挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第三章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

26/52

26.フロの歌う手

 プルルージュ共和国首都、サウンドヒール。

 駅に到着して、おれ達は馬車からおりた。

「うわー……すっごい人のかず」
「うん、すごいね……」

 広大な駅ロビー、行き交う人々の数々に、ルナとサヤカが圧倒された。
 流石首都、人の数が半端ない。
 下手したらサローティアーズ王国の首都よりも賑わってないか? ここ。

 それよりも。

「やたらと……あっちこっちでみんな歌ってるな。ライブ?」
「プルルージュはアイドルの国だからね」

 コハクが平然と答えた。

「アイドルの国?」
「ご主人様は来た事ないんだっけ。この国は女神レディ・スパイクの加護があるから、みんな歌がうまいし、歌で色々決めちゃうんだよ」
「色々って、例えば?」
「一番代表的なのは大統領かな」
「……は?」
「大統領を……ライブで?」

 おれと同じように、サヤカも目を丸くした。

「そうだよ。四年に一回国民総選挙をやって大統領をきめるの」
「そんなんでいいのか!」
「女神の加護を受けてるからね。それにアイドルって言えば総選挙、総選挙っていえば大統領じゃない」
「それ、何か間違ってると思います……」

「あっ、ちょうどわかりやすいのがある。ご主人様あれ見て」
「ん?」

 コハクが指さした先を見た。他の奴隷達もそっちに視線を向けた。
 視線の先に、何かがぶつかったのか、壁が半分くらい崩れているところがあった。

 そこに一人の男がやってきた。
 男はマイクを持って、伸びやかに歌い出した。
 歌って、おどって。
 まるでアイドルの様にうたった。

 まわりに人が集まってきた……と思った次の瞬間。
 なんと壁が修復されはじめたのだ!

「なんだあれは!?」
「だから女神の加護を受けてるっていったじゃない。このプルルージュ共和国は女神レディの加護があるから、歌に魔力が宿るんだ」
「……なるほど、これなら総選挙で大統領決めるのも納得できる」
「そうかなぁ……アイドル総選挙ってそう言うものじゃないと思うけど。そのうち握手券がでてくるんじゃないかな……」

 おれは納得したが、サヤカは例によってブツブツ言い始めていた。
 それはいつもの事なので、軽く流すことにした。

     ☆

 サウンドヒールにある大統領府。

 サローティアーズからの使者、親書を持ってきた。
 おれ身分を明かして要件を伝えた。

 出迎えたマネージャはそれを聞いて、困った顔をした。

「すると大統領とあわなきゃだめですね」
「そうだ」
「こまったなあ……大統領、いまサウンドヒールにいないんですよ」
「いない? どこにいったんだ」
「ツアー」
「ツアー?」

 ちょっと耳をうたがった。
 ツアーって、ツアー?
 あのツアーの事か?

「そう、大統領が毎年やる全国ツアーの真っ最中だから、それにつきっきりで他の街にいってるんだ」
「そ、それでいつ戻ってくるんだ?」
「ツアーは始まったばかりだからしばらくは戻らないんじゃないかな」

 えー……。
 それでいいのか? それでこの国は持つのか?

「大統領のライブは大事なことだよ。国民総選挙に選ばれたトップアイドルだから、女神に歌を捧げる、っていう意味合いもあるし」
「あっ、神事……みたいなものなんだ」

 サヤカが妙に納得していた。
 なるほど、女神がらみで大事なことなのか、それじゃしょうがないな。

 しょうがないのはしょうがないけど、こっちも親書を渡さないとどうしようもない。
 どうしようかな。

 コハクがマネージャに聞く。

「ツアーの日程を教えてくれる? こっちで勝手に追いかけるから」
「わかりました。こちらがツアーの日程になります」

 マネージャーからパンフレットを受け取って、おれ達は大統領府を後にした。

     ☆

 サウンドヒールを出て、ツアーの最初の街に向かう。
 馬車は満員で乗れなかった。
 大統領のツアーの遠征組でめちゃくちゃ満員だった。

 仕方なく、おれ達はあるいてむかうことにした。

「面白い国だな」

 歩きながら、つぶやくおれ。

「奴隷解放宣言をした国だからちょっと頭がアレな国だって思ってたけど、話を聞いてくと段々面白く感じてくる」
「うん、面白いよ。この国にいると住民だけじゃなくて、外から来た人間でも歌に魔力を持つようになるからね」
「ルナでも?」
「もちろん」

 コハクが頷き、ルナは目を輝かせた。
 ルナは歌い出した。伴奏とかなくて味気なかったが、そこそこにうまかった。
 一曲が終わった後、ルナはちょっと残念そうな顔をする。

