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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第二章

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15.助っ人と歌う手

 ギルド、『ラブ&ヘイト』。
 今日もサヤカとコハクを連れてやってきた。

 おれはサイレンさんから聞いた話に首をかしげた。

「この前アローズのギルドの事故物件を解決したでしょ。あれのちょっと長い版、短期出張っていうか、助っ人でいってほしいギルドがあるの」
「助っ人か」

「エルーガって街なんだけどさ、最近立て続けに冒険者が負傷離脱しててね。みんな一ヶ月かそこらで戻って来れそうって話だけど、ここ最近連続して離脱したもんだから、一時的に冒険者が足りなくなっちゃってさ」
「それで他のギルドから助っ人を借りる、って訳か」

「うん。うちからはもう一組いっててもらってるんだけど、やる気の割りにはちょっと危なっかしいから、できればハードにも行ってほしいんだ」
「危なっかしいのにいかせたのか?」

「やる気はあったし、ネコの手も借りたいって向こうが言ってきてるからいいかなって。でも落ち着いて考えたらやっぱり怖いなって」

 信頼がないな、どんな奴らなんだよそいつら。

「だから、ね。あっちに何があってもフォロー出来るか、差し引きゼロかプラスにできるように、うちのエースを送っとこうって思って」
「エース?」

 びっくりして、自分をさして聞き返した。

「エースだよ。実質SSSランクの依頼を解決したし」

 そう言って、ちらっとコハクを見るサイレンさん。
 コハクもにっこり笑うだけで、何もいわない。

 コハクから受けた依頼、国王を助けて、ノードの陰謀を砕いた。
 その実績でエースって訳か。

 そこまで期待をかけられると……ちょっと断れないな。

     ☆

 半日かけて、ウマ車にのってエルーガの街にきた。
 サローティアーズ王国の辺境にある街で、規模はプリブよりちょっと大きい。

「はじめてくるけど……なんかみんな何かを飲んでる?」
「うん、なんか飲んでますよね」

 ウマ車の駅をでたおれとサヤカはまずその事が気になった。
 行き交う街の人々の大半は何かを飲んでいる。

 コップで、瓶で、湯飲みで。
 いろんな容器にいろんな飲み物を入れて、みんなして何か飲んでいる。

 普通に飲み歩きだけど、やってる人があまりにも多い。
 ちょっと尋常じゃないくらい多すぎるから、気になってしまった。

「ここは炭酸の街だから」
「あの……炭酸って……あの炭酸ですよね。しゅわしゅわってする飲み物の」

 サヤカが控えめに手をあげて聞いた。

「しゅわしゅわするわね。清涼飲料水だね」
「よかった……わたしの知ってる炭酸だ」

 サヤカは見るからにホッとした。

「ここからちょっと行ったところにエルーガ炭鉱があって、王国の炭酸の7割はそこから採掘されるの。だから炭鉱で働くために人が集まるし、安い炭酸をこの街のみんなが普通に飲んでるわけ」
「なるほど」
「あ、あの……炭酸って、炭鉱でとれるの?」

 また控えめに手をあげるサヤカ。
 コハクはうなずいて、おれをみた。
 おれが頷くと、コハクは近くの店にいって、炭酸と飲み物を買ってきた。

「これは?」
「これが炭酸」
「えええええ! この綺麗なビー玉なのが?」
「エルーガ炭鉱の炭酸は純度が高いの。そしてこっちがムシのミルク。これに炭酸をいれると……」

 ぽちゃって音をたてて、コハクがミルクに炭酸をいれた。
 直後、ミルクがしゅわしゅわと気泡を出し始めた。

「こんな風に炭酸飲料が作られるの。ここは炭酸が安いから、みんないろんな飲み物にいれて炭酸飲料をつくってる。年に一度炭酸大会が開かれて、一番美味しい創作炭酸飲料を決めるらしいよ」
「それは面白そうだな」
「……やっぱりなんかおかしい。ちゃんと炭酸飲料だけど、やっぱりなんかおかしい」

 サヤカがいつも通りブツブツ言い出した。
 いつも通りだ、気にしないでギルドに向かった。

 炭酸ミルクは美味しかった。
 純度が高くて強めの炭酸とムシのミルクがものすごくあう。

 駅から歩いてすぐのところにギルドを見つけた。
 表に掲げられた看板は『勝つためのルール』ってある。

 サイレンさんの『ラブ&ヘイト』といい勝負なギルド名だな。

 入ろうとしたら先にドアが開いた。
 中から二人組が現われた。
 なんとリサとアイホーンだった。

「あれ? ハードあんた何してんの?」
「それはこっちのセリフだ」
「あたしはここの助っ人にきたの。頼まれてね」
「ああ、お前が……」

 サイレンさんが言ってた「ちょっと不安」な二人組ってリサとアイホーンだったのか。
 そのリサはおれに向かって、「ふふん」と得意げに鼻をならした。

「どうした」
「あたし達今から依頼を解決しに行くんだけどさ、どんな依頼だと思う?」
「どんなって……どんな?」

「まっ、詳しい内容はあんたにいってもわからないと思うけど、Bランクの依頼よ」
「Bランク? まてお前達DとEだったんじゃないのか?」
「CとDになったのよ」
「それでもまだ足りないだろ」

