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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第二章

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21.光を超えて

 一旦エルーガを出て、街から少し離れて。
 人気のないところまできた。

 人間と同じくらいの大きさの岩を見つけて、その前にたった。

「サヤカ、ちょっとこれを叩いてみろ」

 サヤカにいって、岩を叩かせた。
 可愛いかけ声とともに、サヤカは岩を叩いた。

 結果、どうもしなかった。
 『相手の十倍つよくなるちーと』は予想通り無機物には無力だ。

「コハクもやってみろ」
「壊すの? だったらムリ。こんなのを壊せる程の魔力はないもん」

 コハクはやる前に白旗をあげた。
 それならそれでいい。ムリして壊せって話じゃないから。

「ご主人様、これをどうするの?」
「ちょっと待ってろ」

 サヤカに手招きをして、耳打ちして作戦を吹き込む。
 さやかが遠くに離れた、腕組みしながら岩を背にしてコハクに振り向いた。

「コハク、おれに向けて魔法を撃ってみろ。全力でいいぞ」
「いいの?」
「ああ、やってくれ」

 コハクはほんのちょっとだけおれを見つめてから、距離を取った。
 魔法の詠唱をはじめる。コハクの『ちーと』は相手の十倍の魔力になること。

 みるみるうちに巨大なヤリが作られた。
 戦女神のごとく、それを投げつけてきた。

 氷の槍がうなりを上げて飛んでくる。
 おれは腕組みしたまま迫ってくるのをみていた。

 瞬間、横からタックルされた。
 超スピードで飛んでくるさやかが飛んで来て、おれを抱えて真横に飛んだ。

 結果的にヤリをかわして、そのヤリは大岩を貫いた。

「こんなもんか」

 貫かれ、その後ぼろぼろになった岩をみて、想像通りの結果にとりあえず満足した。

「ハードさん、これってどういう事なの?」
「簡単だ。十倍にしても弱いままの相手に対して、十倍の対象をおれにして攻撃させる。攻撃させて当たる前に抜け出す。前におれごと縛れ! をやっただろ? あれに脱出方法をくっつけてみた」
「なるほど!」

 納得するサヤカ、直後にちょっとだけ拗ね顔になった。

「ひやひやしたよ。ハードさん、平然と腕を組んでるんだもん」
「泰然としてたもんね。あたし、本気で撃ったんだよ」
「知ってる。おれがそう命令したからな。サヤカにも命令してあるからな、撃った瞬間おれをさらって逃げろって」

「それだけであんなに平気にしてられたの?」
「もし失敗したらどうするんですか?」

 サヤカとコハク、二人が質問してくる。
 そんなあたり前の事をなんで質問するのかって思ったけど、まあ、聞かれたし答えるか。

「全力で攻撃しろって命令した、コハクはその通りにした」

 コハクは頷く。

「魔法をうったら全力でおれを助けろといった、サヤカはそうした」

 サヤカも頷く。

「おれは命令した、奴隷は命令通りにした。命令通りにしたのならそれいい」
「でも、失敗したらどうするんですか?」
「サヤカは命令を忠実に守ったんだろ」

 聞き返すおれ。
 いやまあ聞き返すまでもなく、サヤカはそうするって分かってるけど。

「う、うん」
「奴隷が命令通りにしたなら、結果がどうなろうと受け入れるべきだ。自分の命令で『こんなはずじゃなかった』って慌てるのはザコご主人様がすることだ」

 そんなのはかっこわるい、おれはそんな事は絶対にしない。
 ついでにいうと今こうして説明するのもほんのちょっとだけかっこうわるいけどな。
 かっこうわるいけど、奴隷が疑問に思ったら説明してやらなきゃな。

 おれはきびすを返して、街に向かって歩き出した。
 エルーガに戻る間、おれは考えた。

 これでまた一つ技を身につけた。
 この技のキモはおれも頑張らないといけない事だ。

 コハクの魔法も、サヤカがおれを救出するスピードも。
 どっちもおれ準拠で十倍になるもの。

 おれ自身が強ければ強いほどそれが十倍になる。

 そんなに使う訳じゃないけど、いざって時のためにおれも強くならなきゃな。
 そうするためには……。

「ハードさんがそんな風に思ってたなんて……ご主人様っていうのはすごいんだ……」
「騙されないでサヤカ。あたし立場上いろんな『ご主人様』を見てきたけど」
「あっ……お姫様……」
「こんなにちゃんと『ご主人様』をしてて、器がでっかい人は他にいないんだから。大抵口だけ」
「うん……なんかわかる気がする」
「サヤカは運がよかったのよ」
「コハクさんもそうですよね」
「うん、もっちろん」

