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チートを作れるのは俺だけ~無能力だけど世界最強 作者:三木なずな

第一章

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13.夢見る未来

 一晩泊った宿屋に親衛隊の隊長って人が迎えがきて、その親衛隊に護衛されて王宮に向かった。
 途中でものすごく音楽を鳴らされた。親衛隊が護衛しただけじゃなくて、宮廷楽師って言われた人が大量に出てきて、音楽を演奏しながらおれを護送した。

 親衛隊の護衛、宮廷楽師の演奏。
 当然ものすごく注目を集めた。
 沿道に民衆があつまって、好奇心全開でおれの事を噂した。

「って事はあれが国を救った英雄様?」
「まだお若いのにやるもんだ」

「隣の娘は何者でい?」
「指輪をつけている、奴隷のようだ」
「英雄様の奴隷だなんて……うらやましいなあ」

 ノードの陰謀を打ち破った事が一晩ですっかり噂になって駆け巡って、おれはちょっとした有名人になっていた。

 進んでいくうちに歓声があがるようになった。
 野次馬に集まった人々がおれの事を褒め称えた。
 王宮に着いた頃には一生分の褒め言葉を聞かされていた。

 そうして今、謁見の間にいる。
 兵士が数十人いて、ものすごく護衛が物々しい。
 敵意はないけど、そのせいでサヤカがあわあわしている。

 おれとサヤカは国王に謁見している。
 国王は玉座に座ったまま、昨日とはまったく違う、大仰な口調で話しかけてきた。

「ハード・クワーティー。この度は大儀であった」
「えっと、はい」

「そなたの働きで我がサローティアーズ王国が救われた。あのままノードの陰謀が成ればこの国はかつてない暗黒期に突入したであろう。国を救ってくれたこと、全国民を代表して礼を言う」

 国王はそう言って頭を下げた。
 兵士がざわざわした。

 国王がおれに頭を下げた事に驚き、その驚きがおれへの尊敬に変わる。
 サヤカはまだアワアワしてる。
 おれは沿道の噂でちょっとは慣れたから、普通に国王に気になってる事を聞いた。

「あのブラックドラゴンは大丈夫なんですか? 引き渡した後どうしました?」
「うむ、あれならコハクのアイスバインドで拘束している。これもそなたのおかげなのだな」
「おれの?」

 どういう事なんだろ。

「アイスバインドは拘束魔法のうちでもっとも弱く、実力差が三倍あっても容易に引きちぎられるものだが、コハクのそれはブラックドラゴンを完全に拘束している。通常ならあり得ないことだ。まったく、驚嘆にあたいするよ」

 そりゃあな、コハク姫の『ちーと』は相手の十倍の魔力だもんな。
 最弱のバインドでも拘束する事ができたんだな。

「それを聞いて安心した」

 これで一段落だな。

「こちらはそういうわけにはいかぬのだ」
「うん? どういうこと?」

 国王は真顔でおれを見つめた。鋭い目はそのままだけど困ってる顔だ。

「そなたの働きに対し、褒美が言葉だけという訳にもいくまい」
「救国の英雄には何かを与えねばならぬ。民もそれを望んでおろう」

 はあ。

「その方、何か望むものはあるか?」
「あっ、じゃあ家のローンを」
「ローン?」
「家を買ったんですけど、ローンはまだほとんど払ってないんです。それを払ってくれたら」

 タイラー・ボーンの店で買った家の事だ。
 そのローンをちょっとでも減らせばいいな、って思っておねだりした。

 目を見開かせる国王。
 やべ、流石にローンはおねだりしすぎか?

 そう思って何か別のをおねだりしよう、そう思ってると。
 国王は苦笑いして、頷いた。

「ふむ、わかった。ではそうしよう。だれか」

 国王はちょっと考えた後、手を鳴らして人を呼んだ。
 外から国王より年がいってる、初老くらいの男が現われた。

 国王は男に命令した。
 おれがプリブの街で買った家のローンを全額精算して来いと。

 初老の男は命令をうけて、おれから詳細を聞いて、すぐさま外に出て行った。

 ちょっと嬉しいな。
 Sランクの依頼として受けたけど、ローンを全部肩代わりしてくれるんなら予想以上の報酬だ。だから嬉しい。

「さて……」

 男が出て行ったあと、国王はおれを改めてみた。
 まだ難しい顔をしてる――どうしたんだろ?

