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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第二章

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19.黒幕との対決

 ルナの処遇が難しいから、コハクにも意見を聞こうと思った。
 電書ハトで手紙を出して呼びつつ、サヤカにルナをくっつけさせたまま、宿屋につれてもどってきた。

「ひゃん!」

 宿屋で階段をあがってると、ルナがいきなり小さな悲鳴をあげた。

「どうした」
「今ぶつかった」
「ぶつかった? ああ階段狭いものな」

 実は泊ってるこの宿屋、階段が結構狭かったりする。
 それで上がってくるときにぶつけたみたいだ。

「大丈夫か?」
「うん……あいてて」

 速さで上回ってるサヤカがついてるから、物理的な拘束はしてない。
 そのため、ルナはぶつかった箇所をさすった。

 ……頭のてっぺんに生えてる二本のアホ毛を。

「ぶつかったって、そこをか」
「うん、そうだよ」

「そこってぶつかっていたいのか?」
「あたりまえじゃん。ここはルナの一番大事なところなんだからね」

 ルナはアホ毛をさすりつつ主張する。
 そ、そうなのか。

「ひゃん」

 そう思ってるとまた悲鳴があがった。

「今度はどうした」
「さっきぶつかったからまっすぐ歩けないの」

 ルナはすねた様にいった。
 アホ毛をぶつけたからまっすぐ歩けないのか。

 そういうこともあるのかな?

 そんな事を思いながら長期滞在してる部屋にはいった。
 コハクが既に戻ってきていた。

 立って待っていた彼女は、おれが入るなり手をおへそのあたりに揃えて、頭を下げた。

「お帰りなさい、ご主人様」

 まるで貴族のお屋敷にいる出来るメイドさんみたいな仕草だ。
 前に「お召し物とかそういう言い回しはやめて」っていったけど、こっちはむしろやってもらってる。

 これをする時のコハクの仕草がとても上品で綺麗だし、なんというかご主人様っぽいから好き。

「ほわ……」

 ルナも彼女に見とれていた。
 うんうん、気持ちはわかる。

 かわいかろう? おれの奴隷は。
 ふふん、なんかご主人様として誇らしい気分だ。

 サヤカとルナが部屋の中にはいって、ドアを閉まった。

 コハクにルナのことを紹介した。
 名前とかいきさつとか、その辺全部。

 名前を聞いたコハクがちょっと反応した。

「Gの意思を次ぐ一族なんだね」
「Gの意思?」

 なんだそれは、知らないぞ。

「この世のどこかに存在する『繋がらない大秘宝』を守るためだけに存在してるっていう幻の一族よ」
「幻の一族? そんなにすごいヤツだったのかお前は」

 びっくりしてルナをみた。
 ルナは切なそうな顔をした。

「知らないよそんなの。ルナはずっと一人だったんだから」
「ずっと一人?」
「うん」

 なんか訳ありだな。
 でもそれなら……とコハクを見る。

「Gの一族とかじゃないんじゃないか?」
「なら、その髪の毛を切ってみましょう。Gの一族の特徴は頭のてっぺんに必ず生えてる二本のアホ毛。それを切っちゃうとまっすぐ歩けなくなるのよ」