「魔力、持ってた?」
「もってたよ、ほら」

 コハクが背後をさした。
 おれ達が歩いてきた道。ルナが歌ってきた道中だけ、綺麗に花が咲いていた。
 歌う前と歌い終わった後は蕾のままだった。

「わああああ!」
「ルナルナは歌の才能があるかも知れないね」
「本当!?」

 目を輝かせるルナ。

「コハクはどうなんだ?」
「あたしはダメだよご主人様。前に来たとき試したけど、大変な事になったから」
「大変な事?」
「窓ガラスが全部割れて、絨毯にめちゃくちゃ毛玉がたったんだ」
「それは大変だ」

 その時の光景を想像した、歌で窓ガラスが割れて、絨毯に毛玉が次々と出来ていくその光景を。
 だいぶすごいな。

「なんか歌う手みたい」
「そこまではひどくないよ」

 抗議するコハク。
 歌う手、手の形をした、歌がメチャクチャ下手な魔物だ。
 たしかにそこまでひどくないだろう、ひどかったらちょっとご主人様としてもフォロー出来ないかもしれん。

「あっ」
「どうしたルナ」
「あれ」

 立ち止まって指さすルナ。
 その先に魔物があった。

「あれは……フロの歌う手だね」
「知ってるのかコハク」

 おれも立ち止まってコハクをみた。

「うん。みたとおりだよご主人様。フロに入ってる歌う手、だからフロの歌う手」
「なるほど」
「プロの歌い手、だよね」

 サヤカがまた聞き取れないブツブツを言った。

 フロに入ってる歌う手が口を開けた。
 人間サイズの手のひらについてる手をあけた。

 ――まずい、あの破壊ボイスが来る。
 と、思っていたら。

 ♪

 めちゃくちゃ上手かった。
 歌う手は破壊的な歌声だったけど、フロの歌う手の歌はメチャクチャ上手かった。

 しっとりとしたバラード、聞いてるだけで落ち着いてくる。

「いい歌だな」
「はい……」

 落ち着いて、うとうとしてきた。
 まるで、温かいぬるま湯に浸かっているかのような、そんな心地よさをかんじた。

 ドサッ! ドサッ! ドサッ!
 次々と物音がした。
 みると、三人の奴隷が倒れていた。

 地面に倒れて、健やかに寝息を立てている。
 ねむいよな、こんなに穏やかな歌を聴いてると眠くなるよな。

 おれもちょっと寝よう。
 そう思って全身に脱力した――その瞬間。
 目に入った風呂の歌う手の顔にぎょっとした。

 そいつはにやりと、悪い表情をしていた。
 まずい、これはまずい。
 絶対に罠だ、そいつの罠に違いない。

 寝たらヤバイ……でももうどうしようもなく眠い。

 おれは意識を手放す前に、必死に奴隷に手を伸ばした。

     ☆

 目を覚ますと、世界が反転していた。
 一瞬何がおきたのか分からなくて、きょろきょろとまわりをみて様子を把握する。

 奴隷達は寝てる、おれはルナと手をつないでる。
 ルナと手をつないでて、時間を止めた。

 遠くにはフロの歌う手の姿が見える、悪そうな顔はそのままだ。

 ああ。
 罠にはまった、と気づいて必死にルナに手を伸ばしたのが間に合ったんだ。

 フロの歌う手の歌は上手いけど、催眠効果があったみたいだ。
 それで寝かされたおれは、時間を止めて、止めた時間の中で催眠効果が切れた、ってことか。

 やべえ……とっさに時間を止めなかったらやられてたぞ。

「う、ん……」

 ルナが目を覚ました。

「起きたか」
「ハードくん……? どうしたの?」
「みんなで魔物の歌に眠らされたんだ」
「魔物の……あ」

 おれと同じようにまわりをみて、すぐに状況を把握したルナ。

「あ、危ない所だったね」
「まったくだ」

「でもハードくんすごい」
「うん?」
「とっさにあたしと手をつないだんでしょ。時間を止めるために。あたしだったら全然そんなの思いつかなかったとおもう」
「必死だったからな」

 あの瞬間、このままじゃやられる! ってなって、必死に頭が回転したんだ。
 普段だとそうは行かない。

「それよりも、まずはあいつを倒そう」
「うん! ルナ頑張る!」

 動き出すと歌声が怖いから、おれはルナと手をつないだまま、止まった時間の中でフロの歌う手を倒した。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
7ysy7eb3mlnm36qb0th9jyha9ke_php_nf_xc_9d
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