 努力が自動で十倍になるなら、いろいろやれる事がある。
 おれはそんな事を考えながら、なんかまた仲良くなっていく二人の奴隷を連れて、エルーガに戻っていった。

     ☆

 ギルド『勝つためのルール』に戻ってくると、一階にはだれもいなくて、ちょうどルナがおりてくるところだった。

 階段をおりるルナはふらついて、脚を踏み外した。

「サヤカ!」
「うん!」

 対象がルナだから、サヤカは風よりも早く動けた。
 一瞬で距離を詰めて、ルナを抱き留める。

「大丈夫ですか?」
「うん、ルナは……大丈夫」

 ふらつくルナを椅子に座らせた。
 サヤカはおれのところに戻ってきて、おれは入れ替わりにルナのところに向かった。
 椅子を引いて、向かいに座る。

「体は大丈夫か?」
「うん……」
「すまない、一人しか助けられなかった」
「話は聞いた……ありがとう」

 ルナはうつむいて、啜り泣いた。
 悔しいけど、仕方ないって反応。

 おれがたどりついた時はもう全滅してて、一人しか生存者がなかった事はサイレンさんに報告してた。
 それが伝わってる、って事だろう。

 しばらくの間ルナに好きな様に泣かせて、吐き出させた。
 たっぷり泣いて落ち着いて来たのをみて、改めて話しかけた。

「話を聞いていいか?」
「うん」

 ルナは手の甲で涙を拭った。
 無理矢理わらおうとしてるのが痛々しい。

 が、それを何とかするためにも、まずは聞かなきゃならないと思った。

 おれは賞金稼ぎのグループの話を聞いた。
 どういう集団だったのか、普段何をしていたのか。

 特にどういう人間がしきっていたのか、それを聞いた。
 なぜならそいつがルナをこんな目に遭わせた張本人だから、何をする(、、、、)にしても正体を知らないと話にならないからだ。

 だから、それを聞いたんだが――。

「まて、その男の口癖をもう一度言ってみろ」
「うん。なんか喋る前に必ず『けっ』っていうんだ。柄が悪くてちょっといやだったけど、ちゃんとしたらお金はちゃんとくれたから……」

 びっくりした。
 思わず振り向いてサヤカとコハクをみた。

 二人は頷いた。おれと同じ事を考えていたようだ。
 喋る前に「けっ」っていう……。

 このタイミング、偶然にしては出来すぎてる。
 おれは更に聞いた。

 その男の事を、見た目を、特徴を。
 見た目は変装しているのかおれが知ってるあいつと違うが、それ以外は完全に一致してる。

「……ロックだ、ロック・ネクサスだ」
「知ってる人なの?」

 訝しむルナに今度はこっちから説明してやった。
 ギルドの事件、ロックにはめられて冒険者に負傷者が次々と出てたこと。
 それを話した。

「ど、どうしてそんな事に? ここのギルマスがなんで?」
「多分」

 コハクがいった、おれは振り向いた。

「その方がより効率的だったんだと思う。ランキング上位の冒険者は中々怪我とかしなくてブレスレットの力が集まらないから、今度は賞金稼ぎをけしかけて戦わせたんだよ」
「なるほど……」

 納得だ。

 そこまでしてブレスレットを、苦痛を集めたかったのか。
 何がしたんだあいつは。

 ガタン。ギルドのドアが開いた。
 外から武装した男たちがぞろぞろ入ってくる。

 冒険者でもない、賞金稼ぎでもない。
 そういう人間は装備も見た目ももっとばらばらだ。

 入って来たのは画一的な装備で固めた男達。
 警備隊が兵士、そういうタイプの集団。

「ルナ・クレイドルだな」

 十人近く一気に入って来て、外にも同じ格好をした男達がぞろぞろいる。
 その中で一番偉そうな、リーダーらしき男がルナの前に立った。

「な、なに? ルナに何の用?」

 物々しい空気にルナは怯えた。

「我らエルーガ自警団。ルナ・クレイドル。お前をネクサス事件の重要参考人として連行する」
「えっ!?」
「待て」

 おれは男とルナの間に割って入った。

「彼女は被害者だぞ、連行するなんておかしいだろ」
「そんな事は調べてみなければ分からない。よしんば被害者だとしても重要な手がかりを知っている可能性が大きい」
「それは――」

 そうかもしれない、そうかも知れないけど。

「じゃまだ、どいてもらおう」

 男はおれを押しのけて、無理矢理ルナの腕をつかんだ。

「きゃっ」

 ルナは捕まれた。
 はじめてあったときの閃光のような速さはどこへやら、あっさり捕まってしまって、なすがままにされてしまう。

 腕を捕まれただけでバランスを崩して倒れて、まなじりに涙を浮かべた。

「――っ。サヤカ、コハク」
「はい!」
「どうするの?」
「こいつらを追い出せ、この建物から」

 奴隷の二人は命令に従った。
 おれが与えた奴隷の証、十倍の『ちーと』を駆使して自警団をギルドからおいだした。
 そして入って来れないように、ドアとかの出入り口をガードした。

 自警団がせめて入ろうとしたが、二人にあっさり撃退されてしまう。

「大丈夫か」
「うん、ルナは大丈夫……」
「そうか」

「やっかいな事になったね」

 いつからいたのか、サイレンさんが奥から顔を出した。
 難しい顔をして、おれ達の元にやってくる。

「わかってるの? 相手が正しいんだよ?」
「それは……わかってる」
「事件を解決しないと、エルーガの自警団が彼女を捕まえようとするのは正しい。それに」
「それに?」

