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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第二章

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22.お前の物はおれの物、おれの物もおれの物

 エルーガ鉱山、地下一階。
 おれはルナと二人でやってきた。

 炭酸採掘で出来た人工の洞窟、壁にはランプが取り付けられてて、意外と明るくて広い。
 その洞窟を奥へ奥へと進んでいく。

「ここにいるの?」
「ああ、採掘手順をうっかり間違えて大量発生させてしまったらしい。――ほら来たぞ」
「あれが……炭酸カス」

 おれたちの前に現われた、人型の魔物。
 見下ろすほど背が低くて猫背、顔はのっぺりとして表情を作れる程のパーツはない。
 なにより、全員が岩石で出来ている。

「はじめてみた……炭酸カス。名前は聞いたことあるけどこんななんだ」
「炭酸の石の採掘に捨てられるカスが変化した魔物。ちゃんと処理するとただのゴミだけど、手順をミスるとこうして魔物化する」
「そうなんだ」

「気をつけろ。見た目通り硬いし、見た目以上に速いぞ」
「うん――あっ!」

 言ってるうちに炭酸カスが襲いかかってきた。
 ルナ並みの速さで飛びついて、岩で出来た両腕をハンマーパンチで振り下ろす。

 ルナは得物のナイフを取り出した、身構えていつも通り応戦しようとしたが。

「ルナ」
「――はっ」

 名前を呼ばれて、その事を思い出すルナ。
 ここに来たのは再開したギルドのクエストをこなすためでもあるけど、ルナが覚えた『ちーと』を試すためでもある。

 思い出させられたルナは応戦を取りやめて、おれと手をつないだ。
 瞬間、世界の色が変わった。

 あらゆる色が反転して、ものが静止する。
 空気も、ランプの中の炎も、飛びかかった炭酸カスまでも。

 全部が止った。

 時間停止。
 それがルナについた『ちーと』だ。

「すごい……本当に時間が止るんだ」
「そうだな」
「ハードくんは驚かないの?」
「うん、だって『時間停止のAVは9割ヤラセ』だって聞いたことがあるから」

 1割が本物ならこういう風に時間を止められる人もどこかにいるから、そんなには驚かなかった。

「え、ええええエーヴィ!?」

 ルナが盛大に赤面してあたふたしだした。
 それでつないだ手が離れてしまって、時間が動き出した。

 炭酸カスも動き出した。そのまま飛びかかってきてハンマーパンチが振り下ろされた。
 とっさに何とか避けた、パンチが地面にヒットして、地面がボコっと穴が開いた。
 おれとルナが分断された。炭酸カスはおれ達のあいだに割り込んだのだ。

 こりゃまずい――って思ったけどそうでもなかった。
 ルナはアホ毛をぴょこぴょこさせて、出会った時となんら変わらないものすごいスピードで炭酸カスを回り込んで、またおれと手をつないだ。

 世界が反転、時間が静止する。

「ふう……」
「もう! ハードくん変な事言わないでよ」
「いや変な事をいったつもりは」
「え、AVとかいったじゃん」

 それって変な事か? AVって言っただけだろ?
 ルナはますます赤面した、おれと手をつなぎながらもじもじした。

「ルナ乱暴されちゃうのかな……時間停止AVみたいに乱暴されちゃうのかな」

 なんかブツブツ言い始めた。
 サヤカのブツブツはかなり小声で聞き取れないけど、ルナのブツブツはほとんど普段の声の大きさで全部聞き取れない。

 いや、この場合時間停止能力はルナの『ちーと』だから、乱暴されるのはおれの方じゃ?
 ……。

「ルナ、時間停止中もいつもの様に速く動けるか?」
「えっと……やってみる」

 ルナはおれと手をつないだまま少し考えて、おれを抱き上げた。
 なんとお姫様だっこで!!!

 おれを抱き上げたまま、手をつないだまま動いた。
 炭酸カスを中心に動き回った。

「ちょっと遅いけど動けるみたいだよ」
「お、おう」
「ごめんね、ハードさんだっこしたままだとこれが限界みたい」

 いや充分だ……それよりも。

「下ろしてくれないか」
「え? ……ひゃん!」

 自分がやってる事に気づいて慌てておれをおろした。
 それでまだ手が離れて、時間が動き出した。

 炭酸カスがおれを襲った、やばい避けられない――。

 時間が止った。
 とっさにルナが手をつないだからまだ時間がとまった。炭酸カスもとまった。
 ふう……。

 とりあえず状況を整理した。

 ルナの『ちーと』は、おれと手をつないでる時にだけ時間を止められる能力。
 手を離すと時間が動き出してちょっとピンチになりかけるが、ルナはもともとスピードがものすごく速くて、すぐに手をつないで来れるから大した問題じゃない。

 気になるのは……時間はどれくらいの範囲で止ることと、止ってるときに相手に攻撃出来るかだ。
 狭い範囲でとめてるのか、世界中でとまってるのか。
 止めてる時に攻撃出来るのか、できなくて攻撃は動きだした後の隙をついてやるのか。