「それはやめて!」

 ルナは悲鳴の様な声をあげた。
 もしかしたら本人知らないだけで本当にGの一族かもしれないな。

 だってさっきもアホ毛をぶつけただけでふらふらしてたし、もし切ったら大変な事になりそう。
 なりそうだから。

「やめてあげて」
「わかった」

 コハクはあっさり引き下がった。

「G……二本の毛……切るとまっすぐ歩けない……すごく速い……ひっ……」

 さやかがいつもの如くブツブツいって――なんか勝手に恐がりだした。

「でも可愛い……でもG……でもかわいい……でもG……」

 今度はものすごい勢いで悩みだした。
 なんか分からないけど、ほっとこう。

 ルナが賞金稼ぎ、おれは3000枚の賞金首になってることをコハクに話した。

「どうしたらいい? さやかとお前はいれば負けることはないけど、ねらわれ続けるのはやだ」
「殺しますか?」
「それも寝覚めが悪いからやだ」

 狙われたけど、賞金稼ぎだって知ってからまったく悪感情をもたなくなった。
 賞金稼ぎは真っ当な職業だ、真っ当にやってるルナの事は嫌いになれない。

 自分さえ狙われなくなればそれでいい。

「じゃあ、早くエルーガの仕事を終わらせましょう。問題なのはこの街でご主人様が賞金首になってることだから。ここから離れればなんの問題もなくなります」
「なるほど」

「仕事を投げ出して帰るのもありです。なんというか……」
「なんというか?」
「ここはいつまで経っても人手不足がなくならない気がしたから」

 ああ、それは分かる。
 元々けが人続出で人不足のヘルプにきたんだ。

 今のエルーガの公認ギルド『勝つためのルール』はけが人が出続ける構造になってる。
 ランキングがある、ランクをすっ飛ばして難しいクエストを受けて、一発逆転を狙える。

 その構造で、今でもけが人が出続けている。
 勝つためのルール、ってのがものすごく皮肉で。
 確かに、一部の人間が勝つためのルールになってる。

 それを考えれば、いつまでも付き合ってられないから今すぐに帰るのもあり。
 ここまでやれば、もう助っ人としての義理は果たしてるしな。

「ね、ねえ」

 ルナが話しかけてきた。
 おずおずと、ちょっとだけ恥じらって。

「さ、さっきは髪を守ってくれてありがとう」

 また髪の話をしてる、もう髪の話はしてないんだが。

「お返しに狙われなくする方法を教えてあげる」
「そんなのあるのか?」
「うん」

 頷くルナ。

「賞金をもらうためには、賞金首を倒した証拠を持ってくんだ」
「そりゃそうだ」
「証拠ってのが、そのブレスレット」
「え?」

 おれとサヤカとコハク。
 三人は一斉に自分のつけてるブレスレットを見た。

 ギルドから支給されたもの、いざって時のために救援の発信器になってるブレスレット。
 怪我をしたらそれがどんどん光っていき、ギルドに連絡が行く、ってシステムだ。

「それをつけてる時に襲って、殺したらものすごく光るんだ。それをはぎ取って証拠として持ってくの」

 おれと奴隷二人は互いを見比べた。

 ブレスレット……?

 なんだか分からない。
 正体不明の疑惑とか不安とか、そういうのが大きくなっていった。

     ☆

 部屋の中で、おれは考えた。
 ブレスレットの事、それから生まれた不安の事。

 正体は分からないけど、なんで急に不安になるかもあやふやだけど。
 とにかく不安で、それを考え続けた。

「あああああ! もうわからん!」
「ご主人様、ちょっとやすんで、ね」
「顔とか拭いて落ち着いてください」

 サヤカとコハクがやってきた。
 コハクは熱いお茶を淹れてくれた、サヤカは絞ったタオルを持ってきた。

 おれはお茶を受け取って、一口すすった。
 お茶の暖かさが体に染み渡る……。

 目を閉じて、サヤカに顔を拭かせた。
 サヤカは丁寧に顔を拭いてくれて、耳の中まで綺麗にしてくれた。
 ちょっと強めだけど、強すぎない絶妙な力加減。すごく気持ちよかった。

「ありがとうサヤカ、ありがとうコハク」

 二人にお礼を言った。
 二人は嬉しそうに微笑んだ。

「あ、あの。ハードさんはそれ、また飲みますか?」
「お茶? 一口だけでいいよ。体温まったから」
「じゃ、じゃあ残りをわたしが飲んでいいですか!?」

 ものすごい勢いで聞かれた。

「別にいいぞ、ほら」

 お茶を渡した。
 サヤカは受け取って、湯飲みをぐるぐる回した。
 何かを探してるのか? と思うと、おそるおそる口をつけた。

「間接キスだ……」

 そしてまたブツブツ、いつも通りのサヤカだ。
 ブツブツの内容は気にしないでいながら、頭を撫でてやった。

 可愛いブツブツとかわいくないブツブツがあるんだよな、サヤカに。
 なんでだろう。

「……いいなあ」

 ふと、離れたところにいるルナがつぶやいた。
 ルナはおれ達を見つめていて、言葉通り羨ましそうな顔をしている。

「いいな?」
「二人はハードの奴隷?」
「ああ、そうだ」

「いいなあ……うん、決めた!」
「決めたって何を?」
「ルナ、今度の仕事が終わったら奴隷を買うんだ」

 ルナは力強く宣言した。

「ルナも奴隷をかって、ハードみたいな温かい事をするんだ」
「その時はおれのところに来い」
「どうして?」
「ご主人様道は深くて険しい、ちゃんとしたご主人様になれるように授業をしてやる」

