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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第三章

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25.深紅の騎士と奴隷達

 夜、リビングで一人くつろいでいた。

 ローテーブルの上に置いた電書ハトが「アン♪」と男のあえぎ声をだして、手紙を届けてくれた。

 手紙は二通。

 一通目は不動産屋『コンの抑止力』、タイラー・ボーンからのものだ。
 開いてみると中はカタログだった。家の増改築はこういうのができるよ、というカタログ。

 ぱらぱらめくって、とりあえず放っとく。
 エルーガの街の一件で銀貨500枚くらいの貯金が出来た。
 結構大金だけど、ローンは1000枚分のこってる。
 増築は完済してからだ。

 それに、今のマイホームの部屋は5つ。
 おれが一部屋、奴隷の三人で一部屋ずつ。
 まだ一部屋余ってるし、増築は当分必要ない。

 カタログを置いて、もう一通の手紙を読もうとした。
 差出人は……ソフトだった。

 ってソフト? ソフトから手紙!?
 うそだろ、あいつの方から手紙を送ってくるなんて、明日は世界が滅亡するんじゃないのか!?

 生唾を飲み込んで、ソフトからの手紙を読もうとした。

「ルナちゃん、どこにいるのルナちゃん」

 サヤカの声が聞こえて、長い黒髪の小さな女の子が現われた。
 俺の最初の奴隷、サヤカ。おとなしめで独り言クセがある、『ちーと』持ちのとても可愛い奴隷。

「あっ、ハードさん。ルナちゃん見ませんでしたか?」
「ルナ? ルナなら……」

 おれは反対方向を見た。
 窓の外に逆さでぴょこんとしてるアホ毛二本がみえた。

 ルナ・G・クレイドル。
 小柄で元気な女の子で、「Gの意思」を受け継ぐ一族の末裔らしい。
 この前おれの奴隷になったばかりの女の子だ。

「あっ、ルナちゃんだ! こら、こっちに来なさい」
「やだよ、ルナはお風呂やだよ」
「だめです! お風呂に入ってちゃんと体を綺麗にしないと」

 サヤカは窓を開けた、ルナは超スピードで逃げたが、すぐにつかまった。
 ルナも風のように早くて、残像を残すレベルで早いけど、サヤカの『ちーと』はそれよりも更に速かった。

 あっさりつかまって、連行されていく。

「あああ、ハードくん、たすけてえ」

 手を伸ばしておれに助けを求めるルナ。
 救いの手は……伸ばさなかった。

 話を聞いてるとルナが風呂嫌いで逃げてて、さやかが無理矢理入れようとしてる。
 そういう事ならむしろサヤカの味方をせざるを得ない。

 奴隷は綺麗にしてなきゃいけない。
 昔も今も汚い奴隷はあるけど、そんなの、ご主人様の無能が知れるってもんだ。

 奴隷は綺麗であればあるほどご主人様の力と余裕が示せる、そういうもんだ。

 だからサヤカに連行されるのを見送った。

「お茶です、ご主人様」

 横からすぅ、とティーカップが差し出されてきた。

 地面に届きそうな長いツインテールに、上品な物腰だがフランクな感じのする女の子。
 コハク・サローティアーズ。
 サローティアーズの王女だったのだが、今はおれの奴隷の一人。

「ありがとう……うん、うまい」
「ありがとうございます」

「不思議だな。コハクは元お姫様なのに、こういうこともできるんだな。いま、うちで一番家事がうまいんじゃないのか?」
「あたしもそんなに上手くないよ? 普通にやってるだけ」
「そうなのか?」

「うん。がんばってするけど、やっぱり家事が上手い人に来てくれるといいなあ、なんて思ってる」
「家事が上手い人か……」

 次の奴隷はそういう人だったらいいな。なんて思いつつお茶を飲む。

「うぅ……髪が濡れて力がでない……」
「ハードさん、お風呂入れ直しましたので、ハードさんもどうぞ」
「着替え、用意しますね」

 しばらくして、サヤカとルナが戻ってきて、コハクがバタバタと動き始めた。
 ちょっと前までは想像出来なかった、奴隷達に囲まれた幸せな夜を満喫した。

     ☆

 次の日、王都・マーキュリー。
 王宮の謁見の間で、国王と向き合っていた。

 前にあったガリガリ感はなくなって、普通体型に戻った。
 目つきが鋭いのは相変わらずで、睨まれるとちょっとびびる。

「えっと、きょ、今日は――」
「よい、かしこまった挨拶は必要ない」

 国王は手を振って止めた。
 謁見の作法をほとんど知らないから、助かった。

「ありがとうございます。それで、今日はなんの用ですか? 一人で来いって言われたから、コハクもおいてきたんですけどいいんですか」

 そう、おれは一人で来いって言われた。
 コハクは元王女で、国王の娘でもある。
 一緒に連れて来なくてよかったのか? という疑問だ。

「今日はそなたに用があるのだ。コハクはよい」
「はあ」

「要件は二つ、まず一つは――」

 国王は側近に目配せした。
 側近があらかじめ用意してた物を持ち出した。

 装飾のついた、綺麗な剣だ。
 それを目の前に持ってかれた、国王と目が合って頷かれたから、受け取った。

 ちょっと抜いてみる。鞘の中は金属っぽい色じゃなくて、真っ赤っかな色をしていた。

「これは――まさか!」
「ほう、知っているのか」
「知ってますよ! これは深紅の騎士(スカーレットナイト)にだけ与える『緋色の鍵』じゃないですか!!」
「うむ、まさにそれだ。奴隷を持つことが夢というだけあってよく知っているな」

 深紅の騎士。
 それは最高のご主人様に与えられる称号だ。
 そしてこの赤い剣――緋色の鍵は深紅の騎士である証なのだ!

