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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第二章

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16.破局のリサ

 宿屋に泊って、エルーガの街二日目の朝。
 ギルドにやってくると、リサとアイホーンの二人が既に中にいた。

 二人はぼろぼろの格好で、ギルマス・ロックさんの前に立っている。

「す、すまない。逆に手間をかけさせてしまった。助っ人に来たのに逆に助けられてしまった」

 アイホーンが申し訳なさそうに言った。
 振り向く、コハクと目が合って、頷かれる。

 昨日の事を思い出した。
 多分だけど二人はクエストに失敗して救出されたんだな。

「けっ。まあしょうがねえ。それよりも怪我はねえか」
「だ、大丈夫よ」

 リサはアイホーンを押さえて先に言った。
 なんかものすごく必死な感じだった。

「けっ。ならそれでいい。今はこれ以上けが人だされちゃかなわねえからな。今日もクエストやってくか?」
「もちろんよ! 行くわよアイホーン」
「あ、ああ」

 リサはアイホーンを連れて、掲示板に向かった。

 振り返ったからますますよく分かった、二人はぼろぼろだ。
 体のあっちこっちが包帯だらけ、普通ならけが人で離脱しててもおかしくない。

 リサもぼろぼろだけど、アイホーンにいたってはひょこひょこ脚を引きずってる。

「ちょっと待て」
「な、なに?」

 ロックさんに呼び止められたリサ、怯えた感じで振り向く

「ブレスレットを変えていけ」
「ブレスレット?」
「光っったままだろ? 新しいのに変えてやる」
「だ、大丈夫よ! 今度は失敗しない――」
「渡せ」

 むっ?
 今一瞬、ものすごいプレッシャーを感じたぞ。
 殺気というか何というか、そういタイプのプレッシャー。

 それにロックさんの顔も怖かった。
 怖いし……どっかで見たような事のある顔?

 どこで見たんだろ、って考えてる内にリサとアイホーンは新しいブレスレットにかえてもらって、再び掲示板に向かった。
 失敗したというのに、今度もBランクのクエストに向かった。

「それはやめた方がいいんじゃないのかリサ。ここはC、いやDランクのを――」
「なに言ってんの? ここでやれるところを見せなきゃ。Bランクのクエストを成功させて、一発逆転でやれるところを見せるのよ」
「しかし……」
「いいの!」

 アイホーンを振り切ってリサはまたしてもBランクのクエストを受けた。
 ロックさんはとめなかった。いいのかそれで?

 受けたリサとアイホーンはギルドを出ようとして、おれ達にきづいた。

 ぼろぼろなのに、表情が一変した。
 ロックさんに怯えてたのが、おれを見下す顔になった。
 にんまりとした顔が……ちょっと可哀想に見えてきた。

「あら、ハードじゃないの」
「よう」
「なんかこぎれいな格好してるじゃん? Eランクはそんなに楽だったの? もしかしてFのをやってた?」
「いや――」

「あたし達はBのクエストよ。まっ、向上心のないあんたには一生縁のない世界だろうけどね」
「……」

 おれが答えないでいると、リサはますます得意げな表情になった。
 そしておれを見下しきった顔をして、アイホーンと一緒に出て行った。

 すれ違ったアイホーンに、サヤカが話しかけた。

「あの、体は大丈夫なんですか?」
「え?」
「ないぞうくん……」

 おずおずと話すサヤカ。
 そういえばアイホーンの体光ってない!
 昨日遭遇したときも光ってなかった。

「あ、ああ。ロックさんになんとかしてもらったんだ。金はいつ返してもいいことになったけど、返さなくても内臓取られない代わりに、担保の内臓が痛み続けるようになった」
「い、痛そう……」
「取られるよりはましさ。じゃあな」

 アイホーンは寂しげに笑って、先に出ていったリサを追いかけた。

 色々……あるんだなぁ。

     ☆

 この日はAランクのクエストを三つこなして、ギルドに戻ってきた。

「けっ、また無傷かよ」
「あの、ロックさん……?」

 おれはおそるおそる聞いた。
 サイレンさんと違う意味で、ロックさんにはつい敬語を使ってしまう。
 ……変に怖いから。

「無傷じゃダメなんですか?」
「んあ? そんな事ねえよ。あー、あれだ。Aランククエストを一日に三つもやったってのに無傷なのはかわいげがねえってことだよ」
「は、はあ」

 なるほど、それなら分からなくもない……かも?

