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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第二章

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24.三人の奴隷vs三つの首

 エルーガの宿屋。
 朝起きたおれの前にサヤカとコハクがいた。

「着替えですご主人様」
「ハードさんパジャマ、持っていきますね」

 奴隷にお世話をしてもらう寝起きにもすっかり慣れた。
 パジャマを脱いで渡して、代わりに受け取った服を着る。

 着替えながら部屋の中をきょろきょろ見回す。
 サヤカがいる、コハクもいる。
 ルナはいなかった。

「ルナは?」
「あそこにいるよ」

 コハクは窓の方を指さした。
 窓の向こうに見える、逆さまにぴょこぴょこしている二本のアホ毛。

 まるで体の一部(毛も体の一部だけど)のようにぴょこぴょこ動く見覚えのアホ毛。
 ルナのものだ、間違いない。

 服をちゃんと着てから、窓の方に行って、がばっと開ける。
 上を見る、ルナがコウモリのように軒下にぶら下がってるのがみえた。

「おはようルナ」
「お、おはようハードくん」

「どうしたんだそんなところに。中に入ればいいのに」
「いつ入ったらいいのか分からなかったから」
「出来ればおれが起きる前がいいな。目が覚めた時に大事な奴隷達の姿が見えると幸せだから」
「――っ! う、うん! じゃあ明日からそうする」

「それよりもなんでそんなところにいるんだ? いつ入るのか分からないなら、廊下にいないか普通は?」
「昨夜は屋根の上でねてたから、そのままここにいたんだ」
「屋根の上? 待て、ルナにも部屋をとってやっただろ」

 そう、ルナにも部屋をとってやった。
 ヘルプ先の宿屋だけど、そこはご主人様の甲斐性が試されるポイントだから、奴隷全員に個室を取ってやった。
 サヤカとコハクはもちろん、新入りのルナもだ。
 なのに屋根の上で寝た?

「うん、昔からそうだったよ。屋根の上とか、裏通りとか。あっ、橋の裏っ側は雨も凌げるしつかまる場所が多いから楽――」
「ルナ」

 おれは真顔で、まっすぐルナを見つめた。
 途中まで言いかけたルナが身をすくませる。

「な、なに」
「これからはちゃんと部屋で寝るように。宿屋もそうだけど、家にもどったらちゃんと部屋があるから、そこで寝るようにしろよ」
「ルナ、外でも平気だよ? あっでも、屋根裏とかもらえたら――」
「それはダメだ」

 きっぱり却下した。
 これまでのルナがどういう生活をしてきたのか分からないけど、おれの奴隷になったからにはそれは許さない。

「ど、どうして……?」
「そんなところで寝かせたら、部屋も用意出来なかったのにムリして奴隷をふやしただめご主人様にみられてしまう。だから部屋でねろ」
「でも……」
「どうして部屋がいやなのか?」

 もしそうなら別の方法を考える。
 屋根裏ってさっきいったっけ。

 ならタイラー・ボーンに依頼して、増築してルナ専用の屋根裏を作ってもらう。
 増築をどの程度注文つけられるのか分からないけど、屋根裏部屋くらい普通に作れるだろう。

 そう思って聞いたが、ルナはすぐに否定した。

「いやじゃない! ただ、ルナにもったいないなって」
「もったいない? それは思い違いだぞルナ」
「え?」
「奴隷になったらご主人様が指定した部屋で寝るのが義務なんだ。もったいないとか思うのはおかしい」

「おかしい、の?」
「ああおかしい」
「普通の部屋、温かい部屋で寝るのに……義務?」
「ああ、おれの奴隷の義務だ」

 きょとんとするルナ、なんできょとんとなるのか分からないけど、おれの考えは変わらないからルナをまっすぐみた。
 しばらくして、ルナはおずおずとうなずいた。

 うん、これで良し。

     ☆

 ギルド『勝つためのルール』。

 営業再開したギルドの中。
 前よりちょっと活気が減ったけど、その分みんな落ち着いてる。

 前は格上のクエストに挑戦しようとして、ランキングをあげようとしてみんなギラギラしてて、ちょっと危なっかしい感じがしてた。
 今は格上挑戦もランキングも廃止されて、雰囲気が落ち着いた。

