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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第二章

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14.中古ワンルームは事故物件

「おはようございます」

 朝、優しくおれを起こす声が聞こえた
 鈴を転がすような美声、聞いてるだけで幸せになるような声。

 こんな声を魔法時計のアラームにしたら超売れて大金持ちになるんじゃないのか?
 そんな事をぼんやり考えながら目を開けた。

 コハクが優しい表情でおれを見下ろしていた。
 地面に届きそうなツインテールが特徴の、サローティアーズ王国のお姫様。
 コハク・サローティアーズ。

 ノード事件でおれに助けを求め、その時にカモフラージュで奴隷にしたら、事件解決後そのまま奴隷になった女の子。
 美術品のような白い指。左手の薬指に奴隷の証である指輪がはめられている。

「おはようございます、ご主人様」
「おはようコハク」

「こちらがお召し物です」
「ありがとう。お召し物とかそういう言い回しはむずむずするから、これからは普通に服とかいってくれる?」
「はい、わかりました」

 コハクは一瞬で口調がフランクになった。
 いわれなかったけどそっちも揃えてくれた。

 おれは起き上がって、服を脱ごうとした。
 コハクはじっとおれを見つめた。

 手が止った、見られてると脱ぎにくい。

「まだ用事があるのか?」
「ご主人様が脱いだ服を回収しようとおもって」
「なるほど」

 それならしょうがない、脱ぎっぱなしって訳にもいかないもんな。
 おれは服を脱いだ、若干視線に不自由さを感じつつ服を脱いだ。

 コンコン。

「おはようございます――ひゃん!」

 今度はサヤカが入って来た。
 上半身裸のおれを見て悲鳴を上げた。

「な、なななな、何をしてるんですか!?」

 隣に立っているコハクとおれを交互にみて、アワアワした。

「落ち着いてサヤカ、着替えを待ってパジャマを回収するだけよ」
「え? そ、そうだったんだ……てっきり先越されたのかと思っちゃった」

 サヤカはホッとした。
 その後いつも通りブツブツいった。

 サヤカ。
 村から出てきたおれがはじめて買った奴隷。

 世にも珍しい黒髪の子で、その黒髪は長くて綺麗で、まるでお人形の様な女の子。
 はじめて、『ちーと』を意識させてくれた女の子でもある。

「おはようございますハードさん、朝ご飯出来てます」
「分かった。ちゃんと三人分出来てる?」
「はい」
「じゃあ一緒に食べよう」
「はい!」

 おれは服を脱いで、着替えた。
 コハクがパジャマを拾い集めた。

「回収いたします、ご主人様」
「うん」
「え?」

 サヤカがまたびっくりした。
 びっくりしたまま、おれとコハクを交互に見比べる。
 今度はどうしたんだ?

「しまった……こっちは先に越されちゃった」
「またブツブツいってるな。サヤカ、なんか言いたい事があるのか?」

「え?」
「言いたい事があるんならいってくれ」

 奴隷に何か望みがあれば、可能な限りかなえてやるのもご主人様の甲斐性だ。
 もちろん奴隷をやめるとか、そういうのは論外だけどな。

「え、えと、その……」
「うん」
「ご、ごご、ごごごしゅ……」
「……?」

 なんかいいたそうで、言い出せないでいるサヤカ。
 本当に一体どうしたんだろ。

「ごしゅ――ハードさんの好きな食べものを教えてください」
「好きな食べもの? ラブチキンの叩きだけど?」
「わ、わかりました、今度それを用意します」

 なるほどおれの好物を聞きたかったのか。
 ……それがなんであんなにもごもごしてたんだ?

「うぅ……ご主人様って呼べなかった……わたしのバカバカバカ」

 またブツブツいってるし。
 本当サヤカって不思議な女の子だな。
 それが可愛くもあるんだけど。

     ☆

 朝ご飯食べて、仕事のためにギルドにいこうと家をでた。
 リサが現われた!