「おっ!」

 不機嫌だったロックさんの目がいきなり輝きだした。
 ロックさんの背後にある掲示板、その13番と44番が光り出した。

 しかもかなりの光り方、せわしく思いっきり光ってる。
 つけてる冒険者がピンチになったら光るシステムだけど。
 この光りかた、見てる方が心配になるくらいめちゃくちゃ光ってる。

「ロックさん、大丈夫なんですかそれ」
「けっ、このままじゃもったいねえ事になる。実力差ありすぎたか」
「もったいない?」
「ちがった。まじい事になる。おい、お前ら」

 ロックさんはおれ達をまっすぐ見つめた。
 今までで一番真剣な表情だ。

「今すぐ助けにいってくれ、なんとしても助けて生きて連れ帰るんだ」
「わかった」

 頷くおれ。
 ロックさんの言葉が気になるけど、ピンチの冒険者を救出することに異論はない。

     ☆

「うがあああああ!」

 アイホーンは絶叫して、右肩を押さえた。
 肩から先はもうない。今し方喰われたばかりだ。

 その右腕をモンスターが美味しそうに食べている。
 噛みちぎった腕を骨ごとぼりぼりかみ砕いて、腹の中におさめていく。

 額に脂汗を浮かべるアイホーン、激痛だけでなく、自分の右腕が物理的に消えていくのをまざまざと見せつけられて、顔が絶望に染まっていく。
 それを見たモンスターがにやりとわらった。

 人型に近いモンスターという事もあって、表情はきわめて人間に近しいものがある。
 残忍な性格がこれでもかというほどでて、苦しむアイホーン、絶望するアイホーンを見て楽しんでいるようだ。

 モンスターは知能も高かった。
 この世界ではエンシェントモンスターに分類されるそれは人間にきわめて近い知能を有している。

 一部のエンシェントモンスターは思考が突出して発達していて、部分的に人間を超えている。
 このモンスターもそうだ。
 慈しむ事にかんしては人間に大きく及ばないが、苦しませる事にかけては人間を遥かに超越している。

 モンスターは時間をかけてアイホーンの腕を食べた、目の前のゆっくりと味わった。
 それによってアイホーンが少しずつ絶望していくのをじっくり味わった。

 アイホーンの絶望は本人の許容範囲を超えた。
 死を覚悟したかれは、どうせならばと男らしくなった。

「おれは……もうどうなってもいい。だから彼女を、彼女だけでも助けてくれ」

 それがいけなかった。
 相手が人間ならば心を打たれただろう、慈悲ももしかしてあっただろう。

 しかしこのモンスターはとにかく人間をいかに苦しませるかしか頭にないモンスターで、またそれに長けているモンスターでもある。
 彼女だけでも助けてくれ――彼女は助けない。

 そう考えるのは当然の流れだ。

 モンスターはリサに向かって行った。
 失禁して、へたり込んで動かないリサに。

「やめろおおお、やめてくれえええ」

 アイホーンの絶叫に、モンスターは自分の選択が正しかったと更ににやけた。

 さてどうするか、どうしたらよりアイホーンを苦しませられるか。
 いや、ちがう、そうじゃない。

 どうしたら、よりアイホーンとリサをよりくるしませられるか。
 アイホーンを苦しませる事とリサを苦しませる事、両方同時に出来るはずだ。

 悪意に特化した頭脳が瞬時に答えをはじき出した。
 人間の男も女も、女のオッパイが大事だ。

「や、やめ……」

 モンスターはリサの服を無理矢理破ると、片方のオッパイを半分噛みちぎった!

「うぐぎゃああああ!」
「やめろおおおお!」

 リサとアイホーンの絶叫が響き渡る。
 それがますますモンスターを楽しませた。

「やめろおお……やめてくれ……おれを、おれにしろおお……」

 アイホーンの絶叫、彼は男らしかった。
 そしてリサも……別の意味で女らしかった。

「アイホーンして、あっちもそう言ってるから、それでいいじゃない……」
「……え」

 一瞬アイホーンがきょとんとした、リサが何をいったのか理解できない顔だ。

「アイホーンがそう言ってるだからあっち喰えばいいじゃないの。そうだよ、あっち食べてあたし見逃してよ」
「おまえ……なにを」

 モンスターはにやりとした。
 人間を絶望させる思考に特化してる頭脳がこの流れを見逃すはずもない。

 リサを喰うのをやめた、アイホーンに向かって行った。

 洗面器よりも大きい口をあけた、血まみれの鋭い牙をアイホーンに見せつけた。
 そして……今度は脇腹をかじった。

 一気に食べる事はしない。
 絶望のアイホーンを一気に死なせるような事はしない。

 苦しみは、長く味わってこそだ。

 悲鳴はもうない、アイホーンは呆然と……涙を流して空を見上げた。
 瞳は絶望に染まっていた。

 リサはそれでも、アイホーンをアイホーンをと、わめき続けたのだった。

     ☆

 ロックさんに手配してもらったウマ車にのって現場に急行する。
 到着したそこは凄絶だった。

 サヤカが顔を背けてえずくほどの、血まみれな惨劇の現場。
 そして惨劇の中心人物は――。

「アイホーン、それにリサ」

 おれが知ってる二人だった。
 二人は血まみれになってる。
 ぼろぼろで、体も欠損してるが、どっちもかろうじてまだ生きてるみたいだ。

 助けなきゃ。

「あれは……エンシェントモンスター・オーク!」
「知ってるのかコハク」
「頭がよくて人間を苦しませるのがすごく上手いの! 長期戦は不利になる」
「一気にやろう。サヤカ、いけるか?」
「うっ……う、うん」