 ロックの代わりに派遣されたギルマスを遠目に、おれとサイレンさんが入り口近くで眺めていた。

「ひとまずは一件落着だね」
「そうなんだ」
「ロックの死体は回収できたよ」

 サイレンさんが真顔で言った、つられておれも真顔で彼女を見る。

「ぐちゃぐちゃだったよ。体がばらばらになってたのもそうだけど、顔がさ、涙とよだれでぐっちゃぐっちゃで情けない顔になってた。ロックをしってる人が本人確認に立ち会ったけど、その顔のせいで別人なのかを疑ったくらいだよ。こんな顔をするヤツじゃないって」
「あはは……」
「ハード、あんた何をやったの?」

 何をやった、か。
 とことんやっただけだ。

 ルナの『ちーと』を使った、時間停止の能力をつかって、ロックが何をしようとしても、やった瞬間につぶしてた。
 それを延々と繰り返してたら、ロックが絶望していっただけの話だ。

 ルナの希望を汲んで、楽には死なせない。
 そう思ってやったことだ、まわりから見てもそうならやった甲斐があったってもんだ。

 サイレンさんがいつまでも視線で「何をやったの?」って聞いてくるから、適当に応えてやった。

「いろいろやった」
「いろいろねえ。なんか、あんたを敵に回さない方がいいって気がしてきた」
「その言葉をそっくりお返しします」

 サイレンさんにだけ言われたくない。
 おれがまだ微妙に敬語使ってしまうときがあるのもそれだ。

 旦那さん(?)を晴れやかな笑顔で折檻するサイレンさんがものすごく怖い。
 敵に回さない方がいい、間違いなくそういう人だと強く思ってる。

「まあいいわ。何はともあれ」

 サイレンさんはおれに体ごと向いた。
 右手を差し出してきて、握手を求めた。

「ヘルプお疲れ様。予定と違う結末になったけど、このギルドの人手不足は完全に解消された。ありがとう、ご苦労様」

 サイレンさんの出した手を握り返した。
 これで、エルーガの事件は完全に解決したのだった

     ☆

 大陸某所。
 男が二人、女が一人。

 年齢も格好も、喜怒哀楽の表現も。
 全てがばらばらの三人が集まっていた。

「今日呼び出したのはなに?」
「ロックがやられた」

 リーダー格の中年男が重々しく切り出す。
 それに女が目を剥き、不気味な男の気配が揺れた。

「なんですって? あのロックが」
「ああ」
「嘘よ! だってあいつ、シエテ様の力に一番近いヤツだったのよ? それにペインの収集も上手くいってたじゃないの」
「ああ」
「なのにやられたの? しんじらんない!」
「……愉悦」

 不気味な男がつぶやくように言う。
 口数が少ないおとこだが、その分、放つ言葉は常に芯を捕らえている。

「そうだ、ロックはもっともシエテ様のお考えに近かった男だが、自分の趣味に耽溺する一面もあった。それをつかれたのだろう」
「あのバカ」
「対象」
「それがな……」

 リーダー格の男の口は更に重くなった。
 何かものすごく言いにくそうにしているようす。

「なによ、ロックをやった相手ってそんなに言いにくい相手なの? ――まさかシエテ様の逆鱗に!?」
「いや、そうではない。やったのは……ノードを倒したのと同じヤツだ」
「なんですって」

 再び驚く女、不気味な男も更に気配が揺れる。

「ハード・クワーティー。それがロックと……ノードをやった男の名前だ」
「なんかパッとしない名前ね」
「油断」

「知ってるわよ。名前に文句つけるくらいいじゃないの。あんただって名前だけでいったら最低のクソそのものじゃん」
「……」

 暗に力は認めているという話の流れだが、不気味な男は眉をひくりとさせた。
 それに気づいているのかいないのか、女は更に続ける。

「そいつ、どういう人間よ」
「公認ギルドのFランク冒険者らしい」
「はあ? なにそれ、Fランクの冒険者? なんでそんなのがノードやロックをやれるのさ」

「わからん。ロックがやられたのが意外過ぎてな。今調べさせてるところだ」
「泥縄じゃないのよ!」
「……受諾」

 不気味な男が立ち上がった。

「やってくれるのか」
「へえ、意外じゃない。あんたが何もいわれないで進んでやる気になったのって」

 不気味な男は答えず、その場から消えるように立ち去った。
 残された二人、それぞれ違う感想を抱いた。

「相変わらず不気味で陰気なヤツな」
「そういうな。ヤツがやる気になってくれたのだ。正体を突き止める――いやそれ以上の事を期待していいだろう」
「そうね。ノードとロックはやられたけど、流石にあいつまではやられる事はないからね」