 この二点を確認する必要があるな。

「ルナ。このままこいつを攻撃してくれ」
「うん! ――えい!」

 電光一閃!
 ルナのナイフが弧の軌道を描いて炭酸カスに斬りつけた。

 火花が散った、ナイフと炭酸カスの体が同時にかけた。

「かったーい」
「切れないのか」
「うん、硬すぎるよこれ。ちょっとしか傷をつけられなかった」
「……時間を動かしてもう一度切ってみて、その後すぐにまた時間停止」
「わかった!」

 言われたとおり手を離して、電光の如く斬りつけて、すぐにまた手をつないで時間を止めた。

「どうだった、手応えは? 同じか? それとも止ってるときとそうじゃないときとの硬さに違いがあったか?」
「うんとね、まったく同じだったよ」
「そうか」

 おれは地面を靴のつま先で掘ってみた。
 洞窟の柔らかい地面はグリグリすると小さい穴ぼこができた。

 時間停止中だからといって攻撃が出来ないなんて事はないみたいだ。
 あくまで、目の前の炭酸カスが硬すぎるだけ、ってことらしい。

「大体分かった。こいつを片付けるぞ」
「うん!」

 その後、おれはルナと手をつないだまま炭酸カスを倒した。
 ルナはナイフでごりごり削って、おれは岩を拾ってガンガン叩いた。

 汗だくになって、完全に解体してから時間を動かす。
 完全に壊された炭酸カスは動く事はなかった。

 これが、奴隷ルナとの初めての共同作業だった。

     ☆

 夜、宿屋。
 ランプを消した個室の中、おれは仰向けでベッドに寝て、天井を見あげていた。

 ルナの『ちーと』は丸一日実験をして、ほぼほぼ把握出来た。
 おれと手をつないだ時だけ時間を止められる、世界全体が止まってるらしかった。

 能力自体ほとんど欠点はないけど、手を長くつないでると――なんというか、こんな感じになる。
 おれは寝返りを打った。途中でさっと枕をひっくり返した。

 長く寝てると枕と頭が熱くなって、寝返りを打ったり枕をひっくり返したりしたくなるのと同じように。
 長くつないでると、汗とか熱とかで一旦手を離して繋ぎ直したくなるときがある。
 欠点があるとすればそこだけだ。

 ルナの手自体、柔らかくて小さいからいつまでもつないでたいけど、つないでるとふと離したく時がある。
 不思議だ。

 まっ、大した問題じゃない。

「……ハードくん」
「うわびっくりした!」

 急に声をかけられて、心臓が口から飛び出るくらいびっくりした。
 暗い部屋の中、ドアのところにパジャマ姿のルナがいた。

 音がしなかった、いつ入って来たんだ?
 伝説のニンジャかお前は。

 ルナはうつむき加減で、アホ毛も心なしか元気がない。

「……どうした?」
「――っ!」

 ルナはベッドの上にいるおれに飛びついてきた。
 手を握ってきた。

 世界が反転する、時間が止まる。
 はは、まるで時間停止のAVみたいだな。

「ハードくん……」

 ルナは手をつないだまま、たどたどしく自分のパジャマを脱いでいった。
 ――ってほんとに時間停止AV!?

 いや違うだろ! あれは止まってる人にイタズラするもんだ。
 おれは止まってない、そういうのじゃない。

 落ち着けおれ、落ち着け……。

「な、なにをひてんだルナ」

 ……ちょっと噛んでしまった。
 ルナはそれに気づいてるのか気づいてないのか、いつもより真剣なトーンで言ってきた。

「恩返し」
「恩返し?」
「うん。ハードくんに助けられた恩返し。ルナ、これくらいしかできないから」

 そう言いながら、パジャマを脱ごうとする。
 だが手は震えていた、パジャマをうまく脱げない。

 ……。

 おれはルナの手を止めて、パジャマを着せてやった。

「ハードくん?」
「そんな事をする必要はない」
「でも、それじゃルナは何も返せない」
「返す必要なんてどこにある?」
「え?」

 きょとんとなるルナ。
 おれは彼女の左手を取った、薬指の指輪を撫でた。
 うん、返す必要なんてどこにもないよなあ。

「ルナはもうおれの奴隷だぞ? おれの奴隷って事は、ルナの全てはおれのものだ」
「う、うん」
「全部おれのものなのに、おれに何かを返すっておかしくないか? あえて言おう、ルナは一生おれにお返しが出来ない体になったのだ」
「えええ? で、でも」
「でも?」
「でも……でもぉ……」

 困り果てるルナ。
 うつむいたり、ちらちらおれを見たりした。

「いいの? 本当に」
「いいもなにも、それが奴隷ってもんだ」
「……」

 ルナはじっとおれをみる、なんかびっくりしたりもした。
 しばらくして、納得したように頷く。

「うん、わかった」

 ルナは笑顔になった。
 出会った時にみた、明るくて無邪気な笑顔。

「ルナ、頑張って奴隷する。……うん! ずっと奴隷でいられるように元気でいる」
「おっ? それはポイント高いぞルナ。うん、そうだ。奴隷は許可なく病気とか怪我になるのはNGだな」
「だよね! ルナ頑張る!」

 アホ毛をぴょこぴょこさせて、笑顔を見せるルナ。
 そんなルナを起こして、部屋に送り届けた。

 すっかり元気になったみたいだな、いいことだ。

     ☆

 そして、翌日。
 サイレンさんからロックの居場所を突き止めたと連絡があった。

 さあ、復讐開始だ。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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