「例え解決しても、捕まえるのは法的に正しい。公認されてるギルドとは違って、賞金稼ぎは非合法だから。それに加担したという事実があるから、結局は捕まえられる」
「……」

 そんな事が……。
 それが正しいのか?
 ……正しいのかも知れない。
 だけど……。

「ありがとう。ルナはもう大丈夫」

 そういってルナはすっくと立ち上がった。
 ふらふらしたままで立ち上がった。

「大丈夫って何がだ?」
「やる事が決まったから」
「やる事?」
「仕返し」

 にっこりと、ルナは微笑んだ。
 最初に出会った頃のような顔で、切ないセリフを口にする。

「そのロックっていうのを見つけて、仕返しをする。みんなをひどい目に遭わせた事を仕返しを」

 復讐を誓うルナ。
 口調も、見た目も。
 あらゆる面で幼いままだけど、復讐を誓う意思だけはもう幼くない。

 むしろ悲痛なくらい、嫌なくらい大人だった。

 ……復讐。

 おれは考えた。
 一瞬のうちに、色々頭を駆け巡った。

 サイレンさんに振り向いて、聞く。

「解釈を聞かせてくれ。このままロック事件が解決されても彼女はつかまるっていったよな」
「ええ」
「これならどう?」

 ポケットの中から箱を取りだした。
 パッカリ開く四角い箱、中に指輪が入ってる。

 次の奴隷のために用意してあった、奴隷指輪。
 それを見たサイレンさんが静かに答えた。

「奴隷のあらゆる犯罪はご主人様の罪になる」

 やっぱりそうだった。
 おれが知ってる法律そのままだ。

 そう、奴隷が犯した罪は全てご主人様の責任。
 そしてそれはさかのぼって適用される。
 奴隷にするという事はその子の人生の全てを背負い込むということ。

 だからおれは、指輪をもってルナにいった。

「ルナ、力がほしいか?」
「力?」
「力をあげる。ロックに復讐するための力を」
「出来るの?」
「あの二人を見ろ」

 サヤカとコハクをさした。
 二人は小競り合いを続けている、入ってこようとする自警団を押し返してる。

「あの二人の力はおれが与えた物だ」
「――」

 ルナは息を飲んだ。
 二人と交戦したことがあるルナには彼女達の力が分かっている。
 それが手に入るの? という驚きが顔に表れていた。

「どうすれば……?」
「これをはめて、おれの奴隷になる。それだけだ」

 奴隷指輪を差し出す。
 ルナはそれをしばし見て……躊躇せずに受け取った。

「仕返し……させてくれるよね」
「最優先でやる」
「おねがい――っ」

 そういって、指輪をつけた。
 左手薬指にはまった奴隷指輪。
 それがまばゆい光を放って、ギルド内を包み込んだ。

     ☆

 自警団は一旦引いた。

 ルナがおれの奴隷になったことで、その罪はおれの物になった。
 そしておれは一つ星公認ギルド、『ラブ&ヘイト』のギルマスの保証もあって、ひとまずは執行猶予って扱いになった。

 そうして、ギルドの中、ルナが目覚めるのをまった。

 ルナは目覚めた。
 二本のアホ毛をピョコピョコさせて、ぼんやりした顔で起き上がる。

「どうだ?」
「ここは……あっ」
「夢の中で何を言われたの?」

 奴隷の先輩、『ちーと』のセンパイであるさやかが聞いた。

「ハードくんと手をつないだら分かるって」
「手を? よしつなごう」

 手を無造作に差し出した。
 ルナはおずおずと手を握ってきた。

 瞬間、世界が反転した。
 黒が白に、黄色が青に……色が元のものと逆になった。

 そして――。

「サヤカ? コハク?」

 二人はびくりとも動かなかった。
 まるで彫像になったかのように。

 どういう事だ? これは?

「ハードくん、ほこりがとまってる」
「ほこり?」
「ほらここの」

 ルナは空中をさした。
 なにもないそこだが、目を凝らすとほこりが見える。
 そのほこりは――ほこりたちは。
 全部、空中にびたっととまっていた。

「もしかして……時間がとまった?」
「えええええ?」

 びっくりして声をあげるルナ。
 思わず手が離れて、世界の色が戻って、サヤカ達が動き出した。

 ……。
 おれはテーブルに手をかけて、もう一回ルナに手を伸ばした。

 ルナがおずおずと握ってきた。
 にぎる直前、テーブルを倒した。
 握った瞬間、テーブルが固まった。世界の色が反転したまま固まった。

「やっぱり……時間が止まってる」
「ハードくんとつないでるときだけ?」

 頷くおれ、どうやらそうみたいだ。

 ぶっちゃけ予想とはちがった。
 閃光のように早いルナだから、『ちーと』は速度を強化するものだとおもったが、予想に反して時間をとめる『ちーと』だった。

 だが、予想はいい方にはずれていた。

「これなら復讐できるぞ」
「――うん!」

 ルナの目に、久しぶりの輝きが戻った。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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