「あら。おはよう、ハード」
「おう、おはよう」

 リサはものすごく明るい笑顔で挨拶してきた。

 同じ村で育った幼なじみ、リサ・マッキントッシュ。
 昔一緒に冒険者になろうって約束しあった仲だけど、おれの事を捨ててイケメン冒険者に走った女だ。

 それできらいになったが、よく見れば顔はいい。
 笑顔にしてるとますます美人だ。

 なのだが……なんかその笑顔……。
 いや感じがするのは何故だ?

「偶然ねハード、こんなところで何をしてたの?」
「でてきたところ見てなかったのか。ここがおれの――」

「そんな事よりもハード」

 聞いてきておいて、そんな事よりも、でおれの言葉を途中で遮った。
 むかしからその気はあったけど、というか最近ますます気づいたけど。

 わがままな女だよなあ、リサって。

「あたしね、家を買ったの」
「そりゃすごいな」
「ふふ、そうでしょうそうでしょう。あたし気づいたんだ? 信用とかなくて買えないんなら現金を一気にたたきつけてやればいいんだって」

 そりゃそうだ。
 そりゃそうだけど、でもよく金があったな。

 Eランク冒険者の彼女はそんなに金を持ってなかったはずだ。
 ノード事件に関わって、前金で銀貨200枚もらってたけど、それで家買えるものなのか?

「ここからちょっと離れたところにあるワンルームの部屋。快適よ?」
「ワンルームか……あれ?」

「どうしたのさ」
「あのイケメン……アイホーンはどうした」

「彼ならいるわよ。アイホーン」

 リサは離れたところに向かって呼びかけた。
 いやそういう意味じゃなくて、お前ら一緒に住むんじゃないのか? なのにワンルーム?
 そういう意味なんだが。

 アイホーンが曲がり角から現われた。
 リサがおれを捨てた原因、Dランク冒険者のアイホーン・スレート。

 あいかわらずのイケメンだけど、心なしかやつれてる。
 それに――。

「ハードさん、あの人、体がなんか光ってませんか?」
「ああ、ひかってるな」

 力ない足取りでやってくるアイホーンは、サヤカが指摘した通りからだがぼんやり光っていた。
 コハクが答えてくれた。

「あれはないぞうくんね」
「なに!? あのないぞうくんなのか?」
「間違いないね」
「うっそだろ……ないぞうくんに手を出したのかよ……」

「ないぞうくんってなんですか?」
「知らないのかサヤカ!?」
「ご、ごめんなさい」
「わるい、ちょっとびっくりしただけだ。ないぞうくんってのはちょっとでも栄えてる街になら必ずある、内臓を担保に金を借りれるマシーンだ」
「えええええ!?」

「そう、ないぞうくんは担保にした内臓がぼんやり光るようになるの。そして期限以内に借りた金を返せなかったらその内臓をとられてしまうの」
「えええええ!?」

「そうかないぞうくんで借りるとそうなるのか。村になかったから知らなかったぞ。ソフトに手紙書こう」

 夜にでも書いて電書ハトで送ろうと思った。

 しかし、これでわかったぞ。
 つまりリサはアイホーンの内臓を担保にしてないぞうくんで金を借りて、家を買ったんだな。

 ……ワンルームを。

「今度招待したげる。賃貸で借りた家よりも、自分の家の方がいいってところを見せてあげるわ」

 リサは得意げにそう言って、アイホーンと一緒に立ち去った。
 なんというか……。

 アイホーンのご愁傷様、としか思えなくなってきた。

     ☆

 一つ星ギルド、『ラブ&ヘイト』。

「どうぞ、ご主人様」

 コハクがそう言って、ドアを開けて、おれを先に入れてくれた。
 それをみてサヤカが悔しそうな、羨ましそうな顔をした。

 おれ達三人を上機嫌なサイレンさんが出迎えてくれた。

 サイレン・ハートビート。
 このギルトの女主人で、ちょっと色っぽい年上美女だ。

「いらっしゃい。すっかりご主人様と奴隷が板についてきたじゃん」
「そうかな」

「うん、あのコハク様をそこまでさせるとは。あなた、一流の奴隷調教師になれそうね」
「おれも調教してほちぃ――」
「どうせ性的な意味なんでしょあなたのは」

 サイレンがカウンターの裏から伸びてきた手を払った。
 流れる動きでそこにいる人を踏みつけた。
 血がプシャ! ってあたりに飛び散った。

 今のはどうやらサイレンさんの旦那さんで、浮気症なこともあり、いつもサイレンさんに折檻――というか血の制裁を喰らってる。
 どうやら、っていうのは実際にその姿を見た事がないからだ。