「コハクの事なのだが」
「あっ、そういえばコハク姫どうしたんですか?」

 昨日宿屋に泊ったのはおれとサヤカだけだ。
 コハク姫は国王を助け出した事もあって、ごだごだでやる事があるって事で、ひとまずわかれたのだ。

 そのコハク姫は今いない、おれのそばにいないし、謁見の間にも姿が見えない。

「コハクだが、解放してやってくれないか」
「え?」
「奴隷を持つのが夢だと聞いた。コハクの代わりに千人あてがおう。だからコハクを――」
「お断りします」

 国王が全部言い切る前に、きっぱりと断った。
 国王の眉毛が逆ハの字になった、口元がヒクってなった。

 まずかったか?
 いやでもここは譲れない。

 譲れないのだ。

「王女をを奴隷にしたいというのであれば、そのような身分の娘を改めて――」
「ちがう、そうじゃない」
「ではなんだ?」
「コハク姫がいい、それだけのことだ」
「コハクがいい?」
「そう」

 おれははじめてコハク姫に会ったときの事を思い出した。
 ギルドで再会した時の事を思い出した。

 確かに奴隷はほしい。

 でも可愛い子がほしいんじゃない。
 お姫様がほしいんじゃない。

 コハク姫……コハクがいいんだ。

「どうしてもか?」
「どうしてもだ」
「いにしえの作法に従い国を半分と交換しよう、と言ったらどうする?」
「国とかいらない、いいからコハクだ」

「……」
「……」

 国王はおれを見つめた。
 真っ向から受け止めて、見つめ返した。

 ここは――譲れない。

「と、いうことのようだ」
「……え?」

 国王は何故かおれにじゃなくて、横に向かって話しかけた。
 玉座の横、カーテンの裏からコハクが現われた。

 昨日わかれた時のままの格好、地面に届きそうな長いツインテールと、左薬指の奴隷指輪をつけて。

「どうやら彼は、千人の美女よりも国の半分よりも、お前の方がいいらしい」
「だからいったのに。付き合いは短いけど、間違いないって」
「そうであったな」

 国王は苦笑いした。
 一方のコハクは得意げな顔をした。

「えっと……どういうことなんですか?」

 おそるおそる、ちょっと敬語気味で聞く。

「すまない、試させてもらった。お前が娘を託すにふさわしい男なのかとな」

 え?

 ……ああっ!
 そ、そういうことだったのか!

 もしおれがちょっとでもまよったりしたらダメだった、そういうことか。
 くそ、変な試しかたしやがって。

 あっ、でも。
 コハクはおれの事を信じてたっていってたな。
 それは嬉しいぞ。

 そのコハクは国王のそばを離れ、おれの前にやってきた。

「改めてよろしく、ハード……ううん」

 首を振ってから、まっすぐおれを見つめる。

「ご主人様」

 と、呼んでくれた。
 はじめて呼ばれたご主人様、おれはジーンと来た。

「ご主人様……いいなあ。わたしも呼ぼうかな、ご主人様」

 感動して、サヤカが何かブツブツ言ってるのを聞き逃したのだった。

     ☆

 大陸某所。
 男が三人、女が一人。

 年齢も格好も、喜怒哀楽の表現も。
 全てがばらばらの四人が一堂に集まっていた。

「で、今日は何の用?」

 女が聞き、一番年上でガタイのいい男が答えた。

「ノードがやられたようだ」
「なんだって? それじゃあサローティアーズを乗っ取る話は?」
「失敗、しただろうな。詳しい状況を探らせ続けているが、どうやら本物の国王が戻っているようだ」
「完全に失敗じゃないのよ!」

「けっ、所詮はその程度の人間だったって事だ。もともと使えねえやつだったろ? 王国を乗っ取れるかどうかも確率半々だっただろうが」
「……邪竜」

 末席の男が口を開く。
 寡黙な性格なのだろうか、しかしその口から放った言葉はクリティカルで、核心をついていた。
 全員がそれを聞いて、難しい顔をした。

「そう、ノードに邪竜王の血を与えてある。計画を完遂出来ないのはひとえにヤツの無能のせいだが、あの国にブラックドラゴンを……邪竜王の血を使ったブラックドラゴンを倒せる人間がいるって事になる」

「けっ、だからなんだってんだ」

 男の一人が立ち上がった。

「邪竜王の血でブラックドラゴンになったから、倒した人間には注意しろ? ちげえよ。クズは所詮クズ、邪竜王の血を使ったところで多少まともなクズになったってだけの話だろうが」
「そうだといいがな」
「けっ」