 男が消えたそこで、二人は、一様に安堵の表情を浮かべていたのだった。
 それが不気味な男に対する信頼であり。

 油断、でもあった。

     ☆

 プリブ郊外。
 一つ星ギルド『ラブ&ヘイト』で受けたFランクのクエスト。

 最近出没する様になった魔物、ケルベロチューの退治。
 おれは奴隷三人を連れてそれをやるためにやってきた。

 Fランクの依頼にしたのは、奴隷に加わったばかりのルナの歓迎会をかねて、なじませるという意図からだ。
 楽なクエストをやって、ご主人様と奴隷の仲を深める、という狙いである。

「あの……ハードさん。ケルベロチュー……ってなんですか?」
「キモイ」

 おれは端的に答えた。

「えええええ!? き、キモイんですか?」
「ああ、キモイ、とにかくキモイ」
「確かにあれは気持ち悪いね。ご主人様はそれ以上に害があるし。わたしたちはただ気持ち悪いですむけど」
「しってるよルナ。ケルベロチューって首が三つに腕が六本の魔物でしょ」
「えええええ!?」

 更に驚くサヤカ。

「おっ、噂をすればなんとやらだ」

 離れたところにケルベロチューが出現した。

「あれって……オカマ?」
「そう、オカマ。首が三つに腕が六本のオカマ。口がメチャクチャ口紅で赤いだろ? あれで男をにメチャクチャキスするんだ。この後メチャクチャキスした、ってナレーションが聞こえる位キスするんだ」
「うぇ……」
「しかもベロチュー」
「うぇ……あっ、だからケルベロチューなんだ」

「まあでもそれだけだ。キスをするだけでそれ以上の事は何もしない。害も……まあ精神的なものだけ。首が三つだから三倍だけどな」
「だからFランクなんだ……」
「そういうこと」

 納得するサヤカ。

「さ、やろうか」

 サヤカ、コハク、ルナに向かって言う。
 三人はうなずいた。

 クネクネしながら俺に向かってくるケルベロチューに戦意を剥き出しにした。

 次の瞬間、ケルベロチューがつぶれた。
 地面からニョキって出てきた何かにつぶされた。

 ……前足?

「ど、どうしたの?」
「あれは……魔物?」
「毛がふさふさだ――でも……うぅ、なんか見ただけで寒気がするよ」

 三人がそれぞれ反応した。
 地面からにょきっと出たあと、更に巨大な物体が続けて地面を割って出てきた。

 見あげる程の巨体、辺り一帯が真っ暗になるほどの巨体。
 まがまがしいオーラを放つ、三つ首の魔犬。

 エンシェントモンスター、ケルベロスだ!

「どうしてケルベロスがこんなところに!?」
「け、ケルベロス? やっぱりこっちもあったんだ」
「うぅ……ルナ震えが止まらないよ」

 ケルベロスが現われるのは予想外だ。
 ケルベロチューならFランククエストですむが、ケルベロスだとSSランクになる。

 正直事故レベルだ。

「どうするハードさん」
「ご主人様の仰せのままに」
「う、ルナも頑張る」

 三人の奴隷がおれをみた、おれの決断をまった。
 地獄の番犬ケルベロス、確かに強いかも知れないが。

「倒そう」

「うん!」
「わかりました」
「ハードくん、手をつなげる様にしておくねね」

 おれが決めると、怯えが一斉にすっ飛んだ三人。
 そんな三人の奴隷を引き連れて、SSランクのエンシェントモンスターをぶち倒す。

 凶悪な魔物だが、苦戦はしない。
 これが今のおれたちの――おれのちから。

 三人の奴隷をみて、おれは満足すると共に。

 次の奴隷はどんな子なのか、と思いをはせるのだった。
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よろしくお願いいたします。
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