 声と、手しか知らない。
 まあ、触れちゃダメな事なのかも知れない。

「ごめんね見苦しいところを見せてしまって」
「いや、もう慣れたから大丈夫だ」
「そか、だったら問題無いね♪」

「ないのかなあ」
「ないと思おう」

 背後で奴隷達がいってるのが聞こえた。
 うん、おれもないって思った方がいいと思う。

「それよりもサイレンさん、一つ星ギルドになったけど、何か変わったの」
「あっちにあたらしい掲示板があるのが見える?」
「あっち……? あっこの前までなかったヤツができてる」

 おれは掲示板に向かって行った。
 奴隷達がついてきて、サイレンさんも一緒にきた。

 いままでの掲示板はFからSってあるけど、これはヘルプって書いてある。

「これは別の公認ギルドの依頼なの」
「別の公認ギルド?」

「そう、たまにあるんだけど、ギルドが抱えてる冒険者だけじゃ解決出来ないような依頼が」
「うん、そりゃあるだろうな」

「そういう時は他の公認ギルドに助けを求めるの。でも同じランクのギルドに助けをもとめてもしょうがないから、星なしギルドは一つ星ギルドに、一つ星ギルドは二つ星ギルドに、二つ星ギルドでもだめな時は最強の三つ星ギルドに助けをね」

「そっか、星の多いギルドの方がいい冒険者が多いに決まってるもんな」
「そういうこと。実績もあるし、冒険者もおおい。だからランクが下のギルドはいざって時に上のギルドに助けをもとめるんだ」

 なるほどそういうことか。
 うん、説明を聞いたら割と納得だ。

「依頼がちょうど一つあるな」
「一つ星初日だからね、また一つだけ。それやってみる?」
「ああ」

 せっかくだし、お助け依頼の第一号をこなしとこう。

     ☆

 ウマ車にのって、途中で下車した。
 プリブの街をでて、アローズの街との途中にある草原。

「アローズの公認ギルドからの説明だと……ここで待ってればでるって話だな」
「でるって何ですか?」
「事故物件が」

「事故物件!? 幽霊が出るんですか?」
「そういう事じゃないらしい」
「じゃあなんですか?」

 説明すると、サヤカはいつもの様に首をかしげた。
 おれ以上にものを知らない彼女に、毎回色々説明してる。

 とは言っても、おれも事故物件の事はあまりよくは知らない。
 コハクを見た。コハクはにこり微笑んで、説明してくれた。

「説明するよりも見た方が早いかも。ちょうど来たみたいだしね」

 そういっておれ達の背後をさすコハク。
 振り向くと……あった。

 そこにあったのは増築する前のおれのいえ、3LDKのおれの家と同じくらいの大きさの一戸建てだった。

 一戸建ての家は手足を生やしてる。
 人間の体よりもぶっとい手足を生やして、どっしどっし歩いてる。

「い、家が歩いてますよ!?」
「あれが事故物件。ちょうど事故が起きるようね」

 アローズの街の方から「回送」ってプレートを掲げたウマ車が走ってきた。
 その車を、事故物件が横合いからぶつけて、はね飛ばした。

 事故が起きてしまった!

「古い家がなんかの拍子で魂をもって、ああして化けてでてくるんだ。化けてでた家はなぜかあんな風に事故を起こすから事故物件って呼ばれてるの」
「それって事故物件っていわないですよ!?」
「じゃあなんて呼ぶの?」