 男は吐き捨てて、きびすを返して立ち去ろうとした。

「ちょっと! どこに行くのよあんた、話は終わってないのよ」
「知るか。緊急事態って聞いたからおれはきたんだ。クズがやられたってだけの話ならそんなのどうでもいい」

 男はそういって、一番年上の男――話を切り出した男を視線で確認した。
 返事はない、それだけだ、と言外にしめした。

「へっ」

 男はそのまま立ち去った。

「……留意」
「ああ、そうだな」
「同感。邪竜王の血、あれは本当なら人間ごときにどうこう出来る代物じゃないからね。せめてノードが予想以上のダメ人間で、本当に使いこなすことすらできなかったって祈るだけだね」

 女がそういって、男達は頷いた。
 この場に重い沈黙が流れた。

 ノードの敗北。
 そのショックを与えた奴隷使いと彼らの邂逅は、まだ少し先の話。

 まずは、この場を真っ先に離れた男……。

     ☆

 プリブの街に戻ってきて、ギルド『ラブ&ヘイト』にやってきた。
 サヤカとコハクを先に家に帰らせて、おれ一人で報告にきた。

 が、報告するまでもなかったようだ。

一つ星(シングル)ギルド?」
「そう。冒険者が依頼をこなしてランクを上げるのと同じように、ギルドも実績を積むとランクが上がっていくの。公認ギルドになった直後は星なしだけど、一つ星(シングル)二つ星(ダブル)三つ星(トリプル)と上がっていくんだ。今回の件でうち、一つ星になった」
「そうだったんだ」
「これもハードのおかげよ」

 サイレンさんは熱い目でおれを見た。
 感謝の気持ちがこれでもかって込められてる。
 ちょっとこそばゆい。

「星ふえて――女冒険者の……キャパ、も――」
「女に限定しない♪」

 サイレンさんがすっ飛んでいって、カウンターの向こうにいるご主人(?)を折檻した。
 これもすっかり見慣れた光景だなあ。
 いつかあれの正体とか人数とか知りたいな。

「今日連絡を受けたばかりだからまだだけど、明日くらいから一つ星ギルドとして生まれ変わるから――また色々よろしくね」
「わかった」

 おれは上機嫌なサイレンさんに別れを告げて、今日のところはまず家に帰った。

     ☆

「あれ?」

 家が見つからなかった。
 ウマ車の駅から徒歩で三分、街の中心にある目立つ場所の自宅に戻ってきたが、家が見つからなかった。

 いや、それは微妙に違う。

 家はある、あるが、王都に行く前と形が変わっていた。
 大きくなって、外観が変わっている。

 ここだよな――うん住所はあってる。
 でも建物は違う、見覚えのない建物だ。

 どういうことなんだ?

「あっ、ハードさん」

 家の中からサヤカが顔をだした。
 おれのところにトタタタとかけてきた。

「サヤカ。これはどういうことなんだ?」
「えっと、わたしたちが帰ったらこうなってました」

「帰ったらこうなってた?」
「代わりにこれがありました」

 サヤカが一枚の紙をさしだした。
 受け取って、書かれたことを読む。

「なんてかいてありますか?」
「タイラー・ボーンからだ」
「不動産屋さんの?」

「ああ――えっとなになに。ローン完済、ありがとうございますコン。せっかくだから増築をしておいたコン。費用は銀貨五百枚だけど、支払いはいつでもいいコン……だって」

「えええええ!? 勝手に増築したんですか?」
「らしいな、ローンを払い終えたから」

 驚くサヤカ。
 その声を聞いたのか、コハクが家の中から出てきた。

「お帰りなさい、ご主人様」
「あっ! うぅ……さりげなくご主人様って呼ぶ機会だったのに。わたしのばかばかばか!」

 サヤカは何故かびっくりして。
 いつも通りブツブツ何かを言い始めた。

 いつも通りのサヤカと、コハクを順にみて、そして増築して部屋が増えた我が家を見る。

 それをみて、コハクが微笑みながらいった。

「もう二人、増やせるようになったよ」
「だよな」

 うなずくおれ。
 そう、もう二人増やせるようになった。
 自宅が二部屋増えたって事は、奴隷も二人増やせるようになったって事だ。

 ご主人様の甲斐性の一つに、奴隷であってもちゃんと部屋を与えるベきなのがある。
 少なくともおれの村ではそうだった。

 無条件に増やせば良いってもんじゃない、増やせる程の力をもってから増やす、ってのが真のご主人様とされる。

 サヤカをもう一度みて、コハクをもう一度見る。
 二つの奴隷指輪をみて、二つ部屋が増えた家を見る。

「ふやす?」
「ふやす、の?」

 二人の奴隷の問いに、おれは「もちろんだ」と答えたのだった。
■10月10日書籍版発売します
よろしくお願いいたします。
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