 口を押さえて、何とか頷くサヤカ。いまにも顔を背けたいのを我慢してる様子。
 彼女に頼むのはやめよう。

「コハク!」
「任せて」

 コハクは魔法を詠唱した。
 瞬間、オークの体に氷のヤリが突き刺さった。

 鮮やかな先制攻撃、しかしオークは倒れない。

「一撃で倒れなかったか」
「オークは体力が高くて魔力が低いの。魔力が向こうの十倍になっても一撃で倒すのに足りないみたい」
「そうか」

 やっぱりサヤカか? と思っていたら。

「だから――メチャクチャうつ!」

 コハクは両手を突き出した。
 ものすごく早口で詠唱した。
 氷のヤリが立て続けにオークを貫いた。

 途中でオークがアイホーン達を人質にとろうとしたが、先読みしたコハクが魔法でそれを止めた。

 遠距離からの連続攻撃で、なんとかオークを仕留める事ができた。

     ☆

 エルーガの街、ギルド「勝つためのルール」。

 おれ達はアイホーンとリサを連れて戻ってきた。

 二人とも大けがを負っていた。
 アイホーンは右腕と脇腹を喰われて、顔も蜘蛛の巣みたいにぐっちゃぐちゃに傷だらけだ。
 リサはオッパイの半分を食いちぎられていた。

 大けがだが……不幸中の幸いにも、命に関わるほどじゃなかった。
 魔法で手当てをうけると、二人はもう歩けるくらいに回復した。

「よくやった」

 二人を救出した証というか、光るブレスレットをもったロックさんが上機嫌でおれに言った。

「よく生きたまま助け出した。これからも頼むぜ」
「うん」

 そういって、ロックさんはおれに報酬をわたしてから、ブレスレットを持ってカウンターの奥に消えていった。
 残ったのはおれと、アイホーンとリサ。

 サヤカは気分が悪くなったから宿屋に、コハクはそれの付き添いに一緒にもどった。
 ここにいるのは、おれ達三人だけになった。

 リサはおれを睨んだ、親の敵のように睨んだ。

「ふん! いい気にならないでよね! あんたが来なくてもどうにかなったんだから」
「そうか」

 そうはとても見えなかったけど、まあ、意地を張るときもある。

「これで恩を着せたとか思わないでよね。あれはギルドの依頼だった、あんたは報酬をもらった。それで終わり。わかった?」
「ああ、わかった」
「ふん!」

 リサはつまらなさそうに鼻をならして、きびすを返して歩き出した。
 途中でアイホーンがついていかなかった事に気づいて、立ち止まってアイホーンに振り向く。

「どうしたの? 行くわよ」
「……一人で行け」

 アイホーンは静かにいった。
 いや……静かにじゃないな。
 静かなのは静かだが……言葉に憎悪をかんじた。

 なにがあったんだ?

「なに怒ってんの? 意味わかんない」
「自分の胸に聞け」
「はあ!? あんたデリカシーってもんがないの? あたし、胸を半分喰われたんだよ?」
「そういう意味じゃない。おまえ、あのオークになんて言った」
「何もいってないわよ。あんたがオークに頼んだことをあたしも言っただけじゃん」
「……」

 アイホーンは軽蔑しきった目でリサを睨んでから、ゆっくりとギルドの外に向かって歩き出した。

「ちょっと! 待ちなさいよ」

 リサがアイホーンの肩をつかむ、しかし払われた。
 払われたリサは尻餅をついて、呆然とアイホーンをみた。

 まるで、知らない人を始めてみるかのように。
 一方で、アイホーンはそんなリサを冷ややかに見下ろした。

「もうお前とやっていけない。今日限りでお別れだ」

 そういって、呆然となったリサをおいて、ギルドをでた。

 リサは追いかけるのも忘れるほど呆然となった。
 しばらくして、我に返った後、おれに怒鳴った。

「あんたが悪いのよ!」
「え?」
「あんたがもっと早く来てればこんなことにはならなかったのよ! アイホーンがあんなことになるし! あたしもオッパイ半分くられるし! もう! 治癒魔法でも喰われた分は回復しないなんて最悪!」

 ああ、うん。
 まあそうかもなあ、おれが遅れたからそうなったのかもなあ。
 でもなあ。

「ふん! 覚えてなさいよ、あたし、絶対にあんた許さないんだから!」

 そんな捨て台詞をのこして、リサもギルドから立ち去った。
 ……なんか、ますます醒めた気がする。

 おれの幼なじみってこんな女だったのか、って思いっきり醒めたきがする。
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よろしくお願いいたします。
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