 コハクがサヤカに聞き返す。

 事故物件かあ、聞いた事はあるけどはじめて見たな。
 おれが住んでた村は家なんて全部自分達で建ててて、すぐに壊れて立て直すから、事故物件になりようがないんだよな。

「ちなみに事故物件は人身事故も起こすからきをつけて」
「人身事故? どういう意味ですか?」
「こういう意味」

 落ち着き払ってるコハク。
 指がさすさきは事故物件があって――それが突進してきた。

「ぶ、ぶつかります!」
「このままだと人身事故だね」

「落ち着いてる場合じゃないですよ――きゃ!」

 突進してきたでっかい家を、サヤカは受け止めた。
 3LDKもある一戸建て、人間よりもぶっとい手と足。
 それで突進してきた猛烈な勢いをサヤカは止めた。

 サヤカは『ちーと』を持ってる。
 相手の十倍素早くて、十倍力持ちになれる『ちーと』だ。

 相手がどれだけ強かろうが弱かろうが、とにかくその十倍、って能力だ。
 だからあっさりと事故物件を止められた。

「ど、どうしようハードさん」
「持ち上げてサヤカ」
「はい!」

 サヤカは事故物件――家を持ち上げた。
 事故物件はじたばたした。

「凍らせてコハク」
「うん!」

 コハクはサヤカがもってる事故物件を氷の魔法で凍らせようとした――がだめだった。
 氷の魔法を使おうとしたが、不発だった。

「あっ……相手に魔力がないみたい」

 コハクも『ちーと』を持ってる。
 相手の十倍呪文詠唱が早くて、十倍魔力が高い『チート』だ。

 相手がどんなに強かろうが弱かろうが十倍になる能力だ。
 そしてどうやら、事故物件は魔力が0みたいだ。0は十倍にしても0。

 おれの奴隷になると『ちーと』が使えるようになる。
 原因はまだ不明だが、どうやらそうらしい。

「コハクの弱点だな。こういう脳筋には弱いみたいだ」
「うん、ごめん」

「コハクのせいじゃない、相性の問題だ。それじゃサヤカ、こいつを粉々に壊してくれ」
「わかりました!」

 命令されたサヤカは嬉々として頷いて、あっという間に事故物件を粉々にした。
 ちーとな奴隷達をつれて、おれは、他のギルドでは解決出来なかった難依頼をこなしたのだった。

     ☆

 おれ達三人は特別にだしてくれたウマ車を乗ってプリブの街に戻った。

「ちょっともったいなかったかも知れないですね」
「それは仕方ない、事故物件になったのは決して元には戻らないんだから。壊すしかないの。今回は野外で、けが人も出なかっただけでもよしとしなきゃ」

 うん、壊すしかないんだよな。
 ギルドに来た依頼も「事故物件の破壊」だったし。
 事故物件が元に戻ったって聞かないしな。

「事故が起きたぞ!」
「物件よ! 事故物件がでたわよ!」

 遠くから悲鳴が聞こえた。
 おれ達三人は顔を見合わせて、一斉に駆け出した。

 騒ぎの中心は人たがりが出来てた。
 事故物件があった、さっき破壊したのより一回り小さいヤツで、やっぱり手足を生やしてる。

 その事故物件は手で男を掴んでいる、男はぐったりして意識がない。
 男を掴んだまま屈伸運動……筋トレをしている。

 それをするたびに男が苦しそうに呻く。

「だれか! だれか夫を助けて!」

 女の人が叫んだ。どうやらつかまってる人の奥さんみたいだ。

「サヤカ!」
「うん!」

 サヤカは迷わず走り出した。
 一瞬で距離をつめて、男を掴んでる腕を落として、そのまま事故物件の破壊に入った。

 さっきよりもスピードもパワーも落ちてる。相手が弱いからだ。
 それでもきっちり事故物件の十倍のパワーとスピードで、事故物件を一瞬で破壊して、無事に男を救出した。

 サヤカは男と妻にメチャクチャ感謝された、街の住民から拍手された。
 サヤカはメチャクチャ照れくさそうにおれのところに戻ってきた。

 頭を撫でてやった。
 ハプニングはあったが、けが人はでたけどその男も軽傷ですんで、これで一件落着――。

「きゃあああ、いやあああ! あたしの家が! 買ったばかりの家が!」

 聞き慣れた声がした。
 いつの間にか現われたリサが粉々になった事故物件にすがりついて、泣きわめいた。
 その横でアイホーンが愕然となっていた。

 買ったワンルームは中古だったんだな、と、おれはそんな事を思っていたのだった。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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