に詰め寄って、マイクを持ってる腕をつかんだ。

「きゃっ! な、何をするの?」
「そのへたくそな歌をやめろっていってるんだよ。女神レディの加護も受けられねえようなへったくそな曲、こんな街中で歌われちゃ迷惑なんだよ」
「ごめんなさいごめんなさい。それはわかってます。でも……」

 彼女はおれをちらっと見た。

「聞いてくれてる人がいるから、今だけ許して――」
「はあ? おれは言ったよな、今すぐそのへたくそな歌をやめろって」
「うぅ……」

 ……。
 むかつくなこいつ。
 腹がたつ、メチャクチャ腹がたつ。
 おれは拳を握り締めて、一歩踏み出した。

「ハードさん」
「ご主人様」

 背後から、静かにおれを呼ぶ声が聞こえた。
 振り向く、ちょっと驚いた。

 いつの間にやってきたのか、サヤカとコハクの二人がそこに立っていた。
 二人はおれを見つめてる、静かな目で。

 左手薬指の指輪が夕日に反射して光っている。
 わたしたちに任せて。

 そう言われたような気がした、主張された様な気がした。

「……コハク、あいつを排除しろ」
「はい」

 コハクは一歩前に進み出た。
 手をかざして、魔法を詠唱する。

「……え?」
「どうした」
「ううん、何でもない。アイスバインド」

 何故か一瞬だけびっくりしたコハクは、氷系の拘束魔法を使って、難癖つけてる男を縛りあげた。

     ☆

 男を排除して、再び路上ライブが始まった。

「いい歌だろ」

 おれの横に並ぶ二人に言った。

「うん、すごくいい歌……」

 サヤカはうっとりした表情で答えた。
 分かるか、サヤカには。

「うん、すっごくいいうた。それに魔力も桁外れに大きい。こんな人が埋もれてるなんて信じられない」
「魔力? 彼女のことか?」
「うん」

 コハクは頷く。

「さっき、『ちーと』の十倍に対象を二人から選んだ。もし男が魔力ゼロだったときに彼女も一応」
「なるほど」

 そういうことが何回あったもんな。

「それでわかったの、彼女にものすごい魔力があるって」
「ものすごいって、どれくらいだ?」
「あたしが知ってる中で一番」

 コハクがさらっと言った。
 え? 知ってるなかで一番?

「モンスターとかよりも?」
「そう」
「……ブラックドラゴンとかよりも」
「うん」

 はっきりと頷いたコハク。
 ばかな、信じられない。

 改めて歌ってる彼女をみた。
 おれには魔力は見えない。

 今まで難癖をつけた男達の言葉を思い出した。
 全員魔力がない、女神レディの加護がないっていってた。

 それが……最高だって?

「なんかの間違いじゃないのか? 魔力ゼロとかみんな言ったぞ」
「あの、ハードさん。もしかして……超音波みたいなもの、なのかも?」
「ちょうおんぱ?」

 どういう事だ、とサヤカをみる。

「その、人間が聞こえる音には範囲があって、あまりにも音が大きすぎると逆に聞こえなくなってしまうことがあるの。紫外線、とかもそういう感じ」
「ちょうおんぱ……しがいせん……」
「この人も、魔力が大きすぎるから逆に見えないんじゃないですか? それで魔力を十倍にする『ちーと』をもつコハクさんだけがわかった」
「……高いのは間違いないか?」

 コハクは無言で魔法を使った。
 夕日にむかって、千以上の氷の矢が一斉に飛んで行った。
 いままでに見た事のない規模だ。

「彼女を対象に魔法をうって――外してみた」
「すごいな……魔力が高いのは確かだな」

 改めて彼女をみる、歌を聴く。
 他人には分からない、素晴しい歌に超絶高い魔力。

 おれだけが分かる、彼女のすばらしさ。

 もっともっと、彼女の事が知りたい。
 そう、思ったのだった。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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