 そう突っ込んだが、リサはますます得意げになった。

「ふふん、ここのギルマスは見る目がある人でさ、あたしたちに『助っ人に来てくれてありがとう。あなたたちの様な実力者に来てもらって嬉しい。是非ともCランクじゃなくて、Bランクの依頼を解決してほしい』って言ったのよ」

 それは……いいのか?
 コハクをみる、コハクは複雑そうな顔をした。

「人手不足だから、かもしれない」

 そっか……人手が足りないからか。
 ネコの手も借りたいってわけね。
 そしてそれでリサが上機嫌な訳か。

「だから今Bランクの依頼をやりに行くんだ」
「そうか」
「まっ、そういうわけだから。ハードはFだっけ? だったらハードもEランクのをやらせてもらえるかもね」

 遠回しにディスられた気がした。
 リサの得意げな顔……間違いないだろうな。別にいいけど。

 リサは言いたい事だけ言って、上機嫌で――若干調子に乗った感じでアイホーンと一緒に立ち去った。

「大丈夫なのかなあ、リサさん」
「うーん」

 サヤカの心配はもっともだ。
 アイホーンとリサはDランクの依頼を何回か失敗してるはずだ。
 成功もそこそこあって、Cに上がったばかり。
 なのに今はBの依頼を受けて、遂行しにいってる。

 大丈夫なのか? はおれも同感だ。

「うーん、まあ。なんだかんだであいつタフだから、大丈夫だろ」

 おれはそう思った。
 そう思うしかなかった。

     ☆

 ギルド『勝つためのルール』の中。

 建物の中は『ラブ&ヘイト』とほぼ同じ作りだ。
 広いロビーがあって、壁に掲示板がランク分あって、カウンターがある。

 ラブ&ヘイトと違うのは一つ星ギルドだって示すヘルプの掲示板がないのと、掲示板の依頼があっちより多いってところだ。
 今までの事で大体想像がつく、多分人手不足で全然解決出来ずにたまってるんだろう。

「けっ、また来やがった」

 カウンターの向こうにいる男がいきなり悪態をついた。
 入って来たばかりのおれたちにも聞こえほどの悪態だ。
 サヤカはちょっと怯えて、コハクは眉をしかめた。

 男を観察した。
 目つきがものすごく悪くて、ツンツントゲトゲな、ホウキか剣山のようなツンツン頭をしていた。
 背中にでっかいブーメラン……いや三日月のようなものを背負ってる。なんだろあれ。

 正直街中で遭遇したら目を合わせたくない人種だ。
 だがそうも行かない、カウンターの向こうにいるって事はこのギルドのマスターなんだろう。

 おれたちは近づいて、話しかけた。

「あの、ここのギルマス……だよな」
「けっ、てめえ何者だよ。人が何者なのか聞く前に自分からなのれや」
「そうか、おれは――」

「おれはロック・ネクサス。ここのギルマスだ」
「えええ、そっちから名乗るの!?」
「で、てめえは?」

「えと、ハード・クワーティー……です」

 つい敬語気味になってしまった。
 サイレンさんとは違うタイプの、敬語使った方がいいタイプ、って感じたから。

「ハード? ああ、プリブから助っ人でくるってやつか」
「そうです」
「そうか。話は聞いてるよな? なら話は早い」

 なにも答えてないのに、ロックさんは一人でに話を進めた。

「うちは最近次々とけが人を出して人手不足になってよ、あんな感じで依頼がたまってる」

 そういって掲示板をさした。
 やっぱりたまってるからなんだな。

「ってことであっちこっちから助っ人を頼んでる。やれるなら片っ端から依頼を掃除してってくれると助ける」
「わかった」
「けっ、安請け合いしやがって。まあいい、だめならまたけが人が出るだけの話だ」

 それはそれで問題だけとおもうけど。

「それでよ、依頼を消化するために一時処置で仮免を発行することにしてる」
「仮免?」
「簡単にいえば上のランクの依頼を受けられるようにする処置だ」

 ああ、リサが言ってたあれか。

「どうする、発行しとくか? つっても形式的なもんだからここにサインするだけだ」
「いや、それなら大丈夫。サヤカ」
「うん!」

 サヤカはパッと自分のギルドカードを取り出した。
 ランクSの冒険者、サヤカ。
 彼女といる限り仮免は必要ない。

「これで全部受けられますよね」
「Sランクか。サイレンのヤツでっかいのをまわしやがったな」

 リサのせいだ、とはいえない。

「けっ、このおれも落ちぶれたもんだ。まあいい、それよりもSならこっちから頼みたい依頼がある」
「なんですか?」

 ロックさんはブレスレットのようなものを取り出した。
 三つとりだして、カウンターの上に差し出した。

「これは?」
「けが人が増えたのはちょっと前からでな、その対応策の一つだ。これをつけてると怪我とかピンチになったときにギルドに知らせが入る」

 ロックさんはそう言って、右手をあげた。
 差し出したのと同じブレスレットがある。
 そして背中の三日月を抜いて――抜けるんだそれ!