「知っての通り、各国が深紅の騎士の位を与えなくなって久しい。なので、そなたがこの世に存在するたった一人の深紅の騎士になる」
「うわ……」
「通常騎士位は準男爵に相当し貴族として扱われるのだが、深紅の騎士はいろいろあってそれが与えられない。つまりはただの名誉職――」

 国王がなんか言ってるけど、耳に入ってこなかった。
 だって深紅の騎士、深紅の騎士だ。
 最高に甲斐性のあるご主人様にだけ与えられる称号だ。
 他の何よりも嬉しい。

「――実質平民のまま、って聞いておらぬか」
「え? あっすいません!」
「まあよい。それほど喜んでもらえるのなら与えた甲斐があったというものだ」
「ありがとうございます!」

「さて、そなたを呼びつけたのは二つの用事があったから」
「一つはこれで……もう一つは?」

 おれは真っ赤な装飾剣・緋色の鍵を腰に下げつつ、国王に聞きかえした。

「頼みがある、おつかいとも言うべきか」
「おつかい?」
「うむ。隣にあるプルルージュ共和国をしっているか?」
「知ってますよ!」

 おれは自分でも分かるくらい眉をしかめた。
 プルルージュ共和国。
 田舎暮らしだったおれのところにも噂が聞こえてきた。
 なにがあっても絶対に許さない、そう思ってる国だ。

     ☆

 ウマ車の定期便の中。
 ファーストクラスにのったおれと奴隷の三人。

 行き先のプルルージュ共和国について、さやかがいつも通り「どういうところですか?」って聞いてきた。
 サヤカは常識人っぽい一面があるけど、同時に「こんなことも知らないのか?」っていう、極端に知識が欠落してる面もある。

 それはもう慣れたから、普通に説明してやった。

「プルルージュ、サローティアーズの隣にある国の名前だ。たしか国王は定期的に国民が選ぶんだっけ?」

 コハクを見て、補足の説明を求める。

「国王じゃなくて、大統領って名前。プルルージュだと四年に一度の国民選挙でその大統領を選ぶの」
「民主主義あったんだ……てっきり全部王国だと思ってた」

 なんかブツブツ言ってるサヤカ。
 こいつはこんな風に、何かあるとブツブツ独り言を言うクセがある。
 ルナが首をかしげてたけど、慣れてるおれとコハクはスルーした。

「それはいいんだけど、おれはプルルージュがきらいだ」
「……そうだね、ご主人様は嫌うね。宿敵って書いて親の仇って呼ぶくらい嫌うかもね」

 宿敵(親の仇)

 うん、しっくりくる。
 その言い回しはすごくしっくりくる。

「えええ!? どうしてそんなに嫌うのハードくん」
「十年くらい前に奴隷解放宣言をしたから」
「奴隷解放宣言?」

「奴隷は可哀想、その奴隷を解放して普通の人にしてやるって宣言だ」
「同時はすごく話題になったね」

「奴隷……」
「……解放」

 サヤカとルナは互いに顔を見合わせて、それからそれぞれの手を見た。

 左手の薬指にある指輪。
 奴隷である証、奴隷指輪。

 それを見た二人ははっとした。

「ハードさんは奴隷大好きだから」
「そりゃきらいにもなるよね」

 うんうん、とうなずき合った。

 そう、おれがプルルージュを嫌う理由はただ一つ。
 奴隷解放宣言なんていうふざけた事をやったからだ。

 聞く話によると、そのせいでプルルージュは奴隷の売買が禁止されてる。
 まったく、けしからん国だ。

「そのプルルージュの大統領に親書を渡しにいくんだね」
「そういうことだ。嫌なところだから、とっとと渡してとっとと帰ろう」

 そうだ、とっとと渡してとっとと帰ろう。
 奴隷のいない、奴隷そのものを否定する国になんて用はない。

 ウマ車が駅に着き、客が乗り込んできた。
 普通席にいっぱい乗り込んできたけど、ファーストクラスのこっちには男女が一人組乗り込んできただけだ。

 こっちすいてていいなあ、と思ってると乗り込んできた男女がおれ達の横に立ち止まった。
 普通に通り過ぎようとしたが、何か見つけて立ち止まった、ってかんじだ。

 二人はおれたちをみた、おれも二人をみた。

 若い男女だ、おれより一つか二つ年上、ってくらいか。
 格好は冒険者風、二人とも結構できるやつっぽい雰囲気を出している。

「奴隷か」

 男がいった、若いのに低くて渋い声だ。
 その目線はサヤカ達の奴隷指輪に注がれている。

「未だに奴隷なんて、そんなカビの生えた伝統を守ってる人間がいたとはな」
「……なんだって」
「奴隷を持つのが古くさいだといってるんだ。おまえ、古き良きご主人様を目指してるクチだろ?」