 賞金稼ぎはあまり関わりあいになりたくないけど、ご主人様は違う。
 いいご主人様になれるように、奴隷をちゃんと扱えるように。

 ご主人様の先輩として導いてやらねばな。
 という義務感におられるおれだ。

「ハードさん、すごくやる気になってる」
「ご主人様道にすごくこだわりがあるんだね」

 サヤカとコハクが感心していた。
 感心される程の事じゃないけど、ご主人様道にこだわりがあるのはその通りだ。

     ☆

 深夜近く、ギルド『勝つためのルール』。
 冒険者達がいなくなる時間帯を見計らって、おれはここに来て、ロックさんとあった。

「もう帰る?」
「はい、あっちを開けすぎるのもまずいんで」
「けっ、助っ人に来たのにこっちはほったらかしかよ」
「すいません」
「けっ、わかったよ。別にてめえがいなくなってもどうもしねえ」

 ロックさんは面白くなさそうに言った。

「それじゃ仮免は取り消し、ランキングからも抹消。ここから離れるんだからランキングボーナスはこれ以上払わんぞ」

 おれは頷いた。
 それはもちろんだ。離れててももらい続ける、なんて虫のいいことは考えてない。

「けっ、とっとと帰りやがれ」

 最後まで悪態突き通しのロックさんだった。
 この独特な喋り方ともお別れかあ、と思うとちょっと寂しくなる。

 おれはギルドを出た。
 夜の街を歩いて、宿屋に戻る。

「いけね、ブレスレット返すの忘れてた」

 ポケットの中に入ってる三つのブレスレットを思い出した。
 プリブに帰るのでもういらなくなった物だから、返そうとサヤカとコハクから預かってきたんだ。

 それをもって来た道を引き返した。
 ギルドの前にやってきた。

 明かりは落ちてる、もうロックさんいないのか……?
 と思ったらぼんやりとした明かりがついた。

 ロウソク? ランプ?
 わからないけど、それっぽい明かり。

 何もないところから急についた明かり。
 火事のもとだったらいけないと、おれは中に入った。

「だれかいません……か?」

 言葉を失った。
 目の前に繰り広げられてる光景に言葉を失った。

 そこにロックさんがいた、しかしおれが知ってるロックさんじゃなかった。
 ロックさんはカウンターの向こうにいて……ブレスレットをなめ回してた。

 光るブレスレット、冒険者の誰かが大けがした時に光るブレスレット。
 回収して、処分するはずのブレスレットを、ロックさんはうっとりした顔でなめ回していた。

「な、何してるんですかロックさん」
「……けっ、見つかったか」

 ゆらり、とこっちを向くロックさん。
 口調は変わらない、いつも通りのロックさんだ。

 しかし雰囲気は違う、あきらかに違う。
 ヤバさがビンビン伝わってくる。

 瞬間、白い稲妻が頭を撃ち抜いた。
 ルナの話で感じていたもやもやが具体的な形になった。

「もしかして……ロックさん、わざと怪我するように仕向けたんですか?」

 冒険者が怪我すると光るブレスレット、それをうっとりした顔で舐めるロックさん。

「けっ、てめえを少し甘く見てたな。それに気づいたのはてめえが初めてだ」

 質問には答えないで、一方的に語り出すロックさん。

「おれ様が作り出したルールに、ここの冒険者は全員はまってくれた。成り上がりを目指して、一発逆転を目指して。そのルールにはまって、ルールの中で動いた。だれもおれのやってる事には気づかなかった」
「……」

「気づいたのはてめえだけだよ、ほとんど無傷でやってきたのもてめえだけだ。けっ、ノードを倒したのはまぐれじゃなかったって事か」
「ノード……」

 なんでここでノードの名前が……?