 それを抜いて、自分の手のひらを切った。
 まるで鋭い刀のように、手のひらが切れて血が出た。

 すると、背後の壁が光った。
 よく見ると壁にも掲示板があって、1から100までの番号が振ってあって、その下にガラス玉がはめ込まれてる。
 ロックさんが自分を切った後、1番のガラス玉がひかった。

「こんな風になるって訳だ」
「なるほど」
「で、こいつ」

 ロックさんは77番をさした。
 そこは今ピコピコ光ってる。
 ロックさんの1番よりも遥かに強く光ってる。

「けっ、また光が強くなった。もうわかると思うけど、光が強ければ強いほどピンチってことだ。ってことで、こいつを助け出してほしい」
「わかった」

 そう言う話なら、と、おれは二つ返事で引き受けた。

     ☆

 ハード一行がギルドをでた後、ロック・ネクサスがつぶやいた。

「アレはコハク姫だった。けっ、ってことはあれがハードをつぶした男か」

 一人になったロック、ハードに見せたものよりも数段凶悪な顔をしていた。
 悪人面、などという生やさしいものではない。
 もっと凶悪ななにか――狂気を孕んだ何かだ。

「けっ、あいつら脅かしやがって。あんなケツの青いガキならノードがどじっただけじゃねえか」

 ロックはハードを見下しきった。
 手元の紙をみた、プリブのギルドから送られてきたハード達の書類だ。

「ランクも奴隷の方はSだけどあいつFじゃねえか。けっ、ザコめ」

 と、ますますハードを見下した。

「まあいい。その方が都合がいい」

 ニヤリと口角をゆがめる、目が恍惚に蕩ける。

「Sが一人いれば77番は回収できるだろうよ。ああ……はやく連れ戻してこい。苦痛と恐怖をたんまり吸ったブレスレット。ああ……すげえ甘美な味がするんだろうなあ。ついでにFのガキも大けがとかしねえかなあ。してくれよぉ。ぎゃは、ぎゃははははは。ぐぎゃはははははははは!」

 一人になったギルドの中で、ロックは狂気に嗤うのだった。

     ☆

 情報を頼りに、エルーガの街を出て、現場に向かう。

「ハードさん、今度のはどんな相手なんですか?」
「どうやら『歌う手』らしい」
「歌い手さんですか? うわあ、会ってみたいです」

 サヤカはテンションが上がっていた。
 あこがれのアイドルにこれからあう若い女、みたいな顔になっている。

「とまって」

 コハクに言われて、おれ達三人は立ち止まった。

「どうした」
「見えた。あれ」

 コハクが指さす、離れた先に手があった。

 手があった。

 大事な事じゃないけど、さらっと流したら誤解されそうだから二回言った。

「え? あれ? 手?」

 実際、サヤカは誤解してるみたいだ。
 そう、手だ。
 人間の半分くらいのサイズの「手」だけの魔物で、手のひらの部分にでっかい口がある。

 本能で歌うのが大好き、だから名前が『歌う手』。

「あれが歌う手だ。ぼんやりと歌ってるのがきこえるだろ?」
「え? うん、なんか分からないけど、歌? っぽいのが聞こえます」

「あれはあれが歌ってるんだ。ああこれ以上近づいたら――」
「きゃあああ」

 見えないからか、目の上で手にひさしをつくってちょっと近づいたサヤカが悲鳴をあげて速攻戻ってきた。
 ギルドでもらったブレスレットがちょっとだけ光った。

「ボゲーって聞こえました! ホエーにボゲーって聞こえました!」

 涙目で訴えるサヤカ、耳を押さえている。

「ジャイ○ンみたいでした……なんですかあの歌は」
「『歌う手』の歌は超下手なんだよ。凶器クラスにやばい。だから不意をついて一気に制圧するか、声が聞こえない程の遠距離から攻撃して制圧するかのどっちかなんだ」
「うぅ……歌い手さんとは大違いです……」

 サヤカがブツブツいった。

「さて、歌ってるって事は、近くに要救助者がいるって事だな」
「いるよ、歌う手の真ん前で悶絶してる。間近で歌を聞か続けてるから動けないみたい」
「たすけなきゃな」

 おれはサヤカとコハクの二人をみた。
 サヤカは涙目になってる、コハクは普通だ。
 まあ、サヤカはどうしても近づかなきゃいけないから、相性がわるいな。

「やってくれるか、コハク」
「うん! まかせて」

 コハクは満面の笑顔で頷いて、歌う手にアイスバインドをかけた。

 音が聞こえる距離外からのアイスバインドで歌う手の口を縛った。
 まるで猿ぐつわのように口を縛った、歌う手はもごもごして歌えなくなった。

 77番の冒険者をたすけだして、エルーガのギルドにもどった。

 連れて帰ると、冒険者をみたロックさんがまずものすごく喜んだ。
 それはいいんだけど。

 なぜかおれ達三人をみて不機嫌になった。

「けっ、無傷かよ。くそったれが」

 と、悪態をつかれた。
 ……?

 無傷じゃだめなのか? とおれは首をひねったのだった。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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