 それがどうした。

「古き良きご主人様、そんなもの、ただ自分よりも弱いものを庇護してご満悦になってるだけのことだろ」

 ……。
 そういう言い方をされるとむかつくな。

 はたからはそう見えるかもしれないけど、そうじゃないだろ。

「それに、甘やかされた奴隷は次第につけあがる。ご主人様をご主人様ともおもわなくなるか、ご主人様の威光を笠に着てやりたい放題やるかのどっちかだ。『宰相の奴隷も準貴族』ってことわざがあるくらいだからな」
「うわあ、奴隷が準貴族とか最悪ー」

 女がゲラゲラわらいながら言った。

「しかし、ここは大丈夫だな。みた感じ何の能力もないし、……ふっ、Fランクか」

 男はいつ撮りだしたのか、カードを見て鼻で笑った。
 カード……? あっ!

「それ、おれのギルドカード!」

 持ってるのはおれのギルドカードだった。
 いつとられたんだ? まったく見えなかった。

「この程度の男に庇護されてる奴隷なんて、大したことないな」
「あははは、それもそうだよね」

 楽しげに笑い合う二人組。
 腕は立つみたいだけど、ちょっと腹がたつ。
 見返してやろうか……と思ったおれだが。

 さやかが先に立ち上がった。

「なんだ?」
「返してください」
「返すって何を――えっ?」

 驚愕する男。
 持っていたおれのギルドカードがいつの間にかサヤカに奪われていた。

 やつも早いだろうが、さやかの『ちーと』にはかなわない。
 さやかのは相手よりも十倍速くなる能力なのだから。
 それをつかって、気づかれないまま奪い返した。

 男の顔色が変わった。
 プライドを傷つけられた、そんな顔をした。

「おまえ、何をした!」
「何かをするのはこれからだよ。ハードくん」

 ルナはそういって、おれの手をつないだ。
 世界が反転して、時間が止まった。

 どうするの? って聞くよりも先にルナはペンを取り出した。

 おれと手をつないだまま立ち上がって、男の顔に落書きした。
 教科書の偉人の顔にする様な落書きをした。

 これでにらめっこしたら超圧勝だ、ってくらいの力作。

 それをしてから、手を離す。
 時が動き出す。

「さっきは油断したが、もうそれはない――」
「きゃあ! ちょ、ちょっと。その顔どうしたの!?」
「顔……何だこれは!」

 ウマ車の窓で自分の顔が思いっきり落書きされた事をしって、血相を変える男。
 ルナは持ってるペンをぐるぐる回した、自分がやったと主張した。

「なにも見えなかった。今の一瞬でこんな落書きを……?」

 そりゃ見えないだろ。時間を止めてやったんだから

「馬鹿な……Fランクのヤツの奴隷がこんな!」
「何かの間違いよ。なんかズルをしてるんだ」

 ズルって、なにもしてないけどな。

「どうかしましたか?」

 騒ぎを聞きつけたのか、ウマ車の車掌さんがやってきた。

「いいところにきた、こいつらが――」
「これはコハク様! なにかありましたでしょうか」

 男が告げ口っぽい何かを言い出すよりも先に、車掌さんがビシッと背筋を伸ばして聞いてきた。

「コハク様?」
「この方はサローティアーズ王国の王女殿下、コハク・サローティアーズ様だ!」
「なっ!」

 男女は言葉を失った、カッと目を見開いて、おれとコハクを交互に見比べた。

 コハクは王女、ならこいつは?
 ってのが二人の顔にありありと見える。

「ちょっとしたレクリエーションだから、大丈夫よ」
「そうでしたか。本当にすみません、本来なら王女殿下にSランクの冒険者、個室をご用意して差し上げるべきところなのですが、いろいろ手違いがありまして」
「気にしてないわ」
「Sランク?」

 またまた目を剥く男達。
 おれは目配せして、さやかが頷いた。

 ギルドカードを取り出した。
 サヤカのはおれと違って、Sランクギルドカードなのだ。

 それを見せつけられた男達はますます言葉をうしなった。
 今度はサヤカとおれを交互に見比べた。

 なんでFランクの奴隷がSランクなんだ、って顔だ。
 わかりやすいな、この二人。

「すいませんお客さん、ウマ車の走行中なので、せきについてもらえませんか」

 車掌さんは二人にいった。
 お客様に対する礼儀正しい態度だけど、コハクやおれ達にするものとはものすごい落差があった。
 それで二人はますます顔を赤くして。

「ふん! どうせ何かズルをしたんだろ」
「あっ、ちょ、ちょっと待ってよ!」

 と、現われた時の威勢はどこへやら。
 どうでもいいような捨て台詞を残して去っていったのだった。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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