「……あんた、何者だ」

 目を眇めて、ロックを睨んだ。

「てめえに教える義理はねえよ。運が悪かったなてめえ、おれの正体を知らなかったら一儲けしたまま帰れたのによ」

 ロックは凶悪に嗤った。

「知られた以上、生きて返すわけにはいかねえな」

 ロックはブレスレットを取り出した、更に取り出した。
 光るブレスレットを十個取り出して――それを口の中に入れた。

 かみ砕いて――飲み込む。

 なんと、人間だったロックさんが魔物に変身した。
 赤のドラゴン――エンシェント種の魔物、ドラゴンに!
 その巨体はギルドの半分以上を占めていた。

「これは……ブラックドラゴンの時と一緒?」
「あんなのと一緒にするな。ブラックドラゴンなんてのは所詮邪竜王の血、死んだザコ竜の一匹分、その更に一滴分の怨念と苦しみに過ぎない。しかしおれのは違う。人間が極限まで苦しんだ結晶、それを凝縮・精製したものだ」
「それを集めてどうするつもりだ」

「いいぜ、冥土の土産に教えてやる。おれはこの世界を破壊する」
「世界を破壊!?」

「ノードの野郎は国を手に入れるとかぬかしてたが、そんな物になんの価値があるのか理解に苦しむ。この世で一番最高なのは苦しみ! 人間の苦しみそのものだ! 苦しみを糧に、更なる苦しみを産み出す。世界を破壊して人間をさらなる苦しみのどん底に突き落とす! おれがおれ様の目的よ!」

「……そんな事のために」
「けっ、せっきょなんざ今更ききたかねえよ」
「……」

「てめえの苦しみもおいて行きやがれ。どんな味がするんだろうなあ、てめえの苦しみは。甘いのかな、しょっぱいのかな、辛くて酸っぱくてこくがあるんだろうなあ」

 赤い竜は恍惚した表情でいった。
 やばい、イッちゃってるぞこいつ。
 こんなにイッてる人だったのか。

「ハードさん!」
「ご主人様」

 扉が乱暴に開かれた、奴隷の二人が入って来た。

「サヤカ! コハク!」
「ハードさんがいつまでも戻らないから」
「心配できました」

「よく来た! こいつを倒せ」

 二人は赤い竜と向き合った。

「けっ、奴隷子どもが来やがったか。だがそれも予想のうちよ」
「なに?」
「てめえらの力は把握してるって意味さ。てめえらが一番クエストをやってるから、それで力は把握してるのさ」

「力?」
「ブレスレット十個分で足りる、来るっておもってあらかじめ飲んでおいたのさ!」

 そういうことか。
 それも含めてやられてたか。
 だが。

「サヤカ、コハク。やれ」
「「うん!」」

 二人は大きくうなずいた。

 サヤカは飛び込んで腕を振りかぶった。

「甘え! 力は把握してる。倍は耐えられるように堅くした」

 コハクは詠唱を始めた。
 氷の大魔法の詠唱だ。

「油断はしねえ! 魔法は正化ってのがある! 観察した最大の威力の三倍は耐えられる様にした!」

 ロックは得意げに叫んだ。
 イメージよりもだいぶ慎重な男だった。

 だったが、三倍とか五倍とか……そんなものは意味ない。

 サヤカが竜の巨体を吹っ飛ばした。竜の巨体が空中で回転した。

 コハクは巨大な氷の刃を生み出した、刃は竜を横に両断した。

「ばかな!」

 信じられないって顔をするロック。
 サヤカとコハクがさらに迫る。

 サヤカとコハクは無敵だ。
 オレの奴隷たちは天下無敵だ。
 どんな対策をされてても関係ない、ちからでねじ伏せるだろう。
 おれはそんな二人が誇らしかった。

 二人は竜にとどめを刺した。
 竜は驚愕した表情のまま、薄まって、消えていった。

 こうして、けが人続出の原因・元凶は消えて。

 翌朝、サイレンさんがエルーガに駆けつけた。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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